アニメで佳樹が一押しだったんですが、原作読んで佳樹のナーフ具合というか、ガチ具合にますます脳をやられました。
原作1巻では「ですわ」とか言ってたんですね佳樹。
一度切りで、まだキャラが定まってなかったんでしょうが、佳樹かわいいよ佳樹。
私は和彦とクラスが違う。
教室で行われる和彦と八奈見のやり取りが間近で見られないのは残念だが、基本的に身内はクラスが分けられる。小学校からそうだったから仕方ない。
むしろ主人公とメインヒロインの進展を阻害しないためには都合が良かった。序盤は些細なやり取りの積み重ねだが、あの二人の関係を歪めるのは今後のためによろしくない。
ストーリーが順調に進んでいれば、今頃は和彦が幼馴染と泥棒猫の間に挟まれた八奈見に助け舟を出しているはず。
リアルタイムで進捗を確認する方法も考えたのだが。
「温水さん、次の時間移動教室ですよ。準備大丈夫ですか?」
「あっ、ごめんボーっとしてた。移動って?」
「先生が急用だそうで合同授業になりました。さっき担当の人が言ってたの、聞いてなかったんですか」
「聞いてなかったんです」
こらー、きゃー。
とイチャつくお相手はクラスメイトの朝雲千早。
そう、あの非合法少女朝雲さんだ。
和彦に盗聴器や発信器を仕掛けるには、この朝雲さんを始めとするツワブキ高校犯罪組をかいくぐる必要があった。下手に手を汚して、それを誰かに知られでもすれば一巻のお終い。
せめて他人同士なら誤魔化せたかもしれない。
だが朝雲さんとは中学時代、塾で出会って以来の付き合いがある。
人生2周目の私は、前世の反省を活かして勉強するよう習慣づけてきたが、和彦の成績まで引き上げる訳にはいかない。
和彦が高校受験のために通う塾で綾野光希と面識を持つようになる。綾野光希は負けイン三人娘の一人が恋慕う人物としてストーリーに関わる。無くせない接点だ。
もし間違って「瑞樹が和彦に教えればいいじゃない」と言われたら断れない。断る理由があんまり無いのだ。それで人間関係に支障が出ては困る。
そこで私が考えたのが、興味のある分野だけIQが上がる「くせ者の天才少女、瑞樹ちゃん」作戦だ。
まず幼稚園の頃にさんすうを始め、小学校の算数のドリルを解くために国語辞典を持ち出し、パズル感覚で数式を解いて四則演算をマスターする。
両親がウチの子天才と騒いで将来は国際数学オリンピックにと英才教育を始める前に興味の対象を英語に移し、高校の範囲を終える前にチェスと将棋に興味を移し……。
そうして出来上がったのが、小学校で英語ペラペラなのに平仮名片仮名で五十音を書けないあべこべ瑞樹ちゃんだ。出来る教科はとことんできるが、それ以外は平均点くらいでもおかしくない。
しかも興味の向かないことにはとことん無頓着な不思議ちゃん認定を受けるに至った。やや不本意ながら、移動教室とかすっぽかしてサボっても成績良いので咎められないし、なんだかんだクラスの女子に世話を焼いてもらう生活も悪くない。
とにかく。
両親も妹も、そんな私では家庭教師が勤まらないと判断し、和彦は放課後塾に放り込まれた。
……残念なことに、私まで同じ塾に通う羽目になったが。
いくら私にとって高校受験が余裕でも、受験は受験。苦手科目を潰すためという名分には逆らえない。
ツワブキ高校の偏差値なら余裕で受かると示すため、コース振り分け試験で高得点を取ってやったのが運のツキ。まさかの奨学生待遇を受け、私は成績良いので通いませんとお返事したのに、和彦の受講料まで材料にしての交渉に両親があっさり転んだ。
結果、受験戦争どこ吹く風でのんびり暮らしてやろうという目論見は見るも無残な皮算用と化し、日ごと和彦に連行されて塾へ通ったのである。
まさか人生2周目にもなって、「はまち」の教えに足を取られるとは思わなかった。いや、すっかり忘れていたのが悪かったのか。
最後の手段とばかり佳樹に泣きつくも、そこは家庭内ヒエラルキー最上位に君臨する我が妹。あっと言う間に私を言いくるめ、塾通いを同意させてしまう。
最愛の妹と満喫するはずだった中学時代最後の一年を塾通いに費やす羽目になったのは癪だが、まあ、この生の両親に養ってもらっている身だ。いくら裕福そうなご家庭とはいえ、双子ちゃんを育てる負担は大きかったろうし。下手すると双子が産まれたから下の子はいいやと佳樹が産まれなかった可能性すらある。
私と佳樹を産んでもらった恩返しもしない、恥知らずな元大人がどこに居よう。
「恩にはきちんと報いる人間なんだ、私は」
「まぁ。それなら今度取り立てますね、貸しが溜まってますから」
「出世払いで」
「待ちませんよ?」
きゃー借金取りだー逃げろー、待ちなさーい。
わいわいきゃっきゃ。
人生2周目ですることか?これが。
※ ※ ※
「あれれ、金額上がってないかな?」
「八奈見さん、追加でスイカパンケーキ頼んでたよね。それと、シメに豚しゃぶサラダうどんも」
「ドリンクバーも追加でね」
私は八奈見との絡みを増やすため、借金を増やそうと画策していた。
この非常階段での昼食会に加わるには弁当を二人分用意してもらう必要がある。最後には和彦の方から精算するとはいえ、すぐに返し終わってしまっては筋書きが変わってしまう。そうならないよう時間稼ぎのため、八奈見が負う負債を大きくした。
結果的には私が何かする前に、私の分と一緒に持って行った和彦のドリンクバーに口をつけてしまったので会計時に申告するだけで済んだのだが。目の前で借金を上乗せされた時の顔はお笑いだったぜ。八奈見の財布よ、息してる?
