剣に狂った男が人の心を取り戻すのは間違っているだろうか   作:ロマン剣技大好き侍

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皆様いつもありがとうございます!

お待たせしました!
少し遅れましたが、続きが書けたので投稿します。
かなり長くなってしまいましたが、あまり削れなくてほとんどそのままです。
テンポ悪いけど許してください何でもしまむらぁ〜!


冒険者

 

 

 

 

 

 

 

 ロキが犠牲の犠牲になった昨日から、明けて翌日。

 

 朝食を終えたロキ・ファミリアは、本格的に遠征の後処理を始めていた。

 ダンジョンから持ち帰った戦利品の換金や、武具の整備もしくは再購入、道具(アイテム)の補充など、遠征から帰還した後はやらなければならないことが山積みになっている。

 大規模ファミリアだからこそ、こうした作業量も比例して多くなる。

 明朝から団員総出で大忙しである。

 それぞれが役割を振り分けられ、正門で準備を整えた外出組がホームを出発する。

 

 

「夜は打ち上げやるからなー!」

 

 

 脅威の回復力で復活したロキがみんなを送り出す。

 街路を経て目抜き通りを進み、北西のメインストリートに出る。

 ここからまずはギルドに向かい、そこで各々の役割に応じた場所へと移動することになる。

 

 ジンは消費した武器、及び損耗の激しい装備類の補充と修理の依頼をするため、何名か団員を引き連れてゴブニュ・ファミリアへと向かうことになっていた。

 アイズはいつもの面子、ヒリュテ姉妹とレフィーヤと共にディアンケヒト・ファミリアに行くことが決まっている。

 冒険者依頼(クエスト)の達成報告や消費したエリクサーの補充など、更には51階層で幸運にも手に入った高額換金アイテムの売買交渉もある。主にやるのはティオネだが。

 

 時刻は朝の九時を回った頃。

 丁度冒険者がダンジョンに向かう準備をする時間帯だ。

 冒険者通りとも言われるメインストリートは、実際に大勢の冒険者たちで溢れ返っていた。

 

 そんな中でもロキ・ファミリアは異彩を放っている。

 先頭のフィン、リヴェリア、ガレスの三首領を始めとして、都市最強候補に名前を挙げられる人物が勢揃いしているのだ。

 どうしても周囲から視線を集めるし、自然と道を譲るような人たちもいる。

 羨望とやっかみと、それから畏怖の念。

 集団で固まるジンたちの歩みを遮る者はいなかった。

 

 

「そんな遠巻きにしなくてもいいのにねー」

 

 

 ティオナの言葉に内心で同意する団員は多かっただろう。

 別に周囲を威圧する目的なんて無いのに、こうも大袈裟に反応されると流石に気が滅入るというものだ。

 けれど、敢えて言葉にはしない。

 オラリオの二大派閥という肩書きがある以上は、致し方ない部分もあるのだから。

 

 そうして歩いていると、程なくしてギルド本部の目の前に到着した。

 白い柱で作られた万神殿(パンテオン)は荘厳の一言に尽きる。

 記念碑(モニュメント)が設置されてある広い前庭を有し、今も数多くの冒険者が足を進めている。

 オラリオの運営を一手に担うギルドの協力なくして、ダンジョンを攻略することは不可能だと断言しても過言ではないだろう。

 

 

「僕とリヴェリア、ガレスは魔石の換金に行く。みんなには予定通り、ここから各々の目的地に向かってくれ。くれぐれも、換金したお金をちょろまかしたりしないでおくれよ?」

「も、もうしないっスよ!本当にあれっきりじゃないですか、団長っ!」

「ははっ。ジンとアイズも、仕事を放り出してダンジョンに向かうことのないように。いいね?」

「……その節はすまん」

「……うん。ごめんなさい」

「分かったよ。君たちを信じよう。じゃあ、一旦解散だ」

 

 

 フィンの号令を受けて、その場は解散となった。

 それぞれ割り振られた役割に従って、メインストリートに散っていく。

 ジンは前述したようにゴブニュ・ファミリアへと向かうことになったが、ほとんど一瞬で用が済んだので割愛する。

 以下、ゴブニュ・ファミリアでのやり取りである。

 

 

「『剣鬼』か」

「ああ。これを」

「……なるほどな。他にまだあるのか?」

「こいつの整備を頼む」

「どんな使い方をした?まあいいだろう。これならすぐに終わる。明日取りに来い」

「すまない。世話になる」

「ふんっ……用が済んだなら出ていけ。仕事の邪魔だ」

「分かった」

 

 

