ヘブンリーブルー~願いを叶える旅~   作:オタリオン

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061:拝啓、親父殿へ

 アーリンたちと別れ、俺たちはドニアカミアの王都を目指した。

 魔物の群れと遭遇する事もあったが。

 護衛として雇われていた冒険者たちは強く、俺たちの手助けは不要だった。

 本来なら俺も雇われる形になって王都へ行く筈だったが。

 大金を手にした事によって少し余裕が出来た。

 だからこそ、此処は贅沢をする意味で安全な旅を選択した。

 

 トリエストから離れて道を馬車は進む。

 見渡す限りの平原に鹿やウサギが駆けまわっている。

 魔物も遠くから見ていたが、流石にこの数では襲って来ようとはしない。

 群れで行動していたら襲ってきただろうが。

 此処に生息しているのはほとんどが通常種だろう。

 危険種でもない限りは安全であり、御者の爺さんも今日も安全な旅だと言っていた。

 

 景色を眺める。

 そして、買っておいた酒を飲む。

 一緒に乗っていた商人にも振舞えば、彼は商品を分けてくれた。

 干し肉であるが、通常のものよりも噛みやすいような工夫がされているようで。

 食べてみれば強い塩味を感じながらも、数回で噛み切れるほどには柔らくなっていた。

 くれたのは干し肉一枚分であり、ご要望があれば割引して売ると言ってきた……流石は商いのプロだ。

 

 俺は干し肉を二枚買う。

 少し厚めで二十スンチほど大きさのそれが半銀貨一枚だ。

 通常は半銀貨一枚で一枚の干し肉のようで、お買い得といえばお買い得だ。

 俺は商人に礼を伝えながら、彼に酒を振舞う。

 

 酒を飲み、干し肉を摘まみにし。

 アードルングも今回はちびちびと飲んで。

 商人の今までの旅で得た経験談を聞いていた。

 そうして、馬車に揺られながら楽しい時間を過ごし……遂にやって来た。

 

 馬車から降りて金を払う。

 そうして、辺りを見れば紛れもなく王都であると分かる。

 

「へぇ、ドニアカミアの王都はこうなってんのかぁ……ちょっと意外だなぁ」

 

 ドニアカミアの王都は石造りの建物が多い。

 それ自体は何ら変わりが無いように思えるが。

 問題なのはその塗装の方法であった。

 

 全体的にそれぞれの建物の個性を出すように、カラフルな塗料が使われている。

 青や赤が目立つが、中には緑や黄色もあった。

 そのどれもが何かしらの店であり、建物に関しては長細い作りになっていた。

 

「……何であんなにカラフルなんだ? それに建物も異様に長いものばっかだし」

「それは簡単だ。この王都が栄えている事をアピールする為だ」

「……外壁の色を派手にする事がか? 長細いのも関係があるのか?」

「あぁそうだ。塗料の中でも色がついているようなものをふんだんに使うとなるとそれなりの額になる。大体の人間であれば塗料に関しては節約し、塗ったとしても一番安いものを使うだろ? ドニアカミアの王都では逆にこういった塗料を使えば、家を安く建てられるんだ。長細いのも塗料をより広範囲に塗る為……いや、看板としての機能もあるからな。ほら、アレとかだ」

「ん? アレって……おぉ、すげぇ」

 

 建物の一つを指さしたアードルング。

 そちらに視線を向ければ、同じように長い建物には白い石の壁に黒い塗料で人の顔が書かれていた。

 それも美味そうに酒を飲んでいる男の顔で。

 文字も書かれていて酒場であると一瞬で分かる。

 分かりやすいように酒場があると思わしき場所の簡易的な地図も書かれていて……看板みたいなものって事かぁ。

 

 確かに、これなら長細い方が色々と情報が書きやすいだろう。

 場所は広く取る事にはなるが。

 此処は王都の正門に近い場所にある馬車の停留所だ。

 家を建てれば騒がしいだけであり、店を立てる以外に選択肢は無い。

 だからこそ、店を立てながらも他の店の宣伝や自分の店を宣伝するんだろう……でもなぁ。

 

