いまさらですが、この世界の人の耐久性は龍が如くレベルです。ちょっとやそっとでは死にません。
※喧嘩シーンあるよ
バーテンダーのアルバイトを終えた桐生は、重たい足取りで船内の通路を歩いていた。彼女の靴の音がぽつぽつと響く。
“……思ったよりキツかったな”
軽く肩を回しながら、ひとりごとのように心の中でつぶやく。想像以上に神経を使う仕事だった。グラスを割らないように気を張り、客の話に適当に相槌を打ちをうつ。
身体を動かす喧嘩のほうがよっぽど気楽だと、桐生は本気で思っていた。
部屋の前にたどり着くと、乱暴に扉を開ける。無言で中に入り、ロックをかけるとそのままベッドに倒れ込んだ。
「……疲れた」
制服のジャケットを脱ぎ捨て、ローファーを脱ぐ。横になると同時に、重力が身体にまとわりついてくるような感覚が押し寄せた。目を閉じると、バーカウンター越しに聞こえてきた無駄に盛り上がった笑い声がふっと脳裏に蘇る。
“こっちは疲れてんのに、よくあんなテンション保てるよな……”
そんなことを思いながら、深く息を吐いた。やがて桐生の呼吸は、ゆっくりと静かになっていく。
「少し寝るか」
短い仮眠だが、彼女にとっては何よりもありがたい休息だった。
外ではまだ船が静かに波を切って進んでいたが、部屋の中は、静寂と安らぎに包まれていた。
桐生一葉は、ふと目を覚ました。
重たいまぶたをゆっくり持ち上げて、枕元に転がっていたスマホを手に取る。画面には、はっきりと「2時間20分」の文字が浮かんでいた。
「……少し寝すぎたな」
ぽつりとこぼすと、上体を起こしながら伸びをする。カーテンの隙間から差し込むオレンジ色の光が、部屋の中を柔らかく照らしていた。
制服のジャケットを手に取って羽織り、軽く襟を正す。バイトの疲れはまだ少し残っていたが、寝起きのぼんやりした頭には、廊下を歩く足音や微かに聞こえるエンジン音がちょうどいい刺激だった。
暇を潰すために少しだけ船内をぶらつき、しばらくしてから食事の時間を迎える。
ダイニングに向かうと、昨日とほとんど同じメンバーが既に集まっていた。誰かが軽く手を挙げて挨拶し、桐生も小さく頷き返す。
食事そのものは普通だったが、会話の内容はすっかり“例の話”で持ちきりになっていた。
「クラス単位で協力とか言っても、全員が動くかどうか……」
「桐生さんのとこはどう?」
「会話自体はしてるが上手く纏まってはいないな」
桐生は記憶を思い出しながらしゃべる。
そんな中、突如として耳に届いたのは、やや高圧的な女の声だった。
「ねえ、私たち、その席に座りたいんだけど?」
言葉の主は、テーブルの斜め前あたりに仁王立ちしていた。堂々と胸を張り、こちらを見下ろすような態度。桐生はそちらにちらりと視線を向ける。
見覚えがあった。
リーダー格の女子と、その後ろにくっついている取り巻き2人。数週間前、無人島試験が始まる直前の昼食時、同じように「そこ、譲ってくれない?」と絡んできた連中だ。
“またか、懲りねえな……”
内心でそう呆れつつも、桐生は顔も動かさず言葉を返す。
「席ならいくらでもあるぞ。他をあたれ」
あくまで淡々と、興味のかけらも見せずにそう告げた。その瞬間、須藤と池がギョッとしたような顔で目を合わせ、櫛田も気まずそうに苦笑いを浮かべた。
女子三人組の動きが止まった。
だが、数秒の沈黙の後、一番前のリーダー格がふんっと鼻を鳴らす。
「やっぱり不良品のDクラスって、話が通じないわね」
毒のある言葉を吐き捨てたその瞬間、桐生の目が僅かに鋭くなった。
「それはこっちのセリフだ」
低く返す声には、いつもよりほんの少しだけ棘があった。
「AクラスだのDクラスだのって理由で、席を譲る権利でもあるのか?」
その場にぴんと空気が張りつめる。周囲の数名がそっと視線をこちらに向けた。
桐生の口調は穏やかだが、明らかに挑発ではない“線引き”が含まれていた。
しばし沈黙、その後リーダー格の女子は舌打ちをして引き下がった。
「……いいわよ。どうせDクラスなんて、すぐに消える存在だし」
桐生の一言で撃退されたリーダー格の女子三人組は、吐き捨てるような言葉を残しつつ席を離れていった――ように見えた。
だが、そのうちの一人。取り巻きの女子の一人が、ふと足を止めた。
桐生の顔を見た瞬間、何かを思い出したように目を細める。
“”……あのときの””
数週間前の昼食時。無人島試験前の、あの食堂の出来事。席を譲らず、自分たちを恥かかせたDクラスの女。それが今、平然と飯を食っている桐生一葉だということを、今さらながら思い出したのだ。
「……ちょっとアンタ」
声をかけてきたのは、その取り巻きの女子だった。桐生のすぐそばに立ち、じっと見下ろしてくる。
「少し、いい?」
一言だけ。それだけを言って、くるりと踵を返す。どうやら、ついて来いということらしい。
“なんだ……?”
