高育が如く   作:レゾリューション

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テストで更新遅くなりました。今回は説明回であり桐生ちゃんの過去に少しだけ触れる回。

喧嘩シーンありません。


過去ともう一つの特別試験

無人島での過酷な試験を終え、生徒たちは豪華客船に戻っていた。束の間の自由時間ということもあり、甲板ではしゃぐ者、部屋で寝こむ者、各々が思い思いに身体を休めていた。

 

桐生もその一人だった。

別に誰かと約束していたわけでもない。ただ気まぐれに、ふらりとデッキに出ていた。

潮風が心地よく、ぼんやりと海を眺めながら船内を歩いていると、ふいに声をかけられる。

 

「──あ、桐生さん! ちょっといい?」

 

振り返れば、屈託ない笑顔の櫛田が手を振って近づいてくる。

 

「どうした?」

 

桐生の問いに、櫛田は苦笑いを浮かべながら言った。

 

「実はね、Bクラスの友達が今日誕生日なんだけど、私うっかりプレゼント買いそびれちゃって……。でも一人で買いに行くのもちょっと不安でさ、近くに桐生さんがいたから声かけたの。桐生さん、プレゼント選び手伝ってくれると嬉しいんだけど....」

 

“前にもこんな事あった気がするな....”

 

 

   •分かった、付き合おう←

   •無理だ

 

 

「分かった、付き合おう」

 

「本当⁉︎ありがとう」

 

 

櫛田と桐生は、船内に設けられたショッピングモールへと向かっていた。

無人島での試験とは打って変わって、明るく清潔な空間には音楽が流れ、制服姿の生徒たちがのんびりと歩いている。

 

そんな中、隣を歩く桐生の存在感は相変わらずだった。無言で歩くだけでも周囲に緊張感を与えるような雰囲気をまとっている。

 

ふと、櫛田が口を開いた。

 

「ねえ、桐生さんってさ、喧嘩すごく強いじゃない? ジムとかで鍛えてたりするの?」

 

何気ない話題のつもりだった。けれど、返ってきた答えはあまりにもあっけらかんとしたものだった。

 

「特別、鍛えるようなことはしてない」

 

「……え?」

 

思わず声が漏れる。冗談かと思ったが、桐生の横顔は真剣そのものだった。

あの体を、何もせずに手に入れたとは到底思えない。

 

無人島試験、水泳の授業で見た彼女の体格は他の女子とまるで違っていた。無駄のない筋肉のつき方、バランスの取れた骨格あれはジムどころか、アスリートレベルの鍛え方だと思っていたからだ。

 

櫛田が戸惑っていると、桐生がさらりと付け加えた。

 

「けど、喧嘩は毎日してたな。一日に……9回とか、10回とか。ざらにあった」

 

何でもないことのように言ってのける彼女の声には、特別な感情はこもっていない。

ただ、事実として語っているだけだった。

 

櫛田は一瞬、言葉に詰まった。

“喧嘩9回、10回が日常”なんて感覚は、自分の中の常識からあまりにもかけ離れている。

 

「……そっか」

 

とりあえずそう返すのが精一杯だった。

 

“まぁ、毎日喧嘩ふっかけられるあの街(神室町)がおかしいだけか....”

 

 

店内はどこか外国の市場のような雰囲気が漂っていた。色とりどりの雑貨や香水、アクセサリーにぬいぐるみ……目移りするほどの商品が並ぶ。

 

「うーん、何がいいかなぁ」

 

櫛田はあれこれと商品を手に取りながら、横目で桐生の様子をうかがっていた。

 

桐生は特に興味を持つでもなく、ただ櫛田の後を静かに歩いている。その無表情は警戒しているのか、ただ無関心なのか、読み取るのが難しい。

 

ふいに、櫛田がそれとなく話を振った。

 

「桐生さんって、やっぱり中学の頃から強かったの?」

 

桐生は立ち止まり、小さな置き時計を手に取りながら答える。

 

「あぁ、まあ……あの頃は力任せに戦っていたけどな....」

 

「あはは、それでもすごいと思うよ?でも、喧嘩ってそんなに簡単に強くなれるもんなの?」

 

櫛田は笑いながら言ったが、声のトーンにはわずかな鋭さがあった。“桐生一葉という人間”に興味を持っている、という体を取りつつ、彼女のバックグラウンドを探る意図がある。

 

だが桐生は、気付いていないのか、あるいは気付いていても意に介さないのか、あっさりと返す。

 

「別に強くなろうと思ったわけじゃない。ただ、そうしてなきゃ生きていけなかっただけだ」

 

“じゃなきゃあの世界(東城会)で生き残れないからな....”

