剣に狂った男が人の心を取り戻すのは間違っているだろうか   作:ロマン剣技大好き侍

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誤字報告も助かりました。また見つけたらよろしくお願いします!

今回はかなり長くなりました。
これまでの倍近い文章量になってしまいましたが、区切ると違和感があったのでこのまま投稿します。


鉄槌

 

 

 

 

 

 

 

 50階層の防衛戦は膠着状態にあった。

 ジンが連続で放つ斬空閃がモンスターを斬り刻むが、奥から奥から途切れることなく敵が出てきて数が減ったようには見えない。

 魔導士部隊の用意が整えば魔法によって一掃できるだろうが、まだ時間が掛かりそうだった。

 

 戦況的には悪くない。

 運悪く爆散した際に飛んできた体液に触れてしまった団員もいるが、大多数は無傷のままだ。

 そこまでの知能が無いのか、芋虫型のモンスターは正面から向かってくるだけで拠点(キャンプ)を囲もうとするような動きは見せない。ただ一心不乱に一枚岩を這いあがろうとしてくる。

 

 

「キリがないな」

 

 

 このまま進行を防いでいれば魔導士部隊が敵を倒す。

 だからここは戦況を膠着させて今の状態を維持するのが最善であるはずなのだが、変わり映えしない状況に飽きてきた男が一人。

 最前線で斬撃を飛ばしまくっているジンが僅かに眉根を寄せて退屈そうに呟いた。

 

 新種のモンスター。ジンには少しばかりの期待があった。

 けれど、いざ相対してみれば前に進むしか能の無い的でしかなかった。雑に剣を振るうだけで死ぬ。

 むしろ死に際に爆散して周りのモンスターごと巻き込む始末であり、ただジンは素振りをしていれば勝手に敵が死んでいくような状態だった。

 

 チラリと背後を確認する。

 リヴェリアが弓部隊に的確な指示を出して、脇道から登って来ようとするモンスターを迎撃させている。

 魔導士部隊はようやく詠唱に入り始めたが、全員の準備が終わってから一斉に攻撃するためまだ時間を稼がなければならない。

 それなら足止めさえできれば良いのだから、()()()()()()()()()構わないのではないだろうか。

 

 

「召喚──レーゲン」

 

 

 剣を振るう手を止めて、逆の手を伸ばす。

 まるで何かを掴み取るような仕草。虚空を掴むだけに終わるはずが、その手には何処からともなく出現した刀が握られていた。

 ジンのスキル【刀剣乱舞(トウケンランブ)】は任意で刀剣を召喚することができる。この刀も本来は自室に保管されているはずの物だ。

 

 銘をレーゲン。第一等級武装の特殊武器(スペリオルズ)

 黒く染め上げられた刀身。形状は直刀に近く、反りが少ない。全体的に飾り気のない刀だ。

 その特殊効果は魔法の吸収・貯蓄、そして解放。現在レーゲンが貯蓄しているのはアイズの魔法だった。

 

 

「ジン?何をしている?」

「埒が明かないだろう。一度まとめて減らす」

 

 

 当然ジンの様子に気付いたリヴェリアが声を掛けるが、既に動き始めたジンは止まらない。

 先程まで振るっていた剣を鞘に仕舞い、両手でレーゲンを構える。

 そして、起動式(キーワード)を唱えた。

 

 

解放(リリース)──【エアリエル】」

 

 

 瞬間、レーゲンから暴風が吹き荒れた。

 その風は意志を持つかのように刀身に纏わり渦を巻いている。魔法の制御は問題なさそうだ。

 リヴェリアや他の団員もレーゲンの能力は目の当たりにしたことがある。魔法を吸収して貯めておくという、ベートのフロスヴィルト以外に同じ効果の特殊装備(スペリオルズ)は聞いたことがない。

 極めて強力な武装だが、ジンはこれを好んで使わないことも知っていた。

 

 

「趣味じゃないが、手早く済まそう」

 

 

