いずれラスボスになる妹と、その兄のはなし   作:悠里@

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16.薪割ダイナミック

「こうなったら、やるしかないか……」

 

『一か八か』なんて馬鹿の考えだ。『運を天に任せる』なんて糞食らえだ。

俺という弱い人間は、直感や運なんて不確かなものでは動かない。

だから、分析をし、考察を深め、推測を積み重ね、論理を展開する。

少しでも勝率を上げるために思索し、勝つためにできることは何だってする。

 

「…………ふう」

 

そして今、一定の勝算を見出した。唯一の勝ち筋が見えた。

そうなれば、それは直感や運ではなく、確率と可能性の話。それだったら俺も動ける。

これまで感じた違和感。それにリアナの話が証明できれば、妖樹を倒せるはず!

 

「よし! よーし! 勝つぞ!」

「うお、何なんですか? 急に」

「気合を入れてた」

「そですか。…………こほん…………勝つぞー! おー!」

 

……便乗してくれた妹が可愛すぎる件について。

普段なら絶対に言わない台詞だ。どうやらこの瀬戸際に、リアナもハイになっているのかもしれない。でもおかげで、お兄ちゃんの気合も元気もフルマックスだ。

 

「リアナ、おんぶ」

「はい」

 

俺が少し屈むと、リアナがよどみなく背中に乗る。この洗練された無駄のない動きは一種の才能なのかもしれない。

 

「はて? 勝つと言いつつ、また逃げて時間を稼ぐんですか? これ以上呪いの範囲が広がったら、呪いの森とでも改名したほうがいいかもしれませんね。ふふ、ちょっと素敵です」

「いや、今回は逃げない。だから、しっかり捕まってろよ」

 

そんな言葉とは裏腹に、俺はリアナを背負ったまま、妖樹に背を向けて走り出した。

その途端、根による攻撃が飛んでくる。数は……一本だけ。

 

「……そうなると、攻撃に使える根の数は五本か?」

 

俺たちが逃げ出すと思って、再生したばかりの根を攻撃に使ったのだろう。ここで複数使えるのなら使わない理由はない。……たった一本なら、妹を背負った状態でも対処可能だ。

リアナの無防備な背中を貫く寸前、体を横に移動させて近くの木の裏に隠れる。ものの数秒で貫通するだろうが、それだけあれば十分。強化魔法を『眼』から『脚』に移したとしても。

 

現在の強化範囲は『武器』と『脚』――。

鋭い根が樹木にトンネルを開通させた直後、マチェットで切り落とす。

俺は、これまで六回根を切断した。再生を終えた一本も含めてだ。つまり、次の根の再生までに多少の時間がかかる。とはいえ、一分にも満たない時間だ。とにかく急がなければならない。

 

開通したばかりのトンネルを最初の足場にし、一足飛びで頭上にあった太い枝に飛び乗る。そのままリアナを背負いながら、木のてっぺんまで登っていく。

木に登るため、マチェットを口で咥える。鞘には戻せない。俺の肉体から離れれば、その時点で強化魔法が解除されてしまう。

 

「にににに、兄さん! あ、あなたは何をやってるんですか! 枝やら葉っぱやらでチクチク痛いんですけど!」

 

木のてっぺんに到着した。マチェットを再び右手に持ち直す。

 

「木登り! 引きこもりには初めての経験じゃないかな! 落ちないようにちゃんとお兄ちゃんにしがみついててね!」

 

さて、近場の木はどれだ。着地時の足場になる枝や幹も吟味しなければならない。

 

「ちがっ……! そそ、そういうことじゃなくて! ひゃあ――!!」

 

木の頂から木の頂へ。決死の覚悟で飛び移る。……ここからはスピード勝負だ。妖樹の次の根が再生するまでに、すべてを終わらせなければならない。

一本でも攻撃に使える根が再生されたら、それで何もかもおしまい。足場が悪く、逃げ場のない木の上からでは対処のしようがない。

 

「う、ひゃあああああ……!」

 

リアナの愉快な悲鳴を聞きながら、強化された脚力を利用して、次々と飛び移っていく。足場の枝が折れたり、踏み外したりすれば、おそらく死ぬ。だけど何もしなくても、妖樹に殺されてしまうのだ。そう考えると怖いものなんて何もない。

 

「これで最後っと!」

「ひ、ひぃ……」

 

