......そんなよう実増えるんですかね?
夏休みと寄り道④
豪華客船での長いクルージングから解放され、桐生はようやく自分の部屋に戻ってきた。
学校に行かないことを除けば、日常はほとんど変わらない。喧嘩を売られれば迷わず買い、相手を叩きのめす。夕方になれば近所のスーパーで夕飯の食材を買い込み、普通に料理して食べる。
その日も夕飯を済ませ、ベッドでくつろいでいたとき携帯の着信音が鳴った。
“電話…?真島の兄さんから?”
画面を見た瞬間、桐生の眉がわずかに動く。
「もしも——」『久しぶりやのー桐生ちゃん!!』
あまりの声量に、桐生は思わず携帯を耳から離す。だが、その第一声には妙な引っかかりがあった。
「久しぶりって…兄さん、私が船にいるときもたまにメールしてたじゃないか」
『なに言ってるんや!俺、警官になってから全然出番なかったんやで!あの時から数えて、8話ぶりの登場や!』
“……8話? なんの話だ、それ”
聞き覚えのない言葉に眉をひそめる桐生。
そんな彼女の困惑などお構いなしに、真島の兄さんは「でな、用件なんやけどな」と、妙に楽しそうな声で本題に入り始めた。
『ケヤキモールにめっちゃ当たる占い師が来とるんや。明日、一緒に行かへんか?』
唐突に飛び出した真島の兄さんの誘いに、桐生は思わず「占い?」と声を漏らした。
桐生は元々、占いだのスピリチュアルだのに興味がない。そして何より、
「兄さん、あんた…占い信じる人だったか?」
真島の兄さんが占いを本気で信じる人間がどうか怪しかった。
『ま、雰囲気を味わうっちゅう感じやな』
“……それ、信じてないって言ってるのと同じだろ”
桐生は心の中でそうツッコむ。
【真島の兄さんの誘いを】
・誘いを受ける ←
・断る
「分かった、行こう。明日の何時だ?」
『9時30時や。遅刻したら許さないでー』
兄さんは一方的にそう告げると、通話を切った。桐生はスマホを見つめながら、なんとなく明日の朝が騒がしくなる予感を覚えていた。
真島の兄さんとの電話を切ったのも束の間、スマホがまた震えた。画面には「綾小路」の名前。桐生は応答ボタンを押した。
「もしもし?」
『桐生、突然なんだが、占いは好きか?』
あまりにもタイムリーな話題だった。
「正直に言えば、興味ない」
短く返すと、電話の向こうで綾小路が一瞬黙り込んだ。声の温度がほんの少し下がった気がする。
そこから事情を聞けば、どうやら綾小路は占いに行ったはいいが、「二人一組(ほぼカップル縛り)」でないと見てもらえないという妙な条件を突きつけられたらしい。
『そこで、桐生には悪いんだが….占いに付き合ってくれないか?もちろんタダでとは言わないが…』
「悪いな、綾小路。ついさっき、その占いに先客ができたところだ」
『……そうか。いや、こっちこそ悪かった。それじゃ』
短いやり取りを残して、通話は切れた。
桐生はスマホを置きながら、心の中でぼそっと呟く。
“今日って…占いデーか何かか?”
約束の日。
桐生は松下たちと一緒に選んだ赤のアロハシャツに、白のスラックスという軽快な服装に着替えた。
ケヤキモールの5階、特設の占いコーナーに着くと、待ち合わせ時刻にはまだ少し早い。
暇つぶしに周辺をぶらついていると
サブストーリー⑥ 占いに行こう
「待たせたなぁ、桐生ちゃん」
「来たか、兄さん」
真島の兄さんは桐生の服装を見て、ニヤリと笑った。
「桐生ちゃん、今日の服装、えらいアロハな感じやな」
「ああ、友人が選んでくれた」
「なかなか似合ってるで」
「そういう兄さんはいつも通りだな」
兄さんは半裸に蛇柄のジャケットを羽織り、金のネックレスに黒革の手袋、そして黒いズボンという、相変わらず街で見かけたら二度見されるいつもの格好だった。
「これが俺のトレードマークみたいなもんや」
服の話はそれで終わり、二人は長蛇の列へ。
ようやく順番が回ってきた時には、周囲の喧騒が少し遠くに感じられた。
占いスペースの中は薄暗く、古めかしい机の上には大きな水晶が鎮座している。
その後ろには、フードを深くかぶったローブ姿の老婆が座っていた。
「さて、お前さん達、何を占って欲しい?」
老婆は低い声でそう言い、机の端に置かれた料金表を指さす。そこには「基本料金:5000ポイント」と書かれていた。
“高いな....”
