夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
今週の投稿はこれにて終了です。
次回は問題が無ければ11月11日(月)午前0時に投稿される予定になります。
ナギサの新衣装来ないかな……。
ちなみに作者によるトリニティの最推しはミネ団長です。
イベント、ありがとうございました公式様。
『本日はハイランダー鉄道学園をご利用頂き、誠にありがとうございます。本列車はトリニティ自治区10時30発、ゲへナ自治区行きです。到着予想時刻は――』
ガタッガタッと小刻みに揺れる振動を身体全体で感じながら、車内に流れる車掌のアナウンスを音楽代わりに4人が向かい合うようにして座るボックスシートに腰掛け、栢間エスミはただ茫然と窓の外を眺めていました。
アナウンスを担当しているのは上級生の生徒でしょうか?
車内放送にかなり慣れているようで、初心者特有の発する言葉の一つ一つに音程の乱れが全くありません。それは緊張感を抑える事が出来ているという証であり、かつ場数を踏んでいるという事でもあります。
ある意味でベテランの車掌が担当している車両に乗れたことに、エスミは少なからず安心感を抱きました。
『また本車両に乗車されているお客様にお願いがございます。ハイランダー鉄道学園は、無賃乗車及びいかなる軽犯罪も許すことはございません。無法地帯を走る列車だからと傲慢よろしく車掌に舐めてかかるような真似をした場合、即刻叩き潰しますので覚悟してください』
「いや言葉遣い物騒すぎでは?」
前言撤回です。
どうやらこの車掌、かの有名なゲへナ自治区を担当して相当時期が長いのか、随分と心がすさんでいるようです。アナウンスしている声こそ落ち着き払っていますが口に出している言葉がやけに好戦的でした。
しかしまあ……この車掌の態度も分からなくはありません。
ゲへナ自治区と言えば、もはや学級崩壊を起こしていることで有名なゲへナ学園が運営している自治区になります。不良生徒や過激な犯罪組織が多く集い、毎日銃撃戦と爆発は当たり前。他校の生徒に対する恐喝や脅しはむしろ通過儀礼と、もう何でもありで法もルールも存在しない文字通りの危険地帯です。
そんな自治区を毎日走る車両が無事でいるはずがなく、聞く話によれば無賃乗車を咎めると他の乗客を脅して手に入れた金を乗車賃として渡されたり、勝手に車内で乱闘騒ぎを起こしたところを止めたら逆ギレされて車内を半壊されたりと散々な被害を受けているようでした。
またハイランダー鉄道学園は土地としての自治区を持たず、担当する路線全てが自治区代わりという変わった学園になりますが、その分担当している路線によって運営や派閥がかなり違うようで、今回の車掌のような好戦的かつ乱暴な態度はむしろゲへナ自治区の路線を担当している事で生まれてしまった一種の特色なのでしょう。
エスミからすれば前世で利用していた鉄道ではまずお目に掛かれない異様な光景なので軽く驚きましたが、よくよく考えたら未成年の生徒なのに銃器の所持と銃撃戦が当たり前のこの世界そのものが異様だったなと逆にすんなりと納得しました。
「……学園も色々あるね……」
車掌のアナウンスが止み、列車の走行音とガタッガタッと揺れる環境音だけが響きわたるだけの世界へ生まれ変わると、退屈そうにしてエスミは窓に頭を預けました。そこそこの速度で走っている車両が揺れる度に、窓から伝わる振動の反動で頭が微妙に浮いては窓にその頭を叩きつけられますが不思議と痛みはありません。
( 1週間も学園を欠席してる分、今回の旅が成功に終わると良いけど……)
まだまだ到着しそうにない目的地に対して考えを走らせながら、エスミはこの旅の成功を祈り物思いに耽るのでした。
《1ー2》
「1週間の欠席……ですか」
栢間エスミがゲへナ行きの列車に乗車する事となる数日前の話です。
トリニティ総合学園に通い始めて早くも1か月が過ぎた頃、彼女はとある先輩生徒の下を訪れていました。
名はツクス。このトリニティ総合学園を運営している生徒会ことティーパーティーで、現在ホストを務めているサンクトゥス分派の代表になります。
