仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ イリス×エリシア 夢幻審理のパラドックス   作:teru@T

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共に在りたいと願った日々はすでに遠く。

二人だけの世界はもうまもなく。


第五話「共逃─きょうとう─」

「くぅっ……! まずいなこれは」

『温斗、そろそろ限界だ! もうエネルギーが底を尽きる!』

「分かっている……わかっているけれども!」

 

 光弾の牽制をくぐり抜けたセイレーンの鉤爪がレディッシュの装甲に傷をつける。

 エリシアたちが謎の敵を追いかけ戦線を離脱した後も戦い続けたレディッシュだったが苦戦を強いられていた。

 各個撃破し数こそ削ったものの、依然として群れをなして空を舞う彼らに翻弄され続けている。

 加えて背後には陸に上げられた魚の如く───いや、魚そのものの下半身を持つ人魚たち。

 

「せめて彼女たちを逃がすことができれば……!」

 

 しかし、空を覆うセイレーンたちを掻い潜り連れ出すのは至難の業だろう。

 レディッシュの限界が近いことを察したのかセイレーンたちは勝ち誇った笑みを浮かべ、トドメを刺すために急襲する。

 複数迫る鉤爪、耐えきれるか分からずともレディッシュは背後の人魚たちを守るために回避を捨てその場に立ちはだかった。

 

「こんなけったいな所におるなんてなぁ。あんまりおいたしたらあかんよ」

「ギィッ!?」

 

 衝撃を覚悟したレディッシュの元に届いたのは聞き覚えのない声と苦しむセイレーンたちの叫び。

 空を自由に舞っていたセイレーンたちはレディッシュの背後から伸びた鎖に巻きつけられて一纏めに縛り上げられていた。

 

「一体誰が……!?」

 

 振り返ると同時に鎖の根元へとレディッシュは銃口を向ける。

 ビルの給水塔の上、そこに立っていたの1人の鎧武者に似た仮面ライダー。

 

「ん~? お兄さんには用事ないからそこで大人しくしときぃ」

 

 右側にねじれた一本角を生やした仮面、藤色のストールを肩にかけた戦国武将を思わせる紫の鎧を纏う仮面ライダー。

 向けられた銃口に恐れる様子もなく漏れ出た声は男なのか女なのか判別しづらい中性的なものだった。

 

「君は誰だ。どこから来たんだ?」

「お喋りしに来たように見えるん? 用事ないゆうたやろ?」

「そちらになくともこちらには……っ!」

 

 紫の武者はそちらに目を向けること無く煩わしそうにレディッシュをあしらった。

 それでもと食い下がったレディッシュだったが突如、構えを取ると武者の方へと狙いを付け、迷うこと無くその引き金を引いた。

 発射された光弾はブレること無く武者へと向かい───その仮面の横を通り抜ける。

 

「ギャッ!?」

「……へぇ」

 

 光弾は単独で鎖から逃れ、背後からの奇襲を狙ったセイレーンの翼を撃ち抜き、撃ち落とした。

 地面に落ちるよりも早く武者の伸ばした鎖がセイレーンを絡め取り、捕縛する。

 それを確認するとレディッシュは崩れるようにその場に膝を着き、すべてのエネルギーを使い切ったためその変身が解除されてしまった。

 

「そんなギリギリやのにうちを助けたん? こっち(セイレーン)を片した後に狙うかも知れへんよ?」

「自分で言ってたでしょ? 僕には用事がないって。それにもしあなたの言う通りだったとしても助けたことに後悔はありません」

 

 すでに戦う力は失われている。

 それでも温斗は恐れること無く挑むような武者への視線を外さない。

 トンッ、と温斗の前に降り立った武者はその手の鎖を引いた。

 

「ギィイイイ!?」

 

 セイレーンたちに巻き付いた鎖、そこから鋭いトゲが生える。

 武者が鎖を引いたことでそのトゲはセイレーンたちをズタズタに切り刻み、苦悶の叫びと共に霧散させた。

 そのうちの何体かから溢れた光の塊が人魚の元へと向かい、身体に吸い込まれると魚のヒレが人の脚へと戻って人間へと姿を変える。

 困惑するような声で自らの声も取り戻したことに気付くと人魚だった者同士でその喜びを分かち合っていた。

 

「はぁい、おしまい」

「……ありがとう。君のおかげであの人たちも助けられた」

「ん~そうなん? まぁ、それなら良かったんちゃう?」

 

 武者は人々が助かったことにも温斗の感謝にも興味がないように欠伸をこぼすと変身を解く。

 中から現れたのは肩の上で切り揃えた艶やかな濡羽色の髪を持つ少年。

 少年はいまだに膝を着く温斗に視線を合わせるように屈むとその手を伸ばす。

 

「お兄さんが頑張ったのも褒めてあげなねぇ。ええ子、ええ子」

 

