高育が如く   作:レゾリューション

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本ッッッ当に更新遅れて申し訳ないです。スランプになりどうやって書こうか分からなくなってしまいました。

今回桐生ちゃんの喧嘩シーンはありません。※次回は必ずあります。


疑惑と確信

桐生達三人がベースキャンプへと戻ると、クラスメイトたちはすでにテント周りで作業を進めていた。だが、堀北が持ち帰ったクーラーボックスの中身を見せた瞬間──

 

「うおおお!? なにこのサイズ!」

 

「デカっ!マジで釣ってきたのかよ!」

 

「これハマチじゃね!? うわ、ヤッバ……!」

 

クラス全体がどよめきに包まれた。中には興奮して飛び跳ねるやつもいるもいた。

 

2日目の夕食は豪華だった。釣ってきた魚、そして桐生が以前確保していた肉。それらを囲んで、キャンプ経験がある池が火を起こし、手際よく焼いていく。もちろん味付けは豪華とはいかない。だが、海水を汲んで沸騰させ、即席で作った“手作りの塩”をふりかけるだけで──

 

「うっま……!なにこれ、やばい」

 

「シンプルなのに、すっごい贅沢してる気分……」

 

「なんかさ、キャンプって感じするよな!」

 

普段、コンビニ弁当や山菜定食で済ませていた生徒たちには、これ以上ないごちそうだった。

 

火の明かりに照らされた輪の中で、笑い声と煙が立ち昇る。桐生はそんな様子を少し離れた場所から見つめ、静かに一息ついた。

 

「……まあ、悪くないな」

 

いつも通り淡々とした口調ではあったが、口元にはわずかに笑みのようなものが浮かんでいた。堀北もその様子に気づいたが、何も言わず同じように火を見つめていた。

 

こうしてDクラスの夜は、ささやかだけど確かに“成功”と言える時間として静かに更けていった。

 

“このまま、上手くいくといいな....”

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、三日目、四日目と時間は穏やかに過ぎていった。

 

日を追うごとに生徒たちは環境に慣れ、それぞれが役割を見つけて動くようになっていた。スポットの占有も順調で、釣りや探索によって食料の確保も進み、ベースキャンプはそれなりに賑やかで、活気があった。

 

もちろん、男女間で意見の食い違いはあった。

「水の使い方が荒い」とか「料理係を女の子ばかりに押しつけてない?」とか、ちょっとした言い合いになることもあったが──それでも、以前のようなギスギスした空気は薄れつつあった。

 

少しずつ、でも確かに。

バラバラだったDクラスが、一つの“チーム”としてまとまり始めていた。

 

──だが

 

五日目の朝。

その雰囲気を壊す最悪の出来事が、突如として起きてしまう。

 

 

 

青い空が広がる中、ベースキャンプ地はいつもより静かだった。鳥の鳴き声も、波の音も、やけに遠く感じる。

 

そんな空気を切り裂くように、テントの外から声が飛んできた。

 

「桐生さん、ちょっと良い?」

 

低い声にまどろみから引き戻された桐生は、ゆっくりと目を開ける。声の主は佐藤だった。その顔には、どこか張り詰めたようなものがあった。

 

「……ん?佐藤か、どうかしたのか?」

 

そう問いかけた瞬間、微かに誰かのすすり泣く声が聞こえた。聞き覚えのあるその声に、桐生の眉がわずかに動く。

 

“……軽井沢、か?何があった?”

 

佐藤は少し躊躇ってから、ポツリと事情を語り出した。

 

「実はね……軽井沢さんの、下着が盗まれたの」

 

「…なに?」

 

寝ぼけた頭が一気に冴える。言葉の意味を疑ったが、佐藤の真剣な表情がそれを否定した。

 

「さっき見つからないって泣き出して……すごくショックだったみたい」

 

「……目星は?」

 

「篠原さんたちは男子の誰かがやったって言ってる。でも、まだ確証はないの。私も正直、信じられない」

 

その時だった。佐藤の背後から現れた篠原たちが怒りに満ちた表情で、男子のテントへと向かっていく。彼女たちの足取りには迷いがなかった。桐生も、少し距離を取りながらその後を追う。

 

“まだ男子と決めつけるには早い……が、こうなると止められそうにないな”

 

女子たちは怒鳴るように男子のテント前に立ち、声を張り上げる。

 

「ちょっと男子、集まってもらえる?」

 

「いつまで寝てんの!早く起きなさいよ!」

 

