いよいよ最終章です!!
第一話「赤空の金曜日」
「・・・・・なんで?」
ぽつり、と長い銀髪と獣耳を揺らしながら隣を歩く彼女が言った。
あれから家を出て、俺と彼女はトリニティの外れにある臨海公園を歩いていた。
俺は少し考えて言う。
「・・・・・そうだな、気紛れと言えばそれまでだが・・・・・強いて言うなら、自分が自分である為だ」
「自分が自分である為・・・・・」
そう言って彼女は考え込む様に沈黙し、俺達は無言で海辺を歩く。
さて、どうするべきか。
何かを喪った目、諦観、自責。ナギサの護衛をやっていた時に磨いた――磨かざるを得なかった――観察眼のお陰で何となく彼女の事はわかってきた。
まず大前提で一番の問題が、俺は彼女を知らないが、
ヒアリングは専門外――俺の出来る事は外傷の手当や簡単な薬学程度――だ。俺はセリナみたいに人の苦悩を聞いて、それを軽くしてやれる様な人間じゃない。
「・・・・・名前」
「?」
隣を歩く彼女が言う。その目には相変わらず諦観が宿っている。
「貴方の・・・・・名前は・・・・・?」
「ヒノト。霧島ヒノトだ」
少し間を置いて言う。
「・・・・・君の名前を聞いても良いか」
「・・・・・・・・・・・・・・・シロ」
そう彼女――シロは名乗った。そして続けて俺に問う。
「ヒノトは・・・・・自分が自分である為に私を助けたって言った。じゃあ、私は・・・・・どうすれば良かったの?」
「・・・・・」
それは無理な問いだった。俺はシロが何をしたのか、何を喪ったのかも知らない。だからこそ、俺はこの問いに答えるべきなんだろう。
俺は立ち止まって、シロと向き合った。
「陳腐な答えになるが・・・・・過去を嘆く事、振り返る事が無駄だとは思わない。だが、その行為は前に向かって進む為にするものだ。あの時こうすれば良かった――などという
「・・・・・ッ」
「――結局のところ、今を生きている俺達は『これから』しか変える事は出来ない。どう生きるか・・・・・どう死ぬかは自分で決めるしか無い」
俺がそうであった様に。
「・・・・・シロ、君に何があったのかは聞かないが・・・・・・・・・・君は『これから』どうしたいんだ?」
少し迷ってから俺は言った。死にたいのか、生きたいのかを問いただす言葉を。
「は、はわわわ・・・・・ど、どうしようホシノちゃん?!」
「はあ・・・・・放っておけば良いんじゃないですか?他人事ですよ?」
「ひぃん・・・・・でも、私は『先生』だし・・・・・それにあの子にもなんだか既視感があって心配で・・・・・」
「・・・・・仕方ないですね」
◆◆◆◆
“どうしたいんだ?”そう彼は私に問いかけた。
――私は死の神
――この世界を壊しに来た侵略者
でも、それは私に課された役割で――いや、今更考えるだけ無駄か。
だってこの手は夥しい程の血に塗れているから。
私は銃を
空が赤く染まっていく。
ああ、血濡れた私にはお似合いな空の色。
「私は・・・・・殺すよ、貴方を。それから、何時もと同じ様にこの
「・・・・・そうか」
凪いだ水面の様に彼の表情は動かない。
「俺には恩を返さなくてはいけない人が居る。だから・・・・・はい、そうですかと殺されてやる訳にも、このキヴォトスを滅ぼされる訳にはいかない」
彼が蜃気楼の様にブレて、人型の靄としか形容出来ないものが現れた。神秘や恐怖とは違うパワーを感じる。きっとコレが彼にとっての『大人のカード』。
でも、負ける事は無いだろう。
彼とその力は――確実に私よりも弱い。
ああ・・・・・また殺すのか、私は。
「そっか・・・・・じゃあ、優しく殺してあげる」
◆◆◆◆
「手足に複数の骨折と左半身を中心に複数の銃創!!肺は辛うじて無事です!!」「団長補佐のバイタル安定しません!!」「心臓マッサージを!!」「包帯取ってきます!!」「銃弾の摘出と傷の縫合を急いで。出血が酷いわ。間に合わなくなる」「シイナを取ってきて頂戴!!」「誰か団長とセリナを呼んできて」「私が!!」「血圧下がってます!!」「包帯とシイナ取ってきました!!団長補佐、死なんで下さいね?!」「ヒノトさん?!大丈夫ですか?!」「セリナ、直ぐに準備して手伝って頂戴!!」「わ、わかりました!!」「何事ですか?!」「団長!!団長補佐が!!」「事情はわかりませんが状況は把握しました。救護を開始しましょう。あの子を呼んできて下さい。外科手術なら彼女が適任です」「もう呼んできました!!」「ミチコ、できますか?」「誰に言っているんですか、団長?私、外科手術に関しては失敗しないので。それに団長補佐にはお世話になっていますし、救護してみせますよ」
ミチコちゃん
救護騎士団所属の外科医。口癖は勿論、「私、(死ぬ程勉強して経験してきた外科手術に関しては)失敗しないので」。秀才タイプ。