仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ イリス×エリシア 夢幻審理のパラドックス 作:teru@T
それは薄氷の湖から底に沈んだ水鳥を掬い上げた手のように。一筋の光と人は呼ぶ
ひっそりと開いた空間を割く穴。
誰にも見つからず、消えることもなくそこにあった穴だが徐々にそれは大きさを増し裂け目のようになっていた。
初めこそ犬程度の生き物が通るのがやっとだったが今では人が通り抜けられるほどに広がっていた。
バサリ。
羽ばたく音とともに裂け目から何かが飛び出した。
それは空高く飛び上がり、見慣れない街を一望すると鼻をひくつかせる。
「匂う───匂うぞ……エサの匂いだ」
何かがニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。
バサリ、バサリ。
それに呼応するように幾重にも重なった羽音が裂け目から響き渡る。
そしてその羽ばたきはウネリとなり、裂け目から飛び出した───。
******
「ねぇ、博士ー。見た夢が思い出せないときってどうすればいいのかな?」
昼下がりのショッピングモール。
人で賑わうフードコートの一角でポテトをかじりながら対面に座るエリシアへと語りかけた。
「はぁ? 藪から棒にどうした」
「んーちょっと今日の夢が思い出せないから」
「なんか良い夢でも見たのか?」
混み合ったモール内を歩き疲れたのかグッタリと座りジュースを飲むエリシアは生返事を返す。
「良い夢じゃなくてね、どっちかというと嫌な夢だったと思う」
「嫌な夢を思い出したいのか? 酔狂なやつだな」
「うん……大切なことだった気がするから」
どこか遠くを眺める盈月の様子に思うところがあったのか、ため息をつきながらスマホを取り出し検索を始める。
「悪いがそういうスピリチュアルなのは専門外だ。ネット検索したのしか知らないぞ」
「やっぱりそうなっちゃうかぁ。うん、帰ったら一緒に試そうね!」
「私は思い出したいモノないんだが?」
「でもリラックスできるから博士にはちょうどいいと思うよ?」
「私が常に疲れてるみたいな……いやうーん、否定できんな……」
盈月が指摘するとともにエリシアをポテトを向ける。
ムッとしてスマホから顔を上げ反論しようとしたが良く考え直した末に否定材料が見つからず諦めて差し出されたポテトをサクリと齧る。
「まぁ、どっちにしろ買い物済ませたらだな。私の方は日用品だけだから大方買い終わったが」
「えー! 博士も服買おうよー! 選んであげるから!」
「いらん! というかお前まだ買うのか……さっきも服やら次のための水着やら色々見てただろ」
「でもまだ水着しか買ってないもーん! そろそろ季節の変わり目だから色々買っておきたいし! 一緒に選ぼうよー!」
ねだるように盈月の眼差しを今度こそ興味なさげにあしらいながらエリシアはハンバーガーへと手を伸ばす。
だが、彼女が掴むよりも早く伸びてきた盈月の手がハンバーガーを掻っ攫い、ニコリと笑顔を浮かべていた。
イエスと言わないと渡さない、そんな雰囲気の盈月の笑顔に対してムキになりハンバーガーを取り返そうとするもヒョイヒョイと避け続け、一見するとじゃれ合っている様に見えるやり取りを繰り返していた。
そんなやり取りを終わらせたのはエリシアのスマホの着信音だった。
「何だこんな時に……煌琉から? もしもし、今忙しいんだんが」
面倒くさそうに電話を受けたエリシアだったが会話が続くに連れその表情が変化していく。
その様子に異常事態であることを察したのか盈月も移動の支度を始めていた。
「───分かった。すぐに向かう、私のドライバーは今整備中だがそういうことなら現場にいた方がいいだろうからな。あぁ、気をつける」
「博士、何かあったの?」
「
「えっ、でもレーダーに反応なかったよね?」
少し前、郡山涼によりもたらされたスコアノート出現を探るレーダーは温斗たちの元を介して2人のスコアリーダーにも搭載されている。
