夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
既に作品情報に載せている話ではありますが、こちらAIを使用し、本作品のオリキャラ主人公の栢間エスミを作成しました。
細かい点でまだ描写が不足してる点がありますが、ひとまず作中のエスミに関するビジュアルは概ねこのイラストの通りだと思って頂ければ幸いです。
【挿絵表示】
「ボス。今、少し時間を頂いても良いですか?」
ドアを力強くノックする音が響きました。
時間は夜中の22時を過ぎたあたり。
就寝前に愛用している武器の手入れを行っていたエスミでしたが、時計の時間を一瞥した後に作業を中断すると、静かにドアへと近寄り来訪者を出迎えました。
「小豆。こんな夜遅くに来るなんて……一体どんな用で来たの?」
目の前には身長165のエスミより更に10センチも背が高い美少女が立っており、部屋の主であるエスミがぽんっと姿を見せると、どこかほっとした様子で息を吐きました。
「すみません。こんな真夜中に部屋に押しかけてしまって……至急、ボスにお伝えしたい情報がありまして」
至急と口にしているだけあり、こうして直接会いたい理由があるのでしょう。
エスミはそんなリノの顔をじっと見つめると、やがて了承した様子で肩をすくめました。
「そう。なら、ひとまず中に入って。コーヒーぐらいならご馳走するから」
「うっ、ボク……苦いのは無理なんですが……ああいえ、ボスからの施しとあれば有難く頂きます」
エスミに招かれ、部屋の中に入ったリノはそのまま部屋の隅にあるソファにぎこちなく腰掛けると、すぐに温かいコーヒーを用意してくれたエスミがカップを彼女に手渡します。
そしてエスミは机の上に置きっぱなしになっている手入れ中のリボルバーに手を伸ばすと、カチャカチャと組み立てを始めながら『それで?』と小さく呟き、用件を伝えるようにとリノに合図を促しました。
その言葉を受け、リノは苦過ぎるコーヒーを飲んで少し顔をしかめつつも、背筋を伸ばして口を開きます。
「ボスが以前から気にしていた例のカイザーコーポレーションが主催するオークションですが、日時が決まりました。来週末に開催されます」
ピクッとエスミの眉が反応しました。
組み立て中だった手も、ほんの一瞬だけ動きが止まりましたが……すぐに動きを再開させると、エスミは静かに頷きます。
「そう……思っていたより、かなり早めに開催するみたいだね」
「はい。まあ流石は大企業と言いますか、会場設営や人員の手配はあっという間に済ませたみたいです。警備を担当するのは、同じくカイザーコーポレーションが経営している警備会社であることも判明しています」
「何から何まですべてカイザーグループが取り仕切る、と……なるほどね。他には?」
45口径のルフォー・ショー・リボルバーの組み立てを完了し、それをショルダーホルスターに収めます。
続けて22口径の同銃も組み立てを始めながら、視線をリノに向け、更に会話の続きを促すのでした。
「出席する面々はキヴォトスでも名の知れた大企業の重役や社長など数名。あとは美術品に精通しているコレクターなどがカイザーコーポレーションから直々に招待されています。既に各自治区のメディアにも宣伝目的で開催通知を広めているのも確認済みです」
「なら今さらオークションそのものを中止にする可能性は無さそうだね。ちゃんと美術業界の人達も招待しているという事は、今のところ不正取引を目的としたオークションという事でも無さそうだし」
「ボクも可能な範囲で調べた限りでは、至って健全なオークションを開催しようとしているとしか思えませんが……とはいえ、あのカイザーコーポレーションがすることですから」
怪訝な顔つきでコーヒーを口にし、溜息を吐くリノ。
「ああそれと……フランから聞きましたが、ボスが妙に気にしていたという〝アビドス〟の名がつくタイトルの絵画の件ですが、こちらも少しだけ新情報があります」
「聞かせて」
22口径のリボルバーも組み立てを完了し、今度は腰のホルスターに収めたエスミは、そのまま壁に寄りかかって腕を組み、真剣な顔つきで耳を傾けました。
「ではお伝えします。オークションで出品される美術品はどれも歴史を感じる年代物であることが判明しているのですが、そのアビドスの名が付く作品だけは不思議なことに、制作されたと思われる年代が非常に浅いみたいなんです」
「浅い?」