 職人気質で寡黙なゴブニュと性格的に口数の少ないジンなので、この短い会話だけでやり取りは済んだ。

 フィンから事前に受け取っていた補充する武器の種類や個数を詳細に記した注文書を渡した時点で、ジンが任された仕事は終わっていた。

 他には整備すれば使えそうな武器を詰め込んだバックパックを受け渡し、代わりに補充用の武器に入れ替えればあとはそれを持ってホームに帰るだけである。

 ついでに、少し負荷の掛かる使い方をした第一等級武装にして特殊武器(スペリオルズ)のレーゲンを整備に出したくらいだ。

 

 特にもうやることがないので、ゴブニュ・ファミリアを後にする。

 身の丈以上もあるバックパックを全員で担ぎながら、ロキの待つ黄昏の館への帰路についた。

 なお、この数分後にアイズのデスペレートの整備とティオナの大双刃(ウルガ)の再注文のため、別働隊だったアイズたちがゴブニュ・ファミリアに訪れたが、その時にはもうジンがいなくて無表情のまましょんぼりしていたとか。

 

 

 

 

 

 遠征の後に盛大な酒宴を開くのが、昔からのロキ・ファミリアの習慣だ。

 眷属を労うという名目のもとに、無類の酒好きであるロキがこの時ばかりは率先して準備を進める。

 そのため、団員たちも打ち上げの日は大いに羽目を外せる。

 

 館に戻って残りの処理が一段落する頃にはすっかり日も暮れてきた。

 遠征に参加しなかった居残り組の一部にホームの留守を任せて、羨ましそうな視線に見送られながら、西のメインストリートに向かった。

 

 

「ミア母ちゃーん、来たでー!」

 

 

 目的地は西地区にある行きつけの酒場。

 ロキが酒場の女将の名前を呼ぶと、すぐに可愛らしいウエイトレス姿の店員が出迎えてくれる。

 店名は豊穣の女主人。女将はミア・グランド。

 打ち上げをする時は大体この店に来ているが、贔屓にしている理由は言うまでもなく店員全てが女性、かつ制服がロキの琴線に触れたからである。

 

 

「お席は店内と、こちらのテラスの方になります。ご了承ください」

「ああ、分かった。ありがとう」

 

 

 店内に入る前に示されたカフェテラスは、ジンたち一行が店に入りきらないからこその処置だろう。

 人当たりの良い笑みを浮かべた()()()()()の店員にフィンが了承し、団員の半数をテラスへと座るように手配した。

 残った遠征の一軍メンバーは店内に案内される。

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

 酒場は満員だった。

 予約のため空いている席が不自然に映るほど。

 ロキ以外にも従業員目当ての客は多く、美少女のウエイトレスたちに鼻の下を伸ばしていた。

 だが、この店の従業員のほとんどが戦闘技能を修めているらしく、不埒な真似をしようとすれば、あっさりと反撃を受ける。

 ロキも既に獣人(キャットピープル)の店員に迎撃されていた。

 

 店内は木張りで、酒場にしては落ち着いた内装になっている。

 天井にある魔石灯の光量も抑えられていて、何処か洒落た雰囲気さえ感じさせる。

 実際のところは不明だが、女将の趣味だろうか。

 

 

「ここの料理美味しいんだよね〜。つい食べ過ぎちゃってさ〜」

「まるで普段は食ってねェみたいな言い方だな」

「ベート、うっさい!黙ってて!」

「へいへい……」

 

 

 ティオナとベートが常のように言い争う様を見て、店内に客として来ていた冒険者たちが顔色を変えて声をひそめ出す。

 そんなのいちいち気にしてられないので、一顧だにせず席についていく。

 ジンたちにも視線は集まるが、同様に気にすることはない。好奇の視線に晒されるのは日常になってしまった。

 そのまま椅子に座ろうとした時のことだ。

 

 

「……?」

「……?」

 

 

 不意にジンとアイズは、他とは種類の異なる視線を感じた。

 何処となく絡み付くような、全身を頭頂部から爪先までじっくりと眺めるような気配。

 だが、どういうわけか不快感はなかった。

 大体こういう視線の動きをする時は異性から欲望の対象として見られているのが相場だったが、それにしては嫌味のない真っ直ぐな視線に揃って首を傾げる。

 気にはなるが特定も難しいし、詮索するほどのことでもないと改めて席についた。

 

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

 

 

 全員席についたことを確認して、立ち上がったロキが音頭を取る。

 次には一斉にジョッキがぶつけられる。

 早くも団員たちが盛り上がる中、ジンも杯を軽く持ち上げてアイズたちと乾杯した。

 