 普段からジンがこの手の武器を使わないのは、武器の能力に頼るのは好みじゃないというだけの理由である。

 それを否定するわけでもないし、必要があれば使用はする。

 ただジンにとって興味があるのは剣術、及び剣技でしかない。極論だが剣じゃなくても敵を斬れるならその辺りに落ちてる木の枝でも全く問題ないのだ。

 

 

「風の傷」

 

 

 ジンが自然な動作でレーゲンを上段に構えて振り下ろした。

 毎日繰り返している型を寸分の狂いなくなぞり、至極当然のように剣先が光の速度に達する。

 そこまでは斬空閃と変わらない。しかし、ここからが違う。

 飛ぶ斬撃に合わせて【エアリエル】によって生み出された風が集束し、巨大な一つの斬撃となってモンスターの集団に飛んで行く。

 

 轟音が響き渡り、集束された風が解放されて周囲を巻き込む。

 地面には巨大な斬撃痕ができており、その周辺にいたはずのモンスターは一匹残らず灰になっていた。

 全てを圧殺する風の刃。あらゆる敵を砕く鉄の牙。

 たった一発限りとはいえ、広範囲魔法に負けず劣らずの威力と規模の飛ぶ斬撃によって戦場は蹂躙され尽くした。

 

 まだ奥から出て来ているが、心なしか数は減っている。

 流石に打ち止めなのだろうか。

 リヴェリアはどうせジンのやることだからと特に大きな反応も示さず、弓部隊に指示を出して範囲外にいた生き残りを次々に仕留めていく。

 それを横に見ながらジンは役目を終えたレーゲンを送還し、再び腰の剣を抜いたところでモンスターの後方に動きがあった。

 直後51階層に続く大穴から暴風が吹き荒れて、怪物がゴミのように宙を舞う。

 

 

「アイズの……!無事だったのかっ!」

 

 

 見覚えしかない魔法に、リヴェリアが歓喜の声を上げる。

 それと同時に複数の人影が穴から飛び出して来て、芋虫型のモンスターを薙ぎ払いながら拠点(キャンプ)へと向かってくる。

 途中謎の巨大な斬撃痕を目の当たりにして動きを止めたが、すぐに構わず動き出してあっという間に合流した。

 

 

「リヴェリア、ジンっ!みんなはっ……無事のようだね。ありがとう、よくやってくれた!拠点(キャンプ)もほとんど無傷とは流石だね。二人に任せて正解だった」

「ガハハッ!だから大丈夫だと言ったじゃろう」

「ハッ……下らねェ!コイツらがこの程度の化け物如きにどうにかなるわけねェだろうがよ!」

「あんなに焦ってた癖に、何を今更格好つけてんのよ。ダサいわね」

「ああっ!?何処の誰が焦ってたって!?頭沸いてんのかバカゾネスがっ!」

「あ"っ!?てめェのことだろ、この糞狼っ!」

「みんな無事でよかったー!ねっ、アイズ!」

「うん」

「あわわっ……と、止めなくて良いんですか?」

「時間の無駄っスよ。あんなのいつものことなんスから、勝手にやらせておけば良いっス!」

 

 

 合流して早々この騒がしさは緊張感に欠けるが、団員たちからは頼もしく見えることだろう。

 それに随分と急いだらしい。誰も傷らしい傷を負っていないのは流石だが、一人レベルが低いレフィーヤは僅かに息を切らしていた。

 

 

「リヴェリア様っ!魔導士部隊詠唱完了しました!」

「むっ……そうか。敵の数は目に見えて減ったが、最後まで油断するなよ!魔導士部隊っ、撃てっ!!」

 

 

 丁度そのタイミングで魔導士部隊の詠唱が終了する。

 リヴェリアは一瞬フィンに指揮を引き継ぐか迷ったが、すぐに自ら指揮を取って号令を掛ける。

 そして、魔導士部隊が一斉に魔法を発動した。

 炎が焼き尽くし、冷気によって凍りつき、不可視の刃が切り刻み、地面が隆起する。ありとあらゆる魔法によって、芋虫型のモンスターが殲滅されていく。

 