「はい。残念ながら出品されるすべての作品の写真を手に入れることは出来ませんでしたが、既に流れている情報をかき集めたところ、アビドスと名の付く作品の制作時期は古くても3年~5年の範囲であるらしく、下手すると浅くて2年~1年も経っていない可能性があるとか」
苦いコーヒーを頑張って飲みながら、リノは首を傾げつつ『変だと思いませんか?』と主人であるエスミに同意を求めるのでした。
「普通、オークションに出品される美術品って歴史が浅くても、ほとんどは最低でも50年以上は月日が経ってるはずですよね。なのに、このアビドスの名が付く作品だけが妙に新しい……流石にカイザーコーポレーション側に裏があるとみていますよ、ボクは」
「…………」
エスミは返事をすることもなく、視線を彼女からずらして小さく息を吐きました。
「ボス? どうかされましたか」
「別に……何でもないよ。小豆は気にしなくて大丈夫だから」
「……あの、ボス。まさかとは思いますけど、その作品を確かめに自らオークションに行くなんて言い出しませんよね?」
恐る恐るといった様子でリノが空になったカップを手にして前かがみになりながら尋ねると、エスミは肩をすくめて苦笑しました。
「君も私の行動が読めるようになったみたいだね」
どうやら、エスミは本気のようです。
リノは自身の目を細くし、同時に嫌そうに顔を歪ませました。
「ボクは反対ですよ、ボス。オークションを開くのはあのカイザーコーポレーションです。普段のような只のオークションとはわけが違います。いくらボスのような冷静沈着で大人顔負けの頭脳を披露する方であっても、キヴォトス全土に拠点を持つような大企業の下に1人で行かせるわけにはいきません。フランも同様に反対するはずです」
「まさか小豆。1年前のゲヘナで起きた悲劇が、また私の身に訪れるとでも思ってるの?」
「……そうです。勿論、ボスがわざわざこのボクにオークションに関する情報を集めさせたという事は、はじめからご自身で行く気だったと薄々分かってはいたつもりです。しかし、今度ばかりはまた1人で行かせるなど出来ません。可能ならば、ボクかフランを護衛として連れて行ってください」
「その申し出はありがたいけど、君も金剛もいまは立派な美術部のトップなんだから、私個人の目的のために連れ回すことは出来ないよ」
エスミは溜息を吐き、肩をすくめながらリノの申し出を却下します。
「ぐっ……な、なら、せめて誰か信頼できる方を連れて行ってください。正実にいるあの日頃からボスに対して尻尾を振り回してる謎に細目な黒髪ロングの生徒でも良いですし……ああいや、あの子はなんかボスのことを狙ってる素振りも隠そうとしてませんから却下するとして、ハスミやツルギみたいな他の生徒でも構いません。ボスの身を守ることが出来る猛者が必要です」
「……そうは言ってもね……トリニティの生徒は特にダメと言うか……」
別に護衛が務まる生徒に心当たりがないわけでも無いのですが、前世の知識を引き継いでいるエスミにとって、今のトリニティは既にエデン条約編に片足を突っ込んでいる状況です。
出来ることなら、自分の目的に引き込むことで余計な改変が起きてしまう事態は何が何でも避けるべきだと、今のエスミは考えていました。
となると、やはりここは以前のように独断行動をするのが自分らしいと思っているのですが、彼女の身を案じるリノが不安視する点もまた揺るぎのない事実であり、相手があのカイザーコーポレーションともなれば、エスミが介入することで不測の事態が起きる可能性はぐっと高まります。
しかし他に頼れる生徒といえばトリニティの生徒を除くと、あとはゲヘナにいる鬼方カヨコぐらいですが、今の時期の彼女はもう便利屋という新たな家族を得ている状況であり、かつ現在は原作のアビドス編に介入しているため手伝いとして呼ぶわけにはいきません。
さて一体どうしたものかと静かに頭を悩ませるエスミ。
すると、そんな彼女の姿を一目見てリノは何か思いついた様子でソファから立ち上がるのでした。
「分かりました、ボス。護衛の件ですが、ひとまずボクの方で手配します。その間ボスは事前準備として、ティーパーティーの方で外出申請をしてきてください。今の貴女はゲヘナでの一件以降、無断でトリニティから出ていくのを禁止されている身ですから」
「……ああ。そういえば……そうだったね」
心底面倒くさいという態度を隠しもせずに溜息を吐くエスミでしたが、これに関しては彼女の自業自得です。
当時、美術部の部長という立場にいたにも関わらず、誰も引き連れることなくゲヘナを1人で訪れ、その帰路の最中に何者かによって襲われた挙句、実に半年以上にもおよぶ入院生活を送る事となったエスミ。
