尾刃カンナと明星ヒマリとの出会いから数週間。彼女達とは偶に顔を合わせる様になっていた。
カンナとは賞金首のヴァルキューレへの引き渡しで偶に――というかほぼ毎回顔を合わせる。どうやら彼女の担当地区が此処らしい。本人曰く生活安全局に入りたかったらしいのだが・・・・・人相のせいだろう。まあ、開き直ったらしく、今は口調を少し堅くしているとか。
ヒマリには三日に一度程の頻度で彼女の家に呼び出されて近状報告や他愛の無い話をするようになった。序に二日に一回は長電話が掛かってくる。俺としては暇を潰せるから良いのだが、学校で話し相手が居ないのだろうか?
昨日はヒマリの機嫌を直すのに苦労したが、今日はどう過ごそうかと電車に揺られながら俺は思う。
『この電車はハイランダー鉄道、アビドス方面ゆきです。次は終点、アビドス高等学校。砂嵐とお忘れ物にご注意下さい』
まあ、行き先は決まっているのだが。
それから暫くして、駅の改札を通る。駅構内は掃除が行き届いて無いのか、それとも砂嵐によるものか所々に砂が積もっている。
天気は晴天で、日光の熱さとパリッとした乾いた風を感じる。
「此処がアビドスか」
端的に言うなら、熱い。これで夜は極寒だと言うのだから、自然の恐ろしさと神秘を感じる。
さてと、交通手段は・・・・・全部閉鎖か撤退してるな。しょうが無い。これもまた散歩の醍醐味だと、徒歩で移動することにする。
数時間後。
「熱い・・・・・」
汗を拭い、水筒の水を軽く口に含む。
右も左も砂だらけ。スマホは圏外に充電も残り少ない。有り体に言えば、俺は遭難していた。
運よく車でも通り掛からないものかと歩いていると、遠くから自動車のモーター音が聞こえてきた。運が良い。
それから暫くして、俺はヘルメットを被った3人と対峙していた。銃――3人ともアサルトライフル――を向けられて。
「おい、テメェ。金目の物出せや」
「私達はカタカタヘルメット団だぜ?」
・・・・・。
「あん?黙りやがって。すかしてんのか?あ?!」
ため息をつき、俺は言う。
「はぁ・・・・・金目の物を出せ、だったか。もし、俺が『断る』と言ったら?」
するとカタカタヘルメット団の一人が声を上げて笑った。
「ははは!!おい、此奴気でも狂ってんのか?!」
「やっちまおうぜ!!」
「ヘイローの無い黒髪の・・・・・ちょっと待て、ソイツは」
「おら!!打て打てぇ!!」
そうして銃弾が俺に向かって放たれる。
3対1。だが、横並びとは。数の利を活かすなら囲むべきだったな。
「『グルーミィ・サンディ』」
瞬間、俺の前に人型の靄が出現し、銃弾を弾く。
「なに?!」
「やっぱコイツ!!」
「くそっ打て打て!!」
銃を取り出している余裕は無いなと俺は姿勢を下げて駆け出す。
だが、この程度の練度の相手なら、銃は必要無い。何処かで聞いた台詞だが、撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ、と。
要するに、近付いて殴る。それだけだ。
「早っ」
軽く銃身を弾き、その隙に『グルーミィ・サンディ』の拳を叩き込んで気絶させる。
「がっ」
「まず一人」
そのまま地面に手をつき、跳ね上がる様にもう一人の銃を蹴り上げる。そのままコマのように回転し足払い。いくら身体が頑丈でも、行動の軸を揺さぶられたらどうしようもないだろう。
カポエイラ、だったか。見様見真似だが上手くいくものだ。
体勢を崩した相手は『グルーミィ・サンディ』の追撃を避けられずに気絶した。
「二人」
「う、うわああ!!」
最後の一人が滅茶苦茶に銃を撃つが、狙いが雑すぎる。『グルーミィ・サンディ』に弾かせるまでもない。
俺は地面を転がって銃弾を避け、立ち上がる勢いを利用して相手の持つ銃を跳ね上げる。
