危険走行、キヴォトスに限り合法   作:ブルパップこそアサルトライフルの究極形

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最近、人生で初めてラノベを読みました。面白かったです。


何を見てヨシと言ったんですか

 飛び交う擲弾と5.56×45mm弾。

 イベント会場で繰り広げられるには過激であり、スパイス以上の刺激を含むそれらはまさしく気絶相当の火力で。そして目的達成への王手となっていた。

 ……なんて、通話先から聞こえる騒音を綺麗に言えばこんなもんかなというところ。トラックに阿鼻叫喚の現地情報が流れていては苦い顔をするほか無い。

 作戦開始から3分程度、イベント会場に辿り着くまではあと5分ぐらいの現状はかなり順調そうだった。時折聞こえてくる声にこっちの警備を片付け終わりましたわ、あれがトラックエビかな、とかがあるので多分きっとおそらく平気。

 

「……で、トラックエビってどれぐらい大きいの」

 

『ええと……実際に見ていただければ分かりますわ』

 

 真っ先にハルナさんが答える。いいのかそんなことを言って、期待してしまうぞ。事前情報で特別展示だとか言われていたし、大型のエビだとかなんとか言っていたから概ね予想通りではある。

 とはいえども一瞬言い淀んでいたのは流石に気になる。最初は目立つわけにもいかないし、始めから飛ばしすぎて他校の領地で不要な迷惑を掛けるわけにもいかない。いや、トラックエビの持ち出しもある種不要な迷惑ではあるけれど……少し時間が掛かりそうだが、でもこの調子なら順調にたどり着ける。

 

「……赤信号」

 

 眼の前で信号が変わる。

 ……大型の交差点で、私の通る道路よりも交差している方の道路のほうが通行量が多い。となると変わる時間にも差異が出てくる。信号待ちの時間がこちらのほうが長い、とか。

 深夜にバイク走らせているときはかなり信号無視をする。追いかけられることも増えてきたし、何よりも疾走感が途中で止まるのが嫌だ。無茶苦茶だが、一応賞金首の犯罪者なのだから若干のわがままは許されてもいいと思っている。

 私って一応5500万のレディだからね。

 

ベタ踏み(フル)でブチ飛ばしていくか」

 

 信号が変わる……何故か火花が散る。

 ニトロを積めなんて頼んでないけれど、何故かかっ飛んでいく。まぁ、いつも通りだからいいんだけども。もしかしたら、私には速度の女神が付いているのかもしれない。

 なんて、カーブをギリギリで曲がりながらだと、ステアリングの女神も付いていたかもしれないとあちこちに祝福を感じてしまう。 そんなわけはないと思う。

 

「えーとカーナビカーナビ」

 

『20m先、交差点を左です』

 

 なるほどね、 次の交差点も赤信号になりそうですね。つまりやることは単純明快。

 思いっきり侵入して、旋回して、黄色線だけは踏まないように……ぶっちぎる!!

 

キィィィイイイ!!!!!!

 

「ヒュゥ、もう私トラック免許皆伝でいいんじゃないかな?」

 

『なんかすごい音鳴ってたんだけど!?』

 

 ジュンコさんからのツッコミは、とりあえず置いておこう。

 タイヤ痕を刻みながら走っていると、やっぱり思い出してしまうのは過去の話ばかり。先輩によく連れられていたストリートレース、最初は合法だと思っていたら全然そんなことなかったんだよね。合法なストリートレースが存在してないことに気がついたのは解散してからだった。かなり配信サイトで盛り上がっていたからと、よくご飯を主催の人に奢ってもらっていた。

 

「……流石に三分短縮できたから良しとしよう。」

 

『ふえ、外からすっごい音聞こえ』

 

ガシャァン!!

 

 エントランスのガラスをぶち割れば煌めく破片が飛び散る。

 刹那は雪のようにきらびやかだったというのに、地に落ちればただの廃棄物と何一つ変わらない。ゲヘナのゴーストライダーと、私自身を思わず重ねてしまいそうなまでに残酷なものだ。賞金首だとか持て囃されていたとしても、捕まってしまえば記録の中の人と何一つ変わらなくなるのだから、この踏みにじったガラス片と大差なんてない。

 着いたから合流しようと、一旦車を降りるとバタバタとした四人ほどの生徒が現れてもしやと見やった。

 

「おいまた厄介なやつが来たぞ!」

 

 予想とはよく裏切られるものだ。残念ながら美食研究会ではなく警備の生徒で、上がりそうになった尾が下がる展開となった。

 美食研究会じゃなくて残念がる、という貴重な体験ではあるが私はそれにありがたみを感じるような人ではない。かといって、この状態で巨大なトラックでエントランスをぶち壊したやつが不審者認定されないわけもない。

