夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
プライベートな話ですが、スターウォーズ新作の『マンダロリアン&グローグー』見てきました(2回も)
最高過ぎて、ここまで初心者に最初にお勧めできる作品はそう中々ないと感動しましたね
ちなみに前作のスターウォーズが映画館で上映してから実に7年も経っているのだとか……自分も歳取る訳ですわ
※改めて、いつも誤字脱字チェックと数多の感想を頂きありがとうございます。
それはミカとナギサ、両名とのお泊り会を開催して数日が経った頃の事です。
近況報告、という事でとある生徒から久しぶりに相談を受けていたエスミは、ふと気を休めている間にこんな事を聞かされました。
「それで。先日ミカ様から愛の告白を受けられた栢間様は、その後どうお断りされたのでしょうか?」
「……その話、誰から聞いたの?」
「当然、ミカ様ご本人からです」
「君たち、私が思っていた以上に随分と仲が良いんだね」
「まあ……何だかんだミカ様と交流を始めて1年が経とうとしていますから、些細な世間話ぐらいなら会うたびに聞かされる程度には、あの方と仲を深めていると自負しています」
もっとも他の人に比べてミカ様はかなりのお喋りなのですが、と付け加えて肩をすくめたのは、エスミの後任として現在美術部の部長を務めている金剛フラン。
過激な反政治思想を持ちながら、それはそれとして真面目にティーパーティーやシスターフッドを相手に美術部を上手く運営し、同時にエスミが居た頃に比べて徐々に規模を拡大させ、最近だと美術作品を守るという名目で保護や警備を目的とした私設部隊を創設させてみせるなど、非常に経営優秀な生徒となります。
ちなみに彼女、身長160丁度のエスミよりも更に高い167センチの身長を持つため、自然とエスミが彼女と相対して話すときは気持ち視線を上にあげる必要があるなど、どうもエスミの周りには弟子の小樽チェリといい(身長170)、情報収集人の小豆リノといい(身長175)、目の前にいる後任の金剛フランといい(身長167)、何かと長身の生徒が多く集う宿命にあるようです。
自分も出来ることなら、最低でもあと5センチほど身長が欲しかったと内心で嘆きつつ、エスミは『それはそうと……』と先ほどの会話の続きを始めます。
「例の告白の件だけど、聖園から結果は聞いていないの?」
「もちろん尋ねはしたのですが……栢間様ご本人に直接確認してほしいと言われ……結局、はぐらかされました。何かと私相手にポンポンと詳細を喋りたがるミカ様にしては非常に珍しい対応です。栢間様、ミカ様がご自身の口から結果を言うことすら躊躇うなんて、一体どんな断り方をされたのでしょうか?」
「別に……そんな大げさでも無いよ。ただ……告白への返事を保留にしただけ」
「え? ほ、保留? 今までのように告白を断ったのでは無いと?」
複雑そうな笑みを浮かべながら、エスミは縦に頷きました。
「そう。保留だよ……意外、だよね?」
「と、当然です。これまで幾度の告白や求婚を全て断ってきた栢間様の事ですから、今回もてっきりミカ様の告白も断ったものかと思っていました」
フランの言う通り、エスミは色々とモテます。
それはもうトリニティ自治区で一番の人気者と言っても過言ではありません。
中等部の頃より活躍している芸術家としての才能と優れた実績。
優れた容姿と同性すら魅了するその美少女過ぎる顔や瞳。
大人顔負けの達観した視野と思考、同時に常に落ち着いていて非常に冷静ときているものですから、彼女と付き合いたいと願う者は男女問わず様々。
このトリニティ総合学園に入学してからも先輩後輩問わずエスミに猛アタックをしかけては、公衆の面前で堂々と告白を行う生徒がいたりするなど、話題には事欠かない日々を送っていました。
ただし栢間エスミという少女が自身の愛を捧げ、夢中になるのは芸術のみ。強いて言えば美術です。
よって自身の下に寄せられたラブレターは勿論のこと、告白に関してもエスミは真面目に『お断り』を続けてきました。
中には断られても彼女を諦めきれず、あまりにも〝しつこい〟者がチラホラといたりしましたが、その手の危険分子に対する対応もエスミもかなり上手く、これといって問題に発展することは決してありませんでした。
そんな彼女の姿を一ファンとして、かつ教え子の1人として、深い敬愛と歪んだ信仰心を抱きながらフランは長いこと見てきた訳で、それがまさか相手があの聖園ミカとはいえ、エスミが初めて『保留』という選択肢を選んだことに対してフランが心底驚きを隠せないのは、むしろ当然と言えました。
何しろ保留とはつまり、ざっくりと言い方を変えれば『貴女の告白を受け入れても良い』というメッセージでもあります。
もちろんあくまでも熟考するという意味での保留ですので、断られる可能性だって十二分にある訳ですが、それでも今までのように考える間もなくその場で相手に直接『付き合えません。諦めてください』と返事を返してきたエスミの過去を思えば、今回の告白における希望はあまりにも大きく、同時にエスミがミカに対して他の人とは比にならないほどの好印象を抱いているのは明確でした。
(もしや、栢間様はミカ様と両想いなのでしょうか?)