面倒そうに眉をひそめた桐生だったが、無視しても騒がれそうなので立ち上がる。さっきまで食べていた所から少し離れた場所であり、女子の目つきは明らかに敵意をはらんでいた。
「あんた、よくも恥をかかせてくれたわね。一度ならず、二度までも」
「なに?」
桐生は思わず口を開けて聞き返す。
「そんな席に座りたいなら、私たちより早く来ればいいだろ」
あくまで冷静に、事実だけを述べた。だが相手は聞く耳を持たない。
「そういう問題じゃないの。あんたみたいなDクラスが、Aクラス様に逆らうっていうのが気に入らないのよ」
“これがAクラスなのか?……優秀かもしれないが、性格は終わってんな”
内心では呆れながらも、桐生は顔に出さず静かに睨み返す。
「……あんた、謝りなさいよ」
ついに女子がそう言い放ったとき、桐生の眉がぴくりと動いた。
「は?」
声には、明らかな困惑が混じっていた。
•謝る
•断る←
「なんで私が謝らなきゃいけないんだ?突っかかってきたのはそっちだろ」
正論。だが、それが通じる相手ではなかった。
「……そう。じゃあ痛い目見るしかないようね」
女子の目が鋭く光った瞬間、桐生は指を鳴らしながら一歩前に出る。
「そうだな。お前らみたいな奴には、一回痛い目見せてやった方が話が早いかもな」
言葉には怒気はなかった。ただ、冷たい決意のようなものが静かに滲んでいた。
桐生がAクラスの女子に呼び出され、連れて行かれる。その様子を、同じテーブルにいた池が心配そうに目で追っていた。
「……大丈夫なのか?」
ぽつりと呟いたその言葉に、隣の櫛田が笑顔を浮かべて返す。
「大丈夫だって、桐生さんなら――」
「いや、そうじゃなくてさ」
池は櫛田の言葉を途中でさえぎり、少し顔をしかめながら言った。
「Aクラスの女子たち……桐生さんに喧嘩売るなんて、命知らずにも程があるだろ」
櫛田は、あー……と、なんとも言えない表情になる。須藤や綾小路も頷いた。
「……桐生さんなら、きっと手加減してくれると思うよ。きっと……ね」
その言葉には、“願望”がかなり混じっていた。
《一年Aクラス女子》
食堂の空気が、ピンと張り詰めた。
どこからどう見てもただ事じゃない雰囲気。
Aクラスの女子たちと桐生が向かい合い、互いに一歩も引かない睨み合いを続けていた。
「ちょ、ちょっと……やばくね?」
「うわ、ガチでやるつもりか……?」
周囲の生徒たちがざわつく中、その“瞬間”は突然訪れた。
桐生が先に動いた。
ターゲットにしたのは、リーダー格の女子……ではない。右側に立っていた、いかにも“取り巻き”っぽい地味なAクラス女子だった。
“コイツだけ、重心が低く、歩き方に無駄がない。膝や指の関節も他の子より太め……こっちが本命だ”
判断は一瞬。そして次の瞬間には、拳が飛んでいた。
「なっ――!」
取り巻きの女子が反応できたのは、拳が顔面に直撃する直前だった。
「オラァ!!」
「がっ.....!」
鈍い音とともに、女子の身体が吹っ飛ぶ。後ろのテーブルに腰をぶつけ、倒れそうになりながらも、なんとか体勢を立て直そうとする。
……が、甘かった。
「フンッ!」
桐生の右手が容赦なく顔面を掴む。次の瞬間、後頭部がテーブルに叩きつけられた。三度鈍い音が立て続けに響くたび、食堂内の空気が凍りついていく。
女子の腕はだらりと力を失い、足元はふらふらと定まらない。桐生はそんな様子を一瞥し、低く短く吐き捨てた。
「次はどっちだ?」
残る二人に視線を移した瞬間、右腕をがしっと掴まれる。
“……まだ意識が残ってたか”
さっきテーブルに叩きつけた女子が、背後から桐生を引っ張る。このまま、羽交締めに持ち込もうとするが――
“”……嘘でしょ。体が……ちっとも動かない!?””