 

「指揮は任せるとして……ここからは掃討戦といこうか」

 

 

 フィンが殲滅の様子を見ながら軽い調子でそう言った。

 眼下を見れば幸か不幸か生き残ったモンスターがちらほら散見している。

 全体ではもう数えるほどしか残っていない。

 

 

「じゃあ、さっさと片付けちゃおっか!……って、アイズは?」

「もう行ったわよ。ジンもね」

「あっ、本当だ!相変わらず判断が早いっ!」

「てめェらもいつまで話してんだ!急がねェと獲物が居なくなんぞっ!」

 

 

 我先にと駆け出したのはジンとアイズのバーサーカーコンビだ。

 もう接敵しようとしており、出遅れたアマゾネス姉妹やベートも慌てて戦闘に加わりに行く。

 

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!」

 

 

 例によって【エアリエル】を発動させており、攻防一体の風の鎧が溶解液を吹き飛ばしてアイズの髪の毛一本溶かすことを許さない。

 愛用している第一等級武装のデスペレートは不壊属性(デュランダル)が付与された特殊武器(スペリオルズ)でもあるので溶解液も苦にしないが、更に風を纏わせることで切れ味が鈍る心配もない。

 威力の増した斬撃は的確に芋虫型モンスターの魔石を捉えて、自爆させることなく灰へと還る。

 

 

「……」

 

 

 アイズから少し離れたところではジンも怪物を両断していたが、不思議と剣が溶ける様子はなかった。

 あまりにも速い斬撃は刀身に体液が付着するよりも早く魔石を破壊する。魔石を壊されたモンスターは灰になる。つまり、ジンの剣が溶けることはないのだ。

 特殊効果なんて付いていない頑丈なだけの剣でも、武神から神域に至ったと言われる剣士にはこのくらい造作もない。

 

 二人が競うようにモンスターハントをしていると、先程置いていかれたベートを筆頭とした第一級冒険者たちが雪崩れ込んでくる。

 50階層の防衛戦が終結したのは、それから間も無くのことであった。

 

 

 

 

 

「最後はあっという間だったねー」

 

 

 ティオナが気楽そうな声で言うが、その背中にいつもある大双刃(ウルガ)の姿はない。あのモンスターに溶かされてしまったのだ。

 同じくティオネもククリナイフが幾つか無くなっており、ガレスの戦斧やベートの短剣、ラウルの剣も見当たらない。

 51階層に向かった側で装備が無事なのはアイズの剣とフィンの槍、ベートの特殊武装(スペリオルズ)の靴、それから魔導士のレフィーヤの杖だけだった。

 

 

「防衛組は矢と一部の予備武器以外の損耗はないし、重傷者が居ないことは救いね」

 

 

 ティオネが仲間の姿を見てほっと胸を撫で下ろす。

 流石に無傷とはいかず、何人か火傷を負ってしまってはいるがエリクサー数本で治せる範囲だ。

 新種のモンスターが相手と考えれば大健闘と言えるだろう。

 

 

安全階層(セーフティポイント)でこれほどの異常事態(イレギュラー)が起きたとなれば、地上に帰還したらギルドに報告しなければならないのう」

「そうだな。私たちは大きな被害もなく切り抜けられたが、他のファミリアにも情報を伝えねばならん」

 

 

 そんな様子を見ながらガレスとリヴェリアが帰還後についての話をしている。

 本来モンスターが出現しない安全階層(セーフティポイント)に別の階層からモンスターの大群が進行してきたというのは、今までの常識を崩す極めて危険な情報だった。

 少なくない混乱を起こす取り扱いの難しい情報だが、他のファミリアへの情報伝達を怠ればもっと酷い事態になるかもしれない。

 多少の面倒を被ることは承知の上で、冒険者を管理しているギルドには報告する必要がある。

 

 

「……ンー」

「フィン、どうした?」

「ああ、リヴェリア。何と言えばいいのかな……」

 

 