エスミとは彼女が新入生代表としてスピーチを行った日に出会った仲であり、画家として活動している彼女のために美術部の貸し出しを提案しておきながら、サンクトゥス分派への勧誘を目論んでいるなど色々な意味でトリニティ生徒らしい性格をもった生徒です。
身長は170を少し超えた辺り。まだ低身長であるエスミからすれば、羨ましい限りの高身長生徒なのですが今はエスミの来訪を歓迎してソファに腰掛けていました。
ちなみに来訪者であるエスミにもご丁寧にソファが用意されていますが、きっぱりと断って彼女の前で立ったままです。決して『背の高い彼女を一度でも良いので見下ろしたいから』という理由ではありません。
「はい。実は来週あたりを目安にゲヘナ自治区へ赴こうと思っています。その期間中は学園に通うことは叶わないので、こうして欠席する旨を前もって伝えに参りました」
さてトリニティ総合学園のトップらしく、ツクスは彼女から突然『1週間欠席します』という一見訳の分からない報告を聞いてもその眉をひそめる事はしません。
またその理由を促して『ゲへナに行くため』などと、更に意味不明な返しをされてもツクスは表情を崩すことはありませんでした。ただ冷静に、小さく何度も頷きながらエスミを見つめています。
「そうですか……皆さんから大変注目されている期待の新入生が入学から僅か1か月で欠席を……しかも、ゲへナ自治区に行かれるという理由のためだけに……ふむ」
ソファに腰掛けた状態で両手を組み、誰もがつい心を許してしまいそうになる穏やかな笑みを浮かべた彼女は、続けてクスクスと笑い声を零しました。
「面白いですね、流石はエスミさんです。物は言いよう、という言葉がありますが今のエスミさんの説明では、私はただ無情にも『許可はしない』と答えるしかありませんね。より正確なご説明をお願いできますか?」
「……内容を伏せてはいますが、恐らくツクス様であれば察しがつくかと」
「ええもちろんです。これでも私、貴女の大ファンですから。美術をこよなく愛するエスミさんの事ですので恐らく画家にとって必要不可欠な〝あれ〟を目的としてゲへナに行かれるのでしょう。流石に欠席をするほどの価値があるのかは定かではありませんが……ひとまず、ホストとして貴女の1週間の欠席に関しては黙認致します」
欠席をするという事は、当然の話ながらそれ相応の問題や理由が存在しない限りは決して認められません。
正直、エスミが欠席する理由としてあげた『ゲへナに行くため』というのは普通であれば即却下される内容であり、いくら重要な内容を伏せているとはいえ欠席を許可する理由にはなりません。勿論、その伏せている内容も内容で律儀にも説明したところで許可は出来ないでしょう。
しかも彼女が行こうとしているゲへナ自治区は、トリニティ総合学園とは長い歴史において常に対立を続けてきた同じマンモス校を擁する自治区になります。未だに直接的な紛争は起きていないにも関わらず、互いに睨み合い嫌悪感を丸出しにしている生徒が数多くいる有様です。
それをホストという立場上から十分に理解しているはずのツクスは、エスミが伏せた内容を察した上で黙認という形でありながら許可を出したのです。
もしここに他のティーパーティーの生徒が参席していれば、間違いなく反対の声が上がっていた事でしょう。最悪、エスミに関してゲヘナを理由によくない噂すら広まっていたはずです。
しかし彼女がこうもあっさりとエスミの欠席に許可を出したのには理由がありました。
「それで? エスミさんはその1週間のために、私に何をしてくださるのでしょうか?」
たった1人の生徒の為とはいえ、普通なら認められない欠席を黙認したとなれば当然ながら事の事実が明るみになった際、ホストであるツクスにも少なからず批判を含めた被害が及びます。派閥争いが活発なこのトリニティにおいては、それは致命的な傷となるでしょう。
ようはツクスに対してリスクよりもメリットが勝る何かを、エスミは持っているという事です。
それを理解しているツクスは、大袈裟にも両手を広げて歓迎のポーズをしてきました。対してエスミは自身の胸に片手を当てて頭を下げます。
「以前、ツクス様が私に提案されていた美術部の件ですが、1週間だけ体験入部という形でお引き受け致します」
「おや、素敵ですね」
それはつまり、たったの1週間とはいえ基本派閥に属さないでいる中立派の栢間エスミがサンクトゥス分派の支配下で一時お世話になるという事です。
