ソードマスターと呼ぶんじゃねぇ! 作:天譴
手が血塗れになる。豆が潰れて、血豆が潰れて、固まって、擦れて、血が出て、再び固くなる。その繰り返し。
時代遅れの剣術道場に生まれて、剣術、剣道、居合道と刀剣を用いる武術に十数年触れてきた。
幸いだったのは、大和には才能が有り、同時にそれら武術武道が性に合っていた事だろう。
心技体を鍛えて。歳の割には大人びて、そして、
とある雨の日、彼はアッサリと命を落とした。
*
「人生って、何が起きるか分からないもんだな」
左手で右の顎骨を掻きながら、ヤマトは呟いた。
日常的に着ていた紺色の剣道着に、その左腰に差された一振りの日本刀。
この刀は、彼の転生特典だった。といっても、ビームが出るだとか何かの属性を使えるだとか、そんな奇をてらった様な代物ではない。
ただ只管に、頑丈。折れず、曲がらず、よく斬れるという日本刀の謳い文句をそのままに形にした絶対に壊れる事の無いだけの代物。
彼が立つのは、剣道着姿がそぐわない中世ヨーロッパのような街並みの中。
こうなった経緯は、簡単に言えばヤマトが死んだ結果。
その先で、
周りからの視線を無視して、ヤマトは大きく伸びをする。
「さぁて、と。これからどうすべきか」
呟き、周囲へと視線を走らせる。
彼としては、さっさと手に入れた刀の試し切りをしたい所。
どうしたものかと頭を回していると、不意に背後から駆け寄ってくる音が近づいてきた。
急ぎの人かと見もせずに、ヤマトは通りの壁の近くへと避けた。だが、駆けてきた足音の主は避けた彼の前で止まる。
(……何だ?)
振り返れば、とんがり帽子に右目に眼帯を付けた杖を携えた少女がキラキラと自分を見ていた。
ヤマトからすれば、そんな目で見られる心当たりはない。そも、この世界自体に知り合いなど一人もいない。
彼の疑問は、駆け寄ってきた少女が答えてくれる。
「冒険者でしょうか!?」
「…………は?」
「あ、違うんですか?てっきり、妙な格好にこれ見よがしに武器を持っていらっしゃったのでそう考えたんですが………」
「んー……?」
露骨にキラキラした目を萎ませる少女に、ヤマトは首を傾げた。
何やら訳ありの様。それも、自分よりも年下であろう少女が露骨にしょんぼりとしているのは見ていて気分の良い物ではない。
(冒険者……職業って事か?金を稼げる手段が手に入るのなら、良いかもしれないな)
世知辛いが、人間喰わねば生きていけない。
ヤマトの考えとしては、大規模な街が形成されている点から、社会経済もあるのだろうと判断。その為に必要な貨幣を稼ぐ手段を欲していた。
つまり、少女は渡りに舟。現地人ならば、そのまま情報も得られて一石二鳥。
そんな打算の下、彼は口を開く。
「……実は、家を出たばかりでね。どうにか金を稼ぐ手段は無いものかと思ってた所だったんだ」
「!つまり、冒険者に成る気はある、と?」
「稼げるのなら」
萎んだ少女の目の光が、再び輝きだす。
「では!冒険者に成りましょう!そして、私とパーティを組むんです!」
「成程?でも、冒険者をポンと名乗ってなれるのか?」
「ギルドに登録すればいいんです!登録料も、この先輩が払ってあげようじゃありませんか!先行投資ですよ!先・行・投・資!」
胸を張る少女は、掠め取る様にヤマトの手を取るとずんずんと歩き出す。
二人揃って黒髪であるため、傍から見れば兄を引っ張る妹のような構図だ。
その道中で軽く自己紹介。
「俺は、周防大和。ヤマトで良い」
「成程、ヤマトですね。では、私も名乗らせていただきましょう!」
そこで少女はヤマトの手を放すと、マントを翻しながら振り返る。
「我が名は、めぐみん!紅魔族随一の爆裂魔法の使い手にして、何れ魔王を屠る者!!」
「………あ、ああ、そうか……よろしくな、めぐみん」
「ふふん♪この私が指導するのですから、貴方にもカッコイイ名乗りを差し上げますよ、ヤマト!」
しくじったかもしれない。ヤマトは内心で頭を抱える。
悪い子ではないのかもしれないが、癖が強すぎる。かといって、今この場でハイサヨナラ、と出来る訳もない。
現状、ヤマトにとって唯一のこの世界での頼る事が出来る相手なのだから。
「ヤマトは近接職の志望なんですか?魔法に興味ありません?何なら、私と爆裂道を究めましょう!!」
「近い……それにしても、魔法か」
そんな物もあるのか。迫ってくるめぐみんを押し戻しながら、ヤマトは自分が炎やら氷やらを操っている姿を想像してみる。
