3分割のつもりが妙に多くなったのは、書きたいことが増えたからだとポジティブに捉えますね。
(文字数から目をそらしつつ)
皆さんはバタフライ効果をご存知だろうか。
説明しよう。バタフライ効果とは、二次創作で擦られ尽くし、もはや説明不要となったあのバタフライ効果のことである。
世界の修正力という言葉と対を成す二次創作ワードであるバタフライ効果にやられた二次オリ主と転生者は数知れず、「こんくらいええやろ」の精神で余計な事をした結果、発生した原作崩壊は無数に存在する。
本当にどんな些細なきっかけであれ、バタフライ効果と言えばどんな大騒動に発展しても許される免罪符となる。
シナリオとは関係ないはずの行動がドミノ倒しのように、あるいはダムに空いた穴のように、ネズミ算式に影響が広がってゆく。
例えば、
「瑞樹ちゃんがカラオケ来てくれて助かったよ〜。草介も華恋ちゃんも人目が無いと際限なくイチャイチャするんだから」
とか。
例えば、
「お母さんには三人分お弁当作って一緒に食べるんだって説明してあるから、草介も適当に感想言っておいてね」
「杏菜、やっぱり俺が代わりに払おうか?温水たちにも悪いし」
「草介に払わせる訳にはいかないでしょ。私が財布の中身よく見なかったせいなんだし」
や。
例えば、
「そんな訳で、一緒に食べようか。瑞樹ちゃん、温水くんも」
みたいに。
数多のトリッパーや過去改変者の足元をすくってきた修正力さんは、どうやらこの世界には不在だったらしい。
多くの勝ち組と負け組に分かれる負けイン世界。たったひとつしかないその席を取り合い鎬を削るヒロインたち。勝敗がついてもなお壊れない友情を謳う三角関係。そこに放り込まれる、カップルでも何でもない男女がいた。
そう、私(と和彦)です。
どうしてこうなった。
※ ※ ※
私にはこの時、八奈見の行動がさっぱり理解できなかったのだが。
「なるほど、八奈見さんは考えましたね」
私の知人友人で最もIQの高い朝雲さんはそう評した。
「いつも3人で食事をしていたなら、ひとりだけそこを離れれば目立ちます。ですが逆に人数が増えても、どちらかと言えば目立つのは派手にイチャつくカップルの方です」
「そうかな?あの2人が窓際の席で私たちは教室側に背中を向けてたからわからないけど、すごい視線を集めてたよ」
「きっとクラスの方たちは背中しか見ていないでしょう。ですが、カップルの2人の視点では違います。八奈見さんが温水さんたちと話していればひとり蚊帳の外に置かれずに済みますし、事実上2人と3人のグループに分かれていれば今後場所を移しても気にならないでしょうね」
「八奈見さんと私たちが一緒だろうから、ってこと?」
「はい。それに加えて、温水君は温水さんとセット扱いされています。温水さんが別のクラスからわざわざ移動する理由が無くなれば、温水君だけ一緒に食事するのもかえって不自然になります」
なるほど。完璧に理解した。やはり持つべきものは優秀な解説役だ。
つまり八奈見は、自然にフェードアウトするための緩衝材として私と和彦を利用したわけだ。言われてみれば、八奈見の行動は「姫宮夫妻と別行動する」ためという点で原作と変わらない。
てっきりバカップルにやられる被害者を増やしてダメージを分散するための生贄かと思ったが、そんなことは無かったようだ。
ちょっと食卓が家庭内別居みたいになってるのが気になるが、私が八奈見と和彦の間に立てば話はもつし、和彦はちょっと一緒に食事したくらいで袴田と仲良くなれたら苦労しない。ずっと和彦の表情筋が死んでいたのを除けば何の問題も無いな。
原作崩壊への焦りのあまり頭が麻痺していたが、さすが朝雲さん。頭脳が光るね。
もちろん、落ち着いて考えれば私でもわかることだが。しかし勉学には優秀な教師が必要なように、自分で考えるよりも人に相談した方が理解が進むこともある。
勉強に重要なのは頭の出来か教師の出来か。頭とも言えるし教師とも言える。とても難しい問題だ。
「……そういえば、温水君も居ることですし、私も『瑞樹さん』と呼んでもいいですか?」
と、教室の扉の前で立ち止まったかと思うと、朝雲さんがちらりと振り返る。
なんだそんなこと。
改まって聞く必要ないのに。
「もちろん。なら私も『ちーちゃん』と呼ぼう」
「嬉しいです。瑞樹さん」
ガラガラガラガラ……、レールを滑り、音を立てて扉が開かれる。