掴んでいるはずの桐生の腕は、まるで岩のように、びくともしない。
桐生は一言も発さず、その腕を乱暴に引き剥がすと、振り向きざまに裏拳を叩き込んだ。
鈍い衝撃音とともに、女子の意識は一瞬で闇に落ちる。
そのまま、意識を失った女子が倒れ込んでいたテーブルに目をやると桐生はためらいもなくそれを両腕で持ち上げた。
「ハッ!フンッ!」
振りかぶったテーブルが、残った二人へ容赦なく叩きつけられる。
「ぐぅっ!」
「うぐぁっ!?」
一人は吹っ飛び、近くにいたもう一人は逃げ場を失った。
《蓮僕の極み》
「オラァ!!」
桐生が持ち上げたテーブルが女子の頭上へ叩き落とされる。鈍い衝撃音とともに板が粉々に割れ、破片が床に散乱した。
女子は一瞬、足元をふらつかせ膝を折りかけるだが、その隙を桐生は逃さない。
「ハッ! ハッ!」
両拳が腹部へ何度も突き刺さる。
拳の一撃ごとに、女子の体が前屈みになり、喉から押し殺したような苦鳴が漏れた。
「ごほっ……!」
呼吸を奪われ、苦しげに咳き込む顔面へ渾身の右フックが叩き込まれる。
「うぉらァッ!!!」
「がはっ……!?」
女子の体は横に弾かれ、そのまま床へ崩れ落ちた。そして、場の空気が一瞬にして静まり返る。
気づけば、立っているのはリーダー格の女子ひとりだけだった。桐生は、一切の迷いを見せずに距離を詰める。
「こんのっ!」
女子が渾身の拳を振るう。だが、その軌道を桐生は小さく身をひねるだけで避けた。拳は虚しく空を切り、リーダー格の表情に一瞬の焦りが走る。
次の瞬間《不良スタイル》が牙を剥く。
「フッ!セィ!ヤァ!」
右フック、続けざまに左フック。
下からえぐり上げるような右アッパー。
最後は顔面を狙った鋭いハイキック。
「がはっ!」
連撃をまともに浴びた女子の体は、そのまま背中から床に叩きつけられる。
桐生は倒れた相手を片手で掴み上げると、そのまま壁際まで引きずっていく。
《壁クラッシュ》
「オラァ!」
壁に叩きつけられた女子の体がビクンと大きく震え、口から短い悲鳴が漏れる。
「ぐはっ!」
桐生はその腹へ重い右拳、左拳を続けざまにめり込ませ、最後に顔面をがっしりと鷲掴みにすると、
「せぃや!」
「ッ!」
勢いそのまま壁へと叩きつけた。壁が鈍く響き、女子の体から完全に力が抜ける。
食堂の空気は、もう誰一人として声を出せないほど凍りついていた。桐生は席に戻り食事を再開した。
午後に始まった二回目の試験も、特筆するような成果は上がらなかった。
それぞれが自分の持ち場で淡々と動き、時間だけが無駄に消費されていく。
誰かが状況を動かそうと試みるも、決定打にはならず、結局は「今日はここまで」という形で解散となった。
……ただし、高円寺だけは別だった。
あの男は、猿グループの試験を迅速に終わらせてしまったのだ。「何やったんだよ……」と誰かが呆れ混じりに尋ねても、高円寺は口角を上げ、「嘘つきを見つける簡単なゲーム」とだけ言ったが詳細は語らない。
ただ、あの誇らしげな笑顔と妙な達成感だけはやたらと目立っていた。
そして二日目の試験も終わりを迎えたが、漂うのは達成感ではなく、なんとも言えない微妙な空気だった。
笑っている者もいるにはいるが、心から楽しんでいる様子ではない。
むしろ、全体的にピリピリした緊張感が混じり、誰もが慎重に言葉を選んでいるように見える。
そんな中、船内で少しきな臭い場面があった。
Cクラスの数人が軽井沢を壁際に追い詰め、低い声で何やら詰問していたのだ。
