ブルーアーカイブ 【TTSM編】 作:アビドス文芸部のモブ
今日も、シャーレのオフィスの窓から、DUの街並みを眺める。
青春を謳歌している生徒たちが、思い思いの日常を送っている中、私はコーヒーの入ったマグカップを片手に、ふとかわいい生徒たちを見ながら、昔のことを思い返していた。
……先生となる前、自分がまだキヴォトスの外に住む『子供』だった時……私は、『かわいい女の子』になりたい、そう考えていた時期があった。
きっかけは、小学校の頃……同級生の女の子が、買ったばかりだという可愛らしい柄の洋服を自慢していた時、「自分もあれを着てみたいな」と思ったのが始まりだろう。
ちなみに、自分の根本的な性別を変えたいというわけではなく、ただ漠然と『かわいい女の子』になってみたかったのだ。今となっては、どういう考えだったのかは忘れてしまったけれど……言うなれば、”女装”をしてみたかったのかもしれない。
けれどもまあ、私が『子供』だった時は……残念ながら、トランスジェンダー(正確にはクロスドレッサーだが)や障がい者に対する偏見が色濃く、理解がされない時代だった。
私が『かわいい服を着てみたい』と両親に伝えた時、母親は泣き崩れ、父親は鬼の形相で私をしかりつけていた。そして、その話は学校の先生にも行き……どこからか同級生たちに伝わったのだろう、やがて私は『女の子の服を着たがる変態男子』として、いじめられていた。
そして……私はいつしか、『かわいい女の子になりたいと思う自分』に蓋をして、今の今まで生きてきて……そして、いろいろあって、このキヴォトスのシャーレで『
今も、かわいい服を見れば着てみたい……とは思うものの、もう私の体は、そういう『かわいい』には適さない身長が約180㎝の体格のいい細マッチョだ。特注品のかわいい服を着たとしても、この体格や筋肉を隠せるわけもない、ましてや声なんてどう頑張っても低音の自分では聞きづらい声だ。
(……まあ、生徒たちのかわいい姿を見れれば、それでいいかな。)
最後の最後で、私はそう結論付け、マグカップに満たされているコーヒーをちょっと飲む。
まだ熱い。猫舌の自分が飲むにはもう少し冷ます必要があるようだ。
「さて、今日もかわいい生徒たちの為に、仕事を頑張りますか!」
私は、独り言を元気よく発し、自分のデスクに座ろうとした、その時。
「―――もったいないなぁ~?」
「ッ!?」
聞き覚えのない、
直後、私の体は何かに縛り付けられたかのように、動かなくなってしまう。
酷く、寒気を感じ、唇が……体が震えだす。本能が、相手を視認してはいけないと叫び、理性が理解しようとすることを拒んでいる。
シッテムの箱に居る『アロナとプラナ』に声で知らせようにも、脳がパニックを起こし、言葉を練り上げる事ができない。
「こーんなに育った、自分の理想の姿を……『時代が悪かった』『私にはもう無理だ』『かわいい他人を見るだけで十分だ』だなんて……」
快晴だというのに、凍えるように冷たい空気が、まとわりついている。
私の背後から、誰か人の気配を感じる……いや、これは、人なのか?
「もう自分を偽るのは、今日で終わりにしましょう? 自分の欲望に素直になった方が、いいんじゃないですかぁ~?」
いつしか、耳元で声がささやかれ始める。
目だけを動かし、耳元に口を近づけた人物を見れば……この世のものとは思えない美貌を持つ女性が、私に絡みついていた。
けれど、私は……その『大人』を、いやその『存在』を、『人ならざる者』と認識している。いや、
気付いてはいけない、見て見ぬふりをするべきなのに……『大人』として、『先生』として、
「おやおや、もう私の正体を見抜いたのですか? ふふっ、これだから人間は面白い……まあ、いいでしょう。
―――これから、アナタは『理想の自分』になるのです。私がゆっくりと数を数えて、アナタの両眼をこの手で塞げば……アナタは今の姿を一時的に捨てて、新しい自分になれる。
あぁ、ご心配なさらず。アナタが『理想の自分』である間は、この私があなたのお仕事を変わって差し上げましょう。ご安心ください……アナタが『理想の自分』である間、シャーレはアナタが不在のまま、正常に運用されるだけですとも。
そして、戻る時も安心安全……ただ戻りたいと、鏡の前で強く願い……そして目を瞑るだけ。」
酷く、甘くてとろけるような声で、私が望む条件をツラツラと聞かされる。
「では先生……しばしの間、『理想の自分』をお楽しみください……3―――2―――1――――――」
―――――――わたしの、しかいは、じょせいの、りょうてに、ふさがれた。
~~~~~~
「ん、先生。今日もちょっと時間を…………あれ?」
少しの時間が流れ、誰もいないシャーレの執務室に、アビドス高等学校の2年生、砂狼シロコがやってきた。
普通なら、そこでシロコは、(シャワーを浴びにでも行ったのかな?)や、(急な外出の用事かな?)と考えるのだが、どういう訳かシロコは強烈な違和感を感じ取った。
(……調べよう。)
シロコはシャーレの執務室に入り、違和感を一つ一つ確かめてゆく。手始めに、シャーレの執務室全体に目星をつけて見ることにした。
(照明がつけっぱなしだし、空調もだ。)
シロコがよく知る先生は、余程の緊急事態てもない限り、外に出る際に照明や空調の電源を落とし、指差し確認までするマメな人だった。そんな人が、緊急時でもないのに照明や空調を消し忘れるだろうか……シロコが少し警戒度を上げ、次に「シャーレの先生の執務机」に目星をつけて見ることにした。
(いつも持ち歩いてるものが、置きっぱなしだ。)
シャーレの先生の執務机には、シャーレの先生がどんな状況でも肌身離さず持っているタブレット端末と
まだ暖かいコーヒーはともかく、タブレット端末とウェストポーチは、先生いわくタブレットは先生の命を守り、ウェストポーチはいざと言う時の備えが入れているから、どんな時でも忘れずに持ち歩くと、シロコは本人から聞いている。そんな大切なものを、2つとも机の上に置いたまま外出するだろうか?シロコは警戒度を上げ、次に先生がお気に入りの場所と言ってた「窓辺」に目星をつけてみることにした。
(……ッ!)
「これって、『先生のシャーレのバッチ』?」
シロコは窓辺に落ちていた「シャーレのマークを象ったバッチ」を拾った。
……シャーレのバッチは、シャーレの活動に協力したことのある生徒に先生から渡される部員証でもある、シロコもブレザーのポケットに大切にしまい込んでいる。が、先生のバッチだけは違う。
シロコも持っている生徒たちの持つバッチは、先生が自分でプラスチック板から作り上げたバッチをもとに作られたものであり、そのため「先生のシャーレのバッチ」は生徒たちが持つバッチと比べて多少作りが荒い。
つけっぱなしの証明と空調、まだ温かいコーヒー、絶対に持ち歩くはずのタブレットとウェストポーチ、そして荒い作りのシャーレのバッチ……それらをもとに、シロコは『先生が異常事態に巻き込まれた』と判断した。
「緊急事態……みんなに連絡を」
シロコは自分のスマホを取り出し、対策委員会のグループチャットを開き
「『先生が、いなくなった。』送信……あと、証拠に、これと、これと……これを……。」
シロコのコメントと、シロコが急いで撮った写真がグループチャットに張られる。。
―――そして、短い時間の間に話は広がり『先生捜索隊』が結成されたのであった。