フランはふと、そんな事を考えます。
しかし、ならばむしろエスミの方から告白してミカと恋仲になっているはずだと考え直し、まるでエスミがカップリングにおける〝攻め〟であるのが当然だと言わんばかりの思考を働かせたフランは、念のためこう尋ねました。
「栢間様は……ミカ様のことをどう思っていらっしゃるのでしょうか」
するとエスミの翡翠色の瞳が、じっとフランの瞳に注がれました。
「昔と同じで、彼女はただの知人だよ……まあ他よりも付き合いがかなり長くて、だいぶ距離感がバグっている知人という事にはなるけど」
「加えて栢間様の胸に顔をうずめたり、共にお風呂に入られては、共に添い寝をするほどの付き合いをする知人ですよね……それは本当に知人と言えるのでしょうか。もはやご友人と呼ぶべき関係に思えるのですが」
「待って。彼女は普段から君に何を話してるの?」
「それはもう色々と、です。私が栢間様の教え子の1人であり、美術部を託された後任という事もあってか、ミカ様と交わす会話のほとんどは栢間様に関係するものとなります。やれ昨日は楽しく話せたとか、栢間様の困った苦笑いが可愛いとか、胸が柔くてすぐに寝れるとか……栢間様に対する称賛とセクハラ、その全てを聞いております」
流石にこの1年弱の付き合いで嫌と言うほどミカから聞かされ続けてきたのでしょう。
表情も変えず、呆れも羨望も感じない瞳でエスミを見つめたまま、フランは溜息を吐きました。
「これは私見ですが、ご自身のお身体を容易に触れさせるほどミカ様に心を開いているのであれば、いっそのこと恋仲になってみるのも宜しいかと思います。私が見る限り、ミカ様と栢間様は……まあ、それなりに悪くはなく、むしろお似合いだと思いますので」
「へぇ……驚いた。あの政治嫌いの金剛がそんなことを言うなんて。昔の君なら、聖園のことを嫌っていそうだったのに意外だね」
「……それは……私だって、心変わりぐらいはします……」
ここにきて何かに勘付かれたくないと言った様子で、彼女はエスミから視線を外します。
もっともエスミの言う通り、昔のフランは筋金入りの政治嫌い(加えて富裕層出身のお嬢様生徒も)だったので、ティーパーティーに所属しているミカは勿論のこと、ナギサやセイアですら当時のフランにとっては憎悪の対象でした。
それこそ、エスミの身に起きた事件を理由としてティーパーティー瓦解計画を企て、その中心人物に聖園ミカを利用したりするなど、エスミの為を思うがあまり身勝手にも復讐に走っていたフランなのですが……気付けば利用される側だったはずのミカは、アリウス分校の生徒を秘密裏にトリニティに介入させ、挙句には百合園セイア殺害という大事件まで起こしてしまい、当初のフランが企てたティーパーティー瓦解計画などもはや実行する云々の話では無くなっていました。
現在、フランはいつものように美術部の部長として活動している傍ら、裏では例のセイア殺害事件をきっかけに心を大きく痛めてしまったミカのメンタルケアと相談相手を担当しており、皮肉にもかつてミカを利用し使い捨てにしてやろうと目論んでいたはずが、これ以上の暴走を止めるためミカを支え助ける役目に専念するようになり、彼女の下を離れることが出来ないでいます。
しかもミカを利用する際、彼女からの信頼を得るためアリウス介入に関してはフランも全面協力をしていたので、例のセイア殺害事件に関しては一応間接的ではありますが、フランも共犯者ということになります。
つまり、もはや今のフランはミカと実質一蓮托生の仲と言えるでしょう。
とはいえ幸いにも、今のミカは大好きなエスミがワイルドハントから帰還したことで、傷ついた心をエスミに会うことで随時回復しているらしく、近頃はフランもメンタルケアの役目を離れ、何とか自身のやりたい事に専念することが出来ていました。
なんて、少々話が逸れてしまいましたが、ともかく既に大事件を起こしてしまい、メンタルが絶望的に壊れかけている今のミカ。
そんな彼女の心の支えとなっているエスミがこうしてトリニティに居る以上、当分の間は問題が起きることは無いと言えるかもしれません。