だが、盈月が取り出したスコアリーダーにはなんの反応も示していなかった。
「あぁ、だが暴れてるらしい。温斗が先に向かってる、私達も行くぞ!」
「うん! あ、はいこれ、ハンバーガー!」
「おう……いや、もっと先に渡せ!」
駆け出しながら差し出されたのは先ほど取り合っていたハンバーガー。
エリシアはそれを奪い取るように受け取ると齧りつきながら走り出し、盈月も荷物を持ってそれに続くのだった。
******
「これは……!」
”化け物が暴れている”、市民からの通報を受けて一足早く現場に到着した温斗の前に広がる光景は普段以上に現実離れしていた。
人々が逃げ惑う中、空から舞い落ちる鳥の羽。
建物へと鋭利な爪痕を残し、歌声のような笑い声が響き渡る。
空を見上げれば、太陽の光を遮り、大地へと影を落とし空を飛ぶ
「アハハハ! どこだ? エサはどこだ!」
「こいつか? いやこいつか? あぁ、違うが美味そうだ!」
「美味そうなら変えてしまおう! 奪ってエサにしてしまおう!」
それらは人の姿に良く似ていた。
だが、その腕は鳥の翼と一体化していた。
身体の各部に鳥の羽毛を生やし、脚部は細く黄色いウロコ状の模様を持った鉤爪。
歌のような耳心地の良い声で逃げ惑う人々を嘲笑い、鉤爪で人を捕らえるとどこかへと飛び去っていく。
「こいつらがなにかを考えるのは後か……!」
《
「変身!」
《
温斗はレディッシュリーダーを前に掲げて起動する。
掛け声と同時にリーダーをバックルへ勢いよく装填すると周囲に人形のエネルギーを形成する。
《フラッシュレディバグ!
エネルギーが温斗を包む込むと重厚なパワードスーツを身にまとったテントウ虫を模した戦士、レディッシュへと変身する。
変身が完了すると同時にイツツボシューターで発砲、人を連れ去ろうとする鳥の怪物へと銃撃を浴びせた。
「今のうちに逃げてください!」
「ギィ!? なんだ!?」
「邪魔者だ! やっつけろ!」
連続で銃撃を放ち、人を襲おうとする怪物たちの動きを牽制する。
レディッシュの活躍により人々は逃げ去り、それを鬱陶しく思ったのか怪物たちはレディッシュへと狙いを定め、取り囲む。
その数は10を超え、更にその殆どは上空から俯瞰し様子を伺っている。
「邪魔だ! 消えろ!」
「それはこっちのセリフだ!」
怪物たちが翼腕を振るうと発生した突風が嵐となってレディッシュを襲う。
突風に身動きを封じられたレディッシュへと急降下する怪物の鉤爪が殺到する。
鉤爪がレディッシュの装甲へと突き立てられ金属を引っ掻く音が響き渡るもレディッシュへのダメージは軽微だった。
反撃のためにレディッシュは左腕の装甲へとカブトムシの描かれた疑似プレートを装填する。
《ランスビートル!
吹き出した赤いエネルギーが左腕を覆うようにカブトムシの角に似た槍を形作る。
再度、高速で接近してきた怪物の鉤爪を出現させた槍で受け止めると食い込んだ鉤爪ごと怪物を振り回し、地面へと叩きつけた。
更にその怪物へと銃口を向けると連続で引き金を引き絞る。
1発、2発、3発と連続で銃弾が撃ち込まれた怪物はやがてその動きを止める。
「戦えない相手じゃない……けど数が多い……!」
1体倒れたところで意に介することなく怪物たちは突風と鉤爪でレディッシュを攻め続ける。
迫る爪は槍を振り回し弾き、離れて突風を放つモノには銃撃で応戦するも数の差によりすべてを捌き切ることはできていなかった。
更には戦闘に参加せず、さらなる犠牲者を探すモノも見受けられる。このまま放置すれば犠牲者が増えることは間違いないだろう。
その時、バイクの駆動音が少しずつ大きくなりながらレディッシュたちの元へと近づいてきた。
「あれだ! 盈月、行けるか!?」
「任せて! 行ってきます!」
それはエリシアの駆るスコアダッシャー。
エリシアの背後に座る盈月はエリシアの言葉に頷くとバイクに跨ったまま立ち上がり腰にイマージュバックルを押し当て、