もっとも、派閥争いとは無縁な庶民出身の生徒からすれば全く気にもしない話になるのですが、派閥に属する生徒達からすればこれは衝撃的なニュースとなることでしょう。ちなみにエスミが事前に集めた情報によれば、現在の美術部は新入生を除いてほぼ全員がサンクトゥス分派の生徒との事です。もはや部活というよりサンクトゥス分派お抱えの団体と称した方が良いのかもしれません。
「入部してからの内容はツクス様にお任せするつもりです。既に画家として活動している以上、ある程度の講義は可能ですし、制作に関するアドバイスでも何でも1週間という期間の中であれば、可能な範囲で自由に指示して頂いても構いません」
「では私のために絵を描いて頂きましょうか」
「1週間という期限なので、下絵で良ければ献上致しますが?」
ハッキリ申し上げて、エスミはこう見えて速筆です。
ほぼ赤子同然の頃から絵を描き続けては技術を磨き、加えて前世から美術世界に浸っていたことで観察眼も長けているので、並みの画家に比べれば1つの作品を完成させるのにそう時間は掛からない事でしょう。事実として去年の時点で彼女はもう40もの作品を生み出しているのです。
ただし忘れていけないのは、彼女はまだ学生です。
学園に通っている以上は常に勉学に励まなくてはいけないのに加え、過去に完成させた作品の納入や買い取りの手続き等も1人で行っています。
そこにツクスのために作品を作るとなれば、作品のテーマを決めるために情報収集や画材の手配、油彩画にするのか水彩画にするのか、はたまたキャンバスのサイズはとうするのかと深く考える必要があります。
また、いざ描きだしても修正に修正を重ねることで真の完成品を相手に贈呈するのですから、圧倒的に時間が足りません。
たったの1週間。されど1週間。
ツクスがお願いしてきた内容に、即座にエスミがほぼ拒否も同然の答えを返すのは当たり前の話でした。まあエスミの大ファンを名乗っている彼女であれば、下絵だろうと適当に完成させた作品だろうと快く受け入れるとは思いますが……画家として1つの作品を完成させることに強いプライドを持つエスミは、到底それを許すつもりは無いことでしょう。
ツクスもその点はしっかり理解しているようで、『冗談です』と面白そうに肩を震わせていました。無理と分かっていながら反応を楽しむとは中々な性格をしているようで……。
「ひとまず、エスミさんの口から美術部の件を聞くことが出来ただけでも満足です。実際に体験入部をされる時期と内容については、エスミさんのご用件が済んでからお伝えしましょう」
そう言ってツクスは満足気に頷いた後ソファから立ち上がりました。先ほどまで浮かべていた安心感を抱かせるその独特な笑みはその瞬間に消え去り、緊張感のある真剣な顔つきへと変えています。
「最後に……エスミさんに忠告しておきますが、私の判断で黙認したとはいえエスミさんは本来授業に参加するところを私用のため欠席する事となります。しかもゲへナ自治区に行かれるために……もしこの件が外部に漏れてしまえば、貴女の評判や人物評に少なからず悪影響を与えることになるでしょう」
エスミは彼女が語る言葉を黙って聞きながら、小さく頷き返しました。元よりその覚悟はあるのです。
「勝手ながら貴女の大ファンを名乗る者として、また1人の生徒の今後の学園生活を左右する立場にある者として、誰も疑問を抱くことが無いよう欠席の件については上手く誤魔化しておきましょう。もし周囲に疑問を抱かれた際、嘘の説明として無難なのは体調不良という事になりますが……もし良ければ、その〝右手〟を理由にしても宜しいでしょうか?」
彼女の視線がチラッと右手の方に移ると、エスミは僅かに目を見開いて驚きました。
「……既に知っていたんですね」
「ティーパーティーというのは、相手する者の情報を集めるだけ集めて迎え撃つのが日常茶飯事ですので。ただしエスミさんの右手の件については、大ファンを自称する者として好きで情報を集めていたら偶然にも知ってしまっただけになります。画家になろうと必死に己を磨いたが故の犠牲、と言った所でしょうか。ところでこの件はまだ誰もご存知無いのでは?」
