夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
「……面倒なことになった」
前回の栢間エスミによるゲへナ訪問からおよそ数週間が経過した頃。
気付けばトリニティ総合学園に入学して早くも2か月強が過ぎた訳ですが、画家として活動をしている彼女にとって学業と芸術活動の両立というのは中々に酷でした。
ひとまず前世の知識と根性を頼りに現状はなんとか乗り越えているものの更なる問題が彼女を襲っており、今は自室のベッドに身体を投げ出して現実逃避を図っている最中になります。
「……美術部、やけに酷い爆弾を抱えてるなぁ……」
ゴロンと仰向けになり、ベッドからはみ出している足を小さく揺らす彼女。
つい先ほどトリニティ総合学園から帰宅したばかりで、まだ着替えはおろか何もしていないのですが今の彼女にそれをする気力は残っていないようです。いわゆる無気力というやつです。
「トリニティで何か問題でもあったの?」
するとベッドで横になっているエスミを眺めるようにして、同じベッドで腰かけていた聖園ミカは疑問の声を上げました。まだ中等部の制服を着ているところを見るに彼女もどうやら学校帰りのようです。
何故そのまま自分の家に帰宅せずエスミの家にいるのかは謎ですが……。
「はぁ……聖園……私のベッドは小さいんだから、せめてそこの椅子に座って?」
「ええー? エスミちゃんのベッドふかふかだから、あっちの硬い椅子に座りたくない」
「なら床に座って……このべッドの主は私なんだから……」
「どう見ても床の方が椅子より硬いけど? えっ、本気で言ってるのエスミちゃん?」
「出来たらそのまま正座してて」
「もしかして私、説教されちゃう感じ?」
「嫌ならべッドから降りてその椅子に座って……正座で」
「やっぱり説教じゃん‼」
ちなみにエスミの部屋にあるベッドは完全に1人用のため、こうしてエスミが身体を横にしているだけで既にスペースは一杯になります。そこにミカが遠慮なく余っている場所に腰掛けている訳ですから、当然ギュウギュウになってしまいます。
具体的に説明すると、少しでも押されてしまえばエスミが床にストンッと落ちてしまうぐらいにはギュウギュウ詰めでした。
故にエスミとしては『ベッド脇に置いてある椅子に座れ』と部屋の主としてミカに頼んでいるのですが、その椅子はデッサン用に作られた木製椅子なため座り心地はまず最悪と言っても過言ではありません。ミカが拒否するのは当たり前でした。
「大体、お互い明日も登校しないといけないのにどうして聖園は私の家にいるの?」
顔だけはベッドに座っているミカに向けつつ、仰向けの姿勢は崩さないエスミ。よほど体力気力共に疲れているのか、一切身体を動こうとしないので少しでも押されてしまえばベッドから転がり落ちそうです。
たぶん本当に落としたら激怒されることは間違いないのですが、つい悪戯心から落としてやりたいという願望を滲ませつつミカは彼女の問いに答えるのでした。
「友達の家に遊びに行くのに理由なんて必要ないでしょ☆」
それはあまりにも純粋でキラキラと輝く(文字通り)答えでした。
なるほどミカからすればエスミはもう【友達】のようです。ナギサに比べればミカとの交流はあまり多くは無いのですが、存外彼女の友達判定というのは緩いようで……ゲーム本編では無邪気な性格とは裏腹に交友関係が広いのも頷けます。
ただしエスミも同じように友達判定が緩いのかと言われれば、それは全く違いました。
「聖園……君とは友達になった覚えはないよ」
「あれ、そうなの?」
「そう」
「ナギちゃんと一緒にお茶会をして、お出掛けもして、洋服も選んでいるのに?」
「ただのビジネスパートナーだから誘いに乗ってるだけで、私は一度も友達的な交流をした覚えはないから。画家として活動するうえで必要最低限な付き合いをしているだけ」
「ふーん。つまり全部必要なお仕事ってこと?」
「そういうこと……だから私の家に遊びに来ないでこのまま帰っ――うわっ!?」
ミカをこのまま諦めさせて帰らすというエスミの思惑は、意外にもミカのとある突然の行動によって遮られてしまうのでした。
その行動とは……抱擁です。ようはミカが彼女に飛びついてそのまま抱きしめてきたのです。
「ちょっ、と……危ないから離れて!?」
「だーめ‼」
先ほど説明したようにベッドは1人用であり、現状はかなり窮屈となっています。そのため抱き着かれたエスミが拘束を解こうと暴れれば暴れるほど、ベッドから2人揃って落ちる危険性が極めて高くなるのです。