まあ、まさかそこへ突然エスミに対してミカが愛の告白をするとは思いもしませんでしたが、むしろエスミ本人はその告白に対して案外まんざらでもない様子なので、ひとまず一旦ここはエスミの意思を尊重する形で見守ることにします。
それこそ、政治憎しでフランが余計な横やりでも入れてミカが暴走するなんて事があったら大変です。
(けど、ミカ様だけじゃなくて、例のミカ様が転入させたアリウスの生徒……あの子が何か余計な面倒ごとを起こしそうな気がして心配……いや、今はひとまずリノが付いているから大丈夫だろうけど、一番の懸念点はやっぱりナギサ様だよね。何だか随分とあのエデン条約の実現に執着しているようだし、これはミカ様だけをコントールすれば解決するような状況じゃ無さそう)
正直、現在のトリニティにおいて一番の火薬庫は聖園ミカであると考えているフランとしては、彼女の導火線さえ注視していれば、この複雑な問題はやがて解決に向かうことが出来ると判断しています。
まあしかし、かと言って心配の種がそこらへんに蒔かれているのも事実。
フランはもう一度エスミに視線を向けると、前々から伝えるべきだと感じていた例のアリウス関連の話題は、やっぱり今このタイミングで話すべき事では無いと考えるのでした。
≪1-2≫
「ところで栢間様。情報収集に勤しんでいたリノなのですが、急ぎ栢間様のお耳に入れておきたい知らせがあると言っていました」
「小豆が金剛を使って私に知らせを? 彼女が掴んだ情報なら、人目に付かないよう全て暗号を使って私の所に送られる仕組みになっているはずだけど……何か問題でも起きたの?」
「いえ。今のリノは、以前まで栢間様が教育係をしていた例の転入生……名前は確か、白洲アズサでしたね。その少女の世話をしているので、手が離せない状況です」
「待って。白洲ならすでに私の方で教育を全て済ませているから、今さら小豆みたいな子が世話を担当する必要はないと思うけど」
「あー……その事ですが、実は栢間様がワイルドハントに留学されている間だけ、彼女の面倒を見て欲しいとミカ様が私に頼み込んでいたのですが、ご存知の通り私は美術部の運営があるので、代わりに手が空いているリノに任せようかと……」
「なるほど。一応彼女も美術部の副部長を務めているはずなんだけど……まあ気にしても仕方ないか。でも待って、肝心の私がトリニティに帰って来たんだから、リノはもうお世話担当を外れても良いはずだけど?」
「それがその転入生のアズサが引き続きリノに世話係を続けて欲しいと頼み込んでいるようでして……理由は不明ですが、あのリノが後輩に慕われるなんて前代未聞ですから、いっそのこと物は試しという事で続けて貰おうかと……」
「あの小豆がね……正直、白州とウマが合うようには見えないけど。まあ双方ともに納得してるなら別に良いんじゃない? 一応、小豆も美術部の副部長なんだから部活動に支障がないようにね」
エスミはそこでぐっと両腕を頭上高くあげて背伸びをすると、大きく息を吐きました。
「じゃあ話を戻そうか。君は、白洲の世話係で忙しい小豆からどんな知らせを届けに来たの?」
「はい。リノからの知らせは2件ありまして、まず最初にとある自治区で行われる予定のオークションに関して栢間様のお耳に入れて欲しい、との事でした」
「オークション?」
何とも自分にはあまり関係の無さそうな話だ、とエスミは思いましたが、あの情報収集のスペシャリストであるリノがわざわざ緊急の知らせとして入手したのですから、きっと何か意味があるのでしょう。
ひとまずフランに視線を向け、話の続きを促します。
「まだ全体の情報は掴めていないようですが、どうやらそのオークション、数点ほど美術品を出品するらしいのですが、出席する予定の客があまり良くない噂を聞く面々のようで……しかも、そのオークションを開くのはあのカイザーコーポレーションとの事です」
「なるほどね。確かに私が記憶してる限りだと、あのカイザーコーポレーションが自ら率先してオークションを、しかも美術品を出品するなんてこと一度も無かったから、今さらそんな行動を取ることに小豆が疑問を持つのは当然かもしれないね。世間に向けたアピールのつもりか、新しいコネでも生み出すつもりなのか……裏だと悪徳企業顔負けの実力行使を平気でやるような企業だし、その出品する美術品もちゃんと正規の方法で入手したのかは怪しいところだね」
