仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ イリス×エリシア 夢幻審理のパラドックス   作:teru@T

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その距離は近いようで悠久の時のようにひどく離れている。

朧げにしか姿が見えないとしても手を伸ばせば触れ合える。


第四話「近久ーちかくー」

「ここは……」

 

 誓と伊織はグレイスに導かれるままラヴィリンス内に突入した。そのはずだった。

 二人の眼前に広がるもの。それはどこからどう見ても普通の町だった。磯の匂いがどこからか漂ってくるあたり、近くに海でもあるのだろうか。一見何の変哲もない町にしか見えない光景に、伊織は困惑しながら隣の誓に目をやった。

 

「ねぇ、センパイ。ラヴィリンスってこういうところもあるの?」

「……いや。町を形成するほどの大きさは初めて、だな。よほどパラドックス耐性が高い人間が作ったのか……?」

「ラヴィリンスの大きさとパラドックス耐性って関係あるの?」

「大いにあるな。パラドックス耐性が高ければ高いほど、ラヴィリンスの広さは広くなっていく。……そうだな、ペットボトルで例えるのがわかりやすいか。ペットボトルの大きさをパラドックス耐性、中身のジュースをラヴィリンスの広さと例えよう。ペットボトルが大きければ大きいほど、入れられるジュースの量は多くなっていくだろう? それと同じだ。なにせパラドックス界と僕たちの住む人間界を繋ぐ世界を一つ創り出すんだ。世界という中身を抱えるには、それだけ大きな入れ物が必要になるわけさ」

「そっか、たしかに耐性高くないと自分で創った世界の大きさで潰れちゃうよね」

「そういうことだ。理解が早くて助かる」

「センパイの説明がわかりやすいからね!」

 

 誓に褒められたからか、伊織は得意げに胸を張った。誓の説明のわかりやすさで伊織が胸を張るのもおかしいとは思うが、ここにツッコむ者はいない。

 

「……が、今話したのはあくまでも一般的な事例だ」

「んん? 普通はそうだけど、ってこと?」

「ああ。稀にパラドックス耐性が大して高くないのに広大なラヴィリンスを創り出す者もいる。その場合、僕たちの想定よりも早く自身のラヴィリンスに呑み込まれることもある」

「えっ……。じゃ、じゃあ! このラヴィリンス創った人もそうなるかもしれないってこと!?」

「ここまで広大なラヴィリンスだ。さほどパラドックス耐性が高くなければそうなるな」

「じゃあ早く探さないといけないじゃんー!! もっと早く言ってよセンパイー!!」

「む……」

 

 伊織に珍しく反論されたからか、誓は特に言い返すこともしなかった。それどころか少ししょんぼりしているようにも見える。

 

「あっ、えっと! センパイが悪いわけじゃなくて──」

「シッ! 静かに」

 

 誓は伊織を連れ、素早く物陰に隠れた。物陰から様子を伺う誓に倣い、伊織もまた物陰から覗き込む。

 

「あれって──」

「イビツキ、だな」

 

 二人の視線の先には、人の姿によく似た怪物がいた。たしかに人の形をしているが、腕が鳥の翼と一体化しているあたりただの人間ではないのは明らかだ。

 

「鳥人間? みたいな? なんだろうあれ」

「……周囲に仲間はいないようだな」

 

 周囲をよく確認し、他に似たような姿のイビツキがいないことをたしかめてから誓は物陰から飛び出した。

 

「お前を定義する」

 

 誓の瞳がイビツキを捉える。

 

「セット、分析。対象、前方約五メートル。設定、画面として表示。以上をもって魔を法とす。詠唱開始──《自他乖離ヲ禁ズ》」

 

 早口で呪文を唱えると、誓の目の前にはゲームのステータス画面のような映像が現れる。そこにはあのイビツキの正体がこう書かれていた。

 

「セイレーン……?」

「人間か? なぜここにいる」

「え、しゃべった!? しかもすごく日本語うまい!」

「君は黙ってろ!」

 

 誓の呟きに反応したイビツキ──セイレーンに、思わず伊織の心の声が漏れていた。

 

「異分子は排除する」

「やる気みたいだな……。なら、こちらも遠慮はしない!」

 