 しかし、それもフィンが難しそうな顔で唸るのを見て先送りにする。

 少し言葉を選ぶ様子を見せて、ペロリと親指を舐めた。

 

 

()()()()()()()()()ような気がして────」

 

 

 フィンが言い掛けたタイミングで、全員の耳に木がへし折れたことによる大きな破砕音が響き渡った。

 一斉に振り返る。各々の武器を手に警戒態勢に入る。

 まだ姿は見えないが、バキバキという音が少しずつ大きくなっていく。間違いなく()()()()()

 

 

「おっきいっスねぇ……」

 

 

 やがて姿を現したそれを見て、ラウルが呆然と呟いた。

 およそ六Mの巨体。先程まで戦っていたモンスターの大型個体よりも、更に一回りは大きいだろうか。

 芋虫型のモンスターと同じような姿をしているが、上半身だけが異常だった。

 

 

「人型……?」

 

 

 誰の声かは分からない。

 しかし、それは全員の心境を適切に表していた。

 

 二対四枚の扁平状の腕。後頭部からは髪を模したのか管のような器官が何本も垂れ下がっている。

 黄緑の表皮には極彩色の模様が秩序なく並んでおり、まるで得体の知れない毒に蝕まれているようにも見えて、不気味さに拍車を掛けていた。

 顔面部分には鼻も目もないが、どこか女性のような線の細さがある。けれど、不自然に大きく盛り上がった腹部が全て台無している。ドス黒く変色し、醜悪な気配を漂わせる膨らんだ腹。

 

 全員の脳裏に、嫌な想像が過った。

 芋虫型のモンスターの体液は丁度あんな色をしていなかったか?

 もしあの腹に溶解液が溜め込まれているのだとすれば、死んだ瞬間に爆散した体液は何処まで飛び散るのだろうか。

 位置関係からして少なくとも拠点(キャンプ)は無事では済まないに違いない。

 

 

「……冗談よせよ、糞がっ!」

 

 

 ベートの悪態に、みんなが心のうちで賛同する。

 芋虫型のモンスターと同じなら魔石を破壊すれば自爆はしないことは分かっている。

 だが、あの巨体の何処に魔石があるのか。

 そもそもレベルにしてどの程度の力を持っているか定かではないのだ。初見のモンスターなのだから当然の話だが。

 

 

『……』

 

 

 おもむろに、女性型のモンスターが動いた。

 四枚の腕をゆっくりと広げる。

 ふわりと、何かが宙を舞う。七色の粒子。鱗粉や花粉のように見える。

 極彩色の微細な光粒(こうりゅう)が静かに宙を漂って、最も近くにいた第一級冒険者たちの元まで降ってきたところで────その場の全員の背筋が粟立った。

 直感に従って一斉に飛び退いた直後、無数の爆発が視界を埋め尽くした。

 

 

「……っ!?」

 

 

 連続した爆発の衝撃で、地面が砕けて捲れ上がる。

 何が起きたのか、誰の目にも明らかだ。

 あの微細な粒子が爆発した。時間経過か任意のタイミングで爆発できるのかは分からない。どちらにしても厄介な能力なのは確かだった。

 

 

「ジン。やれるか?」

「殺すだけなら簡単だ。全身切り刻めば、或いは」

「……うん。分かった。君はここであのモンスターを討て。残りは撤退だ。速やかに拠点を破棄、最小限の物資を持ってこの場から────」

「待ってっ、フィン!」

 

 

 フィンの決断は迅速だった。

 ロキ・ファミリアの最強が()()()()()()()()()()に負けるはずがないことは分かっている。

 だから、ジンに聞いたのは()()()()()()()()()()()という点について。

 それを理解していたジンの返答は可能性があるくらいで確実性は薄かった。ならば、彼一人に任せるのが最も無駄のない判断だと言えるだろう。

 しかし、その矢継ぎ早に繰り出される指示に口を挟んだ人物がいた。

 

 

「なんだい、アイズ。時間が無いから手短にね」

()()()()

 

 

