仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ イリス×エリシア 夢幻審理のパラドックス 作:teru@T
だけどしまい続けて見えないそれは本当に思っている通りのものだろうか
ザザァン───ザザァン───
波の音が響く海岸線、ビーチから少し離れた岩壁に小さな洞窟があった。
満潮になると海に沈んでしまうその洞窟を覗き込む少女がいた。
「誰かいるのー?」
白いワンピースに身を包んだ少女は洞窟の中へと呼びかける。
反応はない、それに首を傾げながらも少女はトコトコと中へと入っていく。
転ばぬように水で濡れて湿った岩壁に手を添えながら少女は暗い奥へ奥へと進んでいく。
「誰かいますかー?」
再度、闇へと呼びかけると反応が返ってくる。
少女の視界の奥、岩陰の奥の
「やっぱりいた! 泣いてたのあなたね!」
「……君も僕をいじめるの?」
「しないよ!」
黒い液体のような塊、おおよそ人とはかけ離れたその姿に恐れることなく少女はそれへと近づいてゆく。
「お散歩してたらね、しくしくって聞こえてきたから誰か泣いてるのかなって思ったの。横座っていい?」
「……嫌なことしないならいいよ」
黒い塊の横へと少女が腰掛けるとツルリとした液面に少女の姿が映り込む。
外から差し込む光を反射する銀の髪の少女、彼女は笑みを浮かべながらも自身を映すそれを興味深く見つめていた。
「……君は羽根が生えてないの?」
「羽根? うん、私は飛べないよ? あなたは飛べるの?」
「うんうん、僕も飛べない。でも僕のいた所にいた人たちはみんな飛べるんだよ」
「すごーい! そんな人いるんだ! あなたも不思議な見た目してるね」
「やっぱり、君にとっても僕は不思議なんだね……僕と同じ見た目の人は見たことがないんだ」
キラキラと目を輝かせる少女に対して黒い塊の声色は暗いままだった。
「僕はね、昔のことを覚えてないんだ。気がついたら今のところで暮らしてた」
「それってうーんと……きおくそーしつっていうの?」
「多分そう……かな? だから、みんなが僕をいじめる理由も思い出せない。聞いても教えてくれないんだ……」
ぐにゃりと落ち込むようにへこむ黒い塊は落ち込んでいるのだろう。
良く見ればその表面が波打っていることに少女は気づく、それが震えであることは明らかだった。
だからこそ、少女は震える黒い塊へと手を伸ばし触れる。
突然のことに驚いたのか、黒い塊はビクリと先ほどよりも大きく身体を波打たせ、瞳なき瞳で少女を覗き込んだ。
「びっくりした……どうしたの?」
「やなことお話してくれてたんだよね? ブルブル震えてたから、そういう時はお母さんがこうやってよしよししてくれると怖くなくるなるんだよ!」
「そ、そうなんだ……触っても大丈夫? みんな気持ち悪いから触りたくないっていうんだ」
「うーん……不思議な感じだけど気持ち悪くないよ! スライムみたいなのにツルツルしてる! よしよし、今は私しかいないからね」
「ありがとう。ちょっとだけこのまま撫でてほしい」
その言葉に笑顔で頷いた少女はゆっくりと優しく液面を撫で続ける。
冷たくも熱くもなく、外の光を吸い込む黒い身体。だが、少女が撫でたその場所だけは少女の体温が移りほんのりと優しい温かさをもたらしていた。
「───懐かしいって思うのはきっと誰かに撫でてもらったことがあるんだろうね」
「きおくそーしつなのに覚えてるの?」
「はっきりとじゃないよ。でも大切な人といたはずなんだ……だからどれだけ嫌なことされても我慢できる」
「そっか……それなら頑張らないといけないね」
すっかり落ち込んだ様子の消えた黒い塊に少女は嬉しそうにニコリと微笑む。
「そうだ。君のことを教えてよ。せっかく知り合えたんだから」
「私のこと? いいよ! うんとね、私はお父さんとお母さんとあとガルダちゃんと暮らしててね! あ、ガルダちゃんっていうのはね───」
その後、少女は自身のことについて意気揚々と言葉を紡ぐ。
家族のこと、学校のこと、ここには旅行で来ていることなど少女にとっての日常は黒いそれにとって衝撃の連続だった。
「そうか……君の生活は本当に楽しそうだね」
「うん! あなたとお話してるのも楽しいよ!」
「ありがとう。嬉しいよ。僕も君と話せて久しぶりに楽しい気持ちになれたよ」
「えへへ、良かった。わぁっ、見て見て水が溜まってきてる!」
フッと少女が足もとを見れば来た道である洞窟の入口から満ち始めた海水が入り始めていた。
まだ少女の足でも外に出ることは容易い量ではあるがこのままここにいればそれもできなくなってしまうだろう。
「本当だ。これはそろそろお別れしないとだね」
「そうだね……私ね、まだ何日かここにいるの! また会えるかな?」