しかも僅か1歳差ながらミカはかなり力が強いです。只でさえ右手の握力が平均よりもかなり下回っているエスミからすれば、この場を自力で抜け出すなど不可能に近い話でした。
果たしてミカがそれを考えた上で実行に移したのかは定かではありませんが(そもそも右手の件はまだ伝えていません)、結果として抵抗を諦めたエスミの胸に堂々と顔をうずめ、背中にしっかりと腕を回すという完全なる抱擁体勢でミカに勝利の旗が立つのでした。
「ふわぁ……エスミちゃんの胸柔らかーい……枕みたいだね……このまま眠れそう……」
「人の胸を枕にして勝手に寝るな。あと離れて」
「やだ‼」
「……はぁ」
別にミカはその気が全くないと理解はしているものの、密着状態で胸に顔をうずめられているのですから、エスミはほんのりと頬を赤く染めながら目の前にあるピンク髪に向かって溜息を付きました。
制服を着ているからまだ平常心を保てていますが、胸に顔をうずめたまま『良い匂い』とか『デカいよねぇ』とか平気でミカが口にしてくるので、段々とエスミの羞恥心は限界に達しそうです。胸に顔をうずめたまま喋るな。
「もう、一体何がしたいんだか君は……」
動くことも出来ず、ただ茫然と部屋の天井を眺めながらエスミは困惑した声を上げるしかありません。
するとタイミングでも見計らっていたのか、その呟きと同時にミカが胸から顔をあげました。
「ねえエスミちゃん知ってる? ハグするとストレスが下がるんだって」
「……いきなり何?」
訝しげな表情を作るエスミとは対照的に、ギュウッと抱きしめる力はそのままにミカはあどけない笑みを作ります。
「私はナギちゃんほど人をよく見ていないし、何を考えているのか理解するのは難しいけど、それでも最近のエスミちゃんが凄く疲れてるのは見てて分かるよ。私がこうして勝手に家に上がってもすぐに追い返さないぐらいだし」
「そう……それで?」
「エスミちゃんはさ、考え過ぎだし頑張り過ぎたと思うんだよね。私はまだ高等部じゃないからエスミちゃんが今、トリニティでどんな派閥争いに巻き込まれているのか全然分からないけど、出来たら私とナギちゃんの前では甘えて欲しいなぁ」
「……あのね、甘えるのは家族とか友人が対象であって知人に甘えることはまずしないよ。さっきも言ったけど私は別に君たちのことは友達とは思っていないわけだし」
「だから必要な事でしか交流しない、でしょ?」
「そういうこと」
「うんうん、ならこれはエスミちゃんの疲れを癒すために必要なことだよ‼ ほら悪い考えを忘れるぐらい私を強く抱きしめて‼」
バタバタと適当に足を暴れさせながら、ミカはまたもエスミの事を強く抱きしめてきました。馬鹿力のミカに本気で抱きしめられたら背骨なんて軽く折られるのではと内心危惧していたエスミでしたが……それが起きることはありませんでした。
(……わざと加減してくれてるんだね……)
メンタルケアのつもりで力いっぱい抱きしめたら、うっかり怪我させちゃいました。なんて事態は誰も望んでいません。なるべくエスミが苦しまない程度の力加減で抱きしめてくれているのでしょう。
まあ……そもそも加減していてこの力なら本気だと自分はどうなってしまうのか、という恐怖が一瞬だけ脳裏を過りましたが、正直トリニティ関係で精神が疲労困憊なのは事実です。
「……今回だけだよ」
だからこそ、今回だけエスミは彼女の言う通り甘えることにしました。
ギュッ、と目の前の少女を包み込むようにしてその背中に腕を回し、彼女の足に自身の足を絡ませます。まるで抱き枕を相手にしているかのような体勢になり、エスミはそのままミカの頭部に顔を埋めます。
ナギサとは違う爽やかな匂いがミカの身体からはしました。とても、心地の良い匂いです。
「……ねぇ、聖園……」
「なあに……エスミちゃん」
「しばらく……このままで良い?」
「全然、構わないよ☆」
「そう……ありがとう」
片方は胸に、もう片方は頭部に顔を埋めたまま言葉を交わすという異様な光景がそこには広がっているのですが、今それを追求する者はここにはいません。
案外、こうして抱き合っていると心の奥底が温まる感じがするので、随分と孤独に疲れを抱えていたんだなとエスミは内心実感しながら、ポロポロと心の悩みをミカに打ち明けました。
「……聖園は……もし、自分の好きなものが汚されそうになったら、どうする?」
「それって……今エスミちゃんが抱えてる問題?」
「そうとも言えるし……そうで無いとも言えるかな……正直、関わりたくない世界に関わってしまう訳だし……」
「うーん……私の好きなもの、かぁ……」
パッと思い付くのは、大好きな洋服であったりお菓子だったり、何よりも大切な幼馴染であるナギサでしょうか?