 フィンの問い掛けに対して、返答はシンプルだった。

 あのモンスターの相手をジンではなく、アイズがやりたいというこの場に於いて無意味な主張。

 誰が倒すかなんて、そんなものはどうでもいいことだ。最近は落ち着いてきたと思っていた発作が久しぶりに出てきたのだろうか。

 そんなフィンの内心なんて知らず、アイズは言葉を続ける。

 

 

()()()()()()()

「……君にできるのかい?失敗すればどうなるかは分かるよね?」

「うん。()()()()()()()()()から」

 

 

 フィンとアイズが互いに見詰め合う。

 緊迫した空気が漂うが、アイズの瞳に確信があることを見抜いてフィンは頷いた。

 

 

「ンー、そうだね。…………分かった、いいだろう。あのモンスターはアイズに任せる。ジンは失敗した時のフォローだ」

「フィンっ、ありがとう!」

「了解した。恐らく必要はないだろうがな」

 

 

 方針が決まり、アイズとジンが一歩前に出た。

 相対するのは芋虫型のモンスターの親玉。女性に似た上半身を持つ異形の怪物を前にして、剣を持つ手に力が入る。

 本日最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 異形のモンスターを睨み付けた。

 身体に無駄な力みはなく、自然体のままアイズは意識を集中させていく。

 隣に並び立つジンの姿に、場違いにも胸が高鳴る。

 

 

「(昔と変わらない……)」

 

 

 アイズにとって、ジン・ブレイドという人物は特別な存在だった。

 それは恋心という意味でもあるし、昔と今では全く違う感情を抱いていたこともあるが、どんな形でもずっと意識してきた。

 一言では表現できない、そんな相手である。

 

 七歳の時にロキ・ファミリアに来たアイズよりも、一年早くジンはロキ・ファミリアに所属していた。

 その時には既にLv.3になっており、アイズの先を行っていた。

 当時は心に余裕がなく、強くなることしか考えていなかったのであまり気にならなかったが、自身がLv.4にランクアップしたのと同じタイミングでLv.6になったと聞いて激しく嫉妬した。

 

 

「(私とそんなに年齢が変わらないのに凄く強い子がいるって、ロキから聞いたんだっけ?)」

 

 

 たった二歳しか違わないのに、たった一年早く入団しただけなのに、既にオラリオでも最高峰の実力者になっている。

 リヴェリアにも話を聞けば、少し困ったように苦笑しながら色々と教えてくれた。

 曰く、半月でLv.2にランクアップしたとか。階層主(ゴライアス)を単独討伐して半年でLv.3になったとか。何処か嬉しそうにリヴェリアが語る内容は信じ難い話ばかりだった。

 しかし、リヴェリアは嘘なんてつかない。ならば、全て本当の話なのだろうと思って、何故か胸の奥がざわついた。

 

 それからしばらく、ジンの後をついて回るようになった。

 強さの秘訣を知るために鍛錬の時間さえ削って、こそこそと隠れるようにして観察する。

 毎日のように観察を繰り返した結果、ジンは食事などの生きるために最低限必要なこと以外の時間は、常に剣を振るっていることが分かった。

 朝起きて庭で素振りをして、夕方までダンジョンに潜り、帰ってまた素振りをする。

 

 

「(ジンと私は似ている。でも、違った)」

 

 

 アイズと同じような生活。違ったのは密度だ。

 毎朝日が昇る前から起きて、同じ型を目にも留まらない速度で繰り返す。しかし、何故か風を切る音一つしない。

 シャワーを浴びた後に朝食を終えると、脇目も振らずにダンジョンへと向かう。

 そのまま凄まじい速度で上層中層下層と進んでいき、いつものように深層最初の階層である37階層の闘技場(コロシアム)で無数のモンスターと戦い続ける。

 時間感覚が正確なのか、夕方前には切り上げてダンジョンを出てロキ・ファミリアに帰還。夕飯ができるまでの間も素振りは怠らない。

 再びシャワーを浴びた後に夕食を終えると、就寝時間まで剣を振い続ける。

 

