高育が如く   作:レゾリューション

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更新遅くなって本当に申し訳ないです。
ところどころ話が改変しているのでご了承下さい。


水資源と食材

Dクラスの意見がようやくまとまり、全員がベースキャンプの候補地を探しに動き出した。とりあえず移動を開始したところで、櫛田が桐生に話しかける。

 

「ねぇ、桐生さんならどこにテントを立てたい?」

 

「そうだな……」

 

   •水資源が近くにある所←

   •虫があまり出ないところ

   •豪華客船

 

「水資源が近くにある所だな」

 

「あっ、やっぱり桐生さんもそう思う?」

 

「ああ。川とかが近くにあれば、煮沸すれば飲み水も確保できると思うからな」

 

サバイバルにおいて水の確保は何よりも重要だ、そんな話をしていると、先頭にいた池が興奮気味に駆け寄ってきた。

 

「川があったんだよ! すげぇ綺麗な川! そんで近くになんか変な装置もあってさ! 多分アレがスポットだと思うんだよ!」

 

どうやら池は大きな発見をしたらしい。念のため、他クラスに奪われないよう、すでに一人を待機させているという。

 

「水源が確保できるのは大きいよ。じゃあ、早速全員で川に向かおうか」

 

平田の号令で、Dクラスのメンバーは池の案内する川へと向かった。

 

 

 

集合場所からそれほど遠くない場所に、川が静かに流れていた。幅は大体10メートルほどで、その様子をみると、どうやら人の手が加えられていることが伺えた。

 

“学校側が整備してくれていたのか?”

 

不自然に鎮座する大岩の中に、何かの装置が埋め込まれているのが見える。おそらく、試験に関係する設備だろう。

 

“なんにせよ、幸先がいいな……”

 

この場所を占有できれば、他のクラスが自由に水を使うことはできなくなる。となると、重要なのは”リーダー”の存在だ。もし他クラスにこの場所を発見されれば、交渉や防衛の判断が求められ自クラスが圧倒的に不利になる。

 

だが、誰も進んでその役目を引き受けたいとは思っていないようだった。気まずい沈黙が流れる中、櫛田が皆を集め、小声で話し出す。

 

「考えてみたんだけど、平田君や軽井沢さん、桐生さんは嫌でも目立っちゃうよね? リーダーなら責任感のある、堀北さんだと思ったんだけど、どうかな?」

 

推されている当の本人、堀北は特に表情を変えない。じっと周囲を見渡し、誰が適任なのか冷静に見極めているようだった。数秒後、彼女は決断を下す。

 

「分かったわ。私がやるわ」

 

桐生は少しだけ眉をひそめた。

 

“体調が優れてないのに大丈夫なのか?”

 

気になった彼は、堀北に小声で尋ねる。

 

「堀北、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ」

 

堀北はそれだけを短く返した。その表情には迷いはない。桐生はそれ以上は何も言わなかった。

 

 

 

リーダーが決まり、Dクラスは周囲の探索を開始することに。桐生は、綾小路・佐倉・高円寺というなんとも不思議な組み合わせのメンバーで行動することになった。

 

高円寺はというと、最初からテンションMAXだった。

 

佐倉はそんな高円寺を少し怯えたように見つめている。一方、綾小路は至って冷静。まるで興味がないかのように淡々と歩いている。

 

“……このメンバー、大丈夫か?”

 

桐生は若干の不安を抱きながら、探索を開始するのだった。

 

桐生たちのことなど気にも留めず、高円寺は迷いのない足取りで森の奥へと進んでいく。その姿は、自信というより確信に満ちていた。

 

「高円寺、そんなに速く歩いて大丈夫なのか? 佐倉もいるんだし、もう少しペースを落としたほうが……」

 

綾小路がやや警戒するように声をかける。確かに、この森は見通しが悪く、無暗に進めば道を見失う可能性がある。だが、高円寺は振り向くこともせず、軽く髪をかき上げながら答えた。

 

「心配はいらない。この森なら多少のことが起こってもノープロブレムさ」

 

「……どういう意味だ?」

 

桐生が少し眉をひそめながら問いかける。

 

「ここは“自然の森”とは呼べない。少なくとも、日中に彷徨って迷う確率は極めて低い。だからこそ多少興味はあるがね」

 

意味深な言葉を残し、高円寺はさらに足を速めた。そして次の瞬間、目にもとまらぬ動きで木に飛びつくと、枝を掴んでそのまま軽々と宙を舞い、ターザンのように奥へと消えていった。

 

“このままだと高円寺を見失うな....”

