「ん、朝ごはんできたよ」
「ああ。今行く」
昔、「君は引力を信じるか?」とか言う
「いつか気がつく。君の人生は、目が覚めているだけで楽しいのだ」と。
確か
「失せろ不審者め。この世はクソだ」と。
だがそんな俺は絶望した
「始めよう、ゼロから」と。
思い返せば何処のラノベヒロインだ俺はと思うが、今となっては笑える話だ。
「?どうしたの?」
シロが不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。どうやら俺は無意識に笑っていたらしい。
「いや、昔の事を思い出していただけだ。俺達は殺し合っていた筈なんだがな、と」
「ん、人生って不思議だね」
「ああ、そうだな」
頷いて彼女が用意してくれた朝食の並ぶ食卓の席に座る。
今日も美味そうだ。
「冷める前に食べよう」
「うん」
「「いただきます」」
彼女と一緒に手を合わせる。
そうして、今日も一日が始まる。
◆◆◆◆◆
あの『赤空事件』から一年と少し。
俺は今、シロと二人でサイクリングショップを営んでいる。
スポンサーのお陰で連邦生徒会のお膝元であるD.U.区という比較的治安が良い――キヴォトス基準ではるが――場所で商売をさせてもらっている。
土地から
「よし、こんなものだろう」
「ん、お疲れ」
「タオルか、助かる」
最近は固定客も増え始め、売り上げも上々。バイトを雇う余裕も出てきた。週の半分しか開けていない店にしてはかなり良い滑り出しだろう。
「それ、柴田さんの自転車?」
「ああ。定期メンテナンスだな」
最初の頃は経営のいろはを勉強したり、メンテナンスの仕方を学んだり、金属加工の資格を取りにミレニアムに行ったり、『先生』の勧めで修理屋を併設してみたり、シロと二人で自転車の品揃えに頭を捻ったりして。大変ではあったが、かなり充実した日々を送っている。
修理屋(主に銃火器の修理やメンテナンス)と自転車関連の売上がトントンなのは・・・・・キヴォトスだからしょうがないと無理矢理納得した。
最近はシロの口数も増えて来ているし、スポンサーとの関係も(偶に護衛依頼が飛んでくるが)良好で、シロも柔らかい表情をするようになった。
・・・・・まあ、端的に言えば俺達は平和に暮らしていますって事だ。
◆◆◆◆◆
彼から送られてきた手紙を閉じる。添えられていた写真を見て、自然と口元が緩んでしまう。
その写真には、サイクリングショップ『チアフル・マンディ』を背景にして、お揃いのつなぎ服を着た黒髪の男性と灰色の長髪の女性が戸惑いながらも微笑っている様子が写っている。
「ふふ」
セリナから様子は聞いてはいましたが、どうやら彼は元気にしている様です。
「今度近くに行った時に寄ってみましょうか」
今から少し楽しみですね。
「ミネ
「む、救護に向かいます!!」
「ちょ?!医院長?!出来るだけ怪我人は増やさんで下さいね?!ミチコさあーん!!医院長が救護に向かっちゃいましたあ!!」
「そんな大声出さなくても聞こえてますよ・・・・・重傷者から私のとこに運んで来て下さい。軽傷者はセリナさん達の所に」
「はい!!要するにいつも通りですね!!」
「はぁ・・・・・」
◆◆◆◆◆
「お久しぶりですね、ヒノト君」
「ああ。久し振りだな、ナギサ」
待ち合わせのカフェで待っていたナギサに挨拶を返す。
「それはそうと・・・・・『チアフル・マンディ』はサイクリングショップであって要人警護会社じゃ無いんだが?」
「ふふ、そう言いながらも駆け付けてくれる貴方が好きですよ」
「・・・・・」
ナギサは親の財閥を引き継ぎ、その仕事は小さな所ではゲヘナとの交渉からキヴォトスの外の会社や国との外交まで多岐に及ぶ。話によるとナギサの手腕によって財閥はキヴォトスの様々な会社を取り込み、その気になれば国一つを支配できる規模に成長したらしい。
その為、財閥のトップである彼女は様々な方面から命やら身代金目的やらで狙われる。結構な頻度で。
因みに、サイクリングショップ『チアフル・マンディ』の営業日が週の半分しか無いのはコレが理由の一つだったりする。まあ、ナギサの護衛を嫌々やっている訳では無い。
「ほら、話は後だ。重要な会合があるんだろ?」
「ええ。キヴォトスの今後を左右するレベルのものですね」
ヘリのローター音がする。
「おいおい・・・・・」
戦闘ヘリが数機。機銃が此方を向いた。
「周辺被害はお構い無しか?!」
盾を取り出し、ナギサの前に出る。瞬間、戦闘ヘリにロケットランチャーの弾が突き刺さり、爆発が起きる。
軽い足取りでシロがロードバイクに乗ってやって来た。彼女はロケットランチャーを再装填しながら何時もの調子で言う。
「ん、軍事会社が動いてたから手伝いに着た。ヘリと戦車は任せて」
「助かる!!ナギサ、駆け抜けるぞ!!」
俺は
抱えられている彼女は小さく笑う。
「エスコート、お願いしますね?騎士様?」
「毎回言っているが騎士って柄じゃ無いんだが?」
そんな事を言いながら俺は駆け出した。
◆◆◆◆◆
「はぁ・・・・・疲れた」
シャワーで汗を流した俺はベッドに倒れ込む。あの後、会合は無事ナギサの有利な方向で決着が付いた。そんなこんなで我が家に帰ってきた訳だ。
「ん、お疲れ様」
シロが部屋に入って来た。そしてベッドに倒れ込んでいた俺の上に乗った。
「シロ・・・・・俺の上から降りてくれないか?」
「重い?」
「いや、重いわけでは無いんだが」
シロの体重が重い訳では無いが・・・・・控え目に言って彼女は美女に分類される程に美しく、豊満な体型をしている。そして彼女は家の中では基本的にTシャツ一枚。
正直、視線のやり場に困る。
「じゃあ、私が近くに居るのは嫌?」
シロが悲しそうに言う。否と言えるわけがないし、言いたくない。
「嫌じゃ無い」
「ん、なら私がヒノトと一緒に寝ても問題は無い」
今日も押し切られてしまった。まあ、仕方無い。シロと寝るのはもう半ば程習慣化している。というかいつの間にかベッドが二人用になっていた。
それに俺は彼女とのこの日々が気に入っている。
しばらくして、就寝の為に部屋の電気を消す。
「・・・・・シロ」
「?」
ふと、彼女に聞く。
「今は、幸せか?」
「うん。貴方が居て、二人でいろんなことをして・・・・・こうやって好きな人と二人で寝る。とっても幸せ」
「んぐっ・・・・・そうか」
シロの温かさを全身で感じる。
「ん、襲いたいけど我慢・・・・・・・・・・じゃあ、ヒノトは幸せ?」
「ああ。幸せだよ」
「ふふ、だったら二人でもっと幸せだね」
暗闇の中でも、シロの幸せそうな微笑に見惚れた。
ああ、きっと明日も良い日になる――そう、思えた。