おかげで『現役のトリニティ生徒がゲヘナ自治区で襲われた』という揺るぎのない事実は、ゲヘナとトリニティ双方の関係をさらに険悪なものへと動かし……結果的にエデン条約が生まれるきっかけになったとは言え……エスミの独断行動によって引き起こされた問題は、1年経った今でも根強く残っているのです。
特にゲヘナの一件ですっかり過保護へと性格が傾いてしまったナギサにより(もちろん最近起きた百合園セイア襲撃事件も重なったのが要因でもありますが)今のエスミは外部への独断による外出行動を実質禁止されている状況にあります。
ちなみに、少し前にナギサの独断によって行われたエスミによる1人だけのワイルドハントへの短期留学は、あくまでもエスミの身を守るために安全な自治区で少し隠れてもらおうという目的で行われたナギサによる特例の1つに過ぎません。
故に、リノが言うように何かしらの事情によりトリニティ自治区から出る時は、事前にトリニティを管轄している生徒会ことティーパーティーの現トップ、桐藤ナギサに理由や目的を明かして許可を貰わないといけないのでした。
「はぁ……面倒だね。桐藤がそう簡単に許可してくれるとは思えないけど」
「そこはボスお得意の話術で言いくるめるしかないかと……とはいえ護衛の件はこのボクが必ず手配しますので、ひとまずティーパーティーの方には『決して1人で行くわけではない』という事を強く伝えておきましょう。ついでに余計な疑念を抱かせない為にも、オークションの詳細に関しては徹底的に伏せておいた方が良いかもしれません」
「……いいよ。分かった、そうしようか」
数秒か、それとも十数秒か。
腕を組んだまま心底面倒だ、という態度こそ崩さなかったエスミでしたが、それでも自慢の部下であるリノが提言してきた内容に同意してくれたのか、肩をすくめつつ返事をしました。
するとリノは深く頭を下げて『ありがとうございます、ボス』と口にすると、早速その護衛とやらを手配するために部屋を出ていきました。
「……今頃、アビドスの方は例のブラックマーケットの騒動が起きている頃かな……」
部屋の主として再び1人きりになったエスミは、窓の外からトリニティ自治区の夜景を寂しげに眺めるのでした。
≪1-2≫
一方その頃、エスミの部屋から退出したリノですが、何やら急ぎ足でとある目的地に向かって移動を始めていました。
「……美術所属の副部長、小豆リノと言います。こんなお時間に大変申し訳ありませんが、中に入っても宜しいでしょうか?」
そして目的地と思われる古びた建物に辿り着くと、まるで番兵の如く堂々とした立ち姿で建物の入り口を守っているシスター服の生徒に対し、リノは遠慮がちにそう尋ねました。
シスター服の生徒の目がすぐにリノに向けられ、そして僅かに緩むのが見えました。
「ああ、美術部の小豆リノ副部長さんですね。ごきげんよう。既に大聖堂はこの時間、我々シスターフッド以外の一般生徒の立ち入りを固く禁止している所なのですが、もしかして美術作品の修復に関する件で来られたのでしょうか?」
「ええ。まさにその通りです。以前、シスターフッドにより依頼をうけた美術作品の保存状況や現物の確認を行いたくて……でもやはり、このような時間に来たのは迷惑でしたか?」
困った素振りで苦笑すると、シスターフッドの生徒はニコリと笑って首を横に振りました。
「いえいえ、むしろサクラコ様より、リノ副部長さんを含めた美術部の皆さんからの頼み事はすべて無条件で応じるようにとの指示を受けております。先代の美術部部長である栢間エスミ様には大変お世話になりましたし、その後を継がれた現部長の金剛フランさんにも聖堂にある数々の美術作品の修復をして頂き、私共としては常に感謝の念に堪えません」
シスターは自身の身体を横にずらし、建物の入り口へと手を伸ばします。
「流石に聖堂での寝泊まりは許可出来ませんが、リノ副部長さんの気が済むまで長時間ご滞在して頂いても構いません。本日の聖堂内の巡回担当者は私を含めて他に数名ほどおりますので、もし緊急の用件はあれば遠慮なく頼ってください」
「ありがとうございます。長くても1時間ほどの滞在で済みますので、お気持ちだけ頂きます」
そうして快く迎え入れてくれたシスターの傍を通り過ぎて大聖堂の中へと入ったリノは、深夜という事もあり、僅かな数のロウソクの灯だけで照らされている暗い聖堂内を静かに歩き続けると、そのまま大聖堂の管轄区である外へと出ました。
「…………」