最初に出てきたのは平田だった。寝起きの顔で状況を把握しようとする。

 

「どうしたの?」

 

「……悪いけど、男子全員起こしてもらっていい?ちょっと、大変なことが起きたの」

 

平田の顔が引き締まる。何かを察したのだろう、すぐにテント内へと引っ込んで仲間たちを呼び出す。

 

やがて綾小路、池、山内らが顔を出す。誰もが眠そうな目をしていたが、女子たちのただならぬ雰囲気に戸惑いを隠せない。

 

「それで、何があったの?」

 

そう尋ねた平田に代わり、篠原が前に出て鋭い視線を男子たちに向けた。

 

「今朝、軽井沢さんの下着がなくなっていたの。それが、どういう意味か分かる?」

 

その場に一瞬、重い沈黙が落ちた。平田の顔も強ばる。

 

「え……下着が……?」

 

「今、軽井沢さんは泣いてるのよ。櫛田さんたちがついてるけど……あんなに泣いてるの、初めて見た」

 

池が顔を青くしながら手を上げる。

 

「ちょっと待ってくれよ。なんで俺たちが疑われてんだ?」

 

「決まってるでしょ。夜中にこの中の誰かが、外に置いてあった荷物を漁ったに決まってるからよ!。盗ろうと思えば、誰にだってできたんだから!」

 

その言葉に、男子たちは完全に目が覚めた。

 

池は完全にパニックだった。

 

「いやいやいやいや!?え!?え!? なんで俺!?」

 

彼は両手をブンブン振りながら、綾小路と周囲の男子を交互に見て叫んだ。

 

その時、誰かがぽつりと呟いた。

 

「そういや池、昨日……遅くにトイレ行ったよな? 結構時間かかってたし」

 

「あ? いや、それは……! その……暗かったから苦労してただけだって!」

 

池の焦りが逆に怪しさを増す形となり、別の男子が一歩踏み出す。

 

「ほんとかよ。軽井沢の下着、盗んだのお前じゃねーの?」

 

「バ、バカ言ってんじゃねえよ! 違うって! 俺、そんなんするわけねえだろ!」

 

池は大声で否定するが、まわりの目は疑いに染まりつつあった。まだ決定的な証拠はない。けれど、ただ一人浮き上がった「行動の不審さ」だけで、池はすでに犯人の候補としてマークされてしまっていた。

 

「ちょっと待てって! 俺ほんとに違うからな!? 綾小路! お前は信じてくれるよな!」

 

綾小路は池に押される形で「ああ」と頷いた。

 

その空気に痺れを切らしたように、篠原が前に出る。

 

「とにかく、これって凄く大問題だと思うんだけど?」

 

その声には怒りが混ざっていた。

 

「下着泥棒がいる人たちと、同じ場所で生活なんて……無理に決まってるでしょ。気持ち悪いし、怖いし」

 

篠原はキッと平田を見据える。

 

「だから平田くん。何とかして、犯人見つけてくれないかな?」

 

周囲の視線が一斉に平田に向く。クラスの「良心」として信頼される彼に、重い決断がのしかかろうとしていた。

 

「それは────でも、男子が盗ったって証拠はないんじゃないかな……軽井沢さんが、うっかりどこかに置き忘れた可能性もあるかもしれないし」

 

平田が慎重に言葉を選びながら口を開いた。だが、女子たちの空気は既にそんな理屈を受け入れられる雰囲気ではなかった。

 

「そうだそうだ! 俺たちは無関係だ!」

 

池が勢いよく便乗するが、それが逆効果になるのは明白だった。

 

「僕は……この中に犯人がいるとは思いたくないよ」

 

平田の静かな一言に、場の緊張がわずかに揺れる。しかし篠原は一歩も引かない。

 

「平田くんが犯人じゃないのは、わかってる。でも……とりあえず男子全員、荷物検査させて。潔白なら見せられるでしょ?」

 

「は? ふざけんなよ。そんなことする必要ないだろ」

 

男子の一人が強く反発する声を上げたが、平田は冷静な口調でその声を制した。

 

「ひとまず、僕たち男子で集まって、ちゃんと話し合ってみる。……少しだけ時間をもらえないかな」

 

その言葉に、篠原はしばらく睨みつけたまま黙っていたが、やがて小さくため息をついて頷いた。

 

「……わかった。軽井沢さんにも、ちゃんと伝える。けど、犯人が見つからなかったら……私たちにも、それなりの考えがあるから」

 