 

桐生は瞬時に判断し、綾小路に指示を出す。

 

「綾小路、私は高円寺を追う。お前は佐倉と探索を続けてくれ」

 

「いいけど……お前、高円寺に追いつけるのか? アイツ、もはや人間の動きじゃないぞ」

 

「まぁ、やってみるさ」

 

そう言い残し、桐生は木に手をかけ、一気に登り始めた。

 

高円寺を追え

 

“木登りなんて、いつ以来だ?”

 

桐生は自嘲気味に思う。しかし、考えている暇はない。

 

慎重に枝を選びながら、勢いをつけて飛ぶ。空中では余分な力を回転で逃し、次の枝が近ければ片手で掴む。失敗すれば落ちるしかない――それは当然のリスクだった。

 

だが、冷静に状況を分析しながら動けば、無謀な挑戦にはならない。視界の端で高円寺の動きを捉え、彼が通ったルートを真似るように進む。

 

そして、しばらくするとようやく高円寺の背中を見つけた。

 

「おい、高円寺」

 

桐生が呼びかけると、高円寺は振り向き、妙に楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「おやおや、桐生ガールじゃないか」

 

「……桐生ガール?」

 

ヘンテコな名前をつけられたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

だが、桐生が本題に入る前に、高円寺はあっさりと口を開いた。

 

「すまないねぇ。私はこれでリタイアさせてもらうよ」

 

「……なに?」

 

唐突な宣言に、桐生は思わず顔を顰めた。

 

「リタイアって、どういうことだ?」

 

「体調がすぐれなくてね」

 

そう言いながらも、高円寺の様子はどこからどう見ても健康そのもの。顔色も悪くないし、動きも軽やかすぎる。

 

“どう見ても元気そうだが....?”

 

桐生はジト目で高円寺を睨むが、高円寺は肩をすくめるだけだった。

 

「まぁ、そう見えるのは仕方ないねぇ。でも、リタイアするのは決めたことだ」

 

説得しようとするも、桐生はすぐに諦める。

 

高円寺六助という男は、完全なるマイペース人間。誰かの意見で考えを変えるようなタイプではない。

 

「なら、せめてクラスに貢献してからリタイアしろ。何もしないよりマシだろ?」

 

「それはできない相談だねぇ。それを決めるのは君じゃなく、私だから」

 

軽く手を振り、高円寺はそのまま森の奥へと去っていった。

 

「……ふむ、この島にはいろいろありそうだねえ」

 

高円寺の言葉を思い返しながら、桐生は周囲を見渡す。すると、すぐそばに妙に整った土地があることに気づいた。

 

慎重に降り立ち、様子を探る。よく見れば、そこには畑が広がっていた。……おそらく、人が育てたものだろう。

 

「なるほどな……」

 

桐生はできるだけ多く確保し、手早く収穫を済ませると、ベースキャンプへ戻ることにした。

 

桐生が戻ると、またもやDクラスの面々が言い争いをしていた。

 

“今度は何だ....?”

 

ため息混じりに呟きながら、近くにいた松下に声をかける。

 

「松下、今度は何を揉めてるんだ?」

 

松下は少し驚いた様子を見せるも、すぐに冷静に状況を説明し始めた。

 

「実は……川の水を使うか使わないかで意見が割れてて……」

 

桐生は軽く眉をひそめる。

 

「……まぁ、そりゃ揉めるか」

 

たしかに、この川は整備された形跡がある。だが、それでも川の水を直接使うことに抵抗がある者がいても不思議ではない。

 

飲めるのかどうか、疑問を抱くのも当然のことだ。

 

“まぁ、どっちの言い分も分からなくはないが……”

 

そんな議論を聞き流しているうちに、桐生の中で別の問題が浮上してきた。

 

“……喉が渇いた”

 

高円寺をターザンのように追いかけていたせいで、体の水分はすっかり奪われていた。さらに、この蒸し暑さだ。口の中がカラカラで、喉がひりつく。そして目の前には、まさにその《問題の川》が流れている。

 

“目の前には川がある....”