そして懐からスマホを取り出し、何か確認するかのように画面をのぞき込んだ彼女は、聖堂を巡回しているシスター達の視界に入らないように、深夜にも関わらずライトも付けないまま敷地の奥にある雑木林の方へと歩みを進めます。
やがて歩き続けること10分ほど経った頃、リノの目の前に年月が経過して見た目がボロボロとなっている古い礼拝堂が姿を現しました。
リノはそんな礼拝堂を見つめたまま、背中側の腰のホルスターに収めているベレッタ・M8045を取り出すと、慎重な足取りで礼拝堂の中に足を踏み入れます。
ちなみに、この礼拝堂は遡ること数年程前にリノの主人であるエスミが一度訪れたことのある建物になるのですが、果たしてリノはそのことを知っているのでしょうか。
いえ今はそれよりも先に進むことをリノは優先しているらしく、月夜にすら照らされていない真夜中にも関わらず、迷いもなく礼拝堂の奥へと進んだ彼女は、そこで地下に繋がる階段の出入り口を発見しました。
「なるほど……ここが秘密の入り口と」
そして、ここに来てようやく懐からライトを取り出したリノは、銃を持つ手とは逆の手でしっかりとライトを握り、明かりを付けながら慎重に階段を下っていきます。
生憎と階段は遥か昔に作られたモノであるため足の踏み場は少し危うく、加えてロウソクの灯すら無い暗闇ということもあり、頼りになるのは手元にあるライトだけという、これでもホラー耐性が強いリノですが流石に不安や不気味さはそれなりに感じていました。
一応ここは大聖堂の敷地内にある礼拝堂の地下となるため、本来ならシスターフッドの管轄下にあたるのですが、事前の調べによると現在は大規模な改修や整備などはティーパーティーが率先して進めているエデン条約の関係で全て後回しにされているとの事なので、あまり文句は言えません。
とはいえ、それはつまり得体のしれない何かが潜んでいる可能性や、不慮の事故に遭う危険性も捨てきれない事も意味しており、利き手にもつM8045の銃口をしっかりと進路方向に向けながら、リノはさらに奥へと向かうのでした。
そうして下に進むこと実に数分ほど経った頃でしょうか。
リノの視界がこの暗闇にもだいぶ慣れてきたタイミングで、無数のロウソクによって灯されている謎の空間へと辿り着きました。
周囲には何も存在せず、明かりの中心にはポツンとイーゼルと椅子がまるでこの空間の住民の如く、堂々とした存在感を放って置かれています。
また以前はここに何かが放置されていた名残があるように見えますが、今はもう見る影もないようです。
そして、そんな中央にある椅子に腰かけてイーゼルを前にしている人物が1人、リノの視界には映っていました。
「アンタが、例のオークションに関する情報をこのボクに流していた提供者?」
銃口は向けたまま、慎重に足を前に動かして尋ねるリノ。
すると椅子に腰かけていた謎の人物はギシッと何かを軋ませる音を鳴らしながら立ち上がり、リノに振り返りました。
「……ッ!?」
直後、リノはまるで得体のしれないモノを見たかのように声を詰まらせます。
いえ、事実としてその謎の人物は文字通り得体のしれない外見をしていたのです。
見たところ細身の長身である大人のようですが、着ている服は音楽団の指揮者を思わせるタキシードであり、加えて2つの頭部が異様に目立ちます。
まるで素描で使用することのある人体用のデッサン人形に命を吹き込んだかのような姿をしているため、周囲にある無数のロウソクに照らされているこの場の状況も相まってか、ホラーに耐性のない者が見れば、ほぼ間違いなく失神していたことでしょう。
実際のところ、リノもああいう異形の人物を見るのは初めてである為、身体全体に寒気が走ったほどです。
「……来たか……このような場所に深夜にも関わらず1人で来るとは、どうやら〝ウリエル〟……いや、あの栢間エスミの腹心に相応しい度胸の持ち主であるようだ……彼女の人を見る目はつねに曇りがなく、鮮明のままであるらしい……ふむ、実に見事で素晴らしい……」
謎の人物が口を開きます。
そして栢間エスミの名を言うのでした。
その瞬間、リノは迷いもなく銃の引き金に指をかけ、謎の人物相手に凄んでみせました。
「アンタ、ボスに何の用? ボクを利用してボスに近づこうという魂胆なら、残念だけど今すぐここで消えてもらう事になるよ」
「……ふむ。目の前にいる得体のしれない何かに対する恐れよりも、主人である彼女に対する忠義が勝るときたか。やはり彼女が特別に信頼を寄せている生徒なだけはある。そなたにオークションの情報を渡したのは正解だったようだ……」