 クスリと笑みを浮かべた少年が温斗の頭を撫でる。

 すぐに温斗が手を払いのけるとそれに合わせてクスクス笑いながら距離を取る。

 

「何をするんだ!?」

「つれへんなぁ。頑張ったご褒美あげよ思うただけやのにぃ」

「ご褒美って……」

 

 困惑する温斗をクスクスと愉快そうに口元を隠して笑う少年。

 ステップを踏むかのような軽やかさで少年は移動し、階段へと続く扉に手をかけた。

 しかし、それを温斗が静止する。

 

「君は何が起こってるのか、あの鳥みたいなのがなんなのか知ってるのかい? それなら教えて欲しい!」

「君やなくて水晶(みあき)、うちの名前や。覚えんでええよ、もう会うことあらへんやろうしねぇ」

 

 少年───水晶は振り返り温斗へと微笑みかけると彼の問いに答えること無く扉を潜り抜けるとパタンと扉を閉じてしまう。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 直ぐ様に追いかけた温斗が勢い良く扉を開く。

 開かれた扉の先にあったのは物静かな階段のみ。

 誰かが降りる音も響いておらず、そこにいたはずの水晶の姿はどこにもなかった。

 

「何なんだ一体……2人とも無事でいてくれ」

 

 次々に起こる不思議な事態。

 しかし、今の温斗には原因であろう空の裂け目を見上げその先へと向かった2人の安全を願う以外できることはなかった。

 

 

******

 

 

「センパイ! あれって仮面ライダー?」

「そう見えるけど僕も初めて見る奴だ。やっぱりあの裂け目は……」

 

 伊織が示した指の先、こちらへと向かってゆっくりと下降してくる翼の騎士───エリシアを見上げる誓と伊織。

 2人の視線が外れたその一瞬の隙を付いてブギーマンはぐにゃりと身体を躍動させ距離を取った。

 

「あっ!? 待て!」

「嫌だね。さっきも言ったけど邪魔者にかまけてる暇はないんだ。それとあんなに派手に空を飛んでるとアイツらが寄ってくるよ」

 

 ブギーマンの言葉を肯定するように周囲から羽音が響き、近くにいた数匹のセイレーンがエリシアたちへと迫っていた。

 それを見届けたブギーマンは人が通れない様な細い隙間を軟体の身体を活かして潜り込み逃げてしまった。

 

「ど、どうしようセンパイ!?」

「こうなった以上、まずは向こうを助ける! ──グレイス!」

「ア……」

 

 誓───イリスに呼びかけられたグレイスはそれに応え、姿を表すと空の2人へ向けて手を伸ばす。

 それに合わせて伊織を後ろでかばいながらイリスは形無(かたな)をカン、と打ち付けるとその形が杖へと変わる。

 クルリ、と杖を振るい空へと向けるとその周囲にいくつもの氷柱を発生させる。

 

「凍狩れ」

 

 言葉と共に氷柱は空へと打ち上げられた。

 

 

 一方の盈月(エリシア)たちも変化する状況に選択を迫られていた。

 

「どうしよう、博士!」

「クソ、まさか空に出るなんて思うかよ……! しかも下からデカい骸骨もきたぞ……!」

「っ、ごめん! 流石にバイクと博士一緒に上に飛ぶのは難しそう!」

 

 空から迫るセイレーン、そして地面から現れた氷の骸骨。

 ()()()()()()()では上空以外に逃げ場はない。しかし、緩やかに下降することしかできず、両手がふさがれ戦うこともできないのが実情だ。

 そんな彼女たちへ最初に襲いかかったのはセイレーンの鉤爪だった。

 

「良い匂いだ! お前は───ギャッ!?」

「えっ……?」

 

 しかし、その鉤爪が届くよりも早く、セイレーンの翼が何かによって貫かれその痛みに声を上げる。

 貫いたのは氷柱。穴を開けただけでなくその穴を中心に翼が凍りつき、セイレーンは飛び続けることができず、地面へと向けて落下していった。

 氷柱は1つではない。

 いくつもの氷柱が地面より打ち上げられ、セイレーンたちのみを狙っていた。

 

「氷……」

「下にいた仮面ライダーってのが助けてくれてるのか? ありがたい……! 今のうちに下に……」

「……よし、博士! いい感じに着地、頑張って!」

「……はっ?」

 

 下を───正確には手を広げてこちらに近づく氷の骸骨をじっと見つめていた盈月(エリシア)は何かに気付いたように頷くとバイクごとエリシア(博士)を空中へと放り出した。

 途端、重力に従ってバイクは博士を乗せたまま地面へと向けて落下していく。

 

「うおお!? 待て待て待て! 流石にこの高さは死ぬっ……!?」

 

 衝撃へ備えバイクにしがみつき、ギュッと目を瞑るとタイヤが弾む感覚とともに衝撃が走る。

 しかし、地面に衝突したにしては早いだけでなく衝撃が小さい。

 

「た、助かった……思ったよりも低かったのか……?」

「ア……」

 