 

その言葉に、櫛田はふと目を細めた。

 

「……そういう環境だったんだ?」

 

「ああ。喧嘩は、日課だったからな」

 

軽く言うが、どこか物騒な言葉だ。

だがそれを不自然に思わせないあたり、桐生の持つ雰囲気はただものではない。

 

「……そっか、凄いね」

 

櫛田の笑顔は変わらない。だがその目は、探るように細く、どこか冷たい光を宿していた。

 

 

「白......あ、そうだ」

 

櫛田は店内のディスプレイを見て、ふと思い出したように声を上げた。

誕生日の子ーBクラスの友達が好きな色は"白”だそうだ。

となれば選ぶべきは決まってくる。彼女は迷わず白いポーチに手を伸ばし、にこっと満足げに笑った。

 

「よし、これにするね。ありがとう、桐生さん。つき合わせちゃってごめんね」

 

「ああ、別に気にしてない」

 

そう返し櫛田と別れた。 

そして再び、一人になった。

 

 

船内はすっかり静かになっていた。

外はもう薄暗く、窓の外には海が広がる。波の音が遠くで響いていた。

 

船の甲板に出ると、潮風が肌を撫でた。照りつける陽はまだ高く、青い海がきらきらと光っている。

 

桐生はふと、昔のことを思い出した。

 

育った児童養護施設「ひまわり」。

その創設者であり、育ての親でもある男——風間新太郎。

 

あの人は、どれだけ忙しくても、子どもたちの誕生日や行事には必ず顔を出していた。

……ただ、一度だけ、それを破った年があった。

 

仕事で来られない、とだけ伝えられたが、数日後に戻ってきた風間の顔は、見たことがないほど暗かった。まるで、心のどこかが壊れてしまったような顔だった。

 

あのとき、何があったのかは教えてもらえなかった。

 

それからしばらくして、ある日ふいに、風間が問いかけてきたのを思い出す。

 

「一葉、彰。もし目に見えるすべての世界が白だったら……お前たちはどう思う?」

 

突然の問いに、桐生と錦山は顔を見合わせた。

 

桐生は少し考えてから答えた。

 

「……不気味だ」

 

錦山も同じようなことを言っていた。

 

そのときの風間の表情は、何かを飲み込むように、ただ静かだった。

 

桐生は柵に肘をつき、潮風を受けながら目を細めた。

 

“おやっさん、貴方は何を見たんですか.....”

 

あの日の風間の悲しげな横顔だけは、なぜか今も胸に焼きついていた。

 

桐生が柵にもたれ、海をぼんやり眺めていたそのときだった。

 

「桐生、一緒に夕食どうだ?」

 

後ろから声をかけてきたのは、綾小路だった。どうやらグループで集まって飯を食べる話になっていたらしい。

 

「……ああ、いいけど」

 

立ち上がりながら答えると、綾小路がふとこちらを見た。

 

「何かあったのか?」

 

何でもない、と流すには引っかかっていた。だから桐生は、少しだけ、風間のことと昔の話を口にした。

 

それを聞いた綾小路の表情が、僅かに変わった。

感情が消えたように見える。目の奥が冷えていくようだった。

 

まるで、言葉の裏にある“何か”を読み取ったかのように。そこには、人間味を感じさせない無機質さが宿っていた。

 

 

“綾小路、お前は何か知ってるのか.....?”

 

 

その疑問は波の音にかき消されることもなく頭に残り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食の時間──桐生は、いつものように無口すぎず、饒舌すぎず、綾小路たちとテーブルを囲んでいた。

 

特にこれといった話題があるわけでもなく、時折ポツリと混じる会話に、箸を動かしながら小さく相槌を返す。そんな静かな時間だった。

 

…が、その空気を破るように、突如として高音の電子音が響いた。

 

 

 

桐生と綾小路、そして周りのスマートフォンが同時に鳴った。不自然なほど甲高く、耳に残る音。通常の着信音ではない。マナーモードすら無効にする“学校からの一斉連絡”専用の通知だった。

 

そして、まもなく艦内スピーカーからアナウンスが流れ始める。

 

『生徒の皆さんに連絡いたします。先ほど全生徒宛に、学校から重要な連絡事項を記載したメールを送信いたしました』

 

“……また、試験でもするのか?”