どうやらリノがあの栢間エスミの部下であるということまで把握しているようですが、エスミを称賛する言葉ばかり並べて満足している様子を見るに、どうもエスミ個人をつけ狙う厄介なストーカーという事では無さそうです。
もちろん直に対面してまだ数分しか経っていないので、本当に無害な存在なのか断定するには早すぎます。
しかし警戒心をほんの僅かに緩めると同時に銃口も下におろし、怪訝な顔つきでリノは尋ねました。
「数週間前からこのボクに、あのカイザーコーポレーションが主催のオークションに関する情報をいつも流していたのは、見たところアンタで十中八九間違いはなさそうだけど……まさか、全てはボスのためにしたってこと?」
マネキンのような姿をしている相手は肯定のつもりなのか、ギギッと身体を軋ませながら後ろへと下がり、椅子に腰かけました。
とはいえ今リノが口にした通り、エスミに届けたカイザーコーポレーション主催のオークションに関する情報のほぼ全ては、差出人不明の手紙によってリノの下に届けられたものであり、まるで『このオークションの詳細に関する情報を余すことなくエスミに届けろ』と言わんばかりのメッセージ性を感じさせました。
しかし、これでも高等部に進級してから今日に至るまでの数年間、エスミ専属の情報収集人として裏で密かに働いていたリノですから、当初はこれらの情報の出処を怪しみ、裏を取るため時間をかけて細かく確認を取り続けてきました。
結果として、送られてきた情報すべてが嘘偽りのない事実であると判明したため、以降は特に怪しむこともなく情報を真面目に受け取っていたのですが……それが先日になって突然『トリニティの大聖堂近くにある古びた礼拝堂の地下にて待つ』という謎の伝言がリノの下に届いたのです。
これにはリノも遂に謎の情報提供者とご対面出来るのかと好奇心が働き、こうして真夜中にも関わらず単独で礼拝堂の地下にまでやって来たのでした。
それがまさか、まるでデッサン人形のような姿をした人物に迎えられ、しかも何やらエスミに対して非常に協力的な人物であるとは全く思いもしなかった訳ですが……何であれ、一応味方の立場にいる人物として見ても良さそうです。
「それで? そんなアンタが何でいきなりボクに会いたがったのさ? それにあんなカイザーコーポレーションが主催するオークションの情報を渡してきた理由も知りたいんだけど」
銃口は下ろしているものの引き金に指はかけたまま尋ねてくるリノに対し、謎の人物は椅子に腰かけて足を組み、依然として無抵抗のまま身体の奥底から溢れ出ている余裕の態度を崩そうともしません。
「そなたの質問には全て答えるとしよう。まず1つめに、そなたに会いたがった理由だが、今まで姿を隠して情報だけを渡していた見ず知らずの私を信用してくれた事に対して、直接感謝をしたかったのだ」
「感謝って……こんな人目にもつかない不気味な地下で?」
幸運にも不気味な音こそ聞こえませんが、ネズミや虫が平気で徘徊しているような古びた礼拝堂の地下に生徒1人を呼び出しておいて、感謝の言葉を伝えたいとは流石に大部分は嘘でしょう。
もちろん確かに感謝の言葉を伝えたい、という理由も少なからずあるのかもしれません。しかしこうして人目にもつかない地下にリノを呼び寄せた理由が必ずどこかにあるはずです。
ひとまず、リノは肩をすくめて『まあ、どういたしまして』と形ばかりの返事をしました。
「なら続けて2つめの質問にも答えてもらえる?」
「もちろん……何故、そなたにカイザーコーポレーションが主催するオークションに関する情報を渡してきたのかの理由だが……まず、これを話す前に1つだけ約束をしてもらいたい」
「約束?」
「今日、そなたと私がこうして会った事、そしてこれから話すこと、その全てを彼女に……栢間エスミに秘密にしてもらいたい……」
「…………」
嫌そうに眉をひそめるリノでしたが、相手は気にもせずに会話を続けました。
「彼女は賢い。そして聡明だ。私があのオークションに関する情報をそなたに全て渡していた出処の正体だと知れば、恐らく彼女はオークションに介入することもなく別の手を打つことだろう。もしくは、自ら手を引くか……どちらにしろ、私が関わっていることを彼女に悟らせる訳にはいかない」
「……アンタ、過去にボスとの間にいざこざとか、そういうレベルの厄介な何かがあったの?」
謎の人物は肯定することも否定することもなく、数秒だけ無言を貫きます。
結局、尋ねた側のリノが渋々と諦めて会話の先を促しました。
「そなたも薄々と気付いていることだろう。彼女は、カイザーコーポレーションが主催するオークションに対し、非常に強い執着心を見せていることに」