そういえば、あのブルアカ原作でも記念すべき第1章のストーリーでアビドス自治区にガッツリと絡んでいるのもカイザーコーポレーションでした。
これは何かの因果なのか、それとも偶然か。
エスミはその場で腕を組みながら『出品する予定の美術品の詳細は掴めてるの?』とフランに尋ねます。
「いえ。まだその点に関しては情報収集中らしく、作品名しか掴めていないようです……ただ、1点だけ妙な名前で登録されている作品があったと言っていました」
「妙な名前?」
「えっと……確かリノが言っていたタイトルは……アビ、ドス……かい、ちょ……」
必死にリノから聞いたその作品名を思い出そうとするフラン。
やがてパッと鮮明に思い出せたのか、彼女はこう答えるのでした。
「ああ、そうでした。確かその作品の名は【アビドス生徒会長の肖像画】だったはずです」
「……っ!?」
「しかし不思議ですね。私もキヴォトス全土の美術史にはそれなりに精通してる方ですが、アビドス自治区の生徒会長に関する肖像画なんて聞いたことが……しかもあの自治区にある美術品は、既にほとんどが発掘され尽くして外部に売られているとの事ですし……その生徒会長というのも、一体どの年代の生徒を指しているのか不明ですね」
「…………他に、その作品について小豆は何か言ってた?」
「え? い、いえ全然。妙な作品名だったことに首を傾げていたぐらいで、あのカイザーコーポレーションがわざわざオークションで出品するほどの価値があるとは思えないと、リノと2人で話したぐらいです」
エスミは腕を組む中、何やら面倒そうな様子で溜息を吐きました。
「引き続き、そのオークションについての詳細を掴むよう小豆には伝えておいて。オークションが開かれる場所。出席する客。主催者。手に入る情報なら何でもいいから」
「しょ、承知いたしました……しかし栢間様。その作品名に何か心当たりでもあるのでしょうか。随分と、怖い顔をされているようですが……」
「……気にしなくて良いよ。ちょっとアビドスの名前を聞いて昔のことを思い出しただけだから」
「そ、そうですか」
それにしては只事では無さそうな雰囲気を出しているとフランは思いましたが、エスミの事ですから追及するのは失礼だと考え、ひとまずオークションに関する情報をしっかり集めるよう後で親友のリノに伝えておこうと考えるのでした。
「……それで? あともう1件だけ知らせたい話があるんだよね?」
「はい。ただまあ……こちらは緊急かと言われたらそうでも無いと言いますか……わざわざ栢間様のお時間を取らせる必要は無いような気がして」
「大丈夫。それを判断するのは私だから、君はただ知らせてくれるだけで良いよ」
クスッと苦笑するエスミ。
フランはその反応を見ながら『本当に宜しいのでしょうか』と乗り気ではない様子で口にします。
「君がそこまで渋るなんて。一体どんな内容なの?」
「それが、ですね……栢間様にお会いしたい生徒がいるようで……」
「私に?」
「それも芸術家である栢間エスミ様ではなく、情報屋として活動している栢間様こと〝ウリエル〟にお会いしたいとの事です」
「情報屋としての私にね……何か、どうしても手に入れたい情報でもあるのかな」
「リノからの話によれば栢間様に会いたいと願うその生徒は現在2年生らしく、部活はまだどこにも所属していない普通の庶民出身の生徒のようです。学業はほぼ上位。礼儀正しく落ち着いた生徒であり、観察眼に優れたリノからしても、これといって情報屋を頼るような困りごとがある生徒には見えないとの事です」
「でも私に直に会いたいということは、つまり例の〝ルート〟を使用したんだよね?」
「はい。どうやらそのようです」
例のルート、というのは簡単に言えばエスミに会いたいと遠回しに伝える専用の連絡のことになります。
ちなみに情報屋と芸術家の2刀流で活動しているエスミですが、当たり前と言うべきか本業は芸術家であり、あくまでも情報屋は副業となります。