 

 

   •水を飲む←

   •我慢する

 

 

“迷ってる暇は無い、水を飲もう”

 

桐生はしゃがみ込み、両手を合わせて水をすくった。

 

冷たい水が指の隙間を流れ落ちる。慎重に匂いを嗅ぎ、違和感がないことを確認してから、一気に口に運ぶ。

 

「……ッ、冷てぇ」

 

喉を潤す感覚がたまらない。熱がこもった体の中を、冷たい水がすうっと通り抜けていく。たまらず、もう一杯すくい、再び口に運んだ。

 

「……ふぅ」

 

たったそれだけのことで、体が少し軽くなった気がする。

 

だが、次の瞬間、周囲のクラスメイトたちの視線に気づいた。

 

Dクラスの反応はまちまちだった。

 

「……あっ、桐生さんが飲んだぞ!」

 

「え、ちょっ、マジで?!」

 

「普通に飲んでる……ってことは大丈夫なのか?」

 

一方、桐生はそんな視線を気にするでもなく、もう一口水をすする。

 

“まぁ、これで少しは議論が落ち着くか……?”

 

だが、むしろ逆効果だった。

 

「おい、俺も飲んでみる!」

 

「いやいや、ちょっと待てって! ちゃんと煮沸しないと危険かもしれないだろ!」

 

「でも、桐生さんが平気そうだし……」

 

「いや、あの人が異常なだけかもしれん」

 

再び議論がヒートアップし、余計に混乱が広がっていく。

 

平田がなんとか議論を収め、Dクラスは再び探索を再開した。

 

そしてしばらく森の中を進んでいると——

 

「……おい、誰かいるぞ!」

 

山内が興奮気味に声を上げた。

 

桐生が視線を向けると、そこには一人の女子生徒が立っていた。

 

“アイツは...”

 

伊吹澪

 

龍園の側近であり、かつてバーでやり合ったことのある相手だ。

 

Dクラスの生徒たちも彼女の登場にざわつき始めるが、平田が一歩前に出た。

 

「少し時間いいかな? 伊吹さん」

 

伊吹はチラリと平田を見ると、特に関心もなさそうに肩をすくめた。

 

「私は邪魔でしょ。世話になった」

 

そう言い捨て、立ち去ろうとする。

 

だが、平田はその場で引き下がらなかった。

 

「ちょっと待って! これは試験だから君を疑う生徒がいるのも仕方がない。だけど怪我をしてクラスに戻れない君を追い出すなんてできないよ。だから事情を聞かせてほしい」

 

「別にいいって言ってるだろ。スパイかもしれない私を助けても得なんてないだろ」

 

伊吹は冷たく言い放つが、平田は変わらず穏やかな表情で言葉を返した。

 

「君がスパイだったら、自分から追い出されるようなことは言わないよ。それに損得なんて関係ない。」

 

伊吹は一瞬だけ黙り、つまらなそうにため息をついた。

 

「……クラスのある男と揉めた。それでそいつに叩かれて追い出された。それだけだ」

 

簡潔にそう答えたが、その言葉の奥には、ほんのわずかに怒りが滲んでいるようにも思えた。

 

平田は静かに頷き、「わかった。君が困ってることは理解したよ。他の生徒にも事情を話して、君がここにいられるように頼んでみるよ」と言って、他のクラスメイトの説得に向かった。

 

——数分後

 

「伊吹さん、皆から許可をもらったよ。ただ、一応不用意に装置に近づかないと約束してほしい」

 

どうやらDクラスは伊吹を受け入れることに決めたようだ。

 

「……わかった」

 

伊吹は短く返事をすると、その視線を桐生へと向けた。

 

じっと睨むような目つき。

 

バーでの一件が原因だろう。嫌でも覚えられたらしい。

 

だが桐生は、特に気にした様子もなく伊吹の視線を受け流した。

 

“お互い様ってところか....”