彼女の表情は硬く、反論しようとしても言葉にならない様子。
「……やめとけ」
重く低い声が割って入る。
振り返ったCクラスの生徒たちの視線の先には、幸村と綾小路、そして桐生の姿があった。
桐生が無言のまま一歩踏み出すと、その場の空気が一気に張り詰める。
視線は鋭く、口元は一切の笑みを許さない。
その圧だけで、Cクラスの面々は言葉を飲み込み、あからさまに矛先を下げた。
軽井沢は視線を逸らし、何も言わず、その場を足早に去っていく。
場は静かに収まったが、空気の重さは結局、最後まで解けなかった。所々で裏切り者によって試験が終わったグループもで出来た。そして疲労と緊張を抱えたまま、酉グループは試験最終日を迎えることになる。
三日目の最後の試験を前に、桐生と長谷部、そして三宅は船内のカラオケルームに集まっていた。
全く歌いたくないわけでもないが、今の目的は優待者の法則探しである。騒がしい店内より、防音が効いていて、余計な邪魔が入りにくいカラオケルームはうってつけだった。
「んー、やっぱ分かんないなー。みやっち、なんか閃いた?」
長谷部が伸びをしながら言った。
その声音からして、もう半分ギブアップしているのは明らかだ。
ちなみに《みやっち》というのは三宅のあだ名で、命名者は長谷部。
彼女は仲良くなった相手にはだいたいこうしてあだ名をつけるらしい。
ちなみに桐生のあだ名はまだ決まっておらず、「桐生さん」呼びで保留中。
「さっぱりだ」
三宅は短く答え、手元のメモをペラリとめくる。その横で、桐生は腕を組んだままじっと天井を見上げていた。表情からは何を考えているのか分からないが、どうやらこちらも答えは出ていないらしい。
「桐生さんは?」
長谷部がソファの背にもたれながら声をかける。桐生は視線だけをそちらに向け、短く答えた。
「……いや、私もさっぱりだ」
どうやら三宅と同じ結論らしい。
その瞬間、桐生の脳裏にふと、ある人物の顔が浮かんだ。
“真島の兄さんなら、こんなの一瞬で解いちまうかもしれないな。”
真島の兄さんは武闘派として知られているが、頭の切れる男でもあった。桐生が窮地に陥ったとき、何度もその頭脳で状況をひっくり返してくれたことがある。
“……まぁ、その助け舟には「俺とタイマンして勝ったらな」なんて条件がセットで付いてくるのが常だったが。”
条件付きの助けに、そうそう頼ってばかりはいられない。
桐生は小さく息を吐き、机の上のメモ用紙を軽く指先で弾いた。
長谷部が疑問を口にした。
「そもそも、本当に優待者に法則なんてあるの?先生の独断じゃなくて?」
それに対して三宅は反論した。
「独断だったら《厳正なる審査の結果》なんて文、入れないし、試験として成り立たないだろ」
長谷部は軽い口調で続ける。
「だよねー。じゃあ今月は八月だから誕生日が8月の人とか、そんな単純なことかも?」
でも桐生はすぐに首をかしげて言った。
「仮に、それが答えだとしてさ、あのメンバーに誕生日なんて素直に教えてくれるのか?」
あの空気感で誕生日を聞いて、素直に答えてくれる姿を想像するだけで、桐生の中で無理だと思えてしまった。
三宅がぽつりとつぶやいた。
「やっぱり干支が絡んでくるのか?」
“干支....か”
その問いに対しては誰も確信めいた答えを出せず、話はそこで止まったままだった。結論はまだ遠く、三人の間には微かなもやもやが漂っているだけだった。
ついに最後の試験が始まったが、桐生たちは、
「ハートの6止めてるの誰ー?」
七並べに興じていた。
“なんでこうなった?”