 ロキ・ファミリアが案内された席は店内の隅だった。

 すぐ横には窓を挟んでテラスがあり、扉を通れば簡単に行き来ができる。

 次から次へと運ばれてくる料理はどれも絶品であり、腹を空かせた冒険者たちは食べることに夢中になってしまう。

 例に漏れずジンも酒を飲んでおり、特に爽やかな果実酒と鶏の香草焼きの相性は抜群だった。

 

 

「団長、つぎます。どうぞ」

「ああ、ありがとう、ティオネ。だけどさっきから、僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされて…………んっ?あれっ、これ水かい?」

「ええ、そうですよ。お酒だけではすぐ酔ってしまって、折角の宴の席を楽しめませんもの。さっ、もう一杯」

「ティオネ…………っ……いつからこんな気を遣える子に!?僕は今、猛烈に感動しているっ!!いい子に育ってくれて、本当に嬉しいよ!一時期はどうなることかと思ってたけどっ!」

「──うふふ。そうですね。…………あはっ……」

 

「うひぃっ、寒気が……!」

「ありゃもうダメだな。フィンも年貢の納め時か?笑えるぜ」

「ちょっ、ベートさん大丈夫なんスかあれ!?このままじゃ団長がっ、ちょめちょめなことに!?」

「ハッ、そんなに言うならてめェでやれよ!俺は頼まれても断るがな」

「うぐっ!し、仕方ないっス!ここは自分が……ッッ!?!?──────ふぅ。やっぱりここの酒と飯は美味いっスねえっっ!!!!」

「──ちっ、なんて殺気飛ばしやがるっ、あの女っ……!つか、俺まで巻き込むんじゃねェよ!」

 

「うおーっ、ガレスー!?うちと飲み比べで勝負やー!」

「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい」

「ちなみに勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやァッ!」

「じっ、自分もやるっス!」

「俺もおおおお!」

「俺もだ!」

「私もっ!」

「──団長はやりません、よねっ?」

「!?……あ、ああっ!もちろんやるわけないよ。急に何を言うんだ、当然だろう。ティオネは、僕があんな催しに参加すると思っているのかい?」

「いえ。ですが、安心しました。あのリヴェリアのおっぱいに靡かないなんて、流石は団長ですねっ!」

「リ、リヴェリア様……」

「言わせておけ……」

 

 

 いつにも増して騒がしい仲間たちの横で、静かに食事を楽しんでいる一団もある。

 ジンやアイズが中心になっている卓であり、意外なことに元気印のティオナもこの輪の中にいて、酒と飯を交互に口に放り込んでいた。

 とはいえ、いつまでもそうしていられるはずもなく、当然のように飛び火は向こうからやって来る。

 

 普段は一歩引いているような後輩たちが、酒の力を借りて距離を詰めようとする。

 親睦とばかりに酒を注いで、また注いでと。

 ジンは杯を何度となく空にしても、乾く暇がないほどのペースで遠慮なしに酒を無限に飲まされ続けていた。

 その隣ではアイズが止める間も無くこっそり一口で飲み干すと、おもむろにジンの方に椅子を寄せて完全に密着させた状態になり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()動きを止める。

 

 

「……あれ、アイズさん、どうされたんですか?」

「ああ。酒を飲むとこうなる、らしい」

 

 

 珍しくジンの隣に座っているレフィーヤが疑問を呈すれば、歯切れ悪くジンが答える。

 それに補足してリヴェリアが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったが、いつからかこうなったのだと説明する。

 なるほど、と得心した様子のレフィーヤは、何故かジンとアイズの体が密着している部分を穴が空きそうなほどに強い視線で見詰めていたが、意図が分からずジンは首を傾げた。

 

 

「んぐっ……ぷはっ。そう言うジンはさ〜、お酒すっごい強いよね!酔ったところ見たことないし!」

「そうなんですか?今もこんなにたくさん飲んでるのに……?」

「いや、酔ってはいると思う。顔に出ないだけだ」

「え〜?本当かなぁ〜?あたし、ジンが顔真っ赤にして酔っ払ってるところ見てみたいんだけど」

「無理言うな。体質だ」

 

 

 ティオナからの絡みにも動じず、再び注がれた酒を飲み干す。

 間を空けずに次が注がれるのを横目に見ながら、その時間で飯を腹に入れていく。

 そんな様子を見ながら、リヴェリアが懐かしさから思い出に浸るようにして切れ長の目を細めると、ぽつりと呟いた。

 

 

