ブルーアーカイブ 【TTSM編】 作:アビドス文芸部のモブ
聞き覚えのある声で、怒鳴り声が聞こえてくる。
「どうして、女の子の服なんてきたがるんだ!」
「お前は男だ!女の子の服はお前は着れないんだ!」
「それに、デカくなった時はどうするんだ!?」
……この声は、私の父親の声だ。
今はもう、ボケてしまって私のことも思い出せなくなってしまった、父親の声。
しかも、この怒り方は……確か両親に女の子の服を着てみたいと言ったときのだ。
―――父さんの言い分も今となればわかる。
実際、私の体は父さん譲りのガタイのいいものとなり、女性向けの衣服は袖を通すことは難しかった。父さんは、それを……多分、本能的に理解していたのだろう。
それにあの時は、まだそういう理解が広まっていない時代だった。
…………けれど
(夢ぐらい、見たっていいじゃないか)
そう考えたとき、私の意識は浮上していった。
~~~~~
「……んっ、んぅ?」
日の光がまぶしくて、目を覚ます。
体を起こすと、随分と視界が低いような気がする。
けれど、私を悩ませていた肩こりや腰の痛みは感じず……むしろ体は絶好調だった。
ふと、自分の手のひらを見てみれば、随分と小さくて丸く、触れればぷにぷにと柔らかいものだった。
「っ、これって?って、声も!?」
驚いて声を出すと、自分の声が随分と幼く、高いものになっていることに気づく。
驚きながらも、部屋を見渡し……姿鏡を見つけてその前に駆け寄る。
そこに移るはずの自分の姿は、黒髪で、疲れた目をした大柄の男のはずだ。
―――しかし、そこにいたのは、かつて自分が夢想した、かわいらしい女の子だった。
白く透き通るような銀髪で、澄み渡る青空のようの瞳と丸みを帯びた目尻、丸い頬に、小さな体……来ている衣服も、かわいらしいピンクのウサギ柄のパジャマで……
「これが、私?あぁ……」
(―――かわいいっ!)
ぎゅっと、自分の肩を抱きしめてしまう。
これが、私だと言うのなら、私の思うままにかわいい服を着れる。それ以上に、自分がなった姿の可愛さは、私が今まで見てきた女性より―――
―――ん、先生。
……違う。
私は、先生だ。責任を負う役目を持つ大人だ。
私は直ぐに大人に戻り、シャーレに戻らないといけない。
だって私は、大人の男だからだ。私は、私は―――
ダメですよォ?もう少し、自分に素直になりましょうよォ。
(……少しぐらい、楽しんでもいいよね?)
確かに私は、大人の男だ。すぐにでも元に戻ってシャーレに戻り、心配してるだろうみんなを安心させる必要がある。
けれど、私だってたまには息抜きが必要だ。
みんなには悪いけれど……楽しんでしまおう。
~~~~~
シャワーを浴びた後、タンスの中を調べ……収められていた可愛らしい服たちの中から、これが一番着たいと思った服を手に取り、袖を通す。姿鏡で違和感や、埃が無いか確認して……髪を水色のリボンで飾り付ける。
これまたタンスの中にあった可愛らしいショルダーバッグと……念のため、身を護るための銃を手に取る。
この銃は、たしか……”M1911”。銃と言えば、これって言われるぐらい有名なものだったはず。
……本当なら、こんなものを持つ必要もないはずなのだが、今の私はかわいい女の子だ。もし、何かあったら遅い。
(大丈夫、みんな、やさしいから)
自分に言い聞かせつつ、ショルダーバッグの中に銃を放り込む。
また姿鏡でおかしな所がないかチェックして、ヨシと気合いを入れてみる。鏡の中の美少女も、同じポーズで可愛らしい表情を浮かべており、これからはじめてのおつかいに気合いを入れているようにも感じる。
これが、私だと言うのだから、驚きだ。
玄関に向かい、可愛らしいローファーを履き、最後に忘れ物やガス栓の閉め忘れ、電気や空調の電源を落としたか指差し確認する。
(うん、問題なし……さて!)
私は、望んでいた可愛い姿で、外へと飛び出したのであった。
「わぁ……わぁっ!」
家からしばらく歩き、シラトリ区の繁華街にたどり着く。
大人だった私とは違い、少女の私は見るもの全てが大きく感じて、心做しか世界が色鮮やかに見え、逆に早く動くものだと目が追いつかない。
なれない少女の体に苦戦しながらも、私は行きたかったカフェや服屋、アクセサリー屋に、メガネ屋まで、様々な店に行っては、ついつい可愛らしいものを購入してしまう。幸いにも、私が見つけたショルダーバッグは、どうやら質量保存の法則を無視してしまうものらしく可愛い洋服を何個か詰めても、簡単に取り出せるし、何個でもしまい込めるようだ。
(えへへっ、可愛いものいっぱい買ってしまった!)
思わず頬が緩む。
大人の私では、きっとプレゼントか何かだと勘違いされてしまうものを、堂々と、それも自分のために購入できる。なんて素晴らしいのだろう!プラモデルやソシャゲの欲しいキャラが当たった時より、心が弾んでいる。
……ふと、横を見ると、足が立ち止まった。視線の先には、夏へ向けて、夏服を売り出し始めたワンピース専門店があり、店頭展示のスペース内では白いドレスのようなワンピースをマネキンが着こなしていた。
「きれい……っ、まるで、ウェディングドレスみたいっ!」
いつか、数少ない友人の結婚式で見たような、そんな感じのサマーワンピース。
私は、タキシードを着るしかないのだろう。しかし、これを見て、私の想いは揺らめいてしまう。
(……ウェディングドレス、この姿なら、着れる。)
今の私は、大人の私では無い。
シャーレの先生でなければ、クロスドレッサーの悩みを抱えた男でもない。ただの少女だ。
……いや、私はそれでも、大人……シャーレの先生だ。
このあこがれだけは、あこがれのままにしておこう。
ふと、お腹がぐぅーと鳴ってしまう。
そういえば、ここからアビドス自治区に近い場所に柴関ラーメンがあったはずだ。
久しぶりに、食べに行くか!
そう思った、私は、柴関ラーメンのある方向へ歩みを進めるのであった。
「……いない。」
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