狭い通路を駆け抜けていく。
談笑していたファーリーの男たちが俺に視線を向けてぎょっとした様子で道を開ける。
俺はそのまま狭い道を突き抜けて、少し広い道へと出た。
視線を動かせば――いた。
奴らが走っている。
体が小さいから上手く人の流れに溶け込めているとも思っているんだろう。
が、甘い。甘すぎるだろう。
此方は冒険者であり、魔力の流れを感知できる。
奴らの魔力を感じる事でその姿もハッキリと捉える事が出来ていた。
俺は並走しながら談笑している奴ら視界に入れながら腹から声を出して叫ぶ。
「待てやぁぁこのクソガキ共ォォォッ!!!」
「「「――っ!!」」」
走って逃げるクソガキ共がびくりと肩を震わす。。
此方に振り返ってから、慌てて走り出していた。
俺は鬼の形相で奴らを追い掛けた。
奴らは捕まるものかと更に走るスピードを上げていた。
が、所詮は子供の足であり徐々にその姿がハッキリと捉えられるようになってきた。
人を丁寧に避けて。
奴らが転がす障害物も飛んで回避。
もう少し、あと少しで奴らを――え?
子供の一人がナイフのような何かを投げた。
それは俺ではなく見当違いの方向に飛び、何かが切れるような音がした。
すると、急に地面に大きな影が出来ていた。
俺は嫌な予感をさせながら上を向き――イィ!?
「うぎゃあぁぁぁ!!?」
「ざまぁ!!」
建物の上に積まれていたのであろう大樽たち。
それらが頭上からガラガラと音を立てて降って来る。
俺は悲鳴を上げながらも避ける事も出来ずに大樽たちの下敷きになる。
凄まじく重い樽たちであり、動かそうとしてもビクともしない。
よく見れば樽の中には一杯になるほどの砂が詰め込まれていた。
それもただの砂ではなく、レンガのように固められていた。
ガキどもは闇雲に逃げていた訳じゃなかった。
逃げるルートを予め設定して罠を仕掛けていた。
何と狡猾で、何との抜け目のないガキどもで――奴らが俺を煽る。
尻を叩いたり、ベロを出したり。
マーサさんの紹介状を持った奴だけはすぐに去るように仲間を促していたが――ぶちりと俺の何かが切れた。
「うおおぉぉぉ!!!!」
「「「――な!?」」」
魔装を瞬時に展開。
俺は全身の筋肉を盛り上げながら伸し掛かった大樽たちを跳ね飛ばす。
周囲の人間たちは俺を化け物のように見ていたが無視。
恐れおののくガキどもへと再び俺は接近していった。
ガキどもは一目散に逃げる。
俺は必死になって奴らを追いかけていった。
「次だ!」
「おぅ!」
「待ちやがれやぁぁぁぁ!!!!」
ガキどもがコソコソと何かを話してる。
すると、途中で三人いたガキどもが散り散りに逃げていく。
三叉路になった道で紹介状を持ったガキは右に行き、残りは左へと駆けていく。
俺は瞬時に紹介状を持ったガキの方向に駆けていった。
ガキはその小柄な体を活かしてひょいひょいと障害物を避けていく。
俺も道に転がった樽を避け、馬車を飛んで回避。
そのまま大きな石像を運んでいたおっちゃんたちもスライドして避けた。
奴は口笛を吹きながら、そのまま建物の上にひょいひょいっと上がっていく。
俺もそれを追い掛けるように置いてあったものを足場にして駆け上がっていった。
建物の屋根に上がれば、ガキは屋根を器用に飛んで逃げている。
俺も同じように屋根を飛び越えて次々と飛んでいき――うぉ!?