決済方法の欄には、しっかりと「スマホ決済可」の文字。
“……なんか世界観ぶち壊しだな”
ここで暮らしてる以上スマホ決済しかないのは分かっているが占いにはなんともアンバランスだった。
【何を占ってもらうか】
•将来について
•家族について←
•仕事について
「そうだな……家族について教えてもらおう」
桐生がそう言うと、老婆は「ヒッヒッヒ」と喉の奥で笑い、水晶に両手をかざした。
薄暗い室内に、いかにも“それっぽい”空気が漂う。
「見えます……見えますよ……」
ぼそぼそと呟きながら水晶を覗き込む老婆。
しばらく沈黙が続いた後、顔を上げて告げた。
「見えたよ。あんた、子供と一緒にいるね」
「子供?」
桐生は眉をひそめる。
“将来の私は結婚して……子供を産んでるってことか?”
「しかもね……あんたにすごく懐いてるよ……8人」
「8人!?」
思わず声が裏返る桐生。
「ちょっと待て! 百歩譲って結婚する未来は分かる!だが将来、私は8人も子供を産むのか!?」
老婆は肩をすくめ、落ち着いた声で答えた。
「私は見える未来を見ただけさね。見た限り、あんたは8人の子供に囲まれてカレーを食ってたよ」
「……カレー?」
桐生は戸惑いのあまり、思考が一瞬停止した。
未来の自分が想像よりはるかに逞しい気がしてきた。
桐生が呆然としている横で、真島の兄さんが堪えきれず吹き出した。
「はははっ! 桐生ちゃん、将来はカレー屋の女将さんやな!」
「誰がだ!」
「ほら、八人も子供おったら毎日大鍋でカレー煮込むんやろ? んで、桐生ちゃんが店先で『本日のおすすめはビーフ!』って呼び込みするわけや。俺も手伝うでぇ」
「勝手に共同経営するな」
桐生がジト目を向けても、真島の兄さんは全く悪びれず、むしろ楽しそうに手を叩いて笑っていた。
桐生は深いため息をつき、水晶玉を見つめ直した。
“……どうなるんだ私”
桐生の占いを終え、今度は真島の兄さんの番になる。
「さて、そっちの兄ちゃんは何を占って欲しい?」と占い師が促す。
「そうやのぅ……ほな、将来のことについて頼むわ」
兄さんは軽い調子で答えるが、その目はどこかワクワクしている。
老婆がゆっくりと水晶に手をかざし、低く呟く。
「見える……見えるよ……あんた、中々奇天烈な人生を送るねぇ」
そこから語られた内容は、もはや占いというよりド派手な未来予告だった。
アイドルみたいな服装(曰く足にローラースケートを履いてるらしい)で誰かと喧嘩したり、経営がピンチなキャバクラを手伝って売り上げ一位にしたり、かと思えば、夜の街でキャバ嬢風のドレスを身にまとい、グラス片手に客に接待したり、社長になって社員にメガホンで「おはよう」と挨拶していたり、極めつけは、海賊船の船長になったりなど
「……おい兄さん、何だ、そのカオスな未来」
「フッ……やっぱ俺の人生、ひと味ちゃうやろ?」
本人は満面の笑みだ。
占い師も苦笑しながら首をかしげる。
「正直、あんたの未来は私もようわからんよ。全部実現するかは……あんた次第だねぇ」
“……兄さんの未来は占うだけムダなんじゃないか”
二人の占いが終わると、老婆は急に真顔になり、低い声で助言をくれた。
「お主ら、ここから帰るときは真っ直ぐ帰りな。余計な道を通ると、足止めを食らうやもしれぬ……それと、水は多めに買っておくことをオススメするぞ」
「ありがとな、おばちゃん」
真島の兄さんが軽く手を振り、桐生も軽く会釈して部屋を後にした。
エレベーターへ向かう途中、桐生の視界の端に、伊吹と綾小路が並んで立っているのが映った。……見なかったことにしよう、と彼女は心の中でそっと目をそらす。
だが、エレベーター前は混み気味だ。比較的空いている別のエレベーターへ行こうと桐生が提案したが、兄さんは首を横に振った。
「ここは占いの助言に従ってみよか」
しばらく待つと、エレベーターが到着。特に何事もなく降りられたが――後で聞いたところ、別のエレベーターに乗った生徒たちは途中で止まり、しばらく閉じ込められていたらしい。