 つまり、私も彼女らも目があった瞬間に一瞬にして顔がこわばったというわけだ。

 

「あーもう、なんでこんなにツイてないのよ今日!」

 

「ちょ、ちょっと……このままだと報酬がマイナス100%って言われたんだけど!!」

 

「ええ!? つまり……どういうこと?」

 

「まー、罰金で報酬と同額払えってコトじゃね?」

 

 わちゃわちゃとしている警備の子が一斉にハッとした顔になり、慌てて銃を構える。

 けれど、隙はあまりにも大きすぎた。

 具体的には私がチャンバーチェックをして、擲弾を装填できるぐらいだ。

 

「ごめん、どいて」

 

 HK416(フォルコメン)に装着している中折式アルミニウム砲身から放たれし一発が弧を描き、そして警備の子たちへ直撃、爆散する。これだけでは流石に足りない……そう思っていたが、目を回して折り重なる山になっていた。

 既に会場の激闘に巻き込まれて、こちらの騒ぎに気がついて出てきたか、それとも逃げてきたところに私がとどめを刺してしまったか。少なくとも今日はツイていなかったらしい。明日はきっといいことあるよ。

 確か……このホールで暴れているって聞いたんだけれども、まだやっ……

 

「……カスミじゃなくてアカリさんと友人で良かった」

 

 かなりズタボロになっている美食研究会と、全滅まで追い込まれている警備の生徒たち。

 もし温泉開発部だとしたら、死屍累々だけではなく地面凸凹になっていたことだろう。

 大型イベント会場の開けた土地で戦うのは難しいだろうに、それでボロボロになっているとはいえども勝利を収めるなんて。もし私が十人いても出来る気がしないけれど、とりあえず近づいて話しかける。

 

「これ、どうやって運びましょうか……」

 

「デッカ!?」

 

「フフッ、ミメイちゃんと合流も出来ましたしそろそろ本格的に運搬しましょうか♡」

 

 呼びかけるよりも先に飛び出してしまった驚嘆の声。

 水槽にぶち込まれていたのはエビ――恐らく、と付けたくなるが。

 クルマエビの何倍もの大きさ、具体的に上腕ぐらいの全長という品種改良というか宇宙からの飛来を疑う代物。

 しかして、体はかなり引き締まっていて身をかっさばけば弾力のある天ぷらになるだろうという予感がビンビンと働く。

 しかも10尾程度居て、食べるに不足はない。

 新鮮なトラックエビたちが個々の水槽の中で息をしていて思わず驚く。美味しそうとは思ったけど、それよりも怖さのほうが勝りそうだった。なにせこのでかさで足やひげが僅かに動き続けていたのだから当たり前だろう。

 

「会場はだいたい全部片付けたよ〜!」

 

「でも次はどこから警備が来るのかわかんないし、さっさとエビを料理してもらっちゃお!」

 

 美食研究会の四名で重たそうな水槽を持ち上げようとし……

 

「い、行かせるかっ!!」

 

ズダダダダダダダ!!!

 

「まだ立ってるやつ居たわけ!?」

 

 SMGの5.56mm弾が会場に乱雑にばらまかれていく。震える手で左へ右へ散らかすようなだけで、被害という被害は全く無い。

 しかし、震える手足で売っているとしても、そもそもその手に持っている鉄の塊自体が危険であることは言うまでもない。

 

「そ、そこの見知らぬゲヘナ生さん……報酬マイナス100%が先程確定したんですよ。違約金、賠償金、迷惑料……全部込みにしたら、マイナス230%になってたんです」

 

 震える声。震える腕。流水のような黒いロングヘア。

 先程鎮圧したと思っていた、警備四人組の一人に。

 

「追放モノってリアルで起きるんですよ。私をチームから追放するって言って、三人がすぐに逃げたと思ったら私の電話に依頼主から連絡が来て、それで私に借金が出来るのが確定して……許せるわけ無いですよね」

 

 ギロリとした視線。

 美食研究会のメンバーは水槽を担いでいて、動けるのは私だけ。順調に終わってほしかったという中、想定外の事態が巻き起こって笑いも出ない。

 不幸中の幸いか、彼女の視線は私に固定されている。美食研究会という元凶がいるが、とどめを刺した私への恨みのほうが高いらしい。

 

「これは、せめてもの足掻きですから――」

 

 スタボロの制服が風に揺れる。

 地に伏して意識を失っている周囲の生徒らなんて、一切に意にも介していないみたいな足取り。

 ふらり、トン。ゆらり、タン。幽鬼にように一歩、一歩、前へ歩みを進め――タタタタタッ、駆け出した。

 