妖樹から一番近い木まで、なんとか到達した。高さも同程度だ。足場の枝はぐらぐらしているが、何とか踏みとどまれる。

最接近したことで、呪いの力がかつてないほど強まった。頭が今にも爆発して、辺り一帯に飛び散ってしまいそうだ。こんな状況でも健気に使ってくれるリアナの回復魔法がなければ、俺はとっくに死んでいた。

 

「あー! すっごい痛い!! はははは!!」

 

痛くて痛くてどうしようもなかったが、気分だけはとても良い。最高潮と言ってもいいだろう。目もくらむほど高い場所に立っているからか、テンションも変に上がってしまう。

 

「それでリアちゃん、黄色い目ってどれなの? ここからならお兄ちゃんにも伝わるよ!」

「は、はいぃぃ。ちょ、ちょっといま、目が、目が回っています……。えっと、あー、あれですね……」

 

俺の軽業師のような所業にリアナの三半規管はボロボロだが、それでも何とか一つの目を指さした。

……こうして直接言われても、俺には他の目と同じにしか見えない。これは彼女にしか区別できないものだろう。

でもこの場所なら、十分に攻撃が届く。これ以上、他の木に移る必要がないのは幸運だった。

 

「じゃあ、いっくぞー!! ……リアナは舌噛まないようにね!!」

 

そして『黄色い目』に向かって、勢いよく飛び降りた――。

上空三十メートル――。

一瞬だけ感じる浮遊感――。

でもそれは本当に一瞬だけで、後はなすがまま地面に向かって落ちていく。

 

「…………いっ、いやあああああああああッ!!!!」

 

リアナのこんな大きな声を聞いたのは、今日が初めてかもしれない。妹の新しい発見は、こんな生死が関わった状況でも嬉しいものだ。

落下しながら、魔法によって強化されたマチェットを振り下ろして、妖樹の目を両断した。これがおそらくこの妖樹の中核部――コアだ。

 

かつて姉から譲られたマチェットは、刃渡り四十センチの直刀。根本まで刺せば、カボチャだって真っ二つにできる。

落下の勢いが殺されることなく、マチェットはコアを切断した後も妖樹の幹を縦方向へ切り裂いていく。

現状を簡潔に説明すると、約三十メートルの自由落下だ。

 

『ピゲ、ズユザキプセレケ!! ニエニエニエ!! ……………………アアアアア!!!』

 

苦悶。妖樹が苦悶と苦痛の慟哭を上げる。無数の口々から響くおぞましい悲鳴を聞いて、俺は勝利を確信した。

 

……妖樹の癖に変に聡くなって、自分に弱点があることを悟らせたのがコイツの敗因だった。

違和感の正体はそれだ。コイツは俺のような大した攻撃ができない人間にわざわざ距離を取った。どんなダメージも瞬時に回復する再生能力があるのに。じゃあ何故距離を取ったのか? その理由は一つしかない。つまり、『強い再生能力があっても、絶対に攻撃されたくない弱点がある』。

それと、妹の『もわーん』。リアナのよくわからない感覚がなければ、その弱点がどこにあるのかまではわからなかった。弱点位置を正確に把握するために、妹にはちょっとばかし怖い目に合わせてしまったが、今回ばかりは仕方がない。後でちゃんと謝ろう。

 

妖樹を根本まで切り開くと同時に着地する。直後、両脚から脳天まで突き抜ける凄まじい衝撃――!

 

「――ッッ!!」

 

脚を魔法で強化しても、三十メートルのフリーフォールに上半身が耐えきれない。幹の根本までマチェットで斬り続けたおかげで、落下の勢いが殺され、大きな怪我もせずに済んだ。その点だけは妖樹に感謝してもいい。

 

「きゅー……」

 

背中にはぐったりと目を回したリアナ。木から木へと飛び移り、妖樹を縦に切り裂きながら地上まで落下するという身体的ストレスに耐えられなかったのだろう。いや、本当にごめんて。

気を失った妹を地面に優しく横たわらせると、俺もマチェットを投げ捨て、森の真ん中で倒れ込んだ。

 

『……………………』

 

その直後、妖樹もまた大きな音と振動を立てて倒れた。機能は完全に停止している。切り裂いている途中から、頭が割れそうな頭痛がぴたりと治まっていた。

 

……時間を確認すると朝の九時を少し過ぎている。朝食にはちょっと遅い時間。

とまあ、妖樹との戦いは『ほんの朝飯前』とまではいかなかったが、今から町に戻れば昼食までには着けるだろう。だったらこれは『ほんの昼飯前』とでも言うべきか。

 

「はあ、ホント疲れた……」

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