「最後だ。『グルーミィ・サンディ』」
『ォ、オオオオ!!』
最後の一人に『グルーミィ・サンディ』による正拳突きが突き刺さる。
「がふっ・・・・・お前、やっぱり・・・・・こく、ようせ・・・・・」
「・・・・・通り名は小っ恥ずかしくて好きじゃないんだが」
そうして俺はカタカタヘルメット団の3人を倒した。
それから俺は奴らが乗ってきた車――軍用車の荷台に奴らを積んでから運転席に乗り込む。流石にここに放置するのはな・・・・・カンナに頼むか。
車内に地図と方位磁針があったのでそれを頼りに駅まで向かった。
◆◆◆◆
「私は休憩中だったのだが・・・・・」
「それは済まなかった」
駅前でカンナにカタカタヘルメット団の3人を引き渡す。話を聞くに休憩中だったのに車で来てくれたらしい。口調は堅くなったが性根は変わってないらしい。
そうだな。
「カンナ。今度、何か奢ろう」
「ふ・・・・・少し楽しみにしておこう」
そうしてカンナは去って行った。
裏では『狂犬』と呼ばれているらしいしこの調子なら来年には公安局の長官にでもなっていそうだな。
「さて、足も手に入ったことだし散歩を続けるか」
それから俺は地図を頼りにアビドスを軍用車で回る。
何処もかしこも砂だらけで、人気も無い。砂に飲まれた街といった様相だ。前に見た『アビドス高等学校 存続の危機か』という記事はデマでは無いみたいだな。
そよ風が吹く。
乾いてはいるが、心地良い。ふむ。
「偶にはこういうドライブも良いかもしれないな」
見渡す限りの砂漠。人気の無い砂に飲まれた街並み。まるでポストアポカリプスだが、ゲヘナよりは静かで落ち着く。何かでゲヘナに居られなくなったら此処に引っ越すのもアリだなとさえ思う。
きっと俺には騒がしい――良く言えば賑やかなゲヘナよりも静かな方が性に合っているんじゃないだろうか。
柄にもなく、鼻歌でも歌えそうな気分だ・・・・・と思っていたらスマホが震えた。ヒマリか。
「もしもし、今運転中なんだが」
『あら、それは失礼しました』
「で、何の様だ?」
『アビドス砂漠に居る様なので遭難して無いかと思いまして』
「・・・・・」
『車に乗ってるなら安心ですね』
「・・・・・ああ」
『では、気を付けて下さいね。ミレニアムが誇る清楚系天才美少女であるこの私と対等に話せる貴方の様な人間は数少ないのですから、しょうもない理由で怪我をしないように!』
そうして電話が切れる。
・・・・・学校で話し相手が居ないのか?まあ、あの自己肯定感の代名詞がそれぐらいで凹むとは思えないが。
というか学校で話し相手がいないとしたらその自己肯定感が原因なのでは?
まあ良い。それよりも此方に向かって殺気を飛ばしてきている桃色の髪の少女をどうにかしなければ。
俺は車を停めて外に出る。ショットガンを構えた少女がすぐそこに立っていた。・・・・・噂に聞いたことがある。桃色の短髪で鋭い目のショットガン使い。『暁のホルス』。
「いきなり殺気を飛ばしてくるとは随分物騒な挨拶だな。俺は観光に来ただけなんだが」
「カタカタヘルメット団の車でですか?」
「ああ。絡まれたので慰謝料代わりに貰った」
「・・・・・嘘はついてなさそうですね」
ふむ。
「カタカタヘルメット団に何か因縁があるのか?」
「貴方に話す必要はありません。同業者なら尚更です」
同業者、か。
「そうか、君が『暁のホルス』小鳥遊ホシノか」
彼女は小さく頷いて言う。
「ええ、そうですよ。『黒曜石』」
「・・・・・。俺は霧島ヒノトだ。名前で呼んで貰っても良いか?」
「は?ナンパですか?撃ちますよ?」
「違う。『黒曜石』の様な小っ恥ずかしい二つ名で呼ばれるのは勘弁願いたい」
「・・・・・それには同意します」
「・・・・・君も苦労してるみたいだな」
少し、シンパシーを感じた。