 

桐生は天井を見上げて思った。つい先ほどまで無人島で頭と体を酷使していたのに、今度は何をするのだろう。

 

桐生は表情を変えず、自身のスマホに目を落とす。メールの内容は、実にあっさりしたものだった。

 

 

『間もなく特別試験を開始します。各自、指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした場合、ペナルティを科す場合があります。本日18時20分までに、2階206号室に集合してください。所要時間は20分程度ですので、お手洗いなどを済ませた上で、携帯をマナーモードまたは電源オフにしてお越しください』

 

 

「……特別試験、か」

 

箸を置きながら桐生が呟くと、綾小路も自身のスマホを見せてきた。

 

「ちょっと見てもいいか?」

 

「ああ」

 

互いの画面を確認する。綾小路の指定は“18時ちょうど・204号室”。桐生の時間と部屋は微妙に違っていた。

 

「やっぱり違うな……」

 

「何の試験か、見当もつかないな」

 

綾小路は少しだけ考えてから、スマホを操作して堀北にメッセージを送る。桐生は無言でその画面を覗き込む。

 

 

『今、学校からメール届いたか?』

 

『届いたわ』

 

 

堀北からの返事もすぐに返ってきた。どうやら他の生徒も同じように指示されているらしい。

 

だが、詳細はやはり不明のままだった。

 

次の試験がどういうものか──誰にも、まだ分からない。

 

“ひとつ確かなのは、休息の時間はまだ遠いらしい...”

 

 

 

 

 

メールに記された集合時間まで、残り5分。

船内の静かな廊下を進み、桐生一葉は指定された部屋である、2階の206号室の扉の前までやってきた。無人島での特別試験を終えて間もないというのに、今度はまた別の試験。正直、休ませて欲しいと桐生は思った。

 

手を掛けようとすると、先にそこにいた人物に気づく。

 

「あ、桐生さんじゃん。なんか、心強いなーよろしくね〜」

 

そう言って笑ったのは長谷部波瑠加だった。Dクラスの中でもどこか特定のグループに属するでもなく、一人で過ごすことが多い。桐生とはちょくちょく話す仲である

 

「……ああ。こちらこそ、よろしく頼む」

 

桐生は小さく頷き、長谷部の隣に視線を移す。そこに立っていたのは、男子生徒・三宅明人だった。

 

三宅は、軽く頭を下げ「よろしく」と短く言った。

 

“三宅とはあんまり話したことなかったな”

 

桐生の記憶を振り返っても、三宅としっかり会話した記憶はほとんどない。Dクラスの中でも特に孤立しているタイプで、グループ活動でも必要最低限の関わりしか持たないらしい。

 

3人で部屋の前に並び、しばしの静寂。

 

桐生は、扉にかけた手をわずかに押しながら、ふと考える。

 

“この組み合わせ、どういう意味があるんだ……?”

 

試験内容も、選ばれたメンバーの意図も分からない。ただ、間違いないのは何かが、始まろうとしているということだった。

 

 

 

 

 

 

部屋に入ってから、ほんの1分も経たないうちだった。軽快な足音とともに、Bクラス担任の星野宮がやってきた。

 

「ごめんねー、遅くなって」

 

と、軽く笑いながら部屋に入ってくると、特に待たせたことを詫びる様子もなく、スッと前に立った。

 

「じゃ、これから特別試験の説明を始めるよ。ちなみに質問は受け付けないから、しっかり聞いてね~」

 

いつも通り、いや……いつも以上にマイペースな口調だったが、その声には不思議と緊張感があった。

 

「今回の特別試験では、一年生のみんなを“干支”にちなんで十二のグループに分けて、試験を行うんだ。試験の目的は──シンキング能力を問うものになってるよ」

 

“シンキング……考える力だったか?”