無言の圧力を残して女子たちは引き上げる。その一部始終を桐生も後ろから見守っていた。

 

桐生もまた、距離を取るように女子たちについていき、男子たちは動揺を隠せないままその場に取り残された。

 

女子たちはテントの前に自然と集まり、ざわめきが広がる。

 

「ほんっと最低。こんなの許せないんだけど」

 

「もう私、無理……平田くん以外の男子とか、マジで信用できない……」

 

怒りと不安に満ちた声が、次々と漏れていく。

 

桐生は少し離れた位置で、その様子を黙って見ていた。

誰もが昨日まで笑い合っていた光景を忘れたかのように、今はただ怒りと不信感を募らせている。

 

“信用を得るのは難しいが、失うのは本当に一瞬だな”

 

心の中でそう呟きながら、桐生は苦い現実を噛み締めていた。すると、

 

「桐生さん、あなたはこの事をどう考えているの?」

 

堀北に声をかけられた。彼女の問いかけは、ただの意見交換には思えなかった。どこか探るような、あるいは答え合わせをしているような視線を感じながら、桐生はわずかに目を細める。

 

「そうだな……」

 

 

•男子が盗んだに間違いない

•男子が盗んだと決めつけるにはまだ早い←

•全く分からん

 

 

「私的には、男子が盗んだと決めつけるにはまだ早いと思う」

 

答えを告げた瞬間、堀北の表情がわずかに緩む。納得というよりも、期待通りといった様子だった。

 

「そうね。あの状況で男子が盗んだとしたら、すぐにバレるのが関の山。リスクの割に得るものが無さすぎるわ。……むしろ、軽井沢さんのことをよく思っていない女子がした嫌がらせ。そっちのほうがまだ現実味があるわ」

 

言いながら、堀北の視線はふと横へ逸れた。目線の先にいるのは、他の女子たちから少し距離を取って、ひとり黙って立っている伊吹。

 

「ただ────彼女、少し気になるわね」

 

伊吹は何も言わず、感情も読ませず、その場の騒ぎに対して一切関心がないかのように振る舞っていた。周囲とは明らかに違う温度を持っている。

 

桐生も視線を向け、伊吹の無表情な横顔をじっと見る。

 

“犯人かどうかは分からない。だが……この騒ぎに対して何の感情も抱いていないように見えるのは、少し……おかしい”

 

波音が微かに聞こえる中、桐生と堀北の視線が、無言のまま伊吹を捉えていた。

 

「ねえ見て……なんかあの2人怪しくない……?」

 

女子のひとりが声を潜めながら、ある方向を示す。視線の先には、沈黙して肩をすくめるようにしている池と山内の姿があった。

 

「うわ……池くんと山内くんじゃん。確かにあの2人なら女子の下着とか盗みそう……」

 

「4月の時に、あんなことする連中だしね。あの時は桐生さんが黙らせたからよかったけど……」

 

“アレか……”

 

桐生は話を聞いていて、嫌でもその記憶を思い出していた。――水泳の授業の時のことだ。誰の胸が一番大きいか、なんていう最低な賭けを持ちかけようとした池と山内、ついでに博士。あの時は事前に桐生が止めに入って、ことなきを得たが、その話は女子もいる中で堂々と言っていた為、二人の印象は地に落ちた。

 

そして、今。また同じような“女性への不快感”が絡む騒ぎで、名前が挙がっている。

 

“……こういう時、日頃の行いってやつが一番物を言うんだな”

 

もちろん、今回の件で直接的な証拠があるわけじゃない。けれど、過去の行動が尾を引いて、彼らを批判する者は多い。

 

「まともな男子なんて平田くんしかいないよ……」

 

女子の声が、やけにリアルに桐生の耳に残った。疑いと不信感が、少しずつ、クラスの空気を濁らせていく。言葉ではなく、視線が、態度が、じわじわと男子を追い詰め始め、ベースキャンプの中心に、どす黒い雰囲気が立ち込めていた。

 

平田が池と山内の荷物をそれとなく確認したが、下着は出てこなかった。それでも女子たちの疑念は晴れることなく、全員が顔を突き合わせる形で集まり、空気は張りつめていた。

 

軽井沢はすでにテントの外に出ており、その目は真っ赤に腫れていた。泣きはらした瞼の奥にあるのは、怒りと失望の混じった感情。

 

「男子は信用できない。このまま同じ空間で過ごすなんて絶対無理……!」

 

桐生はその叫びを聞きながら、胸の内で呟いた。

 

“……下着盗まれた本人からすれば、当然か”