「……でも、何でだ? 幾ら宣伝って言っても、色々と費用が高いんじゃねぇのか? 安いって言っても……」

「ふふ、国が補助金を出しているんだよ。建物を借りたり新たに建物を作る場合に、国から指定された塗料を使えばその家を建てる時の費用を二割ほど負担してくれるんだ。勿論、塗装費はタダでな。指定された色を使うのなら、後はどんな情報を書き込もうとも大抵は不問とされるしな。宣伝したくない店なんかは他の店の宣伝をして宣伝費を徴収したりもしているらしいぞ?」

「へぇ二割も、それに他店の宣伝かぁ……でも、そんなんで財政は持つのか?」

 

 俺は少しだけドニアカミアの懐事情が心配になる。

 すると、アードルングがにやりと笑う。

 

「心配はないさ。何せ、ドニアカミアは酒と同じように“鉱山資源”にも力を入れているからな……此処に来るまで言った事を覚えているか?」

「んあ? あぁ覚えてるぞ……確か、ドニアカミアは酒の醸造に力を入れ始めて……あ、それで魔石の採掘も盛んだったかな? えっと、確か大きな採掘場を幾つか保有して……だよな?」

「あぁ合っているぞ……魔石の採掘によってドニアカミアは財源を潤しているが、別にそれだけを収入源にしている訳じゃない……採掘場では魔石以外の鉱石も採掘できるんだが。それらの天然鉱物は顔料や塗料に加工する事が出来る……此処まで言えば分かるか?」

「……あぁ! なるほどな! それで塗装の費用も他の国よりは安く提供できて……あ、それと宣伝をしているのか! うちの塗料は最高だって! そうだろ?」

「ふふ、正解だ……これは周辺国へ自らの国の繁栄を伝える為だけではない。他国の商人や技術者からもっと顔料や塗料を買ってもらう為の宣伝なんだ。ドニアカミアの王は魔石が尽きた後の事も考えて色々な施策を講じている。それが酒であったり、魔石以外で豊富に採掘が可能な鉱石ということだ」

「すげぇ。人もどんどん移住して活気づく上に、国の経済も盛り上げて……本当にすげぇな!」

 

 アードルングは物知りだ。

 俺は彼女の説明に納得した様に頷く。

 やっぱり国の王様ともなるとそれだけ考える事があるんだろう。

 俺では絶対に出来ない事であり、頭が下がる思いだ。

 

「……まぁ説明はこれくらいにして……宿屋を探すか」

「……あぁそうだな……そろそろ陽が落ちそうだしな」

 

 空を見上げれば赤みがかっていた。

 夕焼け空であり、間もなく日が落ちて夜となってしまう。

 周りを見れば衛兵が徘徊しており、治安に関しても安定してそうだが。

 それでも、知らない場所で夜道を徘徊するのは避けたいところだ。

 何処に行っても野蛮な考えを持つ輩はいるものだしな。

 

 俺は鞄を背負い直してから歩き出す。

 アードルングも隣に並んで立ち歩いていく。

 

 ……さぁドニアカミアの王都にはどんな美味い飯があるのかなぁ。

 

 宿屋を探したら次は飯と酒だ。

 たらふく食ってたらふく飲めば旅の疲れも吹き飛ぶものだ。

 俺は新たな料理に出会える予感をさせながら、賑やかな停留所から離れて王都の中心部を目指して歩いていく。

 

 

 §§§

 

 

「ふぅ、食った食ったぁ……にしても夜は冷えるなぁ。うぅさむ」

 

 両腕を組んでぶるぶると肩を震わせる。

 時刻は真夜中であり、トリエストとは違って静かなものだ。

 

 宿屋は無事に見つかった。

 そして、その宿屋では食事のサービスもあった。

 夕食はそこでとったが、中々に美味い料理だったと思う。

 宿屋の人にマーサさんが書いてくれた紹介状を見せたお陰なのか。

 通常料金から三割も割り引いてくれた。

 

 夕飯は山盛りの肉だったが。

 あっという間にアードルングと共に平らげてしまった。

 骨ごと焼かれた肉だったがとてもジューシーで塩加減も絶妙だった。

 パリパリの皮に溢れ出る肉汁に……思い出しただけでも腹がまた減るな。

 

