side 大道寺
昨日小鞠を送った後は散々だった。一昨日の負け分を取り戻しに雀荘行ったら、そこにはまさかの破壊神Aが。用事を思い出したフリして帰ろうとしたら、同じ学校だとバレて一緒に打たされることに。そのまま悪魔の5万負け。昨日の部活の勝ちがチャラになっちまったぁ。
だから午前中の授業なんて集中できるわけもなく、あっという間に昼飯時。
「さて、飯でも食いに行くかぁ。」
「「「「ひぃ…………」」」」
俺の独り言に恐れ慄くクラスメイトを後にしながら、俺は教室を後にした。
昨日までは、昼飯は部室で食いながら麻雀してた。しかし今日から一応テスト期間。昼休みの部活動は禁止となり、部室では食えなくなった。なら、小鞠でも誘って食うかぁ。この時間なら、多分あそこの水道にいるはず。
その予感は当たった。
「よぉ、小鞠。」
「ん゛き゛ゃ゛⁉︎」
ちょっと猫背の彼女は、俺が思っていた場所にいた。コイツは水道水に謎のこだわりがある。俺は味の違いなんて分かったもんじゃねぇが、今まで彼女が言っていた会話からなんとなくの場所を覚えていた。この時間は塩っ気の強い水道水がいいとのこと。
「な、なんだ、大道寺⁉︎」
「一緒に飯でも食わねえかぁ?」
「す、数研、行かない‼︎」
「違えよぉ。今日からテスト期間だからぁ〜、部活ねえんだぁ。」
「そ、そうか。な、なら、一緒に食ってもいい……」
「そうかぁ、ありがとなぁ‼︎じゃあ屋上行こうぜぇ‼︎」
「う、うん。」
ということで、俺は小鞠と飯を食うために、屋上へ向かった。
屋上に着くと、爽やかな風とほんのり暖かな日差しが俺たちを出迎えてくれた。絶好のお弁当日和だなぁ。
「おぉ、いい天気じゃねえかぁ。」
「そ、そ、外で食べるの……久しぶり……」
「えっ?じゃあお前ぇ、今までどこで食ってたんだぁ?」
「え、えっと………トイレ……」
「マジかぁ‼︎」
確かに小鞠は昔っから人付き合いが苦手だ。しかし、文芸部の部室でもなく便所飯してたとはなぁ。もうちょっと早めに知っとくべきだったかぁ。せっかくの美味しいご飯なんだからぁ、もっと美味く食えるとこで食ったほうがいいのになぁ。
「じゃあさぁ、玉木先輩と一緒に飯食うまでは、俺と食わねえかぁ?」
「てっ、テスト期間、だけか?」
「いやぁ、その後も。」
「お、お前、いいのか?麻雀、あるんだろ?」
「別にいいだろぉ。お前と飯食いたいし。」
「そ、そうか。ありがと………」
ちょっと気まずそうに頷く彼女。恐らく麻雀の活動もある俺に気を遣っているのだろう。本当に優しい女だなぁ。
「つーか、俺の弁当お前が作ってんだからさぁ、もうちょっとわがまま言ってもいいんだぞぉ?」
「そ、それは、私がっ、作りたいだけ!」
「でもよぉ、時間も家計も大変なんだろぉ?」
「お、お前のが、大変だろ‼︎お前の親、飯作んないし……」
「大変じゃねえょ。つーか、こんなに美味えの毎日作ってくれてんだからさぁ、なんか恩返しさせてくれよぉ!」
「お、お前が、そう言うなら、い、いいけど……」
「っしゃあ‼︎」
だから少しでもいい思いをして欲しい。少しでも今より笑って欲しい。そう思わずにはいられなかった。俺にそう思わせるほど、彼女はとても魅力的だった。
それから数日間、俺と小鞠は昼になると、屋上で一緒に飯を食っていた。
「に、日本史、思い出した!」
「ん?何をだぁ?」
「の、信長と秀吉!日本史の先生、順番、違う‼︎」
「順番?」
「秀吉×信長、だっ‼︎」
「その順番かよぉ‼︎」
「ひ、昼、信長オラオラしてる‼︎でも、夜、恥ずかしがる‼︎そのギャップ、いい‼︎」
「逆に部下の秀吉が夜は主導権握るんだなぁ。立場逆転って感じかぁ?」