 セイレーンは鳥の翼のような腕を振るい、誓に向け弾丸のように羽根を降らせる。しかし羽根が誓に突き刺さることは無い。グレイスが誓を守るようにして影から現れたからだ。

 

「変身!」

 

 氷を砕き、白銀の手に包まれた誓の体は鎧に包まれる。仮面ライダーイリスへと変身した誓は、形無を手にセイレーンへと突っ込んでいく。

 

「ハァ!」

「ギィ!?」

 

 イリスは一気にセイレーンとの距離を詰め、形無を振り下ろす。斬撃を防ごうとセイレーンが翼腕で受け止めると、形無は呆気なく砕けた。

 

「え!?」

「なんだ、この程度か?」

「いいや? これで終わらないさ」

 

 ただの氷の塊と化した武器を手にしたイリスを前に、セイレーンは凶悪な笑みを浮かべる。好機と捉え攻めの姿勢に転じようとした時。

 

「凍狩れ」

 

 セイレーンの翼腕に付着していた氷の塊が、イリスの一言で氷の面積を増やしていき──たちまち翼腕全体を氷で覆わせた。

 

「なに!?」

「油断するのが早かったな?」

 

 イリスはセイレーンの腹部を蹴り上げ、体を宙に浮かせた。その隙を見逃さず、イリスは爪先から鋭く尖った氷柱を生み出し、セイレーンの体へ叩き込んだ。

 

「ぐ……ぁ……」

 

 致命傷をくらい、セイレーンは動きを止めその体は霧散した。

 

「やっ、た……?」

 

 伊織はそろそろと物陰から出てイリスの側へ移動する。

 

「なんか、呆気なかったね?」

「当然だ。これで終わりじゃないからな」

「え?」

「周りを見ると良い」

 

 イリスの変身を解いた誓にそう促され、伊織は周囲を見回す。元凶のイビツキを倒したのだ、ラヴィリンスが崩壊してもおかしくないはずだ。しかしその予兆はまったく感じられず、依然として港町のような光景が周囲に広がっている。

 

「僕が倒したのは所詮雑魚敵に過ぎなかった、というわけだな」

「じゃあまだ安心できないのかー……」

「……しかしとことんおかしなラヴィリンスだな。いったいなんだ、この違和感の元は……?」

 

 誓は違和感が拭いきれないのか、首をかしげている。ここまで誓が頭を悩ませているのも珍しいことだ。伊織はよし! と頬を軽く叩くと鼻をすんすん鳴らし始めた。

 

「どうした? 伊織。鼻の調子が悪いんだろう、無理はしなくていい」

「調子悪くてもセンパイの役に立ちたいの! オレだってやればできるんだよ! えっと、なんだっけ……わんでぃーけーってやつ!」

「それは部屋の間取りだろう。YDK、と言いたいのか?」

「あ、たぶんそれ! さすがセンパイ!」

 

 いまいち締まらないやりとりを交わしながら二人はラヴィリンスの中を進む。時折現れるセイレーンを撃退し、周囲を警戒しつつ進んでいたが、誓はずっと眉間にシワを寄せていた。

 

「……しかし、ずいぶんセイレーンが多いな」

「ちょこちょこ巣みたいなのもあるよね。すぐ見つかっちゃって戦わないといけなくなるし……オレも戦えたら良いのに……」

「君の戦力は追々期待するから今は温存してろ。……それにしてもこのセイレーンの量は異常だな。巣をいくつも作れるほど多いのは間違いなくおかしい。それだけこのラヴィリンスが広いということか、それとも……」

「それとも?」

「……いや、あくまで可能性に過ぎないからな。推論は口にしないでおく」

「えぇー! 気になるよー!」

「あぁもう騒ぐな! 親玉に遭遇するまで戦力は温存しておきたいんだ、静かに──」

 

 誓が伊織を制したのも束の間、近くを偵察していたと思われるセイレーンの一体が迫ってきていた。

 

「ごめんセンパイー!」

「謝る暇があるなら逃げるぞ! グレイス、目くらましを頼む!」

「アァ……」

 

 誓が名を呼べば、相棒であるグレイシャス・キングがすぐに誓の影から手を伸ばし、地面を叩きつけた。彼の手から現れた氷の霧が辺りを覆い、セイレーンの視界をくらませる。

 