 ジンにとって、これが日常だった。

 数日間ダンジョンに潜る許可が出た時には、当たり前のように深層49階層の大荒野(モイトラ)まで行ってモンスターの大群と戦う。

 倒す間にも増え続けるフォモールを一日掛けて倒し切れば、ほんの一時間程度50階層で疲れを癒した後、51階層に向かって強竜(カドモス)を倒してついでのように泉水(せんすい)を持ち帰る。

 帰り際にも再びフォモールの群れを一匹残らず殲滅して、時間が余れば闘技場(コロシアム)でモンスター相手に戦い続ける。

 とても正気とは思えない行程を涼しい顔して実行するのが、ジンという男の正体である。

 

 

「(ジンでなければ死んでいた。ジンだから生き残れて、生き残れたから強くなった)」

 

 

 剣を極めたいという目標のためだけに、命が幾つあっても足りないような死地に挑み続ける姿は、アイズをして正しく()()()()()()のようだと思った。

 しかし、そこでアイズはジンを恐れることはなく、気が付けば隠れていたことも忘れて話し掛けていたのだ。

 最初にロキやリヴェリアに注目されていたことから端を発した嫉妬の感情なんて吹き飛んでおり、()()()()()()()()()()()()という憧憬だけが胸の中を占めるようになっていた。

 

 

「(あの時、話し掛けてよかった……)」

 

 

 いざ話してみた結果、ジンは意外と話しやすい人という印象を得た。

 これは本当に偶然のことだが、二人は会話のテンポが似通っており、意思の疎通が比較的簡単だったのだ。

 あまり人との会話を好まないアイズがコミュニケーションに手間取らず、少ない口数もお互い様なので圧縮された言語についてもなんとなくで言いたいことが伝わる。

 一緒にいて居心地の良さを感じるようになるのは、ある意味で必然だったのかもしれない。

 

 それからは常に一緒に行動するようになった。

 朝の素振り、日中のダンジョン、夕方の素振りだって欠かさずついて行き、過酷な鍛錬に必死で追従する。

 みんなに心配されても、疲労が祟って倒れても、手を伸ばすことを諦めなかった。

 追い掛けることに夢中で復讐の炎まで薄れていたが、以前とは比べ物にならないほどに強くなった自分を見れば正しい選択をしたと確信を持てる。

 

 アイズだけではなく、次第にジンにも変化が起きた。

 初めの頃はジンから話し掛けてくることは皆無だったが、いつからか簡潔にアドバイスをくれるようになった。

 ダンジョンの安全階層(セーフティポイント)で休憩中、直接剣を合わせて指導してくれるようになった。

 アイズが好物のジャガ丸くんをお勧めすれば、食べた後に美味しいと僅かに顔を綻ばせて頭を優しく撫でてくれた。

 アイズが両親との悲しい別れや復讐について話をすれば、ジンは怒りに顔を歪ませて今まで以上に強くなれるように協力すると約束してくれた。

 

 

「(そう。そして私は────)」

 

 

 そうしてアイズは────英雄を見つけた(ジンに恋をした)

 

 母に父がいたように、アイズにもジンがいた。

 世界に色が付いた。視界に映る景色がいつもより明るく見える。

 ジンの夜空を閉じ込めたような黒髪が、透徹とした冷たい感情の中に温かみを感じさせる蒼玉(サファイア)の瞳がキラキラと輝いている。

 リヴェリア、ティオネ、ティオナ辺りに相談するとアイズよりも驚いた後に喜んで、以前よりも仲良くなれた。

 すると、今度は世界が広がる感覚がした。こんなにも明るくて広い世界だったのかと感動した瞬間を、アイズは生涯忘れることはないだろう。

 

 ロキからスキルが増えていると言われて確認してみれば、なんだか少し恥ずかしい気持ちにもなった。

 でも、それ以上に驚くほどに強くなった。成長が早くなった。

 ジンと一緒に戦う時は身体が羽のように軽くて、風がいつもと違って優しく穏やかなのに強かった母の風のように変化する。

 私の風を纏うジンを見ると胸が高鳴る。何故かとてもいい気分になるのだ。

 気が付いた時には、アイズはLv.6になっていた。

 