ということは時間を割く職業も芸術家の方となるため、情報屋として活動している時間は限りなく少ないのが現状です。
とはいえ情報収集人であるリノの存在や、高名な芸術家として数多のパイプを持つエスミ本人が手にしている情報は全て価値のあるものばかりであり、その情報を是非とも手に入れたいと願う者はここトリニティ自治区では数多くいます。
そこで、ある特別な連絡手段を用いた者だけがエスミと直で対面し、欲しい情報を手にするというシステムをエスミは生み出しました。
いわゆる映画や小説に出てくるような『合言葉を使ったやり取り』に通ずるやり方であり、その連絡手段というのも特定の美術用語を駆使した手紙をエスミ宛に送るというものです(とはいえ、相手が怪しいものでは無いか、送り主の正体を掴むためにまず最初にリノがその手紙を手にする訳ですが)。
もちろん全員がそのやり方を知ってしまったら意味が無いため、その連絡手段を知る者はかなり限られており、しかもその知る方法というのがエスミの美術作品を購入したことのある者か、エスミ本人から暗号となる美術用語を直接知らされた者だけとなります。
となれば当然、情報屋であるエスミを頼るのは彼女の美術作品を買えるほどの裕福なお嬢様生徒か、彼女と親しい関係を築けている生徒だけとなるため、部活にも所属しない学力が良いだけの庶民出身の生徒などに会ったことも絵を売った覚えもないエスミはただ首を傾げるのでした。
「どこかで暗号を使った連絡手段が漏れたのかな」
「そう考えるのが妥当だとは思いますが、そうなれば栢間様に会いたいと願う者が続出しているはずです。今の所、例の連絡手段を使っているのはその生徒だけですので、やはりここは正規の方法として美術作品を購入した可能性があります」
「でも私の作品は一番低い値段でも数十万はするからね。情報を得るための出費にしては、庶民の生徒にはかなりの痛手だと思うけど……」
「もし不安であれば断ることも出来ますが?」
しかし、フランの言葉に対してエスミは首を横に振りました。
「いや。やっぱりここはその生徒に会ってみようか。連絡手段の入手については本人に直接尋ねれば済む話だからね。金剛、申し訳ないけどその生徒に連絡を取って貰えるかな?」
「承知致しました。日時と場所はいつものと同じで宜しいでしょうか?」
「そうして貰えると助かるよ」
「ではオークションの件をリノに伝えるついでに、その生徒にも接触してきます。では、私はこれで」
ペコリ、と深くお辞儀をしてその場を立ち去ろうとするフラン。
すると何かを思い出した様子でエスミがふと『あっ、そういえば』と立ち去りかけた彼女をその場に止めました。
「重要なことを聞き忘れてた。私に会いたいっていう生徒の事だけど、その子の名前は分かる?」
「勿論、リノから聞いています。名前は……ヒフミ……阿慈谷ヒフミという生徒です」
フランは続けて『リノ曰く、極めて〝平凡〟な生徒との事です』と教えてくれましたが、エスミは遠い目をしながらこう呟きます。
「平凡な生徒、ね」
≪1-3≫
阿慈谷ヒフミがその部屋を訪れた日、運が悪いことにトリニティ自治区は曇り空でした。
しかし、どんよりとした空とは反対に、ヒフミが足を踏み入れた校舎の中は空気や雰囲気ともに明るく、道中ですれ違う生徒達はみんなして笑みを浮かべながらヒフミに挨拶をしていました。
もちろんヒフミも彼女たちに挨拶を返すわけですが、この校舎の中にいる生徒はほとんどが3年生。つまり上級生です。
しかもこの校舎に所属している生徒はほとんどがティーパーティーや正義実現委員会、シスターフッドとの関りが深く、加えて優れた実績や才能を持っていることから特別に専用の仕事部屋が与えられているなど、正に【メリトクラシー*1】と呼ばれる立場の生徒達になります。
なのでペコペコと勢いよく頭を下げては、自分のような〝平凡すぎる生徒〟がそう気軽に足を踏み入れて良い場所ではないと考え、ヒフミは少しだけ急ぎ足で目的地へと歩きました。
「えっと……フランさんから聞かされた部屋の場所は……あっ、ここですね‼」
やがて校舎の中を歩きはじめること数分。