入ってすぐの席には和彦が、談笑する一組の男女と居た。
もちろん、和彦が友人と談笑しているわけではない。
それは天地がひっくり返ってもありえない。
少なくとも、現状では。
「光希さん、そろそろ行かないと、塾に遅れちゃいますよ」
「和彦はいるかー」
和彦たちの教室の扉に、手を添えて半身だけ覗く朝雲さんに、さらにその背中に手を乗せて全身教室に踏み込む私。
入ってすぐに立っていた男子が私たちの声に振り向いた。
「千早。それに温水さんも一緒なのか、放課後ふたりとも見るのは珍しいな」
「そうでしょうか。たまたま見なかっただけだと思いますよ」
「そうそう、たまたまだよたまたま」
まるで私たちが上辺の付き合いみたいに言われるとは、失敬な。
綾野君が知らないだけだ。
実際、朝雲さんとは用が無ければ一緒に帰ったり遊んだりする仲だ。ただ朝雲さんの優先する用事といえば塾で勉強か、綾野君とデートか、その両方なので綾野君が知らないのは当然といえば当然。
今日は和彦と合流するので一緒に来たが、私も学校では兄妹つるんでないのでこちらの教室で綾野君と顔を合わせる機会も多くない。
ただし、疎遠なのかと言えばそれも違う。共通の友人というのはどうしても話題の種にされがちで、私と綾野君はそれぞれ朝雲さんを通して現況を聞いている。そのため、お互い接点もないのにお互いの近況を知っているという奇妙な関係になっている。
言うなれば、親しい知人と言うべき複雑な関係。
私が聞くのは惚気半分なので綾野君が聞く内容とは随分違うだろうが、疎遠でもないのに話す機会もなく、それでいて妙に親近感を覚えるのは不思議な感覚だ。
まぁ下手に距離感が近くて朝雲さんをヤキモキさせたくもないので、それぐらいが丁度いいのだが。
とにかく綾野君とはご無沙汰だったが、それが彼女である朝雲さんと不仲な理由にはなるまい。
私たち2人は息ぴったりに手を合わせ、ねーっ、ってする。
どうだ、見ろよ男子。仲良し女子同士の百合仕草だ。これが異性の友情では届かない領域なんだよ。
しかし悲しいかな、朝雲さんは男目当てで来てるので百合の花は桜より早くパッと散る。
「あれ、瑞樹ちゃん?どうしたの忘れ物?」
「あっ、八奈見さん」
タイミングよく八奈見が寄って来て(どこからともなく降り立ったようにも見えたが)、サッとそちらに振り向く。こういう時にタイミング良く磁石みたいにくっついて離れてを繰り返すのが女子社会だ。
彼と一緒に行くから離れてよね、なんて言わせないようにする、というか、言われたら死ぬ。精神的にもそうだし、空気読めない認定はそれ以上に重たいのだ。
さながら私はスペランカー。ちょっとした段差につまずいて死ぬ。
ここは名残惜しいが、手を放して……
「あなたが八奈見さん、ですね」
……あの、朝雲さん?どうして手を放してくれないんでしょう。
それどころか、絡みついてきた。
朝雲さんの指が、私の指に。
恋人つなぎみたいにぎゅっと手を握られると不意打ちなのもあって心臓の鳴るのが速いこと速いこと。しかも反対の手で手の甲を撫でるように包まれると全身思わずビクリとなる。急にそんな身体的接触をされると困るんですよ恋人じゃあないんだから。
女の子の手って、柔らかくて温かいんだなあ……
「私、F組の朝雲千早といいます」
「えっ?あぁ、瑞樹ちゃんの友達?」
「親友です。中学時代からの。八奈見さんのことは瑞樹さんから聞いていました」
私は親友から聞いていたが、貴様は?
八奈見にそうメンチを切るようにきらりと光るおデコ。
気のせいだろうか。朝雲さんが八奈見との間にバチバチに火花を飛ばしているように見えるのは。
いや、いくら手段として犯罪も厭わない朝雲さんとはいえ、その根は真面目で優等生、かつ情に厚く非常に善人だ。
いきなり人にメンチ切るなんてことするわけ無いじゃないか。
そうだよね?朝雲さん。
縋るような思いで瞳を覗くと、にこりと微笑み返しに安心させられる。
「そうです、この前雰囲気のいい喫茶店を見つけたんですよ」
そこで親睦を深めるんですね朝雲さん。
いかにも良い事を思いついた、とばかりに両手を合わせると、朝雲さんはぺかーっと日向のような笑顔で言った。
「今度の休日に光希さんを誘おうかと思ってましたが、瑞樹さんと温水君も一緒にどうでしょう。また中学の頃みたいに4人で勉強会でもしませんか?」
朝雲さん?