 

 

夕暮れが近づく頃、Dクラスの生徒たちは、ようやくまともな食事にありつこうとしていた。

 

「いやー、それにしても今日は疲れたな」

 

「ほんとにな。明日からもこんな感じかと思うと憂鬱だ」

 

各々仲の良い者同士で談笑しながら、集まって食事の準備を進めていく。メニューは桐生が取ってきた野菜や、ほかの生徒たちが集めた木の実など、質素なものだったが、今はそれでも十分だった。

 

しかし、和やかな雰囲気に水を差すように、一人の人物が近づいてくる。

 

茶柱佐枝

 

「Dクラスの生徒全員に報告事項がある」

 

茶柱が静かに言葉を発すると、皆の視線が集まる。

 

「……高円寺が体調不良を訴えて試験をリタイアした」

 

——沈黙

 

そして次の瞬間。

 

「「「はぁ~!!?」」」

 

クラス全体が一斉に声を上げた。

 

“しまった、言うの忘れてた……”

 

桐生は内心で頭を抱える。

 

喉の渇きと伊吹の件で、すっかり後回しになっていた。

 

当然ながら、高円寺の突然のリタイアに納得できる者は少なく、クラス全体の空気は一気に険悪なものになっていった。

 

「アイツ、好き勝手やりすぎだろ」

 

「せめて何か貢献してからリタイアしろよ……」

 

「っていうか、そもそも本当に体調不良なのか?」

 

誰もが不満を口にし、収拾のつかない状況になりかけていたが、そこは平田が間に入ってなんとか場を落ち着かせた。

 

——そして現在。

 

日も完全に落ち、無人島1日目の夜を迎えていた。

 

食事を終えたことで満腹感と疲労が混ざり合い、さっきまで騒がしかったクラスも、今は徐々に静まっていく。

 

「さて、そろそろ寝る準備するか……」

 

桐生も、野外活動で溜まった疲れを感じつつ、テントの中に入った。

 

桐生は寝床に横になり、静かに目を閉じる。

 

明日もまた、面倒な一日になるだろう——

 

そんなことを思いながら、桐生はゆっくりと眠りに落ちていった。

 

朝日が差し込み、眩しさと共に桐生一葉は目を覚ました。

 

「……もう朝か」

 

昨晩の疲れはまだ完全に抜けきっていないが、無人島試験の二日目が始まった。

 

周囲では、すでに何人かの生徒が起き始めており、桐生もその流れに乗るように立ち上がる。

 

「おはよう、桐生さん」

 

「ああ、おはよう」

 

適当に挨拶を交わしながら、顔を洗うために川へ向かう。途中、Bクラスの神崎たちと出くわし、軽く言葉を交わした後、朝の点呼へと向かった。

 

そして、その後。

 

Dクラスの生徒たちが自由行動に移った頃、突然、須藤の怒鳴り声が響き渡った。

 

「何しに来やがった!」

 

「……何だ?」

 

嫌な予感がしながらも、桐生は騒ぎの元へ向かう。

 

そこにいたのは、見覚えのある二人の男——Cクラスの小宮と近藤だった。

 

「Dクラスがどんな様子か見に来たら、随分とけちくさい暮らしをしてるもんだなぁ」

 

手にはスナック菓子や炭酸飲料。あからさまな挑発をしながらニヤつく二人に、須藤がさらに詰め寄るが、桐生が先に口を開いた。

 

「何しに来たオマエら?」

 

すると、近藤が今にも噛みつきそうな勢いで睨みつけてきた。

 

「桐生、てめえ、……!!」

 

「おい、落ち着け近藤!」

 

小宮が近藤を制し、Dクラスに向かって告げる。

 