「……無いな」
「ええー!?何でですか!?爆裂魔法ですよ!人類最高峰の攻撃手段であり、ロマンがたっぷり詰まってます!」
「いや、まずは俺自身の力がどの程度通用するのか把握する事から始めたい。どうにもならなくなって行き詰ったら魔法に手を出そう」
「むっ……そうですね。確かに、性急過ぎました。ですが、爆裂道は何時でも新入り大歓迎ですからね!」
胸を張る少女は、高らかに謳う。
そうして、二人は大きな建物の前へと辿り着いた。
「ここですよ、ヤマト。さあ、冒険者登録に行きましょう!」
めぐみんが木製の扉を大きく押し開いた。
果たして、中は広々とした内装。そして、多くの人が出入りするからこそ漂う入り混じったニオイと音が詰まっている。
「こっちです」
ぐいぐいと引っ張ってくるめぐみんに促されるまま、ヤマトが向かったのはカウンター。
丁度空白の時間だったのか、一番近い立派な胸部装甲を持った金髪の受付嬢の元へと向かう事になった。
「すみません。彼の冒険者登録をお願いします」
「冒険者の登録ですね。登録手数料がかかりますが宜しいでしょうか?」
「はい、こちらを」
本人を置いて話がトントン拍子に進む。ついでに、受付嬢から訝し気な視線がヤマトに飛んできた。
身長差も手伝って、
「あー……実は自分、田舎から出てきたばかりで、手持ちもほとんど無く。こちらのめぐみんさんに建て替えてもらう事になったんです」
「あ、そうだったんですね……はい、ちょうど千エリスいただきます。では、こちらのカードをご覧ください」
登録手数料を受け取った受付嬢は、一枚のカードを提示する。
「簡単な説明とはなりますが、冒険者というのは街の外の魔物の討伐が主なお仕事になります。とはいえ、その実態は基本的には何でも屋。素材の採集や商隊の護衛、変わり種ですと一般家庭の家庭教師なども頼まれたりします」
「成程」
「更に、冒険者には各種職業が存在します。これらは、冒険者の方々のそれぞれの戦闘スタイルを表すものです」
「私は、魔法使いの上級職である《アークウィザード》ですよ!」
「ふーむ……その職業っていうのは、自己申告制なんですか?」
「その際に、こちらのカードを使うんです」
受付嬢は、提示したカードを示す。
「こちらに触れていただくと、初期ステータスが分かります。そこから成る事が可能な職業はこちらが提示し、冒険者の方に選んでもらうんです」
「……つまり、希望の職業につけない場合もある訳だ」
「そうですね。ですが、ここから大事な部分です。このカード、冒険者カードには魔物を討伐した際に経験値が付与される形になっています」
「経験値?」
「はい。レベルという概念があり、コレを数字として表示するんです。一定量の経験値が獲得できれば、レベルアップ。ステータスにもこれらは反映されます。更にスキルを獲得するために必要なスキルポイントもゲットできるんです」
「……成程?」
「後で詳しく私が教えてあげますよ!何て言ったって、先輩ですからね!」
胸を張るめぐみん。微笑ましい限りだが、実際先達に教えを乞うのは間違いではない。実地での経験は、時にマニュアルを凌駕するのだから。
「では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴の記入をお願いしますね」
「ん?ああ」
ペンを受け取り、ヤマトは書類へと目を通す。
身長は175センチ。体重63キロ。年齢15歳。身体的特徴黒髪黒目。
「……こんな所か」
「はい、結構です。では、こちらのカードに触れてください」
示されたカードへとヤマトは手を伸ばし、その指先が触れる。
浮かび上がる文字群を、受付嬢は覗き込む。
「はい、ありがとうございます……ええっと、スオウヤマトさんですね。筋力と敏捷性、器用度、生命力の値がかなり高いですね。あ……逆に魔力は最低値で、幸運は平均値……ですね。近接戦闘職ならどの職業でも可能ですよ」
「うーん……剣を扱う職業はありますかね?」
「でしたら、ソードマン若しくはナイトでしょうか。あ、職業は、レベルアップを続ける事でクラスチェンジとして変更したり、クラスアップで一つ上の職業に代わる事も可能ですよ」
「成程………それじゃあ、ソードマン?で」
「かしこまりました………はい。では、これにて冒険者の登録は終了です」
カードを受け取り、ヤマトはその表面へと目を落とす。
かくして始まる異世界の生活。
これは、とある現代の剣豪のお話。