屋根がずぼりと抜ける。
元は砂であっても固められていたからと安心していたが。
一瞬ガキの方を見れば、小瓶のようなものから何かを垂らしていた。
ただの水ではなく、砂のレンガを一瞬で緩くする何かだ。
またしても、ガキの狡猾な罠に引っかかる。
俺はそのまま下へと落下していった。
派手な音を立てて、木のテーブルを破壊。
パラパラと砂埃が待って、住人の叫び声が響いていた。
下にいたのは老人であり、椅子に座っていた彼は目玉を飛び出させるほどに驚いていた。
「なななな何じゃぁあ!?」
「す、すまねぇ! こ、これで直してくれ!」
俺はすかさずポケットから金を出して爺さん渡す。
爺さんは目を瞬かせながら頷いていた。
俺は扉をぶち破って外に出る。
後ろから「何しとんじゃぁぁあ!?」という声が聞こえたが無視する。
上の方向に視線を向けてガキの魔力を探す。
すると、あのガキは更に俺から距離を離していて――
「逃がすかぁぁぁ!!!」
俺は全力で走る。
家から飛び出し、道へと出れば――人で溢れていた。
がやがやと騒がしい人の山で。
恐らく、此処は大通りのような場所なのか。
出店も多くあり、これでは走って進む事が出来ない。
人の多い道であると一瞬で認識し――一息で跳躍する。
そのまま器用に石の塀に上がって駆けていく。
塀を駆けて、そのまま飛んで出店の屋台を足場にし。
更に飛んでいき人の波を避けた。
そのまま洗濯用の物干しざおを売っていたおっちゃんに金を投げ渡す。
一番長細い物干しざおを流れるように掴みながら全力で走る。
そして、俺はそれを地面に突き刺し――
「待てやぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」
「――はぁ!?」
俺はそのまま物干しざおをギリギリまで曲げる。
魔力を流して強化し折れないようにした。
そうして、その反動を使って一気に上空に飛んだ。
空中を回転しながら飛びながら、真っすぐに逃げるガキを追う。
奴は俺の方に振り返り、布の下で驚いたように目を丸くしていた。
俺はそのままガキへと迫り――ガキを追い越していった。
「飛び過ぎたあああああぁぁぁあああぁぁ!!!?」
俺はそのままガキを通り過ぎて落下する。
その方向には石の塀で仕切られた何かの施設がある。
屋根などはは無く吹き曝しで、水の流れる音が風の音と共に聞こえていた。
下には大きな水たまりがあり、それは水浴びをする場所のようで――大きな音を立てて突っ込む。
ばしゃりと音を立てて水柱が上がる。
俺は呼吸を止めながら、手足を動かして水面に上がった。
呼吸を再開しながら周りに視線を向けて――大きく目を見開く。
「ぷはぁ――ふぉぉ!?」
「「「――きゃああああ!!」」」
入った場所は水浴びの場所だ。
が、そこは“運の良い”事に女性しかいない。
彼女たちは布で体を隠しながら悲鳴を上げていた。
四方八方から桶などが投げられて、俺は必死に弁明をするが聞いてもらえない。
桶などが顔面に当たり、俺は鼻血を出しながらも何とかその場から逃げていく。
石の塀を超えて外に何とか脱出する。
周りには女性の悲鳴を聞きつけて多くの人間が集まってきていた。
俺は彼らに聞かれてもいないのに誤解であると訴えかける。
そうして、ガキを探して――いた!!
物珍しさや警戒の籠った目で俺を見る人たち。
その隙間からあのガキが屋根の下に降りて路地裏に入っていくのが一瞬だけ見えた。
俺は人ごみを掻き分けて再び奴を追い掛けていった。
路地裏へと入れば奴が少しだけペースを落として走っていた。
俺は息を吸い込み奴に待つように叫ぶ。
すると、奴はびくりと肩を揺らし「しつけぇ!!」と叫ぶ。
「嫌なら返せやぁぁぁ!!!」
「く、くそぉぉ!!」
奴はもう限界寸前だ。
子供の体力では保った方であり、もう少しでアレを取り返せる。
俺はそう考えながら、奴らを追い掛け続けた。
路地裏は非常に狭く曲がりくねっていたが。
俺は体を障害物にぶつけながら必死に奴を追った。