エスミは自身の右手に視線を向け、そのまま大事そうに左手でさすりながら溜息と共に苦笑しました。
「そうですね。同業者にはもう説明は通していますけど、知人を含めて他の方々はまず知らない事実だと思います」
「そうでしたか。まあその件に関してはエスミさん自身からいずれ周りの方々に説明して頂くのが最善とはなりますが、もしもの際は貴女の私用の欠席を誤魔化すため『嘘を交えた真実』として利用させて頂きます」
「構いません。遅かれ早かれ今年中には公表するつもりだったので」
心配はいらないとエスミが目でそう示すと、ツクスは再び笑みを浮かべました。
「ちなみに来週のゲへナに赴く件については、ご友人の方々には既にご説明済みでしょうか? 秘密の共有が私だけというのは何とも嬉しい話ですが、私が卒業した後もエスミさんには学園に味方が必要になるでしょう」
「……いえ、友人は基本作らない主義なのでそう呼べる存在はいませんが……私にとって信頼できる方々には前もって別の自治区に行く、とだけ伝えてあります」
「おやおや、信頼はされてもゲへナに行かれる事だけは秘密なのですね」
「まあ……今彼女たちに関わられるのは、どうしても避けたいので……」
どの道、エデン条約編で必然的に交流する事になるとはいえ今はまだ主要メンバー全員が中等部ですから、この時点で間接的にゲへナとの関わりを持ってしまうのはエスミ的にはNGです。
まあ……そんな自分が自らゲへナに赴こうとしているのですから、下手するとゲーム本編を原作クラッシャーしてしまうのではと別の意味でエスミは不安を抱くのでした。
《1ー3》
『乗車中のお客様にお伝えいたします。本車両はあと20分ほどでゲへナ自治区に到着いたします。また到着するまでの間、途中停車する駅はございませんので荷物などのお忘れ物がないよう改めてご確認をお願い致します』
エスミが少し前の記憶を遡っていた頃、彼女が乗っている車両は途中停車駅をいくつか通過し、残るはいよいよ最終到着地のゲへナのみとなりました。
「……ようやく着く」
長いこと列車に揺られていた事もあって少し気分が冴えない状態ですが、エスミは小さく欠伸をして車内を見渡します。
「いや、少ないね?」
トリニティを出る際はこの車両の大体半分くらいは席を埋めるほど乗っていたお客が、今では10分の1程度にまで減っていました。あまりにも空席が目立ちすぎて、途中乗車したらしい不良生徒の集団が手にしている武器を座席に置いているほどです。
本当は温厚そうな市民などが多く乗っていたはずなのですが、きっとゲヘナを避けて途中の駅で降車したのでしょう。
(そんなにゲへナに行きたくないのかな? )
エスミは肩をすくめて腕を伸ばして伸びをすると、丁度窓の向こうで大きな街が見えてきました。距離にしてまだだいぶ遠いのですが、それでも存在が目立つという事はつまり、あれがゲへナ自治区という事です。
ちなみにエスミが他自治区に行くのは今回が初めての経験なので、自治区を外から眺めるというのは意外とこれが最初になります。意外と大きいんですね、ゲヘナ自治区は。
「……ブルアカキャラはまだ誰もいないけど、用心はしておかないとだね」
ゲへナ自治区はキヴォトスで最も治安が悪い事で有名な場所であり、かつゲームの人気キャラが多く在籍している場所でもあります(勿論ほかの学園でも同じことは言えるものの、本編での絡みがかなり多い)。
とはいえ後の最強無敵の風紀委員長や、常にトラブルは起こすくせにシリアスでは大活躍の便利屋等々の面々はまだ現時点では高等部ではありませんが、ナギサとミカのように中等部として街中に居る可能性は極めて高いので、うっかり出くわさないよう注意は必要です。
(早く目的の用件を済ませて、誰にも会わずにさっと帰ろう)
エスミは段々と距離が近づいてくるゲヘナ自治区に対し、真剣に意識を向けていきます。
「あれ、何だか育ちの良さそうな生徒が乗ってるじゃん」
しかし、どうやら意識を向け過ぎていたようです。他の人物の接近を許してしまいました。別に悪いことはしていませんが。
(……うーん、これは少し……困ったね)
いきなり声を掛けられたので顔を向けてみれば、先ほど空席を銃の荷物置きにしていた不良集団がこちらに集まっていました。確かゲームで言うところの……スケバンだったでしょうか?