その後、二人は昼食をとり、ボウリングにバッティング、ダーツと夏休みを全力で楽しんだ。
勝負の結果は、ボウリングとダーツで桐生が勝ち、バッティングは兄さんが勝利。
そして、バッティングとダーツの合間に「どっちのパンチが強いか」を測ろうとパンチングマシンで勝負したのだが……真島の兄さんがパンチした後、桐生が拳を叩き込んだ瞬間、マシンが派手に壊れるという事件発生。
パンチに関してはノーカウントという結果に終わった。
「いやー、遊んだなぁ」
真島の兄さんは、まるで夏休みの小学生みたいに満足げな表情を浮かべた。
「ああ、結構遊んだな」
桐生も頷く。だが、その直後、兄さんが思い出したように声を上げた。
「……あかん。まだ俺ら、やってへんことがあったわ」
桐生が眉をひそめる。
「やってないこと? 兄さん、それは何だ?」
「そんなん決まっとるやろ」
ニヤリと笑いながら、兄さんは一歩前へ出る。
「男女が一緒におってやること言うたら、ひとつ 喧嘩やろが!!」
そう叫ぶと同時に、真島の兄さんは構えを取った。
「……兄さん、最初からそれが目的で占いに誘ったな」
「いくでぇ!」
返事も待たずに兄さんが今にも向かって来そうだった。
《高度育成高等学校 2年 真島吾朗》
桐生と真島が、じりじりと距離を詰めながら睨み合う。
互いに一歩も動かず、ただ視線だけで相手の次の動きを読み合う。通路を通りかかった生徒が足を止め、何事かと視線を向け、観客になった。
“……来るか?いや、まだだ”
そんな緊張が張り詰める中、次の瞬間、同時に動いた。
地面を蹴る音が重なり、拳が一直線に突き出される。互いの拳が正面からぶつかる。そう誰もが思った瞬間、真島の姿が桐生の正面からふっと消えた。
“くっ! やっぱり速ぇ!”
桐生の拳を紙一重で避け、右へ回り込んだ真島が、躊躇なく横腹を狙って拳を突き出す。
「でぇぇぇい!!」
「ッ!!」
がら空きの右脇腹へ迫る拳。だが桐生は空を切った右腕を肘まで跳ね上げ、迫る拳を正面から受け止めた。衝撃が肘を通して肩まで響き、痺れるような感覚が広がる。それでも桐生は眉ひとつ動かさない。
「オラァ!」
受け止めた勢いを利用し、素早く向きを変えて左拳を叩き込もうとするが、真島は即座に腕を立ててガード。
「おぉ、防ぐか。流石やなぁ、桐生ちゃん!」
「何年もあんたと殴り合ってりゃ、こういうのも慣れるぜ」
口では軽く言い合いながらも、互いの視線は一切逸れない。
次の瞬間、真島の反撃が始まる。右手を顔の前に上げ、左手を脱力させてだらりと下げる《喧嘩師スタイル》あの独特な構えから繰り出されるのは、左フック、鋭いジャブ、肘打ち、さらに後ろ回し蹴り。
真島の戦い方はまるで予測不能な竜巻。桐生のようなパワーを軸にしたスタイルとは違い、スピードとトリッキーさで相手の体勢を崩しにかかる。
「ほれほれ!どうした桐生ちゃん、もっと踊らんかい!」
「……ちっ!」
桐生は襲い来る打撃を両腕と体捌きで受け流し、わずかな隙を見つけて反撃に転じた。《ラピッドスタイル》による高速スウェイで真島の攻撃をかわし、背後へと回り込む。
「シッ!フッ!セイッ!オラッ!ハッ!!」
拳の連打が真島の背中と脇腹を狙い、最後は渾身のハイキックがうなりを上げて側頭部をとらえた。
「ぐぉっ!?」
真島の体が床を滑って数メートル後退し、派手な音を立てて止まる。
桐生は倒れた真島に向かって一気に距離を詰めた。その動きはためらいゼロ、迷いゼロ。
《踏み追い討ちの極み》
「ハッァ!」
次の瞬間、桐生の靴が真島の顔面を直撃。
鈍い衝撃音が響き、ケヤキモールの床に真島の頭が押しつけられる。容赦ない重みがのしかかり、床材がミシリと悲鳴をあげた。
「ぐほぉっっ!?」
それでも桐生は踏み込みを緩めず、もう一度、顔面を押し潰すように踏みつけ....
