アニメを見た勢いで書き続けたいと思います(n敗)
未来を知っているというのは、大きなアドバンテージだ。
宝くじを当てたり、ビットコインで億利びとしたり、誰かの運命を変えたりできる。
経験があるのも爆アドで、それに加えて過去に戻ってやり直しなんて出来たら最高だ。
それに加えてなんと贅沢な事に、このたび私は好きな作品の世界で人生をやり直すことになった。
残念ながら年齢がネックで億利びとにはなれなかったが、最初から一人前の(前世の私が立派な一人前かは疑問だが)大人が持つ知識と経験があれば、元が凡人でも天才児のフリくらいできるようになる。
もちろん「20を過ぎれば」と言わずとも高校あたりでボロが出そうな天才プレイなんてせず、堅実に、すれば良かったと思える勉強を地道にやってきた。
何が役に立つ事かを知っているから、何をすべきかがわかった。あとは実践するだけの簡単なこと。
全ては原作開始時に、自由に動ける立場と成績を確保するため。
この世界で出来ることを増やすために。
そして、あわよくば。
※ ※ ※
ファミレス。
そこはある程度日常的に散財する余裕のある高校生たちが「新しいスマホ欲しいー」とか「バイトしなきゃー」とか言いながらドリンクバー片手に駄弁る場所。
節制しろ!というのは前世の私もとい俺のひがみで、交際費も出せない奴はコミュニティから弾かれるため、最低限の出費で妥協する学生の集まる場所。
千円ぽっちで放課後空調効いてて飲み物おかわり自由のくつろぎスペースが手に入るなら安いものだ。
さすがに毎日とはいかないが、今日は新刊の発売日ということで書店からの帰り道に足を運ぶことに。
そこで私は、
「お兄ちゃんはよく頑張った。辛かったよね、お兄ちゃんが一生懸命なのはぜんぶ分かってるから」
シリーズ恒例の甘やかしシーン朗読を行っていた。
それもただ読み上げるだけじゃない。席で膝立ちになり、耳に吐息がかかるほど唇を寄せて、囁くように。
相手は男子生徒だ。当然そんなことをされて思春期の男子が平常心でいられるはずもない。
だから、じっくりと催眠薬を耳へ注ぐように、囁いた。
「胡桃に好きなだけ甘えちゃっていいんだよ」
「なんか違う。甘える気にならない」
なんだとこの野郎。精神年齢的には歳上の妹だぞ、喜べよ。
憮然とした表情の男子生徒、温水和彦に思わずそう言いそうになった。
だがぐっと堪える。
口にしたら、二度目の生で15年かけて築いてきた清楚な美少女のイメージが台無しだ。
ここは平常心。社会人経験者らしく平常心でいこう。
「ど、どうして駄目なのかな?」
「甘やかすというよりあざとい媚びが入ってるというか、自分が可愛く見えれば良いみたいな。思いやりや優しさを感じない、砂糖の代わりに砂を使ったお菓子みたいだった」
「せっかく可愛い妹が生ASMRしてあげたのに、その反応は無いんじゃない?」
「可愛い妹って、お前は佳樹じゃないだろ」
「おい、私の分類されるカテゴリに文句があるなら聞こうじゃないか」
思わず言動がめぐ○んになるくらいにはひどい暴言だ。
我らがラブリーエンジェル佳樹たんが私なんかとは比較にならないほど可愛いのは事実だが。その佳樹と血を分けた姉妹である以上、私が可愛いのも自明の理。
そりゃあもちろん、中身の違いが表に出るとはいえ、佳樹をちょっと大人にして和彦似にした感じの私が可愛くないはずないじゃないか。
現に佳樹だって、
「もしお兄様との間に子供がいたらお姉様に似ているのでしょうか」
って言ってたもん。
佳樹の娘なら可愛いに違いない、だから私は可愛い。証明終了。
おっと申し遅れました。
私はクソボケ青春ラブコメ主人公の双子の妹にして、この世界に舞い降りた天使である佳樹の姉、名前を温水瑞樹(ぬくみず みずき)と申します。
しがない一般TS転生者ですがお見知り置きのほど。
「全く失礼しちゃうよ」
ドリンクバーをふたつ、それぞれメロンソーダとサイダーの入ったそれを混ぜ合わせて一気に飲み干す。愚兄が「あっそれ俺の……」とか言ってるが、どうせ飲み放題なんだから無視だ無視。
喉を炭酸の刺激と名状しがたいエグい甘みが襲い、後味を隠すように鼻からメロンの風味が抜けていく。
まずい、もういっぱい。
良くも悪くも、気分を変えるにはこの手に限る。
一気に飲み干して、私は和彦の隣から席を立つ。
「おかわり取ってくる。大体コーラでいいよね?」
「大体って何を混入するつもり!?」
「それは飲んでみてからのお楽しみで」
別に何を注いだっていいんだけど、ちょっとした仕返しだ。
いま席を立つのも、その前に和彦の隣に席を移すついでに鞄を置いたのも、和彦をひとりボックス席に置き去りにするためにすぎない。