「シャーーー!!」
「いでぇぇ!!」
猫の群れに突っ込む。
散り散りに逃げていく猫。
しかし、一匹だけが俺の顔に飛びかかる。
その鋭利な爪で顔面を引っかかれて俺は溜まらずに猫を掴み。
地面に離す。ひりひりじんじんと痛む顔を摩りながらも、俺は執念で奴を追う。
肉眼では捉えられている。
そして、もう少しで手が届きそうだった。
布が掛けられた“何かの看板”を通り抜ける。
そうして、ざらざらと“少し荒い砂”の地面を走っていった。
俺は走る。
走って、走って、走って――ガキが止まる。
見れば、ガキの進行方向には高い壁があった。
どうやら、逃走ルートを見誤ったようだった。
俺はにやりと笑い、ガキに観念するように叫ぶ。
奴はゆっくりと振り返って――にやりと笑う。
「今だ!」
「――は?」
奴が叫ぶ。
そうして、地面に何かを叩きつけた。
それは火薬の詰まった何かであり、パンと乾いた音を鳴らしていた。
瞬間、地面に亀裂が走り――ガラガラと音を立てて崩れた。
ガキは上へと飛んで、壁に立っていた別の仲間から伸ばされたロープを掴む。
スローに感じる中でゆっくりと此処に来るまでの記憶を思い出す。
その中で布が掛けられていた看板が立っていた気がした。
その看板には薄れている文字でこう書かれていた気がする――“工事中”、と。
足場が消えていた。
先ほどまで固められた“砂の足場”があったがそこには何も無い。
いや、違う。崩落したと言えばいいのか。
下は真っ暗闇であり、微かに水の音が聞こえていた。
「ふ!! ふぅ!! ふあぁぁ!!」
俺は空中で手足をばたつかせる。
何とか壁へと向かおうとするが――駄目だった。
「あああぁぁぁぁ!!!!!?」
俺はそのまま奈落へと落下していった。
ガキどもは落ちていく俺を見ながら笑っていた。
俺はそのまま回転しながら落下していき――体全体が冷たくなる。
「うぶぶぅぶぶうぅぅぶぅ――っ!!?」
どばんと派手な音を立てて水の中に落ちた。
またしても水であり、此処は地下水路であると認識する。
水路の流れはそれなりに早く俺は流されそうになり――
「こぉぉぉぉれぇぇぇしぃぃぃきぃぃぃ!!!」
俺は魔装を全力で展開。
身体能力を極限まで高めて水の流れに逆らうように泳ぐ。
バシャバシャと派手な音を立てて一直線に泳いでいく。
そうして、先ほどの穴まですぐに戻り。
俺はそのまま全力で上に飛んだ。
剣を引き抜いて間の壁に突き刺し、壁を蹴って引き抜いてまた突き刺し。
それを繰り返して上へと上がっていき――見えたッ!
光が見えて、そのまま速度を上げる。
そうして、穴の先へと飛び出し。
全力で壁を駆けあがる。
そうして、ケタケタと笑っているガキどもの背後に立つ。
三人の内、二人がびくりと肩を揺らす。
そうして、恐る恐る振り返って来た。
一人だけは気づいていないようで笑い声を上げながら俺の事を話していた。
「にしてもあの馬鹿の最後の間抜け面は傑作だったな! 死にはしねぇけど、ありゃ此処に戻るのに丸一日は掛かるぜ?」
「……おい」
「その紙きれはあの間抜けの言葉が本当ならかなりの値打ちもんだろうよ。全く、間抜け野郎様様だな! ははは!」
「おい!」
「あぁ? 何だよ。そんなにびくつかなくても、もう、アイツ、は…………ぇ?」
笑っていたガキがゆっくりと振り返る。
そうして、目をガン開きにした俺と目が合う。
俺は奴をジッと見つめながら静かに問いかける。
「誰が、間抜けだって?」
「ぁ、ぁあ、ぅ、ぁぁ」
「ま、まって、くれよ! 理由! 理由を聞いてくれ! 俺たちだって好きでこんな事はしてねぇんだよ! 聞くも涙、語るも涙の」
ゆっくりと剣を鞘に納める。
そうして、奴らに聞こえるように低い声で言ってやる。
「――遺言はそれだけか」
「「す、すみませぇぇん!!!」」
「……!?」
奴らは両目から涙を流しながら抱き合う。
俺は固めた拳を掲げて息を吹きかける。
そうして、連続して振り下ろせば石を砕くような音が三回連続で響き渡った。