しかし何故、自分の存在がバレたのか……絡まれるような態度を取った覚えはありません。
一応トリニティの生徒がゲヘナに行くわけですから、エスミはこれでも変装をしています。大体の人が画家のイメージとして浮かべるベレー帽をかぶり、上半身は襟付きのシャツとテーラードジャケットの組み合わせで、下半身はジーンズに似た素材の長ズボンという恰好です。
ただ普段からあまり外出をしないエスミなので、服装のコーディネートは全てナギサとミカが担当してくれました。何でも彼女たちからすれば『地味だから安心して☆』という事だったので、これならバレないだろうとエスミは大船に乗ったつもりで安心していたのですが……どうやら目立っていたようです。
(そういえば、あの2人ってお嬢様だったの忘れてた……)
生粋のお嬢様2人が生み出す地味は、他の人からすれば全然お洒落にしか見えないので目立って当然でしょう。
とはいえエスミがこれから向かう所はなるべく清楚に近い服装でないと失礼に当たるため、出来る限り地味に近い恰好を考えるとしたら、もはやナギサとミカしか頼れなかったのは事実です。それこそ3時間に及ぶ着せ替え人形にされようとも……全身をつなぎの格好で行くより遥かにマシなのです。
まあエスミの苦労はさておいて、不良集団が先ほどから物珍しそうにこちらを眺めているので、ひとまず平和的に挨拶を返します。
「こんばんは。私に何か用?」
「おい律儀にも挨拶してきたぞ!?」
「肝が据わってるのか、天然なのか……アタイらを見てもビビらないだと?」
「あい、ちっす、こんばんは!!」
「何しれっと挨拶してるんだ?」
人数はざっと見たところ6人でしょうか? 声を出さない残りの2人はただのシャイなのか、言うタイミングが無かっただけなのか、何であれボックススシートの出入り口を完全に塞ぐ形で彼女たちが集まっているので少々迷惑です。
まあ気付けばこの車両、彼女たち以外もはや誰もいないので気にしても意味はありませんが。
「君たちは、見たところゲへナの生徒?」
「おっ、アタイらを見てもビビらないどころか学園まで当てるとはやるな」
「いやいや、もうゲへナ自治区に列車が到着するし状況考えたら当たり前だろ」
「アンタ名前は? てか綺麗だね、めっちゃ美人じゃん!! 服もめったお洒落じゃん!!」
「ナンパしてんのか、お前?」
ゲへナの生徒……なのは間違いないようです。どうも真面目に通っている様子には見えませんが、そもそもスケバンの格好をしている時点で真面目とはほど遠いのでしょう。
ただ敵意がある様子でもなく脅すつもりも無いようで、ゲへナ行きの車両にエスミのような綺麗な少女が乗っていることに驚いて好奇心が働いた、と言った所でしょうか。
いえ、そもそも1人だけやけにテンションが高いのは気のせいでしょうか? 見た目はスケバンなのに言動と態度がもはや陽キャのギャルです。
「一応聞くけど……今の私ってそんなに目立つ?」
「目立つね。遠くにいてもかなり目立つ」
「何だか身元隠したいのかは分かんねえけどさ、その服とか容姿とかマジ凄いぞ、アンタ」
「しかも美人だしね!! ちなみに今って1人!?」
「お前マジで黙ってろ。すんません、こいつテンション高いバカなんで」
三者三様とはよく言ったもので、同じスケバンのはずなのに性格や言動が全然違います。
というより、悪名高いゲへナの不良に対する固定イメージが崩れかねない対応をされて、エスミは脳がパンクしそうでした。いえ既にパンクしかけてます。
彼女たち、あまりにも温厚過ぎでは?
「えっと、ごめん……ちょっとゲへナの生徒とは思えない対応に混乱が……」
「あー……よく言われるわ。確かにアタイら不良だけど、別に犯罪まではしないし」
「そうそう。どっちかと言うと挑発されたら喧嘩買う的な感じだな。喧嘩上等な集団よアタイらは」
「というかアンタみたいな人を脅すとかナイナイ!! むしろ誘いたいぐらいよ!!」
「ゲへナってあまりにも風紀とか規則が雑なんで、こんな格好しててもお咎め無いんですわ」
それを聞いたエスミが先ほどから喋っている4人とは別に、彼女たちの背中に隠れるようにして黙っている残りの2人にも顔を向けると、そちらは顔を赤くしたまま頷くだけでした。
「あっ、この子たちは今年入ったばかりの新入生たちさ。シャイなもんですまねぇな」
この集団におけるリーダー格と思われるスケバン(最初に話しかけてきた不良生徒)がそう説明すると、エスミは心の中で『入学して早1か月でスケバンとは?』と複雑な感情を抱きつつ、その新入生と紹介された2人に笑顔を向けました。
「こんばんは」
「ひゃっ……ひゃい、ど、どうも!!」
「ふぇぁ……こ、んちは! !」
新人スケバン2人はエスミの顔を見て噛み噛みながら言葉を発すると、背筋をピンッと伸ばしてはペコペコと頭を下げてきました。あまりにも綺麗な……いや流石に丁寧過ぎてドン引きです。
不良生徒という荒くれ者の立場でありながら、その態度は流石にどうなのでしょうか?