 

桐生は心の中で訳を思い出しつつ、無言で耳を傾ける。

 

「社会人に求められる能力は、大きく分けて3つあるの。アクション・シンキング・チームワークね。無人島の試験では“チームワーク”が重視されたけど、今回は“シンキング”! 考えて行動する能力、大人になるとすっごーく大事になってくるから」

 

教師らしく……ないが、内容はしっかりしていた。

 

「で、今回はそのシンキング力を試すために、十二の干支グループを編成してるの。各クラスから3人か4人を選んで、他クラスと混ぜて1グループを作ってあるんだよー」

 

“四クラス合同ってことか……他のクラスとグループを組むのは初めてだな”

 

「気になることも多いと思うけど、話を聞いていけばだんだん見えてくると思うよ。さて君たちが配属されたグループは『酉(とり)』。ここにそのメンバーリストがあるから、まずはそれを見てね~」

 

星野宮が差し出した紙を桐生たちが覗き込む。

 

 

グループ『酉』

 

Aクラス

•鬼頭隼

•橋本正義

•福山しのぶ

 

Bクラス

•米津春斗

•網倉麻子

•渡辺紀仁

 

Cクラス

•時任祐也

•西野武子

•諸藤リカ

•山脇修也

 

Dクラス

•桐生一葉

•長谷部波瑠加

•三宅明人

 

 

“……知ってる名前は網倉くらいか”

 

他はほとんど接点のない生徒ばかり。

三宅とはクラスメイトなのに会話すらろくにしたことがないし、長谷部もお互い干渉せず過ごしてきたタイプだ。

 

とはいえ、グループで動く以上、そうも言っていられない。

 

 

 

「今回の試験では、大前提として――AクラスからDクラスまでの関係性を無視してね。」

 

突然の一言に、桐生はわずかに眉を動かす。

 

“……関係性を無視する?”

 

「そうすることが、試験をクリアするための道筋だから」

 

星野宮の言葉は、いつも通り軽いノリだが、その内容はどうにも重い。

 

「今から君たちはDクラスの生徒じゃなくて、『酉』グループの一員として行動するんだよ。そして、試験の合否はグループ単位。つまり――このメンバー全員の動き次第ってわけ」

 

桐生は、ちらと隣の長谷部や三宅を見る。普段のクラス分けとは異なる組み合わせに少なからず緊張している様子だった。

 

「それじゃ、試験の成績……というか、結果の出方は全部で4パターンだけ。どんなグループでも例外なく、そのどれかに当てはまるようになってるよー」

 

星野宮がニコニコしながら取り出したのは、1枚のプリント。ただし、持ち出しや撮影は厳禁とのこと。全員が静かに目を通す。

 

 

『夏季グループ別特別試験 説明』

 

本試験は、各グループに割り当てられた『優待者』を中心とした推理課題。

 

•試験開始当日、午前8時に一斉メールが送信され、『優待者』に選ばれた者には同時にその旨が伝えられる。

•試験は、明日から4日後の午後9時まで。なお、途中に1日の自由日あり。

 

•毎日2回、指定の時間に指定の部屋でグループ会議を1時間行うこと。

 

•会議の中身はグループの自主性に完全に委ねる。

 

•最終日の午後9時半~10時の間に、グループ内の誰が優待者だったかを1人1回だけメールで解答可能。

 

•解答は自分の携帯から、指定されたアドレスにのみ送る。

 

•『優待者』本人は解答不可。

 

•他グループへの解答は全て無効。

 

•試験結果の詳細は、最終日の午後11時に全生徒へメールで通知。

 

 

「……なるほどな」

 

桐生は文字を追いながら、頭の中でゆっくりとかみ砕いていく。

 

 

〈試験結果の4パターン〉

 

結果1:

優待者とその所属クラスを除いた全員が正解した場合、メンバーに50万プライベートポイントと優待者に100万プライベートポイントを支給。

 

結果2:

優待者とその所属クラス以外で、誰か1人でも間違えたり未解答だった場合、優待者に50万プライベートポイント支給。

 

結果3:

誰かが試験期間中に正解を早期に告げた場合その生徒のクラスに50クラスポイント、本人に50万プライベートポイント。ただし、優待者の所属クラスは50クラスポイントを失う。その時点で試験終了。

 

結果4:

誰かが早期に誤答した場合、そのクラスは50クラスポイントを失う。一方で、優待者には50万プライベートポイント、そのクラスには50クラスポイントが与えられる。試験はここで終了。

 

 

“……要は、誰が“優待者”なのかを見抜くって試験か”

 