「お前ら、俺達Cクラスのキャンプ地に来てみやがれ!貧乏臭い生活をしてるDクラスとは違って、俺達は夏休みを満喫してるからな。龍園さんからの伝言だ!」

 

——龍園

 

あの男が何を考えているのか、桐生は少し考え込んだ。

 

そして、Cクラスの二人はそのまま捨て台詞を吐き、キャンプ地へと戻っていった。

 

「桐生、アイツらと何かあったのか?」

 

綾小路が静かに尋ねる。

 

「少し前に、アイツらと戯れただけだ」

 

「……戯れ?」

 

綾小路の目がわずかに驚きを含んだものの、すぐに納得したように小さく頷いた。

 

「まぁ、無事だからここにいるんだろうな」

 

その後、平田に「ちょっとCクラスの様子を見てくる」と伝えた。すると、綾小路と堀北もついてくることになった。

 

そして、Dクラスのキャンプ地を後にし、Cクラスの浜辺へと向かった。

 

 

 

到着した浜辺は、まるで試験の場とは思えない光景だった。

 

生徒たちは自由に夏を満喫し、バーベキューを楽しむ者、海で泳ぐ者、果てには水上バイクで遊ぶ者までいる。

 

「嘘でしょ……」

 

堀北は何度も「あり得ない」と呟いていた。

 

“試験じゃなかったら、普通に学生グループのバカンスだな”

 

桐生もこの光景には若干呆れながら、目的の人物へと目を向けた。

 

龍園翔は水着姿でビーチチェアに寝そべり、横には大柄なアルベルトが大きな葉で仰いでいる。完全に”王”の構図だった。

 

「随分と羽振りが良いわね。相当豪遊しているようだけれど」

 

堀北が鋭い視線を向ける。

 

「見ての通りだ。俺たちは夏のバカンスってやつを楽しんでるのさ」

 

龍園は手を広げ、周囲の”楽園”を見せつけるように笑う。

 

「これは試験なのよ。それがどういうことだかわかっているの? ルールそのものを理解していないんじゃないかと呆れているのだけど……」

 

「ククッ、何とでも言えよ」

 

龍園はまったく意に介さない様子で笑い、堀北との会話が続く。

 

その中で、桐生は不意に声をかけた。

 

「龍園、オマエはこの娯楽のためにどれくらいポイントを使った?」

 

龍園は不敵な笑みを浮かべる。

 

「さぁな。ちまちま計算なんてしてねーよ」

 

“まぁ、コイツがいちいちポイントなんて考えないか……ここまで消費して”

 

「呆れを通り越して感動まで覚えるわね……」

 

堀北が呆れ果てたように呟く。

 

「ククッ、なんとでも言えば良い……どうだ、お前ら、一緒に遊ばないか?最高の気分にさせてやるよ」

 

   •誘いを受ける←

   •誘いを断る

 

桐生は軽く考えた後、口を開いた。

 

「そうだな、少し遊んでいくのも悪くないな」

 

その言葉に、堀北と綾小路が驚いたように反応する。

 

「桐生さん!?」

「桐生?」

 

まさかこの場で龍園の誘いを受けるつもりなのかと、堀北は思わず眉をひそめる。綾小路も驚きこそすれど、すぐに何かを考えるような表情に変わった。

 

しかし、龍園が愉快そうに笑い声を上げる前に、桐生はそれを遮るように続ける。

 

「と言いたいが、オマエの側近達はあまり歓迎的じゃないから辞めておく」

 

そう言いながら、桐生はちらりと周囲に目を向けた。

 

龍園の背後に控えるCクラスの側近たち——そのほとんどが、桐生を睨みつけるような視線を送っていた。敵意こそむき出しにはしていないが、油断ならない雰囲気を漂わせている。

 

「……なるほど」

 

桐生に向けられるCクラスの視線。それを感じ取っていたのは、堀北と綾小路も同じだった。

 

違和感の正体に気づいた堀北は、無意識に腕を組む。綾小路もまた、静かに状況を見極めようとしていた。

 