「一矢報いてから、私の負けヅラを日の目に晒す!! 一矢報いてやる!!」

 

 今日もいつも通り。今日も平常通り。今日も趣味や仕事に打ち込んで――だっていうのにある日突然他人にすべてを壊される。

 思えば思うほど、これは不条理だ。理不尽だ。

 嫌悪感が湧き上がる。それを振りかざした自分に。かつてそれを経験したというのに、他者に同じことをしている自分に。

 ただの強盗。ただの強奪。ただの収奪。けれど私はそれに嬉々として乗じた。理由は簡単。自身の欲によるもの。ストッパーは存在しない。この世界では当たり前であり、普遍的な行為にも近い。

 

「復讐したほうが、スッキリ出来るもんね。それぐらい私も知ってる」

 

 トリガーを押し込み続けるだけの粗雑な射撃。技術は何もない。技術がないんだから、精密さもない。

 感情をマズルフラッシュに乗せ続けるだけの、それはそれはストレスの発散のような捨て身だった。

 胴体ではなく頭。私の頭に一点集中して、狙い続ける。頭部は人体のうち10%を占める重要部位だが、私たちへの致命傷にはそうそう為り得ない。

 だからこそ、右肩口にストックを押し当てるようにしていた彼女の銃(スコーピオン)を、左脚で蹴り上げた。自慢じゃないが、足の長さには自身がある。少なくとも、アクセルに足は届いて、力強く踏み込める。

 

カンッ

 

 甲高い金属音。プレス加工で作られたフレームが弾かれ、跳ね上がり、いくつかの弾が私の短髪を散らしていく。

 カッカッと地面を二度跳ねて、カランと遠くで地に落ちた。

 

「ッ……!」

 

 宙で離れる手。ちらりと横を見れば、既に美食研究会の皆々の搬出は時期に終わる段階。

 

「それで、近接戦するの?」

 

「……一人じゃ、私戦えないや」

 

 力なく、銃を蹴り上げられて上がったままだった手が降りる。

 自嘲めいた笑いは、果たして報いることすら出来なかったことか、仲間に裏切られたことなのか、それすら分からなかった。

 

「ミメイさん!! 中の、そのまた中(・・・・・)にトラックエビ詰めましたわ!!」

 

 遠くで聞こえた呼びかけで、ここに張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。

 

「今、運転行きま――」

 

「待って」

 

 元警備員さんの、どこか凛とした、芯が通った声。

 怯えでも、恐怖でも、怒りでも、何でもない声。

 

「名前だけ、教えて」

 

「私の? ……藪鮫ミメイ」

 

「……覚えた。またいずれ、絶対に会ってやるから」

 

 ギリッと奥歯を噛み締めた音が聞こえた気がした。

 そのまま彼女は振り返って――振り返った時、その靡いた後ろ髪はまるで水飛沫のようだった――どこかへ去っていってしまった。

 相応の行いには相応の罪があって、それに対して相応の罰や復讐が齎されるのは当たり前だ。

 とはいえ……普通に名前を教えたの、失策な気がする! おまぬけ鳥!

 普通にブラックマーケットでバイクのパーツ買ったりしてるから、最悪普通に鉢合わせる! おまぬけだよ、おまぬけ。

 というか、誰がっ! 戦場でっ! 見ず知らずに他人に名乗るんだよっ! 宗派が宗派なら懺悔してたよ。

 

「ねえ流石に行かないとマズイんだけど!?」

 

「すみません今行きますっ!!!」

 

 ハッとなって慌ててトラックのもとに向かう。まだ追加の警備やらが来ていないが、それはあくまでも”まだ”の話である。

 絶対に、あとでカーチェイスに発展するのは確実だ。出来る限り早く動かないといけない。

 

「とっくにエビはこの中に突っ込んでおいたわ!」

 

「早く早く〜!」

 

 トラックの荷代の上に立っているのはジュンコさんとイズミさん。

 慌てて運転席に乗り込めば、なかなか本心だとかが読めない笑顔のハルナさんが助手席に。

 

『こっちの準備もちゃんと整いましたよ〜』

 

 通信機越しにはアカリさんの声。

 作戦通りの行動のために先んじて準備をしてもらっているが、これが全部成功するのかは……だいたい全部、私の双肩に掛かっている。

 殆ど名も知れないような、一般生徒たる私の双肩にだ。

 

「振り落とされないで、”全員”」

 

「問題ありませんわ、シートベルトぐらいは付けて――きゃっ!?」

 

 思いっきりアクセルを踏みしめ、初っ端からギアを全開にする。

 上からも横からも悲鳴が聞こえた気がするが、まぁ、それぐらいは予想内の話。

 