 

だが、それでも割り切れない空気はあった。

 

「でも、男女で離れて生活するのはちょっと問題じゃないかな……。試験はもう少しで終わる。だからこそ、僕たちは仲間なんだから信じ合って協力しないと」

 

平田の冷静な言葉が場に響くが──

 

「でも下着泥棒と一緒の場所なんて耐えられない!」

 

軽井沢は叫び、涙交じりに首を振る。そして、篠原が静かに木の枝を拾い、地面に一本の線を引いた。

 

「私たちは犯人が男子だと思ってる。だからここに線引きして男子と女子エリアを分けるから。男子はこっち側に絶対立ち入り禁止ね」

 

当然男子たちから一斉にブーイングが起きる。

 

「んだよそれ。俺たちを勝手に犯人扱いしやがって。荷物検査も身体検査も受けただろ?」

 

「鞄に隠してたとは限らないでしょ? 男って変態だし」

 

女子たちは男子にテントの移動を要求。さらには──

 

「それからシャワー室も使わないでよね。変態の泥棒がいるかもしれない男子に使わせるなんて冗談じゃないし」

 

「そーかよ。じゃあお前らでテントとか動かせよ。俺たちは動かないし、手伝わないからな」

 

「へっ。お前らにテントの杭とか打ち込めるのかよ」

 

言葉の棘が互いに突き刺さり、空気が明らかに悪くなっていく。まるで、分裂が現実になっていくようだった。

 

「ねえ、平田くん。軽井沢さんのためにも手伝ってもらえる?」

 

桐生の眉がぴくりと動く。

 

“……流石に平田贔屓過ぎないか?”

 

それでも平田は、穏やかに頷いた。

 

「……わかった、僕が手伝うよ」

 

「けっ、平田だけ特別扱いかよ。平田だって犯人かもしれねぇのに」

 

「は?平田くんが犯人なわけないじゃん。バカじゃないの、死ねば?」

 

「ふざけんなよ軽井沢!彼氏だから犯人じゃないとか、根拠になんねーし!」

 

池たちが文句をぶつけるが、軽井沢と篠原はそれを聞き流し、話を進めようとしていた。

 

そこに静かに一石を投じる声。

 

「ちょっと待って。あなたたちに異議を唱えるわ。特に軽井沢さん」

 

堀北だった。冷静な口調の中に、確かな怒りがにじんでいる。

 

「なによ堀北さん。今の話に不満あったわけ?」

 

「男女の生活区間を変えるまでは構わないわ。けど、平田くんだけが特別に女子のエリアに入って構わないルールを作るのは納得がいかないわね」

 

「平田くんがそんなことするわけないでしょ。それくらい分かんない?」

 

「それはあなたの考え方でしょう? 私にまで同じ考えを強要しないで」

 

雰囲気はさらに悪くなり、誰もが口をつぐんだ。そんな中、篠原と軽井沢が桐生を振り返る。

 

「桐生さんはどう思う?」

 

その瞬間、男子たちは「桐生に投げやがった」と思ったかもしれない。篠原たちが“最終兵器”として彼女に意見を求めた時点で、誰もが覚悟していた。

 

桐生は一歩前に出て、はっきりと口を開いた。

 

「私も、男女で生活区分することには反対はしない。犯人が分からない以上、そうするのが妥当だ」

 

女子たちがうなずく。

 

だが桐生は続ける。

 

「ただ──篠原、軽井沢。お前らは男子を犯人と決めつけて生活を分けた。分けたのなら、男子はもう関係ない。テントの移動も力仕事も全部、自分たちでやるべきだ。男子は“信用できない”から排除したんだろ?」

 

場の空気がじわりと変わる。女子たちの表情に、戸惑いが浮かぶ。

 

「にも関わらず、都合の悪い時に平田に助けを求める。それは……あまりにも都合が良すぎるんじゃないのか?」

 

桐生の声は淡々としていたが、その一言は確実に場を揺るがした。

 

「疑って排除した相手に、都合のいい時だけ手を貸せって? それは“仲間”でも“協力”でもない。ただの”利用”だ」

 

男子たちの間に、小さなざわめきが走る。女子たちは一瞬言葉を失い、軽井沢も唇をかすかに震わせた。篠原も視線を逸らすようにして、下を向く。

 

桐生は一歩踏み出して、静かに言葉を続けた。

 

「線を引いたのはお前らだ。それなら、その責任も引き受けるべきだろ」

 

