ルビコンと竜   作:LAMMERGEIER/40F

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チャティはかわいいですね



サージ

 

俺の名前はチャティ・スティック。

ボスに作られた対話用自立思考型人工知能。俗に言うAIと言うやつだ。

 

俺が与えられた仕事は大きく分けて三つ。ドーザー達の面倒を見ること。ボスの会話相手。許可なく立ち入ったビジター(侵入者)歓迎(迎撃)だ。

 

ボスとの会話が好きだ。ボスはよく笑う。

何故かと問えば、いつか俺が笑えるようにと言う。

今は無茶だが、いずれそうなりたいものだ。

 

ビジターも好きだ。

男、女。若者、年寄り。

人間には様々な種類がいる。始末するのが勿体無いほどに。

 

そして、ドーザー達を見るのも好きだ。

喜び、怒り、悲しみ、楽しみ。

彼らはいつも俺には無いものを持っている。

 

…そうだ、感情と言えば。

以前迎撃したビジターの中に面白い相手がいた。

 

そいつは、誰より強い感情を抱えたヤツだった。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

その日は一人のビジターが侵入してきたのが始まりだった。

どうも『何か』から逃げてきたようで、焦燥しきった様子だったと記憶している。無論、俺たちにそんなことは関係ない。

いつも通り始末した。

 

『生体反応消失。終わったぞ、ボス』

 

『そうかい。よくやった…うん?』

 

異変が起きたのはその後だった。

例のビジターを倒した後、メインドックからの信号、観測が途絶えたとボスは言った。

続いて響く爆発音。ボスはとても不機嫌そうだった。

 

『…ったく、チャティ!』

 

『問題ない、ボス。少し『注意』してくる』

 

『悪いね、さてどうしてやろうか…』

 

この時の俺たちは、大方狂ったドーザーか技術者連中が火薬の配合を間違えた、或いは敵と味方の区別がつかず発砲した。

と思っていた。だが、違った。

 

現場は見るも無惨な、凄惨たる有り様だった。

辺り一面に広がるボコボコに凹んだMTの残骸。

地面や壁、至る所に付着した緑色の粘液。

そして…その中心には勝ち誇ったかのように目を光らせる黒い生命体がいた。

 

『…厄介なのが来たね』

 

どうやらボスはヤツについて知っているようだ。

聞き返そうとしたその瞬間、機体に大きな衝撃が走る。

目の前に例の生命体が居た。

どうやら目を離した一瞬に距離を詰めてきたらしい。

 

『チャティ!』

 

『問題ない、ボス。この程度なら…』

 

『違う!壁でも床でも、なんならその辺の残骸でもいい!なんでもいいからその粘液を払い落とすんだよ!』

 

爆音、それが飛び込んできた。どこから?自分の機体からだ。ミサイル、バズーカ、グレネードの弾数は変わっていない。

つまり暴発したという訳でもない。

 

『……チャティ、標的(アレ)について説明するよ。あいつは砕竜、知り合いはブラキディオスとか呼んでたかね。前腕に付いた特殊な粘液で、触れたものを時限爆弾に変えちまうやつさ』

 

『馬鹿な、そんな物質がここ(ルビコン3)に残っているのか?』

 

どこぞの企業(ファーロン・ダイナミクス)が聞けば真っ先に飛び付きそうなこの物質、ボス曰く標的とあれを生み出す微生物とは共生関係にあり、標的以外には生み出せないのだと。

納得したかはともかく理解した。目の前の相手はたったワンタッチで下手をすれば致命傷にもなり得るダメージを与えてくるのだ、と。

 

『問題は無い』

 

ならば、触れさせなければ良い。

簡単な話だ。こっちはAC、あっちは生物。

機動力、火力共にこちらが上。そして……

 

『お前は、ここには来れないだろう』

 

浮かんでしまえば、何も問題は無い。

そのまま両手に備えたグレネード(IRIDIUM)バズーカ(LITTLE GEM)両肩のミサイル(WR-0999 DELIVERY BOY、BML-G1/P07VTC-12)による一斉射撃をお見舞いしてやる。

 

『なんだと』

 

が、しかし。標的の生体反応は消えていなかった。

確かなダメージは与えたものの、未だそこに立っていたのだ。

 

そして標的が咆哮を上げると同時に、先程まで緑色だった粘液が全て赤くなる。

 

『マズイね……完全にキレた』

 

瞬間、標的が飛びかかって来る。

そうだ、飛びかかってきた。

空中にいるハズの自分にだ。いつの間に粘液を足元にセットしていたのか、爆風で飛んできたのだ。

 

『なん─』

 

爆発が襲う。何故?奴の爆発には猶予があるはずでは?

疑問を抱く前にラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。

右腕、左キャタピラ破損。

両肩装備の接合部が飛び、装甲が溶け落ちる。

被害甚大。完全破壊()が目前まで迫って来ている。

 

『これは、笑え──』

 

爆発の余波でメインカメラが消し飛ぶ。頭部(AH-J-124 BASHO)が潰された。

標的が、勝ち誇ったような勝利の雄叫びを上げた。

 

『チャティ、周辺の監視カメラの指揮権を譲渡する』

 

『……あぁ、ボス』

 

だが、相手は幾つか見誤っていた。

一つ目、例えメインカメラが潰されても、周囲のカメラにアクセスすれば視界は確保出来る。

 

もう一つは……

 

『トドメを刺したと思ったのは、間違いだったな』

 

俺が、生物ではないということだ。

 

勝ちを確信した隙だらけの顔面に唯一残った武装(LITTLE GEM)による砲撃を叩き込んだ。

 

少しすると爆煙は晴れ再び標的の顔が見える。

 

まだ、その目から光は失われていなかった。

獲物を駆り立てる底無しの執念と殺意は未だ健在だった。

 

しかし、それを実行に移す体力だけがもう無かった。

 

拳を振りあげた体制のまま、たたらを踏み倒れる標的。

 

『……目標沈黙。終わったぞ、ボス』

 

『良くやったね、チャティ』

 

最後まで、油断ならない大敵だった。

死して尚目を見開く標的を見て、そう思うのだった。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

俺はそいつから沢山のことを学んだ。

 

生身の生物と兵器、普通に考えれば前者に勝ち目は無く、後者の方が確実に格上。

 

だが機械が決して持ちえない物、激しい感情が生物に与える力は凄まじく、時に圧倒的な実力差をも覆してみせる。

少なくとも、奴はそうだった。

 

だとすれば、生物とは感情そのものだ。

 

この事をボスに話してみたら笑われた。

 

俺の名前はチャティ・スティック。

まだ学ぶべきことは多い。

 

 





WR-1211 POUND FOR POUND

RaDの開発したAC用ナックルダスター
握り込む事で作動し拳が標的に当たると起爆する。
実用性は高くないが力強さとは人を引きつけるものだ。
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