 自身の無事にホッと胸を撫で下ろし自身が乗ったものを確認する博士。

 足元は節のある()で構成された氷の手のひら。

 顔を上げればこちらを心配するように覗き込む氷の骸骨───グレイスと目があった。

 顔を合わせたグレイスは博士へとペコリと頭を下げる。

 

「あっ、えっご丁寧に……」

「ア……」

 

 襲われるどころか挨拶をされた博士は混乱しながらお辞儀を返すとグレイスは彼女とバイクを落とさないようにゆっくりと地面へと向かっていった。

 

「たあッ!」

「ギィ!?」

 

 両手が自由となったエリシアは腰にマウントしていたデュアルラプターを双剣モードで手に取るとセイレーンへと突撃する。

 エリシアに当たらないように放たれる氷柱が空を舞うセイレーンの翼を撃ち抜き、氷柱が乱れ飛ぶ中を翔けるエリシアの刃がセイレーンを切り裂いてゆく。

 

「邪魔者が先だ!」

 

 次々と仲間が落とされることに焦ったのかセイレーンのうちの1体は狙いをエリシアから氷柱を放つ邪魔者(イリス)へと変えてその場を離脱した。

 迫りくる氷柱を回避し、落ちるように加速しながら地上へと向かう。

 

「こっちに来るよ!」

「分かってる! 心配するな、伊織」

 

 セイレーンが接近する中、イリスは焦ること無く形無を地面に打ち付けると剣の形へ。

 迎え撃つために形無を構え直すとタイミングを見計らう。

 爪を構え接近するセイレーン、後僅かでイリスへと到達する───そのタイミングでその翼を空から飛来した矢に射抜かれた。

 

「ギャアッ!?」

「そこだ!」

 

 空中でバランスを崩したように制御を失ったセイレーン。

 そのチャンスを逃すまいとイリスは空へと跳び上がり、すれ違いざまに形無を一閃に振るう。

 途端、切り口からパキパキと肉体が凍結していったセイレーンはやがって砕け散ると共に霧散する。

 ふわりと着地したイリスが空を見上げれば、先程まで舞い飛んでいたセイレーンたちは一掃されていた。

 

「怪我無かったですか!?」

「あぁ、君の援護のおかげでね」

「えへへ、助けて貰ったお礼できて良かった!」

 

 イリスの近くに降り立ったエリシア、その手には蒼弓モードへと切り替えたデュアルラプターが握られていた。先程の矢は彼女が放ったものだった。

 2人のそばに伊織が近づき、イリスの背後からエリシアを覗き込む。

 

「おい、盈月。流石にもうちょっと説明してから……いや、さっきの状況だと仕方ないとはいえだな……流石に死ぬかと思ったんだぞ、こっちは!」

「博士ごめんね? ほら、氷柱が助けてくれたから氷の骸骨さんは味方かな?って思って!」

「えっ! 女の子が変身してたの!?」

 

 ため息を吐き、バイクを押して近づいてきたエリシアを見て盈月がドライバーを外して変身を解除する。

 空を舞っていた騎士、その正体が同い年くらいの少女であることを見た伊織が驚きの声を上げると盈月はそちらへ振り返りニコリと笑い「うん!」と元気に頷いた。

 

「あ、博士今手伝う、わっ!?」

「危ない!」

 

 駆け寄ろうとした盈月が何も無いところで躓き、前のめりに倒れ込む。

 咄嗟にイリスが手を掴んだことで事なきを得た。

 イリスはそのまま盈月を引き起こすと変身を解除した。

 

「おい、盈月大丈夫か!? まさか、どっか怪我したのか?」

「そういうわけじゃないよ! ちょっと脚がもつれただけ! えへへ、また助けられちゃった」

「怪我がないようなら良かった。僕は宮代誓。君たちのことを教えて欲しいけどここだとまたあいつらに襲われるかもしれないな……」

 

 どうしたものかと考え込む誓を前に盈月はポンと手を叩く。

 

「それならちょっと行った所に民宿があるからそこでお休みしながらお話しませんか?」

「民宿? 君はこの場所を知ってるのかい?」

「うん! ちっちゃい頃遊びに来たことあるのここ! 海があってね! すっごい楽しい場所!」

 

 クルリと回りながら笑みを浮かべる盈月は「こっちだよ!」と3人を先導するように歩き始めた。

 エリシアがはぁとため息を吐きながらその後ろを付いて歩き出したのを見て誓と伊織も彼女に続いて歩き出した。

 

 

******

 

 

「なんであの女ここに……」

 

 盈月と誓たちを遠くから眺める何者かが呟く。

 ギリィと歯ぎしりをしながら嫉妬を込めた瞳で4人を睨みつける。

 

「……いえ、今はどうでもいいわ。それよりも彼を探さないと」

 

 頭を振って4人を視界から外すとそれは翼を広げ空へと飛び上がる。

 その手には輝く光の玉が握られていた───

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