「またかい? 多分……会えると思う。うん、ここでまた会おう」
「やったぁ! じゃあ同じ時間にまた来るね! 楽しみ!」
ぱぁっと明るい笑顔を浮かべる少女を見て黒い塊も嬉しそうにぐにゃりと形を変える。
「そうだ! お名前! 教えてなかったし聞いてなかった!」
「名前……」
「もしかして覚えてないの……?」
「そうだね、本当の名前は覚えてない。けど呼ばれてる名前はあるから大丈夫だよ」
「良かったぁ……私ね、えーげつっていうの!」
少女は改めて黒い塊へと向き直り自らの名を告げる。
黒い塊は少女の名を忘れないように何度も繰り返し口に出し、心に刻み込む。
「ありがとうございます、えーげつ。僕の名前は■■■■■」
告げられた名前に満足気に頷いた少女は手を振って洞窟の外へと向かってゆく。
確かに名前を聞いた、教えてもらった。だが、思い出せない。
ノイズがかかったかのようにそこだけ聞き取れない、何かがおかしい。
そう知覚するとともにぐにゃりと地面が歪み、少女は黒い水底へと落ちてゆく。
───約束を破ったな。
前後左右上下の感覚すら分からない黒い水の中、盈月の耳の声が響く。
───わたしとの約束を破ったな。
息ができない、意識が遠のく、なにか大切なものが変わってゆく。
───後悔しろ、わたしとの約束を破ったお前を絶対に許さない、お前は……
暗黒の中、何かがこちらへと手を伸ばす伸ばされた手が少女の大切な何かを掴み取ると更に深く、深く闇の底へと沈んでいった───
「うわああ!?」
「ピィッ!?」
盈月を起こしに来ていたガルダの目の前で悲鳴とともに盈月が飛び起きる。
突然のことにガルダもベッドの縁から落ちかけるもなんとか踏ん張り、肩で息をする盈月へと寄り添った。
「ピィーピィピィ? ピィーピィピィピィ?」
「ガルダちゃん……? うん、大丈夫だよーちょっと変な夢見た気がするだけだから。おはよ」
「ピィピィピィー!」
心配して身体を寄せるガルダを笑顔を見せ撫でるとガルダも安心したのか元気良く応える。
そこで自身に目を向けてみれば寝汗のためかパジャマがしっとりと湿り、自身の身体へとピタリと張り付いてしまっていた。
「あー、ご飯の準備の前にシャワー浴びなきゃ……博士を起こしに行くのはその後だね」
「ピィッ!」
「あ、ありがとう、ガルダちゃん!」
ベッドから起き上がり、浴室へと向かおうとするとそれを察したガルダがタオルを盈月へと手渡す。
1階へと降るとガルダは1羽キッチンへと向かう、自身にできる準備を先に済ませてしまうのだろう。
それを見送った盈月は脱衣場にて寝巻きを脱ぎ去り浴室へ。
「うーん……嫌な夢を見たことは覚えてるんだけど……うーん……」
シャワーを浴び、霞がかった思考をクリアにしてゆく中で盈月は今日、夢見た悪夢を思い出そうとしていた。
だが、
「忘れちゃいけないことだった様な……でも、なにか……うーん……よし、そのうち思い出そう!」
モヤモヤは晴れないが考え込んでも仕方がないと思考を切り替える。
汗を洗い流し、タオルで身体の水気を拭き取ってゆく。
「ふんふふ~ん、今日は博士とショッピング~……ん? なんだろう?」
眠気が醒め、今日の予定を鼻歌交じりに口ずさんでいるとふくらはぎの辺りでタオルがなにかに引っ掛かる。
何事かと思い、タオルを持ち上げるとキラリと輝く薄い何かが脱衣場の床へと落下した。
それを拾い上げ、照明に照らす。
「……魚の鱗? キレーイ! でもいつ付いたんだろう?」
丸みを帯びたツルリとした薄い板、光を浴びてキラリと輝くそれは少し大きめな薄青い魚の鱗だった。
ここ数日、魚は調理しても切り身でありウロコ取りなど必要なかった、さらに言えばこの様な大きな鱗を持つ魚に盈月は心当たりがない。
「まぁいっか! キレイだし! 後で飾っておこう!」
不思議な出会いに首を傾げながらキレイな贈り物に気分を良くした盈月は乾かすために鱗を洗面台の目立つ所に保管すると手早く着替えを済ませ、キッチンへと向かってゆく。
消える照明の輝きを浴び、キラリと光を反射した鱗は静かに盈月を見送った。
******
人通りの少ない朝の日差しが差し込む中、ビルとビルの間の一角の空間に
それはぐにゃぐにゃと歪む穴の様なモノ。
異質なその穴からドロリと黒い液体がこぼれ落ちる。
溢れるようにこぼれ落ちた液体は流れ広がることなく1箇所にまとまり、黒いスライムのような塊へと変貌する。
「本当に来れたんだ……ここにあるんだ」
黒い塊はそのまま動き出す。
地面を這い壁を登り、何かを探すように街の影へと紛れてゆく。
「待っていてね、えーげつ。もうすぐキミに逢える……そのためにも早く見つけなくちゃ」
黒い塊は口にする、自身の求めるモノの名を。
「どこにいるんだい……エリシア」