 

「(ここまで来た。昔の憧れに追いついた)」

 

 

 けれど、アイズが強くなる間にジンも更に強くなった。

 Lv.8という、オラリオの歴史を見ても数えるほどにしか存在しない絶対強者に至っていた。

 本当に追いつけているのか不安になる時もあるが、そんな気持ちもジンの隣で戦えばすぐにどうでも良くなってしまう。

 誰から見ても明らかに強くなっているのだから、焦る理由なんてあるはずもない。

 

 そして今回の遠征。

 ジンと二人で潜る方がステイタスの伸びは良いというのは、アイズにも分かっている。

 だが、遠征はファミリアのためになる。

 それも分かっているアイズは、ファミリアのために尽力することを嫌とは、無駄な時間だとは全く思わなかった。

 無理して突出する必要がなくなり、広くなった視野は戦い方にも影響する。

 仲間が危険に陥る前にフォローして防衛線を維持するという、集団での戦い方が苦では無くなってきた。

 

 フィンからの指示で51階層に行った時も、突出したティオナを助けながらも前線を崩さず、全体を見る余裕ができたティオネがレフィーヤを援護することで楽に戦闘を進めることができた。

 カドモスがあの芋虫型のモンスターに殺されていたことは驚いたが、逃げるフィンたちに合流した後も冷静に立ち回れた。

 前衛の役目は敵を背後に通さず後衛が安心して攻撃に集中できる状況を作り、同時に強い個体がいれば被害が出て混乱する前に適切に処理する。

 アイズに求められていた役割はこれだったのだ。

 

 

「(ジンのあれは、私の魔法だった)」

 

 

 そして、急いで50階層に戻ったアイズは見た。

 ジンなら問題ないとは思っていたが、どれだけいるかも分からない特殊なモンスター相手では他の団員が危険かもしれない。

 フィンに許可を取って先行したアイズはみんなよりも一足先に50階層に到着したからこそ、ジンが放った()()()()()()を目撃できたのだ。

 当然自分の魔法の気配を見抜けないはずもなく、一目見た瞬間にアイズはこう思った。

 

 

「(()()()()()())」

 

 

 だからこそフィンの指示を遮って、女性型モンスターの相手を願い出たのだ。

 あの風の牙ならば一撃で巨大なモンスターを倒せる。

 アイズはまだ自力では斬撃を飛ばすことは不可能だが、それも魔法の補助を受ければできると直感した。

 剣を振った軌跡に沿って限界まで集束した風を解放する。

 全く同じ技とは言えないかもしれないが、見た目や結果が似たようなものになれば問題はない。

 深呼吸して精神を集中し、魔法を発動する。

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】────【エアリエル】」

 

 

 暴風がアイズを中心にして吹き荒れる。

 しかし、暴風はすぐさま統制されてアイズの愛剣のデスペレートへと集束する。

 風の鎧が最低限になるまで剣に風を集めて、限界まで圧縮して纏わせると何故かデスペレートが徐々に不可視になって姿が薄れていくではないか。

 最終的に全く見えなくなったが、手には剣を握る感触がある。不可視になった理由は不明だが準備はこれで終了だ。

 あとはこの風を解き放つだけでいい。

 

 

「あっ……ジン」

 

 

 その前にジンに聞いておかなければならないことがあったのを思い出す。

 ロキからお約束として教えられて、実際にジンもやっているから本当のことなんだろうとアイズが信じて疑わない信条を忘れるところだった。

 

 

「さっきの技、名前はなんて言うの?」

「あれは風の傷だ。だが、アイズのそれは最早別物だな」

「えっ?じゃあ名前はどうすれば……」

「一つ思い付いた。耳を貸せ」

 

 