「…………昔一度だけ、そんなこともあったがな」

「えっ!?リヴェリアっ、それ本当!ねえねえっ、どんなだった!?」

「わ、私も聞きたいです!リヴェリア様!」

「そんな記憶ないが……?」

「ふふっ。あれ以来は私も見ていないが、お前は酔いが深まると記憶が無くなるみたいだから、覚えていなくて当然だろう」

 

 

 それからしばらく、本人さえ覚えていないジンが本気で酔っ払った時の話がリヴェリアの口から語られる。

 フィンを子供扱いして頭を撫でたり、ガレスの髭を引っこ抜いたり、リヴェリアを間違えて母と呼んだり、ロキを椅子に縛り付けて店に置いて帰ったりと、なかなかの暴れっぷりだったらしい。

 途中から恥ずかしさに耐えかねて瞑目することで意識を逸らし始めたジンを、ティオナを筆頭にここぞとばかりに揶揄いまくっていた。

 

 

「そういや、ふと思ったんだがよお……」

 

 

 すると、食事が無くなり始めた頃、突然ベートが立ち上がって話し始めた。

 既に顔は真っ赤になっており、完全に酔っ払っていることが窺える。リーネ他団員たちに飲まされた所為だ。

 なんだなんだと視線が集まると、それを受けて再び口を開く。

 

 

「仮の話だ!もしLv.1の時にミノタウロスに襲われたとするぜ。…………てめェらは、どうする?」

 

 

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、仲間たちに問い掛けた。

 そう言われて、みんなが思い浮かべる。

 Lv.1だった今とは比べようもないほどに弱かった頃に、ミノタウロスという怪物に出会っていたら、と。

 

 

「それって昨日の話ぃ〜?なんで今更そんなこと聞くの?」

「いいから、さっさと答えろ。てめェはどうなんだよ、バカゾネス!」

「誰がバカゾネスだ!……でも、そうだなぁ〜。状況的に逃げられないと思うし、あたしなら勝てる確率は低いけど死ぬ気で戦うかな?」

 

 

 そう答えたティオナに、なるほどなと頷く。

 確かにその潔さと、諦めの悪さはティオナらしいと言えるだろう。

 

 

「援軍の可能性があるなら、全力で時間稼ぎに徹するわね。それもなくて完全に一対一だとすれば、死んでも殺してやるわ。絶対にね」

 

 

 拳を鳴らしながら、ティオネが言う。

 本来ファミリアで最も苛烈な性格をしているだけあり、格上相手にも関わらず道連れにしている光景がみんなの脳裏に浮かんだ。

 

 

「撤退するかな。例えどんな手を使ったとしても、生き延びれば次に勝つ自信はある。死んでしまったら、そこで終わりだからね」

「ワシは戦うじゃろうな。勝てば生き残る。負ければ死ぬ。冒険者なら当然の話だわい」

「魔導士がソロという状況が既に論外だが、一人なら為す術なく果てるだろうな。無論ただで死ぬつもりはないが……」

 

 

 三首領がそれぞれの答えを述べる。

 生き残って再起を図るフィン、冒険者としての理に従うガレス、前提条件が合わないながら誇り高く己の死を語るリヴェリア。

 どれも納得のいく展開である。容易に想像ができた。

 

 

「Lv.1の自分っスか〜。どうなんだろう?何もできずに震えて縮こまったまま、あっさり死ぬかもしれないっスねー」

 

 

 軽い調子で宣うラウルだが、みんなはそうは思わない。

 最期まで生き足掻いてから、力及ばず討ち死にするという方が()()()と感じた。

 

 

「斬る」

「倒します」

 

 

 そして、ジンとアイズが簡潔に告げる。

 二人の中に選択肢はたった一つしかないのだから、そもそも迷う理由が存在しない。

 勝つことが当然であるかのように、負けることなんて微塵も考えていないような答えだが、みんなもジンやアイズがLv.1の頃だとしてもミノタウロスに殺される様が想像できなかった。

 つまり、それこそが答えだ。

 

 

「くくっ……!そうだよなァ、てめェらなら、そうするだろうぜ!」

 

 

 心底から愉しそうに、ベートが凶相を浮かべる。

 ロキ・ファミリアからすれば慣れた表情なのでビビることはないが、押し黙って聞いていた他の客たちは揃って震え上がった。

 

 

「今の話やと、ベートならどうするん?」

 

 

 あっけらかんとロキが聞けば、ベートは片眉を上げて意外そうな顔をした。

 敢えて言う必要を感じない。そんな表情だったが、みんなから見られて面倒そうに頭を掻くと────。

 

 