2人は気づいていなかったが——この鋭い視線は、バーでの一件で桐生がCクラスの側近たちを叩きのめしたことが原因だった。

 

あのアルベルトですら、一歩引いたように見える。

 

その事実に、龍園はニヤリと口元を歪めた。

 

「クク……相変わらず面白れぇな、桐生」

 

まるで何かを楽しむかのように、龍園は桐生を見つめながら言った。

 

桐生達が帰ろうとしたときCクラスの近藤が龍園に何か耳打ちすると、龍園は面白そうに口角を上げた。

 

「桐生、少しゲームをやらねーか?」

 

突然の提案に、桐生は軽く眉を上げる。

 

「ゲーム?」

 

「そうだ。シンプルな勝負だ」

 

龍園はゆったりとした動作で立ち上がると、ビーチチェアの横にあったドリンクを手に取り、一口飲んでから続けた。

 

「ルールは簡単だ。うちの近藤と戦って、勝てば高級肉をくれてやる」

 

龍園が指を向けると、近藤がニヤリと笑いながら前に出る。

 

桐生はちらりと近藤の方を見やる。

 

“なんのつもりだ?”

 

確かに以前に一度やり合った相手だが、正直そこまで印象に残るような強さではなかった。何か仕掛けてくる可能性はあるが——

 

「必要ないわ」

 

堀北が即座に割って入った。

 

「そんな勝負、するだけ無駄よ。仮に勝ったとしても、それが何になるの?」

 

冷静な言葉だったが、それが龍園を止めるはずもない。

 

「これは桐生に話してんだ。横から口出すなよ」

 

龍園は堀北の言葉を軽く流しながら、再び桐生に向き直る。

 

「で、どうする?まさか逃げるってわけじゃねえよな?」

 

桐生は小さく息をつき、頭を軽く回した。

 

「……いいぜ。やってやろう」

 

そう言って、ゆっくりと一歩前に出る。

 

近藤は待ってましたと言わんばかりに肩を鳴らした。

 

「桐生、テメェにはあの時の借りがあるからな、返させて貰うぞ!」

 

「やる気は十分あるみたいだな」

 

龍園は口元を歪めながら、手を叩いた。

 

「ククッ……じゃあ、始めるぞ」

 

こうして、近藤との勝負が幕を開けた。

 

 

《高度育成高等学校 1年Cクラス 近藤玲音》

 

近藤が構え、桐生も《不良スタイル》の構えを取る。

 

砂がわずかに舞い上がると同時に——近藤が吠えるように踏み込んできた。

 

「うおおおおっ!!」

 

一直線に突き出された拳。

 

“速い……けど、単調だ”

 

桐生は冷静に見極める。

 

拳が頬をかすめるギリギリのタイミングで、上半身をひねって回避。そのまま右足を軽く引き、重心を安定させる。

 

「なっ——」

 

近藤が拳を空振りした瞬間、桐生のカウンターが炸裂する。

 

「ハッ!」

 

右拳が、近藤の腹にめり込んだ。

 

「ぐっ……!!」

 

近藤の体が弓なりに折れ——そこにさらに畳みかけるように、桐生は回し蹴りを放つ。

 

しかし、足場は砂。踏み込みがわずかにズレた。

 

「……っ!」

 

一瞬、体勢が崩れる。

 

“クソ、足場が悪い……”

 

その隙を見逃さず、近藤が拳を振り抜いた。

 

「くっ……!」

 

鈍い衝撃が桐生の脇腹を打ち抜く。

 

その瞬間、Cクラスの面々が一斉に歓声を上げた。

 

「ナイスだ近藤! そのままいけ!」

「ほらほら、言うほど大したことねぇじゃねぇか!」

 

だが、桐生の表情は微塵も揺るがない。

 

むしろ、その勢いを利用する。

 

拳の衝撃を受けた反動を逆手に取り、近藤の胸元をガシッと掴む。

 

「は……?」

 

“”この戦い方……””

 

堀北はハッとする。見覚えがあった。堀北の記憶が正しければ桐生の次の行動は一つ、

 

「ハァ!!」

 