エスミがちらっと物申す感じでリーダー格のスケバンに目を向けると、相手は困ったように溜息を返しました。
「まあなんだ……根が真面目でな……こいつら」
「真面目な子たちがどうして不良に?」
「そりゃあもちろん憧れ的な? ゲへナって毎日が無法地帯だからよ、真面目な奴ほど不幸になるんだよな。意外と多いぜ、自由で横暴で誰にも邪魔されない立場を得るために不良になるやつなんてな。特に最近は学園のほうでライテイ?……とか言う奴とそのグループがヤバくてな。皆してのみ込まれないように必死なのさ」
「……なるほど」
それはつまり、一種の自己防衛なのでしよう。
前世においても、そうした誰にも攻撃されない立場を望んで自ら悪や非道に走るケースは珍しい事ではありませんし、その思考の持ち主たちが集うことによりある意味で家族に近い団欒を構築する事だってあります。
ゲへナのような無法地帯の自治区となれば、自ずとその不良の道に走る生徒は限りなく多いはずなので妙に納得でした。
それに見たところ、このスケバン集団は非道にこそ走ってはいないもののサボりとか喧嘩ぐらいは当たり前に行っているのでしょう。だってリーダー格のスケバンの額、結構真新しい痣がありますし。
あとよく見たら新人含めて各メンバーも服が焼けていたり銃弾の穴が空いていたりと、どうやら前まで随分とドンパチをしていたようです。喧嘩上等な集団というのもあながち嘘では無いみたいです。
エスミはそれらの姿を眺めながら『青春だね』とブルアカ世界らしい光景にややしんみりした気持ちを抱きました。ブルアカキャラ全員を等しく愛する彼女にとって、例えゲーム本編におけるモブキャラであってもその愛に例外はありません。
ただし自身に被害を加えられそうになった場合、しかるべき対応を取るぐらいの切り替えは出来ます。文字通り武力行使です。現に今回も愛用している銃器は持ってきているのですから。
今回は幸運にもその手段を取る必要は無さそうで、ひとまず安心しました。スケバン集団も先ほどからずっとニコニコと賑やかですし。
「ねえ、一体何をしてるの?」
しかしとある一言がこの車内で呟かれた途端、まるで死神にでも出会ったかのようにスケバン集団は突如硬直してしまいました。
笑みは凍り付き、やけテンションの高かったスケバンですら額に冷や汗をかいています。
「……?」
ただ1人、この場の状況に理解が出来ていないエスミは首を傾げながら声の主を探そうとしましたが、生憎とスケバン集団が壁となっていて姿が見えません。
そしてエスミのその困惑した姿をよそに、スケバン集団は全員がある方向へと顔を向けて震えながら口を開くのでした。
「な、なんでアンタがこの車両に……アタイらをボコした後すぐに帰らなかったのか……!?」
「何でって……この車両に乗らないとゲへナに帰れないし……それよりも、その生徒に何をしていたの?」
「ひっ!? い、いや違う、違うぞ!! アタイらは別に喧嘩を売っていた訳じゃないからな!!」
「6人も集まっておいて? しかも通路側を塞いで迷惑を掛けておいて、よく言えるねそんな嘘……まさか、恐喝してるの?」
「ご、誤解だ!! そんなことはしてない‼」
先ほどの元気はどこへやら、スケバン集団は全員が怯えながらこの状況の説明をしているようでしたが、彼女たちと会話している人物の反応が悪い方へと動いたのか、その瞬間彼女たちは次々にその場から逃走してしまいました。
「す、すまねえアンタ、迷惑をかけちまったな!!」
「そいつには気を付けるんだぞ、怒らすなよ!?」
「また会おうね!!」
「失礼しやした!!」
律儀にも別れの挨拶を忘れずに……。
「さ、さようなら……」
おかげでエスミも終始困惑した様子でありながら、彼女たちが別車両へと去った方向に力なく片手を振りました。
そしてこの場から一気に人が消えた事で、改めて先ほどスケバン集団と会話をしていた人物にエスミが視線を走らせると、相手はスケバン集団の突然の逃走に呆気に取られた様子でその場に留まっていました。
「……大丈夫?」
そこに居たのは短く切られた白い髪を揺らし、誰が見てもまず最初に『怖いっ!!』と印象を与えるような顔つきをした、ゲへナ学園の制服を身にまとう少女でした。
頭上には短い角が生えており、やや細目の赤い瞳がまっすぐエスミに向けられています。背丈はかろうじて向こうの方が高いでしょうか。ともあれ、少女は表情を変える事なくエスミの下まで来ると、その綺麗な手を伸ばしてきます。
「どんな用事でゲへナに来たのかは知らないけど……あまりここに来るべきじゃないよ。さっきみたいな連中に絡まれるから」
そう説明しながらも何故か伸ばした手を引っ込めようともしないので、仕方なくエスミが左手を差し出すと、白髪の少女はそれをしっかり握りしめて強く引き上げました。
「わっ、ちょっ……!?」
「おっと……!?」
ただ思いのほか引き上げる力が強過ぎたようで、グンッと引き上げられた力の勢いそのままにエスミは白髪の少女に抱き着く形となってしまいました。