「──俺か?ンなの、喰い殺すに決まってんだろ」

 

 

 至極当然のように、そう答えた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 それは現在から五年前。

 ベート・ローガがロキ・ファミリアに所属してから一年が経った頃のことである。

 

 

「──おいっ、俺と戦いやがれ!」

 

 

 その頃のベートは事あるごとにジンに戦いを挑んでいた。

 フィンを始めとした強者とはひと通り腕試しをして、自分の弱さに歯噛みしながらも密かに喜んでいた。

 ()()()()()()。今のベートよりずっと強い奴等がいる。

 相変わらず口は悪かったが、最高幹部や他の幹部陣のことを心の中ではしっかりと認めていたのだ。……ただ一人を除いて。

 

 

「断る」

 

 

 その例外こそが、他ならないジンだった。

 他の誰から手合わせや鍛錬に付き合ってほしいと頼まれても断らない男が、何故かベートとの戦いだけは頑なに拒んでいた。

 ベートもジンが強いことは理解している。だからこそ戦いを挑んでいるのだが……。

 

 

「ちっ……この腰抜け野郎が!」

 

 

 何度誘っても一顧だにしないジンに対して、ベートの態度は悪化の一途を辿っていた。

 これはどちらにも問題はあるが、明らかにジンはおかしい。

 フィンなどが理由を聞いても決して答えず、黙って去っていってしまうのだ。ジンらしからぬ対応に、みんな困惑していた。

 

 

「ちょっと待った!」

「ああっ?なんだよ、フィン。この腰抜け野郎に何言っても無駄だぜ」

「まあまあ、落ち着きなよベート。それにジンは腰抜けなんかじゃない。君だって本当は分かっているはずだろう?」

「…………けっ!」

 

 

 団員が大勢集まる食堂でそんなやり取りをしていたものだから、当然のように耳目を集めた。

 見かねて仲裁に入ったのは、ロキ・ファミリア団長のフィンである。

 ヒートアップしかけたベートをあっさりと収めてみせた手腕は流石というしかない。

 そして、今度はジンに視線を向ける。

 

 

「ジン、君もだ。何故ベートの誘いを受けないんだ?」

「……フィン」

「君が何を考えて断るのか。ジンを知るからこそ理由のない行動だとは思わないけれど、言葉にしなければ分からないことだってある」

「……ああ」

「ベートの態度にだって問題はあるからね。口下手な君に対して言葉を尽くせとまでは言わないよ。それでも、ファミリアの仲間への不義理はいけない。理由(わけ)を話してくれないかな?」

 

 

 フィンは努めて静かな口調で尋ねた。

 ここ最近はジンとベートの間に流れる雰囲気もあり、全体の空気も悪くなり始めている。

 正直言えば勝手にやってろというのがフィンの本音だが、ファミリアを預かる団長としてそういうわけにもいかない。

 この程度で不和が広がるのはごめんだ、と今回仲裁に入ったのはそういう理由からだった。周囲に大勢の団員がいるというのも丁度良かった。

 

 

「…………分かった」

「うん。物分かりが良くて助かるよ。じゃあ、どうして────ジン?何処に行くんだい?」

 

 

 長い沈黙の後に、ジンが首肯した。

 これ以上拗れなくて良かったと満足げに頷いたフィンが話を聞こうとして、何故か踵を返すジンを呼び止める。

 いや、今の流れで何処に行くんだ。先程の発言はなんだったんだ?とさしもの表情が険しくなりかけたが、不思議そうに首を傾げたジンが言う。

 

 

「?訓練場だ。やるんだろう、ベート」

 

 

 そうじゃねえんだよなぁ、とフィンは半目になる。

 理由(わけ)を話してくれ、理由(わけ)を。話を聞いていなかったのだろうか。……聞いた上でこれなのが、ジンという男である。

 だが、もう一人の当事者であるベートは、その言葉を受けて凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

「ハッ……!やっとやる気になりやがったか!そうだっ、御託なんか要らねェ!俺はてめェと()れりゃそれでいいっ!!」

 

 

 そう啖呵を切ると、ジンを追い越して先に訓練場に向かった。

 ジンもその後に続けば、盛大な溜め息を吐いて少しばかり悄然とした様子のフィンもついて行く。

 二人の戦いが気になる団員たちも、慌てて飯を口に詰め込んで訓練場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 この時ベートはLv.4、ジンはLv.6だった。

 二つもレベル差があれば当然ながらベートに勝ち目はないが、それでも狼人(ウェアウルフ)の特徴でもある敏捷の高さはみんなも知るところだ。

 年齢差もあって体格はベートの方が有利だし、戦いにはなるのではないかというのが全員の予想だった。

 しかし────。

 