元々はBクラスの女子、網倉が「トランプでもしながら考えようよ」と提案したのがきっかけだった。人数の関係で二つのグループに分けているが、試験中とは思えないほどの緩い空気が流れていた。
が....
“”いや、この面子は正直、キツイって””
長谷部は心の中でつぶやく。メンバーは長谷部、桐生、鬼頭、福山、時任、諸藤。桐生は言うまでもなく、女子ながら喧嘩で圧倒的な存在感を放つ。鬼頭は顔つきがいかつく、近寄りがたい雰囲気であり、時任や福山は常に不機嫌そうで、場の空気を重たくしていた。そして諸藤は、その強面たちに押され気味で、なかなか発言できずにいた。
だが、誰も真剣に試験のことを考えようとはしていなかった。みんなそれぞれの思惑を抱えながらも、この微妙な空気の中、時間だけが過ぎていくのだった。
そして、桐生は少し困った顔をしていた。
“クラブの11と13が出せない……”
どうやら誰かにクラブの10を止められているらしい。しかも、パスは3回までで、すでに2回使っている状態。このままでは、肝心の11と13を出せずに終わってしまう。
“出せたら上がりなんだけどな…”
桐生は心の中で呟き、手札をじっと見つ目ていたが、福山が思わず低い声で言った。
「ねえ、クラブの10を持ってる奴、誰?」
その一言に反応したのは、隅で大人しくしていた諸藤だった。
「わ、私です…」
声と同時に、諸藤の手がわずかに震えているのが見える。福山のドスの効いた声に圧を感じたのか、それとも別の理由か。
桐生はそんな様子を見て、胸の奥に小さな違和感が引っかかった。
“なんだ、この感覚……ただビビってるだけじゃない気がする”
諸藤がクラブの10を出してくれたおかげで、桐生は2番手で上がることができた。だが、その勝利の余韻の裏で、胸の奥に残った違和感は消えなかった。
“酉、干支、関係を無視する、10……まさか”
頭の中で、いくつかのキーワードが自然と繋がっていく。桐生はポケットからスマホを取り出し、メモしておいた酉グループの名簿を開いた。
⸻
グループ『酉』
Aクラス
・鬼頭 隼
・橋本 正義
・福山 しのぶ
Bクラス
・米津 春斗
・網倉 麻子
・渡辺 紀仁
Cクラス
・時任 祐也
・西野 武子
・諸藤 リカ
・山脇 修也
Dクラス
・桐生 一葉
・長谷部 波瑠加
・三宅 明人
⸻
“酉は干支で10番目……そして『関係を無視する』ってのは、名簿に書かれたクラスを無視するってことなら”
桐生はスマホ画面をスクロールしながら、全員の名前をクラス分けなしで五十音順に並べ替えてみた。すると
⸻
網倉 麻子
鬼頭 隼
桐生 一葉
時任 祐也
西野 武子
橋本 正義
長谷部 波瑠加
福山 しのぶ
三宅 明人
◎諸藤 リカ
山脇 修也
米津 春斗
渡辺 紀仁
⸻
結果、10番目に来るのは——諸藤リカ。
桐生は画面を見つめたまま、目を細めた。
“こういう事なのか.....?”
ゲームが終わったあと、桐生はゆっくりと席を立ち、諸藤のほうへ歩み寄った。
「諸藤、大丈夫か? さっき“クラブの10持ってる奴誰だ”なんて脅されてたが……」
声は柔らかく周りに聞こえないよう小さく話すが、どこか底に重みがある。
諸藤は小さく肩を震わせ、ぎこちなく笑いながら答えた。
「あ、いや……大丈夫……です」
桐生は返事よりも、その瞬間の顔をじっと見る。わずかに泳ぐ視線、強ばる頬。
“引っ込み思案な諸藤とはいえ、たかが七並べでここまで緊張するか……?”