「そこまでやでぇ!」
真島が突如、上半身をひねって脱出。逆立ちになったかと思えば、そのまま回転を始める。
“厄介なスタイルが来たな……”
《ダンサースタイル》真島のもう一つのスタイル、逆立ち状態から放つ回転攻撃は広範囲を薙ぎ払い、複数の敵を一気に蹴散らす。
桐生はこれを苦手にしていた。とにかく動きがトリッキー過ぎて、隙という隙がない。
旋回裏拳、飛び回し蹴り、下段蹴り、さらに床を滑るようなウィンドミル。
真島の動きは予測不可能なカオスそのもので、桐生はひたすらガードを固めるしかなかった。
“どうにか、バランスを崩せれば……!”
ウィンドミルの回転の隙を狙い、桐生は渾身の後ろ蹴りを真島の脚に叩き込む。回転が乱れ、そのまま真島の体は壁際へ押しやられる。だが....
「……まだまだやでぇ!」
真島は驚異的な立ち直りで即座に起き上がり、今度は桐生の背後を奪う。
「くっそ!」
「いくでぇ!」
がっしりと頭をつかまれ
「でェイヤァ!!」
壁に顔面を何度も叩きつけられる。衝撃で視界が瞬間的に白く弾け、鼻腔に鉄の味が広がった。最後に手刀が振り下ろされる寸前、
「ハァッ!」
桐生が身体をひねり、旋回裏拳を真島の側頭部に叩き込む。真島がわずかによろめく。
ここはケヤキモール一階。見渡せば、看板や植木鉢、長椅子など武器になりそうなものはいくらでも転がっている。桐生が目をつけたのは休憩用の長ソファだった。
《解体屋スタイル》で長ソファを軽々と持ち上げ、そのまま片手で大きくぶん回し、最後に薙ぎ払う。
「ウォラッァ!!」
「ぐぉぉっ!?」
長椅子の端が真島の肩口を直撃。真島の体が派手に吹き飛ばされる。
桐生は、吹き飛ばされた真島が反対側の壁際で立ち上がろうとするのを見逃さなかった。
迷わず長ソファを構え、突進する。
《解体屋の極み・壁プレス》
「セィヤッ!」
長ソファの真島の胸を押しつけ、そのまま壁に叩きつけた。ギシギシと長ソファがきしみ、壁がドンッと重たい音を響かせる。
「うおっ!!」
真島の息が一瞬止まり、上半身がのけぞる。
しかし桐生は手を緩めない。長椅子を頭上まで持ち上げ、
「ンゥラァッ!」
次の瞬間、全力で振り下ろす。鈍い衝撃音が響き、真島の体が壁と長ソファの間に押しつぶされるようにめり込む。
ソファを全力で叩きつけ、さすがに真島が負ったダメージはデカいと思っていた。だが、その予想を壊すように、
「キェェイ!!」
床に転がっていた真島が、下から跳ね上がるように脚を突き出し、桐生の顎を狙ってきた。
咄嗟に首を引き、ギリギリで回避する桐生。
空気を切り裂く足先が、髪をかすめた。
“えげつない攻撃だな……相変わらず”
「流石にさっきのは効いたわ、桐生ちゃん」
口元に笑みを浮かべつつも、真島はまだ眼光を鋭く保っている。
「まだ余裕そうだな、兄さん」
桐生も笑い返し、再び構えを取った。殴っては蹴り、蹴っては殴る。二人の攻防は止まる気配を見せない。
拳と足が交差するたび、空気が鋭く震えた。
だが、その均衡が崩れたのは一瞬。