「……まあ、普段のような美術好きの熱い一面を見せるボスとは、少しだけ様子は違っていたけど……それが?」
正確にはオークションというよりも、あまり歴史すら感じられない〝アビドス〟と名の付く1つの美術品に対する執着心がやけに強いと言った方が正しいのですが、恐らくそれも分かっている上で『オークション』とわざとらしく言葉を濁しているのを、リノは相手の空気から感じ取りました。
「……彼女がそれだけあのオークションに執着している原因について、私には少なくとも心当たりがある。むしろ私の関係者が、その最たる一因を作ってしまったとでも言うべきだろうか……いわばこれは、私なりの贖罪なのだ……これが、そなたの2つ目の質問に対する答えだ」
「なら、ボクを通して情報なんか渡さず、自分から名乗り出てボスにそう言えば良いのに」
「それは出来ない……私は彼女の作品に惚れた1人のファンではあるが、彼女の方はあまり私のことを快く思っていないのだ……出来ることなら、これまでのように作品を生み出し続ける彼女に対し、不快感を与えて台無しにさせてしまうのは極力避けたいと思っている……故に、そなたを通して情報を渡したのだ」
そう言って再びギシッと身体を軋ませる謎の人物ですが、その声色に悲壮感などは一切なく、エスミに避けられている事に関してはもう既に慣れている様子です。
リノとしては、あの誰にでも優しく温厚に対応してくれるエスミが露骨に関わりを避けたがるなんて相当の事だと思いましたが、今はそんな事を考えている場合ではないと一旦思考を放棄します。
代わりに、今まで握っていたベレッタ・M8045をホルスターにようやく収めたリノは、その場で立ちながら腕を組みます。
「なるほど。まだ色々と聞きたいことはあるけど、今は別にいいや。それよりアンタの提供してくれた情報のおかげで、ボスは来週にはもうそのオークションに乗り込む気でいるけど、これに関しては想定済みなの?」
「無論だとも……彼女なら間違いなく乗り込むだろう。いや、乗り込まないといけない……それだけ、あのオークションに出されている作品は、彼女にとって重要なものなのだ……」
「ボクには全く見当もつかないけど、アンタはあのオークションに出されている作品に何か心当たりでもある感じみたいだね。それ、ボクに教えてはくれないの?」
「…………」
その質問に対する答えは、沈黙でした。
どうも、いくらエスミが信用している腹心が相手とはいえ、そう何でもかんでも教えてくれるという訳ではないようです。
正直、癪に障りますが仕方ありません。リノにだって、この謎の人物相手に明かしていない秘密ぐらい多々ありますからお互い様と言えるでしょう。
問題なのは……。
「とはいえ、今のところボスの護衛を務めてくれる人が見つからない限り、肝心のオークションへの乗り込みは実現出来そうにないんだけどね……はぁ」
「……詳しく、聞かせてもらおうか」
珍しく椅子に座りながら前のめりになった謎の人物相手に、リノは事の経緯について簡単に説明を行います。
以前、ゲヘナで起きたエスミの悲劇をきっかけにトリニティとゲヘナの両関係が一気に冷え込んだことから始まり、今のトリニティのトップを務めている桐藤ナギサの過保護によって、エスミの身を守るための護衛や付き添いがいないと外部への行動すら制限されていることなど、色々と話をしました。
そして敬愛するボスことエスミのため、その肝心な護衛とやらを自分が探しているという事も付け加えて、リノは疲れた様子で溜息を吐くのでした。
「ボスの前では自信たっぷりに護衛を手配してみせる、なんて言ってみたけど、生憎とトリニティ以外の生徒でボスを務めてくれそうな生徒に心当たりは無いんだよね……あれでもボスは大の人気者で人を惹き付けるし、その立場に見返りを求めないような生徒なんて、そう何処にでもいる訳が無いから余計に難しいんだよね、これが」
本当なら自分や親友のフランがその護衛に名乗りをあげて、何が何でも強引に彼女に傍に付いていたい所なのですが、エスミが『トリニティの生徒は特にダメ』と言っているので難しいところです。
すると謎の人物はリノの嘆きにも等しい言葉を聞くと、おもむろに立ち上がりました。
そして、こう言ったのです。
「その話だが……私から提案がある」
≪1-3≫
あれからしばらく日が経ち、一週間という日が見る見ると過ぎ去って、気付けばカイザーコーポレーションが主催するオークションが開かれる当日となりました。