 

「糞がぁああああああああっっ!!!!」

 

 

 空気を切り裂くようにして駆ける凶狼が吠え猛る。

 右、左と細かくフェイントを重ねながら、第二級冒険者とは思えない敏捷で懐に入り込んだ。

 

 両の手に握られた短剣が閃く。

 手足、胴体、頭を狙う無数の斬撃が銀閃を描く。

 更に、天を衝くように蹴り脚が伸び上がり、即座に踵落としに切り替わる。

 息もつかせない猛攻が、ジンを襲う。

 

 

「……」

 

 

 だが、一つとして()()()()()()

 Lv.5に匹敵する敏捷で攻め立て、フェイントを織り交ぜて翻弄しようとするが、全てが空を斬るばかり。

 

 

「ぐぅっ!がっ!?」

 

 

 そればかりか、一撃を躱すごとに一撃を返す。

 訓練用に刃を潰した剣ではなく、手に持つ()()()幾度も容赦なく打ちのめしている。

 ファミリアに入団したばかりの下級冒険者が使うような特に頑丈でもないただの木剣が、Lv.4の耐久を超えてダメージを与えているにも関わらず、折れる気配すらない。

 あまりにも圧倒的。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「(……なんでだっ、どうして届かねェ!こんなに差があるもんなのか!?)」

 

 

 全身を満遍なく木剣によって打ち据えられながら、ベートは心のうちで愕然としていた。

 同じLv.6のフィンやガレスと手合わせする時も当然敗北続きではあるが、槍で捌いたり盾で受け流されたりと、まだ戦いの体を為している。時に鍛え上げた牙が届くこともあった。

 だから遥か格上にも己の牙は通じるのだと、そう思っていたのに……。

 

 ジンは木剣を攻撃にしか使っていない。

 短剣による斬撃も、自慢の脚による蹴撃も、僅かな動作で躱されたかと思えば、同時に反撃が飛んでくる。

 比喩ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ()()()()()()()()()()()というのは、言葉にすれば簡単だが実践するのは至難の業。冒険者にとってみれば理想的な戦い方だと言える。

 

 それをまだ十三歳の子供がやっていることが異常だった。

 ロキ・ファミリアに入団する前から剣は振っていたらしいが、仮に五歳からだとしても八年しか経っていない。

 冒険者になってからたったの五年だ。()()()()()

 だが、事実としてベートは圧倒されていた。

 

 

「……あっ?」

 

 

 気が付けば、ベートは訓練場の地面に転がっていた。

 顎にじんわりとした痛みを感じる辺り、そこを打たれて一瞬ではあるが意識を飛ばしていたのだろう。

 目の前にはジンの足が見えて、()()()()()()()()

 足跡が一箇所に集中している。まるで円を描くように、ジンの足の長さで大股一歩分にもならない範囲にだけ。

 

 

「ははっ……ンだよ、それ」

 

 

 文字通り、手も足も出なかった。

 狼の牙は届くどころか、鬼をその場から動かすことさえできなかったのだ。

 とんだ笑い話である。

 いつもなら自分の弱さに腹が立つはずなのに、不思議となんとも思わなかった。心が凍ってしまったかのようだった。

 

 

「これが、俺が断っていた理由だ」

 

 

 倒れ伏したまま起き上がらないベートに、そんな言葉が掛けられる。

 なるほど、これは納得するしかない。

 まるで相手にならない雑魚と戦っても、ジンには得るものなんて何一つとしてないのだから。

 実際には新人などから頼まれたら普通に了承するのでベートの勘違いだが、まだジンの為人を理解していないため分かる由もない。

 

 

「手抜きの相手と剣を合わせても無意味だからな」

「──────はっ?」

 

 

 しかし、続く言葉に、ピクリと反応する。

 ……今、こいつはなんて言った?