そして案の定、予定調和と言うべきか。
「じゃあ明日から、楽しみにしててね」
これから毎日八奈見の弁当を食べることになった。
※ ※ ※
太宰と三島はともかく。
その日の夜、私は和彦の部屋にいた。
「お兄様が知らないだけで、大抵居ます」
「そして私も、佳樹が居る所ならいつでも現れるよ!」
お風呂上がりの佳樹に後ろから抱きつき、ふたりできゃーきゃー騒ぐ。
和彦とイチャイチャしたい佳樹と、佳樹とイチャイチャしたい私が、イヤイヤよいではないかお許しくださいお代官様的なことをするお約束のやり取りだ。
一見すると佳樹を邪魔しているだけに見えるが、それは違う。和彦は間近で濃厚な姉妹百合を鑑賞し、佳樹もお兄様との時間を過ごす前にお預けで高まりつつ、お兄様に姉妹百合を喜んでもらおうというご奉仕でもある。
そして私は、佳樹の柔らかな髪と立ち昇るシャンプーの香りを楽しむので三方良し。完璧だ。
薄いパジャマ越しに伝わってくる佳樹の体温が沁みる。まるで荒んだ心が洗われるようだ。これは負けイン世界の破綻を恐れるあまり無自覚のうちに神経質になっていたのだ。そうに違いない。
緊張で凝り固まっていた精神にファブリーズ。佳樹を肺いっぱいに吸い込む。嗚呼、私の中身が佳樹で満たされてゆく。身も心も佳樹に埋め尽くされるようだ。満腔。これぞ満腔。ここが私のユートピア。
しかし至福の時間は唐突に終わりを告げた。
「ほら、瑞樹。佳樹が嫌がってるだろ」
ひょいと持ち上げられた佳樹が、佳樹の温もりが私から離れてゆく。そんな軽々しく私から妹を奪い去るなんて、佳樹を何だと思ってるんだ。佳樹の体重が林檎3つ分だとでも?
そうだよ。
「あわわ、お兄様っ」
膝の上に運ばれた佳樹はバランスを崩したふりして和彦の首に腕を回し、背中を支えられ横抱きの形で腕の中に収まった。
もたれるように胸に頬を寄せる佳樹の、なんという至福の表情か。
佳樹が私と和彦どちらの妹か、この場で雌雄を決してやってもいいのだが……まぁ、今日のところはこのくらいにしてやろう。
佳樹も悦んで、もとい喜んでいることだし。
それに、これから佳樹に悪いことをする。
佳樹は高校生活でも友達ができないお兄様のため、話題づくりと称してキャラ弁(?)を作ってくれていた。
佳樹がどうしてキャラ弁という手段に至ったかは未解明の謎が多くあるが、和彦はこれをすげなく断る。
目的があって行った事であろうと、愛しのお兄様のためなら真心を込め誠心誠意尽くすのが佳樹の生き方だ。喜んでもらいたいと、丹精込めて作ったに違いない。
佳樹の気持ちを無下にするのは忍びない。
だから、せめて納得のいく説明をしよう。和彦は八奈見との約束がやましい取引に思えて話すつもりは無かったようだが、私の口から言えばその限りではない。
あくまで弁当や借金は口実で、私は八奈見と仲良くなりたいし和彦もいずれそうなる運命だ。
友達と交友を深めるためならと、佳樹も他の女の弁当を食べることを快く了承してくれた。
「まあ、和彦はほんとは身体で払ってもらいたかったみたいだけど」
「どういうことですか、お兄様」
それはそれとして、佳樹を取られた報復に爆弾を投げ込んで部屋を後にする。
佳樹が目ん玉かっ開いてハイライトを消して詰め寄っていたが、心の底では和彦を信じているからこそのやり取りだ。
きっと週末デートなんかのかわいいお願い事と引き換えに許してくれるだろう。
これも佳樹の機嫌を取るためだ。頑張れ、お兄様。
この時、私はのんきに明日からのスケジュールを思い浮かべ、原作沿いのストーリーを描くにはどうするかと妄想を膨らませていた。
まさか、あんな事になるなんて思いもせずに。
今回地の文が多いですが、次回は台詞過多でお送りします。
原作を改変したら会話が難しいというか、口調エミュもそうですが思考と発言真似るのが難しい。
温水瑞樹
ガチ恋した相手が実妹だったTS転生者。
産まれた時から負けヒロイン。