《フライトイーグル!》
「変身!」
プレートを装填したリーダーを天高く掲げ、掛け声とともにバックルへと装填。
同時に背後へとバイクから飛び降りる。
《
風を感じながら背中から地面へと向かう盈月の姿に人型のエネルギーが重なる。
白いアンダースーツを纏い、その上に重なるように装甲が装着されてゆく。
地面へと激突するそれよりも早く、背中に展開された白いエネルギーの翼で空高くへと飛び上がった。
変身が完了すると同時に弓を引き絞り、レディッシュの背後から迫る怪物へ向けて一矢を解き放ち、撃破する。
「レディッシュ、おまたせ!」
「助かる! 空の敵をお願いします。余裕があれば拐われた人の捜索も!」
「りょーかい! いっくよー!」
弓として運用していたデュアルラプターを双つに分割、双剣モードに切り替えてエリシアは空を駆ける。
まずはレディッシュを無視してどこかへ去ろうとする鳥の怪物へと斬りかかり、もう片手の刃で突風を放つ怪物を斬り伏せる。
空の敵を気にする必要のなくなったレディッシュも地上付近の敵へと攻撃を集中していく。
「邪魔者増えた!」
「だけどこの匂い……間違いない、こいつだ!」
「えっ!? 何の話、なの!?」
エリシアが双剣で怪物たちを斬り倒していく中、何匹かの怪物のエリシアの見る目が変わる。
邪魔な敵ではなく求めていたモノを見つけた、そういった目へ。
それに呼応するように怪物の動きもエリシアを捕獲しようとする動きへと変化する。
「わ、もう! 博士ー! こいつらなにか分かったー!?」
『分からん……! けどモノコーンでもスコアノートでもないのは確かだ! なんとか解析はしてみる!』
「りょーかい! なんか、捕まえようとっ! してきてるから急いで欲しい!」
攻撃をかわし、両手の刃で反撃を繰り返す。
それと同時にイーグルの力で強化された視覚を持って周囲を見回し拐われた人を怪物の動きを観察し続ける。
「───見つけた! 博士、レディッシュに伝えて! ビルの屋上にいる!」
『了解した。レディッシュに座標を送る! 無事かはわかるか!?』
「うん、多分……うーん、うまく見えない……!」
『そんなわけ無いだろ、その距離なら視覚強化で見えてるはずだが……いや、戦いながらじゃきついか』
戦場からわずかに離れたビルの屋上に折り重なるように重ねられて寝かされている人たちをエリシアは発見する。
だが、凝視しようとしてもその視界はノイズが走るように遮られ、それ以上確認することはできなかった。
怪物たちを捌きながらエリシアは空を駆け、一足早く救出へと向かう。
ビルへ接近し、高度を落としたエリシアへ向けて別の屋上から何かが飛び出した。
「見つけたよ、エリシア」
「っ!? なに!?」
ドロリ、とエリシアの身体に纏わりつく黒い泥の様なモノ。
声を発する黒い泥はエリシアの白い装甲を徐々に覆い包んでいく。
「君を探してたんだ……君の力を僕に……」
「いや、やめ……!」
足を身体をそして頭を、エリシアのそのすべてを飲み込もうと黒い泥が広がってゆく。
抵抗するエリシアはベルトへと手を伸ばすがそのベルトとともにその全身を黒い泥に飲み込まれてしまう。
後に残ったのはだらりと脱力したまま宙に浮かぶエリシアだった黒い塊。
「盈月!? おい、盈月!!」
「これで後は……?」
無理やり身体を動かそうとする黒い泥。だが、その腹部───Eイマージュドライバーが光を放つ。
《
「はあああああああああ!!」
泥の下から響く盈月の叫び。
黒い泥に包まれる直前、Eイマージュリーダーへと伸ばしたエリシアの手は2枚目のスコアプレートを装填していたのだ。
叫びに呼応して強くなる光とともに黒い泥が沸騰するかのように泡立ち始める。
《ハウリング×フライト! イーグル!》
音声とともに勢いよく黒い泥が内側から爆ぜる。
その内から現れたのは鮮やかな黄色の追加装甲をまとうエリシア
その力である衝撃波が彼女を包んだ黒い泥を弾き飛ばしたのだ。