まあ奇しくも互いにほぼ同じ身長という事もあってか、相手は一切動じることも倒れる事もなくエスミを優しく受け止めてくれましたが、流石に抱き着かれるとは思っていなかったようで小さな声で『……当たってる』と小さく頬を赤く染めながら呟きました。
生憎とエスミはその呟きを拾う事は無かったものの、不可抗力にも強く抱き着いてしまったので慌てて彼女から身体を引き離しました。
「……ご、ごめん……」
「大丈夫。力加減を間違えて引き上げた私が悪いから……」
頬を赤く染めていた白髪の少女はエスミが離れてすぐに表情を正すと、心配そうな顔(あまり表情に変化は見受けられませんが)で彼女の顔を覗き込みます。
「ちゃんと立ててるね……腰は大丈夫そう?」
「もちろん、だい…………ん?」
「いきなり列車の中で絡まれて不安だったと思うけど、もう安心して良いから」
「……?」
エスミは何かを勘違いしているらしい少女に対し、パチパチと目を瞬きさせるしか反応を返すことが出来ません。その間も、やたらと白髪の少女はこちらの身体を心配してくれていました。むしろ『立てる?』とか『腰は痛くない?』と言った言葉ばかり掛けてくるので、エスミは彼女の言わんとしている事に気付きました。
(もしかして……スケバン達に絡まれて腰が抜けちゃったと勘違いしてる?)
それは大変な誤解なのですが……いえ、絡まれているのは事実でしたが一切被害は受けていません。ずっと座っていたのも状況が理解出来ていなかっただけなのですから。
ただしスケバン集団に囲まれてこの白髪の少女がよく見えなかったエスミのように、恐らく白髪の少女もエスミの表情までは詳しく見ることは出来なかったのでしょう。
さてどう説明しようかと悩むエスミに対し、白髪の少女は『そういえば私の名前言ってなかったね』と呟いたので、つい思考を中断してエスミは視線を向けました。
「私は鬼方カヨコ。この列車が向かう自治区のゲヘナ学園に通っている高等部1年、よろしくね」
相変わらず表情に変化は見受けられませんが敵意のない視線を向けてきます。
エスミはここに来て、まさかのブルアカキャラとの出会いに頭痛を起こしてしまうのでした。
栢間エスミの秘密・6
・意外とデカい。
何がとは言わないが、エスミが着ている制服とブレザーで目立たないようにしてるだけで普通にデカい。『私と同じだよ☆』
高等部に入ってからは成長が止まって、逆に身長がぐんぐん伸びるようになったのがエスミにとっては救い。
エスミ『今更だけど、これ普通にプライバシーの侵害では?』
ミカ 『エスミちゃんのは凄く柔らかくて綺麗なんだよ☆』
ナギサ『…………どうしてミカさんはご存知なのですか?』
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
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拳銃(M1911,グロック等)
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リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
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自動小銃(HK416、AK-47等)
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短機関銃(M1921、MP5等)
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小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
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散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
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機関銃(MG42、M249等)
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対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
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擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
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素手