この日、トリニティ自治区から出発する駅のホームにて列車の到着を待っているエスミは、ぼんやりと目の前に広がっている景色を眺めながら静かにその場に立ち尽くしていました。
「……ようやく、オークションに向かえる……」
そう口にし、続けて安堵した様子で息を吐いた彼女ですが無理もありません。
ティーパーティーの現ホストである桐藤ナギサへの説得、開催されるオークションに参加するための面倒な手続きの手配、そして何より近況で起きているアビドス編に関するブルアカ原作ストーカーの進捗状況などなど、非常にやる事が多くて大変だったのです。
とはいえ、ようやく休みをとった先日には部屋に籠って食事も惜しんで1枚の油彩画を速攻で完成させてみるなど、速筆にして大の美術好きな彼女らしい休日を過ごせたので、特にこれといったストレスは抱えていないのが、せめてもの救いでしょうか。
何であれ、これから彼女はまた自ら面倒ごとに関わろうとしているのですから、エスミが背負うストレスが綺麗さっぱり消え去ることは、今後も絶対に訪れることはないのでしょう。
(そろそろ……リノが手配してくれた、私の護衛を務めてくれる生徒が来てくれる時間のはずだけど、姿は見えないし少し遅れてるのかな?……連絡を取ろうにも、肝心の生徒の詳細に関してはリノが全然教えてくれなかったから方法も分からないし、それに仮にブルアカ原作に出てくるような生徒だったら、流石の私も対応には少し困る事になるけど……)
懸念点だったエスミの護衛を務めてくれる生徒については、約束通り部下であるリノがすぐに手配をしてくれました。
相変わらず信頼できる部下の仕事が早くて助かります。むしろ彼女のおかげで、自治区からの外出を中々に渋るナギサを強引に説得出来たのですから。
しかしながら無事に約束を果たせたにも関わらず、護衛の件を見事手配してみせたリノは、彼女にしては珍しいこと非常に苦々しい顔つきでエスミにこう伝えてきたのでした。
『いいですか、ボス……今回はあくまでも護衛として付き添ってくれる生徒を手配しただけなので、彼女の素性については一切知ろうとはせず、また向こうとの関りも一切持たないでください。これは忠告です。向こうの事は単なる使い勝手の良いコマぐらい思っていた方が安心出来ますから……いや本当にお願いします』
まるで他に頼れる相手がいなかったので、誰の手にも負えない問題児を泣く泣く手配したかのような様子だったのを今でも思い出せます。
ですが、これでも転生前はそれなりにブルアカを遊び尽くしていたと自負できるエスミですが、彼女が知るかぎりではリノが苦々しい顔をするほどの問題を抱えている生徒に心当たりはありません。
故に、半分はこれから会う生徒に対する好奇心から、もう半分は純粋に不安を抱えながら、駅のホームでその誰かをエスミはじっと待ち続けるのでした。
やがて、彼女がホームで待つこと実に十数分が経過し……遂に、その人物が姿を現しました。
「お待たせしました。すみません、あまり行き慣れた場所では無かったので、道に迷っていました」
「……君は」
そう申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にしながら、いそいそと駆け足でエスミの下に駆け寄ってきた1人の生徒。
髪はやや短く、背丈は160丁度のエスミよりも更に5~6ぐらいは高く、やや細身です。
見たところ年代としてはエスミより1個下のナギサ達と同じ3年生といったところでしょうか、見た目の印象としては非常に落ち着きのある温厚で優しそうな生徒にしか見えません。
むしろ本当にこの子が、あのリノが苦々しい顔をするようなほどの人物なのかと一瞬目を疑うレベルの空気をまとっているため、呆気に取られた様子になりながらもエスミは一通りその姿に視線を走らせました。
何と言っても、高身長な姿に加えて目立つのはその制服の上に羽織っている白の大きなジャケットでしょう。
本来ならその腕に何かをはめていそうな所ですが、視線を向けてみるとそこには〝何もつけていない〟のが一目見ただけでもよく分かり、まさかアズサのようにトリニティに入学してきたアリウス分校の生徒なのではと一瞬でも疑っていたエスミでしたが、どうやら杞憂だったようです。
何より、転生者であるはずのエスミの記憶にすら存在しない生徒なのですから、どうやら目の前にいる生徒は至って普通の〝モブ〟なのかもしれません。
おかげで少し安心した様子でエスミは笑みを浮かべるのでした。