 

 

「ッ、ふざけんな!てめェ相手にそんなこと──ッ!」

「全てを見せたのか?()()()()()

 

 

 激昂したベートの叫びに被せて放たれた言葉に、再び表情を凍らせる。

 そして、嘲笑った。

 

 全て?──見せるわけがない。

 あれは傷だ。衆目に傷を晒す獣が何処にいる。

 

 底?──知りたくもない。

 他人に弱さを見せるくらいなら、死んだ方がマシだ。

 

 ならば、これでいい。

 ジンの方が強いことは知っていた。だから挑んでいた。

 敗北だって初めてではない。フィンとガレスと手合わせする度に負けているし、今回だって勝てるとは考えていなかった。

 屈辱ではあるが、負けを認めることくらいはできる。

 ()()()()()使()()くらいなら、それでいい。……そう思っていた。

 

 

「負けるのか?俺じゃない、()()()()にだ」

 

 

 だが、その言葉だけは聞けない。

 絶対に認めてはならない。認めるわけにはいかない。

 それを許してしまえば、今までの全てを否定することになってしまう。過去を捨てるのと同じことだ。

 自分の弱さに負けて、仕方ないと言い訳して、吠えることさえ忘れてしまったら、最早そいつはベート・ローガではない。

 今はまだ強者でなくとも、吼えろ、牙を剥け、弱者に成り下がるなっ!

 

 もしこれが数年後なら、こうはならなかった。

 年月を経て、傷は膿んで、更に必死になって隠したことだろう。

 安い挑発だと、怒りを堪えて惨めな自分をせせら笑う。

 凝り固まった思想のままに弱者を罵倒し、嘲笑し、見下して、そんな自分こそを蔑む。

 誰にも弱みを見せることなく、孤独(ひとり)で吠えていたかもしれない。

 しかし、そうはならなかった。

 

 

「──【戒められし悪狼(フロス)の王】」

 

 

 その声は、観客にも聞こえた。

 一部の団員はすぐに気が付いて、驚愕した。

 これは魔法の詠唱だ、と。

 

 

「【一傷拘束(ゲルギア)二傷痛叫(ギオル)三傷打杭(セピテ)。飢えなる(ぜん)が唯一の希望。川を築き血潮と交ざり涙を洗え】」

 

「【癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】」

 

 

 詠唱が続く。魔力が高まる。

 生粋のマジックユーザーたるエルフは、それが長文以上の詠唱であることを理解した。

 魔力のステイタスが低いベートではあるが、魔法の効果というものは魔力と詠唱の長さによって決定付けられるのだ。

 そんな魔法を訓練場で放てばどうなるのか。

 青褪めた表情で慌てて周囲を見回したところで、呆然とした様子のロキを見つけた。

 

 ベートにとっての魔法とは過去に受けた傷そのもので、同時に牙でもある。

 つまり、自分の弱さを曝け出すということ。

 何も守れず、大切なものを失い続けて、二度と消えることのない傷の象徴。

 目を背けて奥底に隠していた嘆きと怒り、絶望の叫びを表している詠唱を、唾棄するほどに嫌っていた。

 それこそ、死んでも使わねェ、と言うほどに。

 だから、のんびり観戦しながら酒でも飲もうとやって来たロキからしてみれば、全く状況を理解できなかった。

 

 

「【世界(すべて)を憎み摂理(すべて)を認め(すべて)を枯らせ】」

 

「【傷を牙に慟哭(こえ)猛叫(たけび)に──喪いし血肉(ともがら)を力に】」

 

「【解き放たれる縛鎖(ばくさ)、轟く天叫(てんきょう)。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」

 

 

 チリチリと、空気が焼ける匂いがする。

 フィンがレベルの低い団員に下がるよう言い渡す。視線はベートから一度も離せなかった。

 魔法の訓練なんてしていないベートには並行詠唱はできない。これほどの長文詠唱ならば、当然隙だらけなのは言うまでもない。

 だが、ジンは無防備なその姿を静かに見守っていた。

 

 

「【その炎牙(きば)をもって──平らげろ】」

 

「【────ハティ】!!」

 

 

 そして、魔法が発動された。

 狼人(ウェアウルフ)の体を、業火が包んだ。

 激しく燃え上がった炎はベートの身を傷つけることはなく、おもむろに放たれた炎牙が訓練場の一角を食い破った。

 

 ────月明かりが、差し込む。

 

 ベートの姿が変貌する。

 牙が、爪が鋭利に伸びる。素肌を毛が覆う。

 琥珀色の瞳が、ギラリと輝いた。

 

月下咆哮(ウールヴヘジン)

 

 狼人(ウェアウルフ)が発現する獣化のスキル。

 月の光を浴びることが発動条件であり、地上かつ夜で月が見える状況でなければ使用不可能という厳しい条件になっている。

 その反面、効果は絶大だった。

 身体能力の向上。全アビリティに超高補正。状態異常の無効化。

 発動さえできれば、ランクアップにも匹敵するほどの自己強化を可能とする。

 

 

「……死んでも文句は聞かねェぞッ!!」

「ああ。()()()()()だ」

 

 

 ベートが犬歯を剥き出しにして吼える。

 既に体はボロボロだ。まだ頭が少しふらついている。

 長くは戦えない。一撃で勝負を付けなければ、勝ち目はなくなる。

 