 アードルングはそのまま部屋で休むといい。

 俺は少し外に出る事を伝えて別れた。

 来た時は治安の心配なんかをしていたが。

 宿屋の主人曰く、此処の治安は他よりもかなり良いらしい。

 喧嘩もそれほどなく、夜は静かなようだと聞いた。

 

 遺体安置所がある方には行かない方が良いと忠告されたが……まぁ死狂の事だろうな。

 

 調査は終わったと聞いたが。

 死体安置所ではまだ何かを調べているのかもしれない。

 だからこそ、不用意にあそこには近づかない方が良いと忠告された。

 もしも、間違って怪しい奴だと思われて連行されたら溜まったもんじゃないからな。

 

 俺はそんな事を考えながら、道を歩いていく。

 外は少しだけ冷えており、吐く息は少し白いように感じた。

 石畳の道を歩きながら、俺は何処かやっている飲食店は無いかと探し……ん?

 

「――!」

「……何だ?」

 

 石の階段を下りて行けば、遠くの方で微かに音が聞こえた気がした。

 石の階段をゆっくりと降りてから、耳に手を当てる。

 

 音と言うよりは、声のように聞こえた。

 俺は足を止めて周りを見る……こっちか?

 

 通りから外れた道、いわゆる裏通りか。

 細い道の先から何やら争うような声が聞こえて来た。

 本来であれば面倒事は避けるところだが……何か嫌な予感がするんだよなぁ。

 

 俺は頭を軽く掻く。

 少し考えてみたが、このまま放置するのは少し居心地が悪い。

 万が一があって、明日の朝に此処で衛兵が騒いでいたと考えれば……嫌だよなぁ。

 

 治安は良いと聞いている。

 酔っぱらい同士の喧嘩だったら引き返して帰ればいいだけだ。

 そう自らに言い聞かせて、小さくため息を吐いてから裏通りへと入っていった。

 

 足音を小さくしながら、慎重に進んでいく。

 すると、争声は段々とハッキリ聞こえるようになってきて、何やら言い争っていると感じた。

 近づいているようであり、俺は警戒心を持って歩いていき……アレか。

 

 物陰に体を隠す。

 丁度良い所に大きな木箱が積み上がっていた。

 そこに体を隠しながら覗き見た。

 すると、厚手のフード付きのコートを羽織った“二人の子供”が絡まれていた。

 

 恐らくは子供だ。

 声も高いからドワーフでは無いだろう……いや、ドワーフの子供と言う線もあるけどな。

 

 身長はおよそ二人共百五十スンチもないくらいだろうか。

 男か女かは判断がつかない。

 ただ一人はかなり気が荒いようで狂犬のように唸っている。

 もう一人はそいつの背中に隠れながらおどおどしていた。

 

 相手はガタイの良い冒険者風の男たちだ。

 こんなに寒いと言うのに半裸で、その上に肩当や胸当てをつけている。

 腰には動物の毛皮を巻いており、鍛え上げられた肉体を見て欲しい系の自信かだと予想した。

 

 ……まぁ冷静に分析はしてみたものの……やばそうな雰囲気ではあるなぁ。

 

 どう見てもリーダー格の男はとさかに来ているようで殺気が溢れていた。

 腰には太くて重そうな剣を装備しており、奴以外にも取り巻き風の男が二人いた。

 

 ……種族はあのリーダーを含めてヒューマンが二人と鼠のような姿のファーリーが一人か。

 

 殺気だっているのはスキンヘッドの浅黒い肌のヒューマンの大男だが。

 その取り巻きのひょろ長いヒューマンはニヤついているだけで止めようともしない。

 太っていてずんぐりむっくりな灰色の毛並みのネズミ野郎はそもそも興味無さそうに欠伸を掻いていた。

 

 一触即発なのはあの大男くらいだろうが……様子を見るか。

 

 俺は物陰から話を盗み聞く。

 先ずはどっちが悪いのかの情報を――

 