「……ハガード、状況を説明してくれ」
「……終わったよ。全部な」
「いや、それは分かるが……このコブは?」
ガキどもを縄で縛り。
人目の無い場所に運んできた。
すると、俺の足跡を追ってきたアードルングがやって来た。
彼女は縄で縛ってぐったりとしているガキ三人の頭のコブを不思議がっていた。
俺は彼女に気にするなと言いながら。
持っていた桶を上げてガキどもに水をぶっかけた。
すると、三人は顔を振りながら目覚めて周囲を見渡していた。
「お目覚めか、クソガキ共」
「お、お前は……く、くそ! 放せ! 俺たちを売っても大した金にはならねぇぞ!!」
「そ、そうだ! 自慢じゃねぇがこのバリー様は美形だが、まだまだ完成されてはいない! コリーは馬鹿だし、ヘザーは絶壁だ! こんな色気もねぇガサツな女は召使にもなりは――うげぇ!?」
「……黙れ。殺すぞ」
ガキどもが喧嘩を始めた。
恐らくは、ヘザーというガキは女で。
そいつがバリーという自信過剰のガキの顔面に頭突きしていた。
やんやんと喧嘩を始めた二人をコリーが宥めるが……はぁ。
「あのさぁ、状況分かってんのか?」
「……た、頼むよぉ。売らないでくれぇ。いや、衛兵にも突き出さないでくれよぉ。この通りだからさぁ」
「……よせ、コリー。あたしらは捕まったんだ。盗みをするって決めた日から覚悟はしていたんだ。腹くくりな」
「……ふ、ふん! 売りたいなら売れよ! せめて、高い値段で売れよな! 俺たちだって誇りがあるんだからな! 端金だったら承知しねぇぞ!」
「「……」」
ガキどもは覚悟は決まっているように言っているが……誤解しているな。
俺はため息を零しながら頭を掻く。
そうして、腰を屈めてからゆっくりと紹介状を見せた。
「いいか? 俺は別に奴隷商じゃねぇ。こいつが戻ってきたらそれで良かったんだよ」
「な、なら! 何で俺たちを拘束したんだ……まさか、今から気がすむまで殴る蹴るの」
「――ちげぇよ! まぁ、何だ……話し、聞かて欲しくてな。どうせ、逃げると思ったから縛っただけだ」
「「「……?」」」
奴らは首を傾げる。
俺はさっき理由があると話していただろうと伝える。
すると、バリーはあぁという顔をしてにやりと笑う。
「なら、先ずはこの拘束を解いてくれよ……話しはそれからだろ?」
「……まぁ、そうだけど……逃げないでくれよ?」
「勿論さ! だから、早く、な?」
「……はぁ、待ってろ」
俺は奴らの言葉に従う様に縄を解いていく。
自由になった奴らは手首を摩りながら立ち上がって――走り出す。
「んなわけねぇだろバァァカ!! あばよぉぉ間抜けぇぇ!! はははは!!」
「お、一昨日きやがれってんだぁぁ!! バァァカバァァカ!!」
「……」
奴らはそれぞれに叫びながら走っていった。
唯一、ヘザーという少女だけが此方をチラリと見てきていた。
三人はそのまま消えていく。
残された俺とアードルングは顔を見合った。
「……宿屋、探しに行くか」
「……そうだな」
当初の目的に戻る。
話が聞けたら良かったが。
話すつもりは無かったようだ……いや、あれ自体も嘘だったかもしれねぇけどな。
その場しのぎの嘘。
そうだったのなら、これ以上関わる必要はない。
が、ヘザーという少女から感じた視線には……いや、よそう。
終わった事だ。
向こうが助けを求めていないのなら、俺がどうこうする事は出来ない。
俺はそう自分に言い聞かせながら、紙を鞄に仕舞う。
そうして、鞄を背負い直して再び歩き出す。
アードルングは此処に来るまでに目ぼしい宿屋は幾つか見つけておいたと言う。
俺はそれに助かると答えながら、今日から世話になるだろう宿屋を目指して歩いていった。
サボイアについて行き成り盗人に襲われるのは予想してなかった。
が、これはこれで良い勉強になった。
今後はもっと周りの視線などにも気を付けないといけないと分かった。
冒険者として成長できたと思いながら、俺は腹を摩りながら今日はたらふく食おうと決めた。