ようやく目的地へと辿り着いたヒフミは、とある部屋の扉を前にして不安か緊張か、キョロキョロと周囲に視線を走らせます。
ですが先ほどまではかなり多くの生徒とすれ違っていたのですが、今ヒフミがいる廊下だけは誰一人として姿が見えず、足音や生活音すらしません。
まるでこの部屋の中にいる住人だけがこのフロアを貸し切っているかのような状況です。
「……栢間エスミさん……噂でしか聞いたことはないですが、どんなお人なんでしょうか……」
一応ヒフミはこのトリニティ総合学園に入学して早くも2年が経過しています。
しかしながら、そんなヒフミでも『栢間エスミ』という生徒についてはそう多くは知りません。
トリニティ自治区を代表する高名な芸術家であるとか、同性すら惚れてしまうほどの美貌を持ち、大人顔負けの立ち回りをしてみせるとか色々あるようですが、その全てが人伝に聞いた噂に過ぎません。
それこそ同年代の生徒の中にはそんなエスミと関りを持ち、プライベートでも付き合いがある子が何人かいるようですが、生憎とヒフミは今日という日まで一切交流がありませんでした。
元々、そういった実績や才能をもつ特別な生徒と関わる機会がヒフミには全く無かったというのもありますが、あまり人前に姿を現すことのないエスミのおかげで両者が出会う確率は限りなく低かったのでした。
とはいえ、とはいえです。
それも今日まで。
この後、ヒフミはようやく噂のエスミと対面することになるのです。
「……この部屋の中に……エスミさんが……」
ヒフミは目の前にある扉を見つめ、その場で一旦深呼吸を行います。
「大丈夫……大丈夫……怖くありません。ナギサ様の話だと、とても優しい方とのことでしたし……」
少女は恐る恐る片手で小さな拳を作ると、それをまっすぐ扉へと動かし、そのままコンコンコンッと軽くノックをしました。
そして部屋の中から『どうぞ』と声が返ってきたのを確認し、ヒフミは扉を開けて入室します。
「し、失礼します‼ トリニティ総合学園2年生の、あ、阿慈谷ヒフミです‼ 本日はお時間を頂きありがとうございます‼」
ヒフミは部屋に入るや否や、その場で直立不動を取ってペコリと頭を大きく下げました。
「ごきげんよう。君の名前はもちろん知っているよ、阿慈谷。私の方こそお礼を言わせて、上級生しかいない校舎にわざわざ足を運んでくれてありがとう。流石に下級生にはこの校舎、少し居心地が悪かったよね?」
「い、いいえ!! そ、そんな事はありません!!」
もちろん居心地が悪かったのは事実ですが、つい反射的に否定してしまったヒフミ。
しかし直後にエスミから返ってきたのは、楽しそうな笑い声でした。
「フフッ、そんな就職面接みたいにカチコチに緊張する必要はないよ。まあこのフロアは私しかいないし、他の生徒に出くわさない帰りのルートを後で教えるから是非とも使ってね」
エスミは部屋の中央にある2つのソファに向かって手を伸ばし『どうぞ、座って』と着席を促すと、自身は片方のソファに腰掛けました。
「し、失礼します……」
ヒフミは彼女が先に座ったのを確認すると、続けて自分もソファに座りました。
もちろん空いているもう片方のソファに、ですが。
そして互いにソファに腰掛けた後、改めてヒフミは目の前にいる栢間エスミという生徒を見つめました。
(あうぅ……うっ、噂通り凄く綺麗な人ですね……まるで、絵の中にいるような……)
やはり噂に聞いていた通りの美少女です。
聞く話によればガチ恋勢や隠れファンがいるという話ですが、それも当然でしょう。
澄ました顔でいるだけでも十分魅力的なのに、先ほどのように小さく笑っただけでも心が奪われてしまいそうになるのです。
いわば魔性の女です。
「それで。さっそく来てもらって申し訳ないんだけど、先に阿慈谷に聞いておきたい事があって……聞いても大丈夫かな?」
足を組み、そのうえで頬杖を付くエスミ。
そして翡翠色の瞳がまっすぐヒフミへと向けられ、彼女は緊張から心臓がバクバクと鳴り始めるのを身体全体で感じ取りながら大きく頭を縦に振りました。