真島の拳が桐生の頬をかすめた瞬間、桐生の手が素早く襟元をつかむ。
そして
「ふんっ!」
額と額がぶつかる鈍い音。真島がわずかによろけた隙を逃さず、桐生は構えを変える。
《ラピッドスタイル》に切り替わったその瞬間、空気が一段と張り詰めた。
《超ラッシュの極み》
「オラッ!」
顎への鋭いアッパーで真島の体が浮く。
そこから容赦のない連撃が、まるで機関銃のように叩き込まれる。
最後の一撃は全身の力を込めた渾身のストレート。
「オラァァァァッ!」
「ぐおぉっっ!?」
真島の体が後方に吹き飛び、床を転がる。
そのまま真島は動かない。息はあるが、立ち上がる気配はなかった。長かった勝負は桐生の勝利で幕を下ろした。
桐生は軽く息を整えながら、床に倒れたままの真島を見下ろす。
しばらくして、真島がニヤリと笑いながら上体を起こした。
「……いやぁ、やっぱ桐生ちゃんはごっついなぁ」
「真島の兄さんも強かったぞ」
真島は肩を回しながら、まるでこれが日常だと言わんばかりの調子で続けた。
「ええ運動になったわ。で、次はいつや?」
「気が早いな。まぁ、しばらくは無しだな。流石に疲れた」
その返事に、真島の目がギラリと光る。
「しばらく、やろ? 覚えときぃ、次は負けへんでぇ!」
二人は、ついさっきまで殴り合っていたとは思えないほど自然に並んで歩き出した。しかし途中で、真島の兄さんが「あっ」と何かを思い出した顔をする。
「あかん、俺たちまだやってない事あったわ」
「……なんだ?」と桐生が眉をひそめると、真島はにやりと笑った。
「占いのおばちゃんが言うてたやん、水買っとけって」
言われて桐生も思い出す。どうせなら従っておくかと、二人は近くのスーパーに立ち寄り、2リットルの天然水を2本ずつ(桐生は一本にしようとしたが真島の兄さんが多い事に越した事はないという理由で)購入した。
買い終え、今度こそ帰ろうとした矢先。
「ちょっと待てよ」
複数人の上級生が道を塞ぐように立ちはだかった。
真島は面白そうに口角を上げる。
「桐生ちゃん、まだ余裕やろ?」
「兄さんこそ、もう回復しただろ?」
桐生も同じ調子で返す。
次の瞬間、そこにいた上級生たちは二人に向かって飛びかかった。そして、数分後には上級生全員が地面に沈んでいた。
部屋に戻った桐生は、買ってきた2Lの天然水をテーブルの上に並べて、じっと見つめていた。
占い師の「水を多めに買っとけ」という助言は確かに守った。だが、
「……で、これ、何に役立つんだ?」
独り言が部屋に響く。
まるで戦利品を前にしたはずが、使い道の見えない荷物を抱え込んだだけのような感覚。
喧嘩にもならず、料理にも使う予定はなく、ただ冷蔵庫を圧迫するだけの存在。
桐生は深く息を吐き、水のラベルをぼんやり眺めた。
この天然水が桐生を助ける存在になるのは数日後の話である。
真島の兄さんの人生、改めてみると強烈でしたね。
さて、次回は桐生ちゃんとあるキャラの邂逅。そう、よう実でも主要キャラのはずなのに、この小説だと、名前しかでてないあのキャラの事です。