 ジンが薄く笑みを浮かべて、初めて構えを取る。

 足を僅かに広げて、腰を落とした。

 身体を捻るようにして、木剣は左腰の横に添える。剣の中程を空いた左手の指で摘んで軽く引く。

 鞘がないため格好は付かないが、それは居合の型に似ていた。

 

 

「──ォォオオオッ!!!!」

 

 

 炎牙を携えて、月光に照らされた狼が駆ける。

 己の全てを乗せた一撃に賭ける。

 そして、解き放たれた炎の牙がジンを呑み込む寸前────。

 

 

焔裂(ほむらさ)き」

 

 

 その一刀が、全てを斬り裂いた。

 何も斬れないはずの木剣で、容易く魔法を凌駕した。

 炎牙が真っ二つに両断されて、萎んで消えていく。更に、ベートの体にも一筋の赤い線ができていた。

 そして、ジンの持つ木剣もまた、炭化して崩れ去っていく。

 

 ベートの魔法は、洗練されていなかった。

 炎牙の集束は極めて雑であり、ジンからすれば粗が目立った。

 故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうでもしなければ流石に、ただの木剣であれほど強力な魔法を斬ることはできなかっただろう。

 相殺しきれなかったダメージは木剣だけでなく、ジンの右腕を焼け爛れさせて一部骨が見えるくらいの影響も与えていた。

 

 

「…………くそっ……いってえなあ……ッ!」

 

 

 前のめりに倒れ込んでいたベートが、呻き声と共に仰向けに転がる。

 体の前面にはそれなりに深い太刀傷があり、獣化の力を借りてもすぐに血が止まることは無さそうだった。

 観客の中から、おどおどした様子のおさげ髪の眼鏡少女が進み出てきて、慌てて回復魔法を掛けているのを横目に、何処かスッキリとした顔でベートは笑った。

 

 

「まあ、でも…………悪くねェ気分だな」

 

 

 もう負けねェ、と小さく呟いた。

 何にとも、誰にとも言わず。ただの独り言だ。

 そんな孤独だった狼を、月明かりが優しく照らしていた。

 

 結果、未来でジン&アイズ後方理解者兄貴面ツンデレ狼と呼ばれる存在が爆誕した。

 

 

 

 

 

 

 





厄介ファン代表、ベル・クラネル!
限界オタク筆頭、レフィーヤ・ウィリディス!
後方理解者兄貴、ベート・ローガ!

三人合わせて、仁愛戦隊コジラセンジャー!!


はい。

というわけで、三位一体のジン&アイズ拗らせ組です。
取り敢えず、一旦こんな感じですかね。他はそこまで拗らせてないはずなので、ご安心頂ければと思います。
ベートは原作でも後方理解者面してるから、あんま変わらないですけど。

ただですね、ベートの獣化って何処かに描写ありましたっけ?
なんか思い当たる節がなくて、今回のところ完全に脳内イメージで書いたので変だったら教えて頂けると助かります。
ちなみに、この時のジンはランクアップ間近のほぼLv.7のようなものですが、もしベートがLv.5だったら片腕欠損してますね。【ハティ】強すぎィ!!

では、私は明日から地獄(デスマーチ)が始まるので……。
頑張るぞー、えいえいむん!(高評価&お気に入り登録&感想お待ちしてます!)

あと、次回は本編じゃなくて別視点の番外編になります。
ご了承頂けると助かります。


今回出てきた剣技について

・焔裂き(ほむらさき)
原作:ONE PIECE
某三刀流の剣士が使用する炎を斬り裂くための技であり、天上の火やら巨龍の熱ブレスさえ斬る……というのが原作の技。
今回は木剣ということやジンの技量がまだ未熟だったことなど、様々な理由から完全に再現できていません。そもそも元ネタは居合ですらない。炎斬るならこれだろ、とその場のノリで名付けただけの必殺技擬き。
Lv.8になった現在のジンなら無傷で完璧に斬ってくれることでしょう。神域の剣士は伊達ではない。

投稿間隔についてなのですが、現在と変わらず完成次第投稿するか。或いは、土日に連投するかのどちらがいいですか?週に3話は書きたいと思っているので、土日連投でも平日の何処かで1話は投げますが……。

  • 完成次第投稿!(今と変わらず……)
  • 土日に連投!(こっちの方が読みやすい!)
  • どちらでもいい。(好きにすれば?)
  • 毎日投稿しろ。(エタる)
  • そんなことよりアイズたん可愛い()
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