嘘だよね朝雲さん??
「いいんじゃないか。久しぶりに一緒に行こう温水」
「えっ、あっうん」
乗り気な綾野君と流される和彦。
「そ、そうなんだ。ちなみにそのお店って……」
「あっ、ごめんなさい八奈見さん。たしかあのお店、ボックス席は4人までしか」
「そっかー、じゃあ仕方ないね……」
流れに乗ろうとする八奈見とお流れにする朝雲さん。
わざわざここで4人しか座れない喫茶店に誘うことがありますか、我が友よ。
朝雲さんは、終始八奈見の参加を断固拒否する構えを崩さなかった。その守りは岩のように固く、柳のようにのらりくらりと受け流す。柔剛織り交ぜた見事な鉄壁の構えだ。
結局、休日の勉強会は私が、
「和彦を連れて出かけようって妹と約束したから」
と断ったので話は立ち消え、朝雲さんは綾野君を連れ去って行った。
「温水って光希と友達だったの?」
ひどいことを聞かれている和彦を横目に考える。
和彦と綾野君は別に友達ではない。あえて言うなら友達の身内か、身内の友達だ。全ては私の「こんくらいええやろ」からはじまった。
同じ塾に通うにあたり、やけに好意的な綾野君と彼に懸想する朝雲さんとの関わりが不可避と考えた私は、二人と和彦が必要以上に接近しないよう一計を案じた。難しい事は何もない。私が先に仲良くなれば、二人にとって和彦は友人の身内、和彦にとって二人は身内の友人という認識になる。
もちろん和彦を蚊帳の外に置くことを良しとしない朝雲さんと綾野君は決してハブにせず時折話題を振ってくれたが、和彦はちょっと一緒に勉強したくらいで人と仲良くなれたら苦労しない。次第にそれを察した二人の方から、和彦の扱いは山彦の精霊か何かのようになっていった。
まあ、和彦はいいんだ。日常を平穏に過ごす分には和彦の出番は無い。
和彦の優しさがわかるのは追い詰められた人か切羽詰まった時だから。そんな事態に陥ることなんて、無い方が良いに決まっている。
シナリオを歪めないよう和彦との距離感を保ち、かつ二人を邪険に扱って印象を悪くすることの無い一石二鳥の策。いや三鳥にも四鳥にもなると私は気づく。
早々に二人をくっつかせて、お互いしか視界に入らないようにしてやろう、と。
どうせ原作開始時点でくっついてる二人だ。私がすることといえば、それをちょっと早めてやるだけ。私は朝雲さんの恋愛相談で親密になり、そして間近で甘酸っぱい青春ラブコメが見られる。いい事を尽くめだ。
肝心の朝雲さんは受験に差障り無いよう、ツワブキに合格してからお付き合いを申し込むつもりだったが、それもよし。
燻る少女の恋心を傍で観察しつつニヤけ顔をこらえる日々は実に甘美であった。正式に交際するまでの間も、綾野に朝雲さんを意識させるべく暗躍し、密会し、犯行計画を立てた時間は実に楽しかった。
合格発表と同時にめでたく綾野君と交際をスタートした朝雲さんだが、その後は定期的に惚気話しつつ順調に関係を深めている。
一方で、馬に蹴られないよう距離を取った私は放課後落ち合って和彦と寄り道なり佳樹の待つ家に帰るなりして、カップルとしての二人とはやや疎遠となっていた。学校での人付き合いを最低限にして恋人生活を優先したい朝雲さんにとっても好都合だったはずだ。
朝雲さんとは仲良しだが、あくまで優先順位は男だからね仕方ないね。
何分綾野君との予定が多いからか、一緒にどうかとは誘ってくれるが、お邪魔虫になってはいけない。
上辺だけと言われない程々の付き合いを保ちつつ、お互いの私生活を楽しむべきだ。
それが今になって、何故急に距離を詰めてきたのかはなはだ謎だ。
一番付き合いの濃い時期でさえ、和彦と温水被りするのに名前呼びはしなかった。ミヅキとミツキでややこしいのもあったが、話すのが主に私なので和彦と呼び分ける必要がなかった。
一年F組に光希がいないとはいえ、和彦もいないのに今更下の名前で呼ぶ必要はあったか?