だが、ただ見抜くだけでは終わらない。タイミングを誤ればリスクが跳ね上がる。焦って間違えれば、自分のクラスを一気に不利にしてしまう。まるで爆弾処理のような試験だった。

 

「試験の全容は以上だよ。これから数日は、仲良く知恵比べ……かな?」

 

星野宮は最後まで飄々としていたが、漂う空気は明らかに一変していた。

 

桐生は無言のまま、再びリストに目を落とす。これから数日間、一緒に動くことになる“仲間”たちの名前。その中の誰か一人が、全ての鍵を握っている。

 

星野宮はプリントの説明を終えると、さらに話を続けた。

 

「それとね、試験が終わったあとに発表されるのは各グループの結果と、クラス単位でのポイントの増減だけ。誰が優待者だったかまでは教えないよ~」

 

“……バラされないのか”

 

つまり、優待者だったとしても、正体が完全にバレることはない。

逆にいえば、グループの誰が正解したか、どのタイミングで見抜いたかそんな細かい情報も、すべて闇の中。

 

「で、明日からのスケジュールだけど、午後1時と午後7時に、それぞれ指定された部屋に集まってね。部屋の前にはグループ名のプレートがかかってるから、それを目印にするといいよ」

 

星野宮はそう言って、部屋の扉の方向を指さす仕草を見せた。

 

「あと、初めて顔合わせするときは自己紹介した方がいいよ。で、室内に入ってから試験時間内の退室は禁止だから、トイレとかはちゃんと済ませておくようにね」

 

“なるほど……出入りも制限されてんのか”

 

桐生は思わず肩を回した。まるで一時間監禁されるみたいな扱いだ。

 

「それから最後に――優待者の決定は学校側で厳正に調整してるから。不公平が出ないように、全てルールに則って割り振ってる。選ばれたとしても、選ばれなかったとしても、文句は受け付けません!」

 

言い終えた星野宮が「分かったー?」と軽く笑って見せたが、三人の表情は硬い。

 

“つまるところ、疑うしかないってことだな....”

 

グループに選ばれた13人、その誰か一人が優待者。

 

だけどそいつは口を割らない。絶対に名乗らないし、解答もできない。

 

 

“優待者は誰か”“見抜かれるのは自分か”考えることをやめれば負ける試験。

 

桐生はプリントを見下ろしながら、それを理解していた。

 

「考えて動け」簡単なようで、とてつもなく厄介。誰かが笑い、誰かが嘘をつく。自分もまた、そうあるべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船上試験――その幕開けの日。

午前7時50分、桐生は朝食を終え、長谷部、三宅と合流していた。互いに軽く挨拶を交わしながら、携帯の連絡先を交換する。普段はどこか距離感のある三人だが、同じグループとなればそうもいかない。多少なりとも、繋がりは持っておくべきだ。

 

そして、時刻がぴたりと8時を指した瞬間――携帯が鳴った。

まるで秒針に連動したかのような、誤差のないタイミングだった。

 

「……来たな」

 

三人は無言のまま、自分の端末に届いたメールを確認する。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んでください。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。酉グループの方は2階竜部屋に集合して下さい』

 

桐生は無意識に小さく息を吐く。

 

「優待者じゃなかったか……」

 

傍らの長谷部も、ややホッとしたように画面を伏せる。三宅は黙ってうなずいたが、その表情からも結果は同じだと分かる。

 

Dクラスの三人、誰も優待者ではない

ということは、“それ以外”の誰かがそうであるということだ。

 

“……ってことは、他クラスの誰かが優待者か....”

 

まだ始まったばかり。だが、既にこの試験は一歩進んだり誰が優待者か、それを見抜く試験の、最初の手がかりが一つ“Dクラスではない”という確かな事実。それだけでも、この先の動きに影響を与える。

 

静かに動き出す思考と、測るような沈黙。酉グループの、最初の1日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




メンバーには一部違う所から引っ張ってきた人達がいます。我ながら癖の強いメンバー選んだな〜と思っています(笑)個人的に今回の一番の山場はここ。桐生ちゃんはお世辞にも頭脳戦は得意ではないので過去の皆様のアンケートを元に出来る限り納得する筋道を立てるようにしますのでよろしくお願いします。

追記:受験生なので更新速度が遅くなるかもしれません、けどエタルつもりはありませんのでそこは安心して欲しいです。
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