桐生の中で、さっきの違和感が再びざわりと頭に駆け巡る。
場には妙な沈黙が落ちた。カードを片づける手の音だけがカサカサと響く。
そんな中、渡辺が何気なく口を開いた。
「結局、優待者って誰なんだろうな?」
このグループは、そもそも優待者探しに積極的じゃない人が多い。誰が当たっても外れても、正直どっちでもいいそんな空気が漂っていた。
だが、桐生は違った。
ここで、あえて仕掛ける。
「酉は干支で10番目……だから10番目の人とか、か……」
声はわずかに低く、隣の諸藤にだけ届くくらいの音量。
その瞬間、諸藤の表情がカチリと固まった。
口元が引きつり、目が一瞬だけ泳ぐ。桐生は確信した。
“優待者は諸藤リカで確定だ”
桐生の中で、最後のピースが音を立ててはまった。
桐生は、机の下でスマホを操作し、周りに悟られないように指定されたアドレスへ「諸藤リカ」とだけ打ち込み、送信ボタンを押した。
送った直後、スマホが軽く震え、画面にメッセージが表示される。
『酉グループの試験が終了致しました。酉グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
「え、誰か送ったの?」
「おいおい、誰が裏切ったんだ?」
部屋のあちこちから小さなざわめきが起こる。
桐生は何事もなかったように席を立ち、他のメンバーと共に出口へ向かった。山脇や鬼頭も特に疑う様子はない。
“……どうやら気づかれなかったな”
心の中で小さく息をつくと、桐生は何も知らない顔で廊下に出た。
Dクラスのメンバーがぞろぞろと廊下を歩いていると、長谷部がふと口を開いた。
「結局誰が裏切ったの?」
桐生は少し足を緩め、二人だけに聞こえるような小さな声で答えた。
「私だ」
長谷部と三宅は同時に目を丸くし、桐生を見た。
「え、優待者の法則、分かったの?」
「ああ。七並べがヒントになった」
「七並べ?」と三宅が首を傾げる。
桐生は歩きながら、七並べの中で自分が感じた違和感、クラブの10、酉グループと干支の順番そのすべてを順を追って説明した。
話を聞き終えた二人は、揃って感嘆の息を漏らす。
「桐生さん、喧嘩もちょー強いのに、頭も回るの、凄すぎない?
「凄いな、桐生」
長谷部と三宅は素直に感心した声を出す。
「まあ、答え合わせまでは分からないが……結果が出るのを待とう」
時間になり結果が発表された
子(鼠):裏切り者の正解により結果3とする
丑(牛):裏切り者の回答ミスにより結果4とする
寅(虎):優待者の存在が守り通されたことにより結果2とする
卯(兎):裏切り者の回答ミスにより結果4とする
辰(竜):試験終了後グループの全員の正解により結果1とする
巳(蛇):優待者の存在が守り通されたため結果2とする
午(馬):裏切り者の正解により結果3とする
未(羊):優待者の存在が守り通されたため結果2とする
申(猿):裏切り者の正解により結果3とする
酉(鳥):裏切り者の正解により結果3とする
戌(犬):優待者の存在が守り通されたため結果2とする
亥(猪):裏切り者の正解により結果3とする
クラスポイントとプライベートポイントの増減
Aクラス マイナス200cl プラス200万pr
Bクラス 変動なし プラス250万pr
Cクラス プラス150cl プラス550万pr
Dクラス プラス100cl プラス300万pr
「Cクラスがトップか」
桐生は携帯の画面に表示された最終結果を見つめ、小さく呟いた。
“まぁ、Cクラスの優待者を当てたおかげで、一矢報いた形にはなるか……”
淡々とした表情の裏で、わずかな達成感が胸をよぎる。これで、長く張り詰めていた空気も、干支試験の幕と共に静かに下ろされた。
結果は原作とほとんど同じにしました。(本当は変えようとしたけど面倒くなってしまった)桐生ちゃんがCクラス当てたのならCクラスのポイント減らないの?と言う話ですかこの世界では龍園は本来200ポイントゲットしようとしたが桐生ちゃんに当てられたという形になります。
さて、次回からは夏休み編!桐生ちゃんがあんな事やったり、こんな事したりなどのギャグ話を書こうと思ってます。お楽しみに!