「何であれ、無事に辿り着いて安心したよ。列車の到着までしばらく時間はあるし、今のうちに呼吸でも整えて置くと良いよ。むしろ私個人のために護衛なんて面倒な依頼を引き受けてくれてありがとう……それで道に迷ったと言っていたけれど、普段はこういう場所には来ないのかな?」
「……ええ。普段はこういう明るくて、人が多くて、賑やかな場所に来るなんてことは滅多にありませんから……ほぼ、初めてみたいなものです」
何やら訳ありなのか、少しだけ表情を暗くしたものの、すぐに温厚な顔つきに似合う微笑を浮かべて彼女は言葉を続けました。
「ああ、申し遅れました。この度、貴女の護衛を務めさせて頂きます。私の名前はスバル……梯スバルと言います。貴女のお名前は栢間エスミさん、でしたよね。色々に貴女に関する話は知人から聞いていますよ」
そして静かに片手を差し出してきました。
「今日はどうぞ宜しくお願い致します。これは任務……ああいえ、依頼ですから貴女のことは完璧に守って見せましょう」
クスッと笑みを零したスバルに対し、エスミもまたその美少女すぎる顔に似合う笑みを浮かべるのでした。
「そう。なら私の方こそ今日は宜しくね、梯。君の実力、披露することが無く終わることを祈っているけど」
黒色の革手袋をはめている右手でしっかりスバルの手を握ったエスミでしたが、その右手に対してスバルは僅かに目を細めて視線を落としました。
「……なるほどね……この手にあのナイフを……そしてこの手袋は……」
スバルは相手には聞こえない声量でぼそっと呟くと、握手をしていない手を静かに自身の腰に収めている〝何かに〟伸ばし、その存在感を指先でしっかりと確認すると、やや力強くエスミの右手を握るのでした。
「……ッ」
いくら手袋によって感覚を緩和しているとはいえ、これでも触覚過敏という症状は馬鹿には出来ません。
不快感こそ出さないものの、突然の力のこもった握手にエスミの顔が少しだけ歪みました。
しかしスバルは何も知らない無垢の生徒を装いながら、今度はもう片方の手も添え、両手で優しく、しかし確実に力は込めながら握手を続けます。
「お互い、仲良く出来ると良いですね」
「……そう、だね」
まるで用意した台詞をそのまま口にしたかのようなスバルに対し、エスミは何とも言えない様子で返事をするのでした。
同時にあのリノが苦々しい顔をするのも当然かもしれないと、少なからず思ったのはここだけの秘密です。
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
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拳銃(M1911,グロック等)
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リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
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自動小銃(HK416、AK-47等)
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短機関銃(M1921、MP5等)
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小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
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散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
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機関銃(MG42、M249等)
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対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
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擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
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素手