親友と言ったが、わざわざ八奈見への牽制のために私を親友と呼ぶ必要はあったのか。
最低限守るべき好感度調整をしていたはずが、いつの間にかこの世界は原作とは乖離したイベントによって変容してしまっている。
未来を知っているというアドバンテージは、既に失われつつあった。
朝雲さんはどういうつもりなのか、私にはさっぱりわからない。
一体何が原因で、私を親友だなんて言い出したのか。
「ただの友達じゃないかな!」
八奈見のそんな声が、教室に響いた。
※ ※ ※
少し八奈見と気まずくなって、和彦と二人で食べてもらった昼休み。
屋上に佇む二人を背後の別校舎屋上から見て、かろうじて筋書きが守られたことに胸を撫で下ろす。
同時に、何もしないで何やってんだ、と思う。
和彦ではなく、自分に。
強がる健気な負けヒロインの涙は美しいだろうけど、八奈見は痩せ我慢よりもここで泣かせてやるべきだ。
ここで胸を貸して泣かせ、悲しみを吐き出すことが八奈見杏奈には必要だった。悔しさや未練を失ったら負けインの物語が始まらない?ちょっと泣いたくらいで想いが無くなるなんてそれこそファンタジーだ。八奈見杏奈が産まれてからの15年をまとめて吐き出すには、私たちの間には時間も信頼もフラグも足りない。出来ることと言えば、ほんのちょっと胸を軽くしてあげることくらいだろう。暴食を軽減するという意味で。
女子に胸を貸してあげるなんて和彦ではイケメン力が足りないかもしれないが、そこは同性である私の出番。朝雲さんよりも母性に溢れるこの胸に抱けば、八奈見だって
「いま何か考えましたか?」
「何でもないよちーちゃん」
私と物影に潜んでいる朝雲さんが妙に鋭い勘で刺してきた。
その視線は、何でもなくないだろう、と問うようだが。もう一度隣の屋上を覗いてから頭を引っ込める。
「八奈見さんに謝らないといけませんね。先日の態度はあまりに失礼でした」
「わかってくれたならいいんだよ」
あの光景に、朝雲さんも感じることがあったのだろう。
「あんな事情を抱えていたなんて。次にお話する時はもう少し優しくしてあげないといけませんね」
「そうだね。あんな事情なら……ん?」
私は八奈見の事情なんて話してないが、一体どこから聞きつけたんだ?
疑念を振り切るように、朝雲さんは後ろ髪を翻して校内に入る。
いつの間にか和彦と八奈見も退散していたようで、予鈴の鳴る屋上には私ひとり残されていた。
なんとなく次の授業に出る気分ではなくなって、私は薄汚れたベンチもお構いなしに寝転がる。
「何やってんだんだろ、私は」
未来を知っているというのは、大きなアドバンテージだ。
だから、いつ、何をすれば負けインたちと仲良くなれるかと計算しながら生きてきた。
仲良くなって、何がしたかったとは言わない。あわよくばぐへへなイベントとか無いかなと下世話な期待はすれど、今世のこの身は女の身。アニメで放送した範囲を衝動買いして一気読みした原作にはレズっ気のあるヒロインは居なかったし、負けヒロインたちとヌラヌラ方面で親密な関係になることは無いだろう。
それでも、たとえそれが百合イチャだとしても、ヒロインたちと仲良くなってイチャイチャしたいと思うのが男心というものではないだろうか。
私の、私として生きてきた15年はそのためにあったと言っても過言ではないのだ。失恋につけ込み、懐に入ってスキンシップを楽しむために。傷ついた心を癒やす手伝いをする対価として、ほんのちょっとの下心を満たすために。
だというのに、このザマだ。
「何やってんだ、私」
何も出来てないじゃないか。
前世と同じで。
どこまでも澄み渡る青空を見上げて、なんとなく、早く小鞠と仲良くなりたいなと、そんなことを思った。
オリ主のステータス
・成績 S ・知能 B
・攻撃 B ・防御 F
なお、攻撃防御は対物ではなく対人とする。
女の子同士は特に段階とか踏まずに名前で呼び合うし気軽にボディータッチする生き物だと思っている。童貞だったのでされるのは慣れない。
負けイン以外の人間にどう思われているのかに無頓着。
朝雲千早
目的のためなら手段を選ばない素敵な恋する少女。
恋人は鈍感男、親友は無自覚クソボケ女、親交のある親友の兄は友人判定が発生しないというステキな人間関係を抱えている。