桐生の額が近藤の顔面に炸裂した。

 

「ぐあっ!!」

 

桐生の動きに一瞬、不良スタイルの特徴が現れ近藤の体が大きく揺らぎ、鼻を押さえながら後ずさる。

 

桐生は一歩踏み出した。

 

「まだやるか?」

 

近藤は息を荒げながら桐生を睨むが、明らかにさっきまでの勢いはない。

 

周囲のCクラスの生徒たちも騒ぎを止め、静かに様子を伺っている。

 

「……クソが……!」

 

鼻血を拭いながら、近藤は悔しそうに顔を歪めた。

 

近藤はこの日のために、相当なトレーニングを積んできた。桐生に一度は敗れたことを心の中で悔やみ、リベンジを誓っていたのだ。以前より速く鋭くなった動き、そして確かな自信が彼の姿から滲み出ていた。

 

桐生もそのことを感じ取っていた。近藤のパンチは、前回戦った時とは比べ物にならないくらい速かった。打撃が桐生の脇腹に食い込んだ瞬間、その痛みがしばらく残る。

 

確実に、近藤は成長している。それでも桐生には余裕があった。

 

殴り合いの応酬が続くも徐々に差が出始めていた。

 

「せェイッ!!」

 

桐生の放った後ろ蹴りが近藤の腹にめり込むようにヒットする。

 

「ぐほっ!?」

 

近藤は後ろに大きくのけ反る。だが、すぐに踏み込んできた。

 

「テメェッ!!」

 

怒りのこもった右の拳が、桐生の顔面めがけて突き出される。

 

桐生はスウェイで後ろに体を引く。

拳はギリギリで空を切り、その勢いのまま近藤の上半身が前に流れた。桐生は鋭く左足を踏み込み、懐へ潜り込む。

 

「ラアッ!!」

 

絞り込むようなレバーブローが、近藤の肝臓へ突き刺さった。

 

「ぐっ……が……ッ!!」

 

近藤の体がビクッと跳ね上がる。

肝臓に突き刺さる衝撃と、そこから全身に広がる鈍い痛み。息が止まり、脚に力が入らなくなる。

 

近藤は膝から崩れ落ちた。桐生は近藤の顔に足底をのせ砂浜に後頭部を叩きつける。

 

「ウラッ!!」

 

「ガハッ!」

 

 

《追い討ちの極み•表》

 

 

桐生は左手で近藤の髪を引っ張り、

 

「ハッ!オラァッ!」

 

上半身が少しだけ起き上がっているようにし右拳で近藤の顔面を力強く殴る。

 

「グオッ!」

 

鈍い衝撃音が響き、近藤の頭が大きくのけ反る。

 

衝撃で砂が舞い上がり、Cクラスの連中が思わず息をのむ。

 

近藤は砂の上に崩れ落ちたまま、動かなかった。Cクラスの連中も、騒いでいた口を一斉に閉じる。

 

「……終わりか」

 

桐生は肩を軽く回しながら呟いた。

 

「……チッ」

 

龍園が舌打ちをする。だが、特に悔しそうな様子もなく、むしろ楽しげに口角を上げていた。

 

「ククッ……見事なもんだな。約束どおり、高級肉はくれてやるよ」

 

そう言うと、部下の一人がクーラーボックスを持ってきた。中には、Dクラスの食材とは比べものにならないほどの立派な肉がぎっしり詰まっていた。

 

「さて、これで用は済んだな」

 

堀北が冷ややかに言い放つ。

 

「行きましょう桐生さん」

 

「ああ」

 

桐生はクーラーボックスを担ぎ上げ、綾小路たちとともにCクラスのキャンプ地を後にした。

 

背後から龍園の含み笑いが聞こえたが、誰も振り返ることはなかった。

 

“食事には困らなそうだな...”

 

Dクラスは思わぬ形で豪華な食材を手に入れたのだった。

 

 

 




マニュアルに暴力は禁止と書いてありますが両者の合意の上でやっているという感じでお願いします。

近藤くんには大幅強化が入りました。
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