「これオレたちも前見えないよ!?」

「問題ない、詠唱なら終わってる!」

 

 視界が白で染まった伊織は足をもつれさせながら走っていたが、そんな彼の手を誓はしっかり掴んでいた。

 

「僕から離れるなよ!」

「もちろん!」

 

 氷の霧が晴れるまで二人は走り続けた。霧が晴れた辺りで手を離し、二人は息を整える。

 

「はぁー……なんとか撒けた?」

「そのようだな……」

「体動かすのは好きだけどこんな走るのはさすがにキツいよー……。あー疲れ……ん?」

「どうした、伊織?」

 

 突然伊織は何かに気づいたような素振りを見せた。周囲をキョロキョロ見回し、鼻をすんすんと鳴らす。

 

「なんか、匂いが変わったような……?」

「匂いが変わった?」

「うん。パラドックスの匂いに近いけど、ちょっと違う……? それに、さっきより匂いが濃い気がする」

「……もしかしたら、このラヴィリンスの元凶に近づいてきているのかもしれないな」

「ラヴィリンスの元凶?」

「あぁ。このラヴィリンスを生み出した誰かにようやく迫っているのかもしれない。この辺りをくまなく探索してみよう。何か見つかるかもしれない」

「わかった!」

 

 誓の提案のもと周囲の探索を再び始めた二人だったが……異変らしきものはすぐに見つかった。

 

「これは……」

 

 二人が見つけたのは、空間を裂く巨大なヒビだった。人の背丈を優に超すほどの大きさを誇るそのヒビに、誓も言葉を失っていた。

 

「こんな大きいヒビ初めて見た……」

「……」

「センパイ?」

「伊織、匂いの出どころはここか?」

「うん、たぶん。このヒビの前に来たらもっと匂いを感じるようになったから」

「となると、このヒビは元凶に関するものと見て間違いないな。……が、やはりおかしなラヴィリンスだ」

「センパイずっとこのラヴィリンスのことおかしいって言ってるよね。そんなに違和感あるの?」

「あぁ。……恐らくだが、このヒビは──」

 

 その時だった。ヒビからドロォ……と黒い液体が溢れ始めたのは。

 

「!? え、何!?」

「離れろ、伊織!」

 

 伊織を庇うように前に立ち、警戒体勢を素早くとった誓は、いつでもイリスに変身できるよう氷を手に取る。その間にも黒い液体はヒビから溢れていくのをやめず、最終的に泥の塊のように一つの場所に留まった。

 

「ん……? なんだい君たちは」

「え、しゃべった!?」

「お前こそ何者だ? このラヴィリンスは、お前が作ったのか?」

「あぁ、その通りだよ。とても居心地が良くて懐かしい気持ちになる、素敵な場所だろう? ……そんな心休まる場所にドカドカと土足で踏み入るような真似はどうかと思うなぁ」

「まさか……!」

 

 誓は素早く詠唱を始め、目の前の黒い塊の正体を探る。スクリーンに提示された文字は──ブギーマン。

 

「こいつ、イビツキだ!」

「え、ラヴィリンス作れるのって人間だけじゃないの!?」

「僕も初めての事態だ! たしかに理論上は可能だが、イビツキがラヴィリンスを作るなんていう事態そのものがパラドックスだ! 何が起きるか、僕も想像がつかない……!」

「それなら、黙って見ててもらえるかな? こっちに危害を加えないなら僕も君に干渉するつもりはない。邪魔者にかまけてる暇はないからね」

「おいそれと見逃してやると思うか? 僕は、仮面ライダーだぞ」

 

 素早く氷の塊を砕き、鎧に包まれながら誓はブギーマンへ向かっていく。形無を手に、誓はブギーマンへと斬りかかる。

 

「はぁ……結局こうなるのか」

「人々の安寧を守るのが僕の使命だ。その安寧を壊すなら、相手が誰であれ容赦しない!」

「……? セ、センパイ! 上、上見て!」

「はぁ? 君、僕たちが戦ってるのが見えな──な!?」

「!?」

 

 伊織が指を差した先。そこにはこちらに向かってゆっくり落下してくる、バイクに乗った女性と──翼を広げた鎧の騎士が宙を舞っていた。

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