『良かった……心配させるな。盈月』
「ごめん! なんとか間に合ってよかったぁ」
ホッと一息つく
バラバラに散らばり、ビルや地面に張り付いていた黒い泥は近場の屋上へと集まり、スライムのような黒く丸い塊へとまとまり集まった。
その姿を見た盈月の脳内に電流のように走る既視感。
「あなた……は」
「失敗か……仕方ない。セイレーンたちもいることだし、次の機会を伺うことにするよ。エリシア」
「っ、待って!」
ズキリと頭痛のように感じる既視感に戸惑う盈月を他所に黒い泥はぬるりと重力を感じさせない動きでビルの隙間を縫ってその場を離れていく。
追いかけようとエリシアのまま空を駆ける盈月だったがその直後。
Eイマージュドライバーがスパークするとともにライオンスコアプレートが排出、その姿が元の姿へと戻ってしまった。
『なんだ!? さっきの時になにかされたのか?』
「わかんない……でも今はさっきのを追いかけてくる!」
『あ、おい! 待て……えぇい! 私も追う!』
異常を後回しにしフライトイーグルのまま黒い泥を追うエリシア、その下で細い路地を器用に進むスコアダッシャーが並走する。
黒い泥は路地を進み、やがたたどり着いたのは空間に大きく開いた裂け目。
迷うことなく泥はその裂け目へと飛び込みその姿を消す瞬間を2人は目撃することとなった。
「なんだこれは……一体何と戦ってるんだ、私達は」
「どうしよう博士……」
「悩む素振りをするなら今すぐにでも飛び込みそうな姿勢をまず直せ……今回の敵と無関係とは考えられない行くぞ」
「……うん!」
《スプリングホッパー!
2人が裂け目へと突入する中、エリシアの活躍もあり、怪物───セイレーンの数を減らし猶予ができたレディッシュは屋上へと突入する。
地上から強化した脚力とスプリングを利用し一飛びで着地したその先には異様な光景が広がっていた。
「ア───」
「アァ───」
「なんだ……どうなっているんだ、これは」
屋上にはエリシアが見た通り、拐われた5人の女性が横たえられていた。
助けを求めるように呻き、レディッシュへと手を伸ばす彼女たちには共通する異変が起こっている。
本来、伸びているはずの2本の脚が1つにまとまり、鮮やかな鱗を纏いその先端にはひらひらと大きなヒレを携えている。
それはまるで伝説上にのみ存在する人魚のような姿をしていた。
「そいつらから離れろ!
「私たちが奪って
「くっ……どちらにしろ、ここは僕が護るしかないか……!」
眼の前の状況に固まっていたレディッシュだったが散っていたセイレーンたちが彼女らを渡すまいと屋上へと集い始める。
悩みが晴れぬまま、だがやることは決まっていた。
レディッシュは人魚たちを背に仁王立ちすると再びセイレーンとの戦闘を再開する───
******
裂け目を抜けた盈月とエリシアが最初に知覚したのは潮の香り。
開けた視界に映るのは眼下に広がる海辺の町並み。
空中に開いた裂け目から脱出した2人は重力に従い下へと引っ張られていく。
「───うおお!? 盈月! えいげーつ! 助けてくれ!」
「わわわ! よいしょ! うぅー! 重い!」
「バイク1台分だからな! 私がいてもいなくても重いからな!?」
スコアダッシャーに跨ったまま落下するエリシアを翼を広げバイクを掴む
重力と勢いに押され、落下こそ止まらないものの緩やかに安全な速度で降下することは可能であった。
そんな彼女たちが次に知覚したのは音。
「この音……下から? 誰かが戦ってる?」
下から響く戦いの音。
キョロキョロと音の元を探したエリシアはノイズの走る視覚の中その元を発見する。
周囲を氷が覆う中、セイレーンに囲われた1人の男子学生、そして彼の前に立つもう1人。
氷の剣を携えて赤いマントをたなびかせる雪の結晶のような意匠を持つ仮面と骨の意匠持つ鎧をまとう白銀の戦士。
「もしかしてあれって……仮面ライダー?」
驚きと興奮、盈月の内で混ざり合う2つの感情の中、眼下の仮面ライダーは氷の剣を振るう───