 言われた通り、剣や魔法はそのままに耳を寄せる。

 少しくすぐったくて一瞬だけ魔法の制御が乱れそうになったが、慌てず落ち着いて制御し直す。背後から声にならない悲鳴が聞こえた気もするが、多分気の所為だろう。

 ジンから提案された技名は、アイズのセンスからしても悪くないと思えた。

 なんとなくこの技の名前は初めからそうだと決まっていたかのように違和感を覚えない。とてもしっくりくる。

 

 

『……ッ!?』

 

 

 女性型のモンスターが魔法の気配に反応したのか、或いは命の危険を感じ取ったのか。

 先程見た時よりも遥かに多い量の爆発粒子をばら撒く。

 規模の大きさもそうだが距離が近付いていたこともあり、起爆すれば拠点を覆うほどの範囲が爆発するだろう。

 アイズたちはともかく、他の団員はただでは済まないはずだ。

 けれど、何も問題はない。この戦いは一瞬で終わる。

 

 魔法の制御に意識を集中しているため、普段よりもゆったりとした動作でデスペレートを下段に構える。

 そのまま一息に、全神経を込めて振り上げた。

 同時に圧縮していた暴風を解き放ち、剣の振りに合わせて指向性を持たせれば────凄まじい暴風の破砕槌が女性型のモンスターに襲い掛かった。

 

 

風王鉄槌(ストライク・エア)──ッ!!!!」

 

 

 暴風が轟音を掻き消す。

 アイズと暴風が直撃した女性型を中心に風が吹き荒れて、様々なものを空高くまで飛ばした。

 うっかり体重の軽いフィンが浮きそうになったところをティオネが目敏く捕獲していたが、どうでもいいことなので他の誰の目にも入っていない。

 

 それよりモンスターはどうなったのか。

 あまりの風に目を覆っていた人が急いで女性型を確認すれば、丁度僅かに残った肉片が地面に落ちるところだった。

 胴体に風穴を空ける程度ではなく、ほぼ全身を消し飛ばす異常なまでの威力。

 魔石が無事なはずもなく、地面に落ちたと思った肉片は灰の塊であり、千切れ飛んだ腕もあっという間に灰へと還る。

 

 有言実行。

 巨大なモンスターを一撃で葬った。

 

 アイズを讃える歓声が、50階層を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 





おめでとう!

アイズは 風王鉄槌を 覚えた!

これは強い(確信)
まだ発動に時間が掛かるけど、慣れたら連続で撃ってくる。
セイバー(オルタ)かな?

高評価、お気に入り登録、感想お待ちしています!



今回の話で出てきた技について

・風の傷
原作:犬夜叉
自分の妖気と相手の妖気のぶつかる狭間を斬ることで放つ強烈な衝撃波……というのが原作の技。
ジンが使った技は、特殊武装(スペリオルズ)の特殊能力とアイズの魔法が無ければ実現しなかったが、見た目はそれっぽいのでそう呼んでいるだけ。素の飛ぶ斬撃との割合は5:5くらい。

・風王鉄槌(ストライク・エア)
原作:Fate/
圧縮した風を解放し、一度かぎりの飛び道具として放つ……というのが原作の技。この技を使用する前提として風王結界(インビジブル・エア)という技があり、圧縮した風を纏った剣の刀身が不可視になるという技。
アイズが使った技は、割と原作そのままに近い。ただ風の出力がジンというブースターが側にいたことで上がっており、結果として女性型を跡形もなく消し飛ばした。
必然的に前提技の風王結界(インビジブル・エア)も習得したが、こちらは風の集束と圧縮の維持に慣れるまでは戦闘で使い物にならない。

投稿間隔についてなのですが、現在と変わらず完成次第投稿するか。或いは、土日に連投するかのどちらがいいですか?週に3話は書きたいと思っているので、土日連投でも平日の何処かで1話は投げますが……。

  • 完成次第投稿!(今と変わらず……)
  • 土日に連投!(こっちの方が読みやすい!)
  • どちらでもいい。(好きにすれば?)
  • 毎日投稿しろ。(エタる)
  • そんなことよりアイズたん可愛い()
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