しかしミカとナギサはまだ中等部という立場であり、また2人して富裕層出身のお嬢様です。おかげで彼女たちのバックにある権力や復讐を恐れているのか、他人に虐められるとか、暴力を受けるような経験は全くありません。
後に高等部に進級すればこのバランスは大きく崩れる事となるかもしれませんが、現時点ではエスミが抱くその問題に心から理解することは不可能でした。
ですが、それでもミカはこうして心の悩みを打ち明けてくれるほど精神が追い詰められているエスミのため、何とか力になりたいという強い想いから彼女なりの答えを出します。
「私は、好きなものが汚されないように守るよ……全力で」
「……それが例え、自分が関わりたくない世界に足を踏み入れる事になるとしても?」
「もちろん……じゃないと、今まで好きでいた事に対する裏切りになっちゃうでしょ。好きなものはずっと好きでいたいもん……私が周りにどう思われようともね☆」
「……そう、それが聖園の答えなんだね……」
気のせいか、エスミが抱きしめる力を強めた気がします。それは不満でも怒りでもなく、納得のいく答えを得た満足感からくる強さでした。
「ありがとう……友達として認める気はないけど、こうして悩みを相談出来たのは助かったよ……」
「えぇ……ここまで来たら友達として認めるパターンじゃないの?」
「贅沢言わない。私の作品をまだ買ったこと無いくせに図々しいよ」
「だってエスミちゃんの絵凄く高いんだよ? むしろ、どうして1枚で数百万もする絵をナギちゃんはポンポン買えるんだろう……」
「…………あれは桐藤がおかしいだけ」
割とガチな目で『買います』と作品の購入を即決しては札束を叩きつけてくるナギサの姿に少なからず恐怖心を抱きながら、それでも彼女のような熱心な顧客のおかげで画家活動が捗っている事に感謝するエスミ。
彼女からのパトロンの誘いは未だに来るものの、それを断る代わりプライベートに付き合って多少のガス抜きをしているのですが、何だかんだこの交流がエスミにも良い影響を与えているのかもしれません。
(……吉なるか、凶となるか……ひとまず、悔いのない行動を選択するべきかな)
ミカとの会話のおかげで自身が抱えている問題の解決に挑むことを決心すると、どうやらここに来て疲れが限界点を迎えたようで眠気が襲ってきました。思えば最近まともな睡眠が取れていなかったと思い出します。
「ごめん……このまま少し、眠るね……」
「私も丁度眠くなってきたし、賛成……後でちゃんと起こしてあげるね☆」
「……桐藤が言うには、聖園は起きるのが遅いみたいだけどね」
「もうナギちゃんってば、エスミちゃんに勝手に言わないでほしいな‼」
「仕方ないよ。今度は桐藤が羨ましがるような事を聖園がすれば良い話だし」
「うわぁ、ナギちゃん物凄く嫉妬しそう。でも良いねそれ☆」
2人はそのままクスクスと笑いだすと、ふとミカは静かに羽を伸ばしてエスミの身体を囲むように抱きしめました。ふわっとした感触がエスミに伝わり、彼女は驚きと新体験からついこの状況を楽しむようにしてこう言いました。
「ふふっ、聖園の羽ですっかり囲まれちゃったね私。どうされちゃうのかなぁ?」
「わーお……今の言葉めっちゃエッチだよ、エスミちゃん……」
「いや……どういう頭してるの君?」
何を考えてるんだかこの子は一体、とエスミは苦笑すると、そのままミカと共に限界を超えた眠気に逆らうことなくしっかりと抱き合ったまま熟睡するのでした。
やがて2人はそのまま数時間以上にも渡って眠ってしまい、その後ミカの強引な誘いによって仕方なく共に風呂に入った訳ですが……ミカが好奇心からエスミの身体を遠慮なく触りまくった事で、羞恥心がとうとう限界に達したエスミに『いい加減にしなさい!!』とゲンコツを食らう事となるのでした。
ちなみに後日ミカがこの体験を思い出話としてナギサに語った所、彼女は紅茶入りのカップを手にしばらく硬直してしまったとか……。
ミカ曰く『あの時のナギちゃん、彫刻みたいだったよ☆』との事です。
栢間エスミの秘密・8
・自室に人を招く。添い寝する。風呂に入る。何なら身体を他人に触れさせる。
ほぼ全てにおいてエスミの初体験を奪ったのは(語弊を呼ぶ言い方)実はミカが最初である。
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
-
拳銃(M1911,グロック等)
-
リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
-
自動小銃(HK416、AK-47等)
-
短機関銃(M1921、MP5等)
-
小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
-
散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
-
機関銃(MG42、M249等)
-
対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
-
擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
-
素手