ちょっと思春期をからかってやろうかなとASMRしたのだってただの茶番。別に悔しいとかじゃない。
ないったらない。席を移るための口実だ。
「駄目だよ草介!こんな所で油売ってる場合じゃないよ!」
始まった。
※ ※ ※
八奈見杏菜。
この世界のメインヒロインにして、約束された敗北者。
ヒロイン、というのはこの場合女主人公に近い意味であって、和彦の相棒となる負けヒロインだ。
ラッコ、負け犬、大罪司教傲慢嫉妬暴食担当。ファンの間では様々な呼び名があるが、作中において最も和彦と多く行動を共にする人物であり、和彦を負けヒロインたちの世界へと引きずり込む台風の目。
つまり、今後のストーリーに絡むために最も積極的に関わるべき相手だ。
今日このファミレスで和彦にASMRしたのも全てそのため。
「草介だって私をお嫁さんにするって言ったのに酷くないかな。これって浮気だよね!」
「わかる!うちの佳樹も小さい頃はお姉ちゃんのお嫁さんになる〜って言ってたのに」
「言ってたか?」
「今じゃ身近なお兄様に乗り換えて日夜ラブラブ光線を放ってるんだよ!それを見せつけられるこっちの身にもなってほしいよね!」
「そうだよ私だってあの乳牛女が出てこなければきっと今頃は上手くいってたの!」
「……いってたか?」
八奈見杏菜と意気投合した私は、時々茶々を入れてくる和彦をよそに、同じ皿のポテトを貪っていた。
やっぱり人と仲良くなるには同じ釜の飯を食うに限る。特にやけ食いの傾向がある八奈見だ。とにかく食いながら寝取られトークすればいいという確信があったが、それがばっちりハマった。
八奈見が和彦の向かいに移ったところですかさず飲み物を持って割り込み、よく聞いてみると「わかる(理解)」「それな(同意)」「知らんけど(話題そらし)」しか言ってない共感トークで懐にスッと入る。これだ。
さすが私の立てた計画。かんぺき〜。
「はぁ……。なんかごめんね、愚痴聞いてもらっちゃって。
温水さん、だっけ。ありがとね」
「いいんだよ。私たちも用事終わって時間潰してるとこだったし。ねえ、和彦」
「そ、そうそう。気にしなくていいから……」
ははは、と苦笑いする和彦。現時点ではたまたま接点を持った程度とはいえ、完全に空気にすると後に支障が出る。
とはいえ、もうちょっと気を使った返しができないものか。いやそれこそ現時点で八奈見とはたまたま接点を持っただけだから受け身で流されるだけなのか。
まあ、今は印象に残るだけで良しとしよう。
これで八奈見も、温水和彦という影の薄いクラスメイトのことを視界の片隅に認識するようになる。今はそれだけでも十分―――
「ねぇ。温水さんは、その、カズヒコ君と一緒に来てたの?」
―――どうして目が曇ってるんですかね?
というか、和彦君とは?まさか対面の席を空けるために和彦だけ残していたから、一緒に来ていた事を知らなかったとか?
いや、そもそもまさか「同じクラスの温水君」を覚えてない?
いくら影が薄いとはいえそんなことあるのか。
そんな困惑の隙を突くように、八奈見が鞄を引っ掴む。
「お邪魔しました!」
そして出口へダッシュした八奈見を全身を使ってブロックする。
「待て待て待て!どうして逃げるの」
「離して〜!なにが悲しくて他のカップルに好きな人取られた話を聞かせるの!そんなことしたって虚しいだけだし馬に蹴られたくないから末永くお幸せに!」
どんな勘違いしてるんだこのラッコ。
「傷心の女の子を放り出すほど薄情じゃないんだよ私達兄妹は。温水って名乗ったでしょ、ほら和彦と同じ名字!たぶん八奈見さん和彦と同じクラスだったよね?」
「同じ名字!既に同じ姓を名乗ることを許されてる、ってこと!?
やだ最近の学生カップル進み過ぎて怖い、もう実家に帰らせていただきますー!」
「頼むから少しは人の話を聞けー!」
その後、騒ぎを聞きつけてきた店長さんに怒られ私と和彦は必死で平謝りする羽目になった。
危うく負けインストーリーが終了する危機を防いだものの、なんとも先が思いやられる皮切りだ。原作ではこれを和彦ひとりで御していたのかと思うと、流石は主人公。ただの偶然でその枠に収まったのではなかった訳だ。
だが今日のところは、ひとまず原作崩壊を回避したことで良しとしよう。
八奈見杏菜、どさくさに紛れて全身でしがみついたその身体は豊満であった。
原作も読みましたが、基本アニメ軸で進めたいと思います。
温水瑞樹(ぬくみず みずき)
ただのTS転生者。
元々男だったので恋愛対象は女性。
男女問わずボディタッチが多く中学時代は勘違い製造機だった。