「どけ! 貴様らのようなクズにこれ以上構っている暇は無いんだよ! 俺たちはお前たちほど暇ではない!」

「なんだとぉ!? このクソガキがぁ!」

「ガキじゃない! 喋るな! 息が臭いんだよ!」

「ああぁぁ!!? 元はと言えばテメェが俺に因縁ふっかけてきたんだろうがぁ!!?」

「因縁だと!? 僕の財布をお前が盗んだんだろ! それを拾ったなどと嘘をついて僕に恩を売ろうなどと……恥を知れ! 不細工外道!」

「――ッ!!!?」

「……」

 

 何となく状況は分かった……あの小僧が悪いな、うん。

 

 恐らくは、あの小僧が財布を落として。

 それを偶々あの大男が拾ったんだろう。

 届けてやったのか、それとも小僧が気づいたのかは知らん。

 でも、あの口ぶりからして大男は恩を売る気なんて無かったんだろう。

 もしも、たかって来たとか謝礼を要求したと言ったのなら悪いのは大男だが……ただの勘違いだな。

 

 まだ、あの大男は冷静そうだが。

 これ以上、あのガキが口汚く罵ればどうなるかは分からない。

 ガキの連れらしきそわわそしている子供には期待できそうにないしな。

 

 ぶつりと大男の血管が切れるような音が聞こえた気がした。

 瞬間、大男は顔を真っ赤にしながら腕を振りあげる。

 

「もう我慢ならねぇッ!! ここで俺が大人として教育してやらァ!!」

「――っ!?」

「――まず!」

 

 俺は大男がキレたと感じた。

 その瞬間にどうするかも何も考えずに動き出す。

 俺は一気に距離を詰めて大男の前に躍り出る。

 瞬間、大男の振りあげた拳は俺の顔面にぶち当たる。

 鈍い音を立ててめりこんだ拳。

 大男が驚いているのが分かる。

 俺はゆっくりと大男の手を掴んでそっと離した……いでぇ。

 

 ぼたぼたと鼻から血が出ている。

 本当なら格好良く拳を受け止める所だったが。

 考え無しに動いたせいでそんな余裕は無かった。

 俺はにへらと笑いながら、男に話しかける。

 

「や、やめようぜぇ? こんなガキ相手したって仕方ねぇだろぉ? これでチャラな? な?」

「……誰だてめぇは……! まさか、テメェは――こいつらの親か!」

「へ? いやいや、親じゃないでしょ! せめて、お兄ちゃんくらいで」

「――やっぱりか! テメェ今までこそこそ隠れ見て、ガキを襲った瞬間に俺たちを脅す気だったんだなぁ!?」

「いやいやいや! ちが! 違うだろ!? そ、そうだ! お前たちも何か……あれ?」

 

 大男の殺気が増す。

 俺は両手を顔の前で振りながら、背後の二人に説明を求める。

 しかし、振り返ればそこにはもう誰もいない。

 

 視線を俺が来た道に向ければ、ガキどもが走っていく。

 

「大儀である! この恩は忘れない! その“汚らしい外道”は任せた!」

「す、すみません! 後で“歯磨きセット”を持っていきますぅ!」

「え!? ちょ!? どこに……ぁ」

 

 二人は俺に一方的に礼を伝えて去っていく。

 俺は思わず二人に手を伸ばして追いかけようとした。

 が、そっと肩に手を置かれる。

 ぎぎぎと重い首を動かして背後を見れば、血管をびきびきと浮き上がらせる大男が満面の笑みで立っていた。

 

「汚らしい、外道……歯磨き、セットだぁ……覚悟は良いか? 俺は、出来ている」

「は、はは、ははは……あ、死んだ」

 

 大男はバキバキと拳を鳴らす。

 俺は目に涙を浮かべ鼻血を垂らす。

 そうして、天国にいる師匠が俺にサムズアップしているように感じた。

 

 

 

 拝啓、親父殿。

 貴方の息子は元気です。

 しかし、今から半殺しにされるでしょう――それでも元気だと思いたいです。

 

 

「オラァァァァァァ!!!!!」

「――ぎぃやあああぁぁぁぁ!!!!?」

 

 

 俺は心の中で父への手紙を送る。

 そうして、そのまま大男たちは拳を振るってきた。

 真夜中の時間に獣の声に混じるように俺の情けない悲鳴が響き渡る。

 俺はどうしてこうも運が無いのかと思いながら、今日という一日を――刻めるかァァ!!?

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