「君がこうして私に会いに来たということは、例の暗号を用いた手紙を私の下に届けたからだけど……あの連絡手段をどこで知ったのか私に教えて貰えるかな」
「は、はい……それは以前、とある方に教えて貰いました」
「とある方?」
「ナギサ様です……だいぶ前に、困った事があればエスミさんを頼るようにと、あの連絡手段を特別に私に教えてくれました」
「……桐藤が、君に……?」
嘘ではありません。
だいぶ前。
それこそヒフミがまだ1年生だった頃、自治区にある大きな病院の近くで酷く意気消沈していたナギサと偶然出会ったヒフミ。一体彼女の身に何が起きたのかは不明ながらも、それでも他者から見て心配になるほど心が沈んでいたナギサをそのまま放っておくことも出来ず、ヒフミは懸命に彼女を慰め、加えて心の相談に乗りました。
そのおかげか、ヒフミのおかげで何とか立ち直ることが出来たとナギサは彼女に深く感謝し、それからは時々ナギサの話し相手となって、ヒフミなりにメンタルケアを行ってきました。
そしてそれはヒフミが2年生になっても特に変わることは無く、ここ最近だと丁度エスミが短期留学という形でワイルドハントに行き、トリニティを不在にしている間もそれは続きました。
ナギサから例の暗号を用いた連絡手段を教えて貰ったのは、丁度その頃になります。
「なるほどね……そう。桐藤が君に……ふーん」
何やら納得しているようで、でも心の底では納得していない、といった反応を見せるエスミ。
「君は、随分とティーパーティーの現ホストでもある桐藤と仲が良いんだね」
「い、いえいえ!! 仲が良いと言うより、こんな私にナギサ様のような方が気を掛けてくださっていると言うか、その、ほ、本当に恐れ多い気持ちで一杯です‼」
「そう畏まることは無いよ。彼女がそうやって特別扱いをするということは、きっと君に魅力を感じてるんだろうね。むしろ誇るべきだよ」
「あうぅ……は、はい」
「でもそっか……やっぱり彼女は君のこと、他の誰よりも特別に思ってるんだね。私への連絡手段をあっさりと教えちゃうほどに」
「……あの、エスミさん?」
「どうかした?」
「……い、いえ……何でもありません……」
気のせいでしょうか。
何だか嫉妬が混ざっているような声色で呟いたので、好奇心からヒフミは恐る恐る彼女の表情を伺います。
ですが、そこには依然として澄ました顔のエスミがいました。
やっぱり気のせいか、とヒフミは視線を再び下に落とします。
「まあこれで私の疑問は晴れたから本題に移ろうか。君は今回、芸術家の栢間エスミに会いに来た訳じゃ無く、情報屋の栢間エスミに会いに来たんだよね? 早速だけど、君が欲しい情報が何か聞かせて貰えるかな」
足を組み直し、首をやや斜めに傾けてそう尋ねるエスミ。
ヒフミはそんな彼女の視線を受け、ようやく本題を思い出したかのようで背筋をピンッと伸ばしました。
(そ、そうでした!! 今日来たのは他でもなく〝あの情報〟を知るため‼ せっかく貴重な時間を割いてまで私に会ってくれたんですから、早くエスミさんに尋ねないと‼)
「はい‼ 実は、私なりに頑張って調べてみたんですけど全然情報が掴めなくて……なので、情報屋としての評価が高いことで有名なエスミさんならご存知かと思い、やって来ました‼」
「それはつまり何か探しているということ? モノ探しとなると、流石にこのキヴォトスに関して隅から隅まで知ってる訳じゃないから私を頼っても無駄骨になる可能性はあるけど……まあ一応、君が欲しい情報が何なのか、私に言ってごらん」
「はい……実は……私、ペロロ様の居場所が知りたいんです‼」
「……はい?」
直後、先ほどまで澄ました顔でいたエスミが呆気に取られた様子で目を丸くしました。
「……えっと……何だって?」
「ペロロ様です‼ モモフレンズに登場するキャラクターです‼」
「いや名前は流石に知ってるけど」
「そうなんですか!? エスミさんがご存知ということは、モモフレンズはやっぱり大人気なんですね‼ 私の周りだと知ってる人が少なくて、てっきり流行ってないものかと…」
「……あー……えっと……それで、君はそのペロロ様の居場所が知りたいの?」