その言葉に、誰も即座に反論できなかった。場の空気が、また一段階重くなる。だがその重さは、今までのギスギスとは少し違っていた。ちゃんと考えなければいけないという、静かな圧力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、平田が自分から手伝いを申し出たので女子の意見が通る形になった。平田はもちろんのこと、男子の中でも“人畜無害そう”というありがたくも微妙な評価を受けた綾小路が、堀北の推薦もあって手伝い要員として選抜された。

 

「まあ……確かに綾小路くんなら女子に手出しするイメージないよね、チキンっぽいし」

 

「虫とか黙って逃がしてそう」

 

「寧ろ、人に興味なさそう」

 

“酷い言われようだな、綾小路”

 

そんな失礼な言葉を背中で受けながらも、綾小路は特に反論もせず淡々とテントの一部を担いで歩いていた、が少し落ち込んでいるようにも見えた。平田は安定の“信頼枠”として当然のように隣にいて、その後ろで桐生は作業を進めていた。

 

「……よし、そこに置いてくれ」

 

テントが地面に下ろされると、桐生は持っていたペグを手に取り、無造作に腰を落とす。そのままハンマーを構えて、ガツン、と地面に一撃。乾いた音が一つ響いた。

 

“面倒なことになったな....”

 

そう思いつつも、文句を言わず手を動かすあたりが桐生らしい。傍らでは綾小路が小声で「なんで選ばれたんだろうな……」とぼやいていた。

 

周囲は依然として気まずい空気に包まれていたが、ひとまず生活エリアの分断作業は、淡々と進んでいた。

 

日が完全に昇り、あっという間に炎天下。ジリジリと肌を焼くような日差しに、桐生と綾小路は無理に動くのは身体に悪いと判断し、木陰で静かに体力の回復に努めていた。

 

「ちょっといい?」

 

不意にかけられた声に、綾小路が顔を上げる。声の主は伊吹澪だった。額に汗を浮かべ、どこか気だるそうに立っている。

 

「下着泥棒の件、なんていうか……大変そうね」

 

「まあな。いろいろと、苦労は絶えないな」

 

綾小路が返すと、伊吹は鼻で笑った。

 

「あんな風に疑われたら、たまったもんじゃないでしょ」

 

綾小路は肯定する。

 

「どんな理由があれ、女の下着を盗むなんて同じ女として許せない。…あんたもそう思うでしょ?」

 

「そうだな」

 

桐生は短く返す。

 

「じゃあさ、あんたたちは誰が犯人だと思ってるの?」

 

伊吹の声にはどこか試すような響きがあった。まるで綾小路たちの考えを探ろうとしているかのような。

 

「さあな。ただ……オレとしては男子を疑いたくはない」

 

「同意見だ」

 

綾小路と桐生の言葉に、伊吹はふっと笑った。

 

「それなら、一番怪しいのは私よね?他のクラスから来た“よそ者”だし。疑われたって不思議じゃない。もしかしたら、男子がやったように見せかけたかもしれないって──違う?」

 

言葉の端に、ほんの少し自嘲が混じっていた。疑われることを覚悟している、そんな表情だった。

 

“そう思われるのが普通か、この状況なら”

 

伊吹の言っていることは、確かに筋が通っている。

 

 

 

だからこそ、桐生は引っかかった。

 

 

 

自分から疑いの目を向けられる事を口に出す必要があったのか、まるで“疑われて当然の存在”であると、あらかじめ自分で印象を操作しているように桐生は聞こえた。

 

そんな思考の中で、綾小路が口を開く。

 

「少なくともオレは──信用するかな。お前が犯人だとは思えない」

 

綾小路がまっすぐに目を見てそう告げると、伊吹はわずかに目を見開いたが、すぐにそらさずその視線を受け止めた。

 

「……ありがと。そんなふうに言ってくれるとは思わなかった」

 

それだけ言うと、伊吹は踵を返して去っていった。彼女の背中を見送った後二人は作業を再回する。綾小路と桐生は互いに言葉を交わさなかったが──もう結論は出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽井沢の下着を盗み、男子が疑われるように仕向けたのは──伊吹澪だ。

 

疑惑ではない。確信だった。

 

 

 




桐生ちゃんが男子とは無関係だと言ったシーン、書いていてなんか既視感があるなと思ったらMGSV TPPの《ボートを用意しろ》でした。

次回で無人島編は終わります。前にも言いましたが喧嘩シーンは必ずあります!ご期待ください!

なるべく早く投稿します。(震え声)
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