「そ、その通り‼︎分かってるじゃねえか……デュフフw」
「そぉなんかぁ?」
彼女は腐女子で、よくこうしてBLの話になる。俺自身はアニメも漫画も知らねえし、本に至っては文字を読むのが嫌いで基本的には開かねぇ。おかげで国語や英語の成績は壊滅。だいたい赤点取って補習の毎日だぁ。もちろんBLなんてちっとも分かりゃしねぇ。
「ち、ちなみに……今度、秀吉×信長、書く‼︎」
「おぉ、新作かぁ‼︎是非楽しみにしてるぜぇ〜‼︎」
「ふ、震えて、待ってろ‼︎」
だが、コイツの作品だけは別。なんか読んでて面白ぇし、何よりコイツが創作の話をしている時の楽しそうな顔が好きだぁ。また自分が書いた本の感想を言うと、すげぇ嬉しそうにしてくれる。それが堪らなくて、つい苦手な活字でも読んじまうんだなぁ。
そんな事を思いながら、小鞠との昼飯を食べていると………
「光希さん、屋上なら開いてま………あっ。」
階段へと続く扉が開けられた。そしてそこにいたのは………破壊神Aこと、朝雲千早と恐らくその彼氏だった。
「昨日ぶりですね、大道寺さん!」
「そ、そぉだなぁ………」
「しっ、知らない人………」
ちなみに小鞠は人見知りのため、こうして知らない奴が来るとすぐ俺の後ろに隠れる。その姿が可愛らしいと思いつつも、もう少し他の人とも交流して笑って欲しいとも思っている。
「昨日ぶり?千早、昨日会ってたのか?」
「ええ。帰る時に偶然遭遇したのです!」
「そうか。」
「そうだぜぇ。俺ぁ大道寺海斗。こっちは小鞠知花。よろしくなぁ。」
「俺は綾野光希。よろしく。」
「…………よ、よろしく。」
なんとか声を絞り出すように挨拶をする小鞠。本人もこのままではいけないと思っており、こうしてなんとか頑張って声を出そうとしている。それを見ると、とても応援したくなる。
「私たちは別の場所で食べますよ!」
「いいのかぁ?」
「ええ!」
「邪魔して悪かったな。」
「いやいや。別に付き合ってるわけじゃあねぇし、気なんか遣わなくていいぞぉ。」
「ありがと。」
「ありがとうございます!」
それはそうと、破壊神Aとその彼氏は別の場所を探しにこの場を去った。
「お、お前………あの女と知り合いか?」
「あ、あぁ………小鞠は知ってるのかぁ?」
「いや、知らん。」
そして、他の人が居なくなったのを見て話しかける小鞠。奴を知らないっちゅーことは、こっちの世界は知らないってことだな。それは良かったぁ。
「あの女は朝雲千早、通称麻雀破壊神A。」
「まっ、麻雀破壊神A⁉︎」
「界隈じゃ有名な裏プロだぁ。打ってるレートも稼いでる額も俺とは比べものになんねぇ。」
「そ、そんな凄い奴、いたのか………」
奴の強さはそこらの裏プロの比じゃねえ。三人麻雀の強者が集う大阪梅田の雀荘、「太閤の城」の最高レート*1で無双。そのままフリーランスの裏プロとして活動し、何千万や億単位で金を稼ぐ化け物だ。強すぎて勝負になんないため、数研は奴が塾に行く日しか活動しねぇ。
「小鞠も気をつけろよぉ。」
「き、気をつける………」
小鞠もいつか麻雀を打つようになったら、やられねえように気をつけねえとなぁ。
そんな事を思っていると、あっという間に昼休みの時間は終わっちまったぁ。
「食い終わったぜぇ‼︎ご馳走さん、美味かったぁ‼︎」
「そ、それは………どうも///」
「んじゃ、昼休みも終わるしぃ……教室戻るかぁ。」
「だっ、だな。」
右手の親指と人差し指で髪をちょこっといじりながら照れる小鞠。恥ずかしいのか目線も少し横を向いており、それがまた可愛らしかった。そしてそんな姿を見ると、午後からの授業も頑張れる気がしてきた。