「いえ、ただのペロロ様ではありません!! 限定で100体しか作られていない、ペロロ様とアイス屋さんがコラボした特別な限定ぬいぐるみです‼」
「ぬ……ぬいぐるみ……」
「はい‼ 既に販売は終了しているので新規で手に入れることはもはや不可能で……でも私、どうしてもそれが欲しいんです‼ なので、エスミさんなら何処で手に入るかご存知かと思いまして!!」
「…………」
エスミはそこで一旦顔を上げ、部屋の天井を見上げました。
そして小さな声で『嘘でしょ……こんな形で私、この物語に関わるの?』と何やらボソボソと呟きますが、生憎とヒフミの耳がそれを拾う事はありませんでした。
やがて再び顔を戻したエスミは、落ち着いた声でこう言いました。
「……運が良いと言うべきなのかな……その限定ぬいぐるみの入手場所だけど、実は心当たりがあるよ」
「ほ、本当ですか!?」
ガタッとその場で立ち上がり、希望に満ちた目でエスミを見つめるヒフミ。
やはり彼女を頼って大正解だと、興奮と喜びで少女の胸が高鳴っていました。
「そ、それで、何処でなら手に入りますか!? 絶対に限定ペロロ様のぬいぐるみを手に入れないといけないんです‼」
「その前に、私から君に一言だけ言わせて……」
「はい、何でしょうか!?」
すると情報を早く知りたいと興奮しているヒフミを落ち着かせながら、エスミはその場で大きく溜息を吐くと、やや呆れた様子でこんな言葉を投げるのでした。
「君……そのぬいぐるみの為だけに、わざわざ暗号の連絡手段を用いて私に会いに来たの?」
「もちろんです‼」
あまりにも元気の良すぎる返事を前にして、エスミは自身のこめかみを押さえながら、まるで現実を直視したくないといった様子で瞳を閉じます。
一方でヒフミは、そんなエスミを見つめながら『険しい表情をされていても凄く綺麗ですね』と呑気に思うのでした。
※わざわざ、限定ぬいぐるみの入手情報欲しさに暗号の連絡手段を使ったことに心底絶句しているエスミである
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
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拳銃(M1911,グロック等)
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リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
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自動小銃(HK416、AK-47等)
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短機関銃(M1921、MP5等)
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小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
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散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
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機関銃(MG42、M249等)
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対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
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擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
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素手