「大丈夫なのこれ!? さっきなんか火出てたんだけど!?」

 

『これ、普通の大型トラックですよね……? Gの掛かり方がおかしいですよ?』

 

「見るより乗ったほうが、何故指名手配されているのかが分かりやすいですわね……」

 

 通るのは来た道の逆順――ではなく、通行止めされていないだろう箇所、あるいはされていても突破されやすい箇所を通り、やや回り道をしていく形になる。

 急がば回れ、というものだ。

 相変わらずニトロを積んだ覚えないが、ぐんと加速した気がする。加速しすぎて、体感じゃもうわからない。

 もしかしたら、私は車にニトロエンジンを生やす女神が付いているのかもしれない。そんな女神は嫌だ。

 

「とりあえずミレニアムの規定速度は全ブッチしてるし、絶対スピードカメラにも映ってるから5分から10分……そろそろ治安維持部隊が先回りをしてくると思うよ」

 

「そこまでは想定済みですわ」

 

「んー、周り見た感じあんまり人居ないし、今の時間帯野次馬できる生徒もそんないないと思うよ。早いところ件のポイントに着ければ良いんだけど……」

 

ダダダダッ!!

 

 アスファルトが銃弾で削れる音。

 サイドミラーには、治安を維持するためとみられる装甲兵員輸送車。思い出せばこのトラックは気を利かせていないからゲヘナのナンバープレートだったか。となると他の政治圏(ゲヘナ)が問題を起こしに来たという認識になるのか。

 そしてなによりも、あの美食研究会が問題を起こしに来ているのだ。

 一般生徒基準で考えそうになっていたが、そうだ、国際テロ組織と同じ扱いか。

 

「もう来たわけ? やってやろうじゃないの!」

 

「え、えぇ!? おやつ食べてからじゃダメ!?」

 

「こちらの処理は私たちに任せて、運転の方はお願いいたしますわね」

 

 軽くウインクをこちらに飛ばして、リアドアガラスを下げて迎撃を始める。

 サイドミラーをちらりと見る度に、車両が映るが、カーブの直前に見ると遠くでそれが黒煙になっていた。一般生徒と実力ある者らとの差というべきか、私が如何に木端程度なのかがよく分かる。

 確かに現在戦闘しているのは三人だ。少しは数がある。けれどもし私が三人居たとしても、非常識な速度で走るトラックに揺られながら装甲車を破壊はできない。

 

「……つくづく、アカリさんと知り合いで良かったと思います」

 

『フフフッ……知り合いじゃなくて、私たちは”友達”でしょう?』

 

「まぁ、そうとも形容すると思うよ」

 

 腐れ縁だと思っていたなんて言えない。

 普通なら、全学園で警戒されている飯テロ組織と知り合いにはならない。腐れ縁以外の何なんだ。

 

「ちょっとジュンコさんとイズミさん伏せて!」

 

「分かった!」

 

「伏せたよー!」

 

「ッシャ、曲がれ!! 通れ(ブチかませ)!!!」

 

キィイイイイ!!!!!

 

 ハンドルを思いっきり切れば、タイヤ痕を残しながら車幅ギリギリの路地を突っ切る。

 サイドミラーがお陀仏にならない程度だが、あと数ミリ狭ければ折れていたかもしれない。

 こんな狭くて障害物がある道を通るな、というご意見があるかもしれない。それは尤もだ。だが我々らはかなりのアウトロー。そこに道があるのが悪いだけである。

 無法の法ほど、振りかざしていて楽しいものはない。それこそが弱肉強食がヒトに与えた優越感という感情(ゴミクズによる戴冠)だから。

 

「次は若干左側に寄って!!」

 

「うわ! なんでこんな低い場所まで看板がせり出してるのよ!?」

 

 どうあがいても危険走行になるが、こうでもしないとトラックエビを給食部に届けられない。

 要するにそれほど切羽詰まっていて、ルートを選り好みすることが出来ないという状況ということ。車両が来たと思えば消えて、けれど消えたと思ってもカーブしてしばらくしたらまた車両がいつの間にか現れている。

 とはいえ一時目標地点(チェックポイント)に近いのも確かだろう。アスファルトの舗装路は長く、見慣れない街は無限に続いているような錯覚をもたらすが、ここは迷宮都市(ラビリンス)ではなく学園都市(キヴォトス)なのだから決まった道がある。

 

「よし……よし! 一旦高速入った。まだ入口が封鎖されてないとはいえ、多分料金所手前で絶対封鎖してるけど」

 

「でも、秘策はあるんでしょう? ね、ミメイさん?」

 

『フフフッ、大胆になったときのミメイちゃんはかなりスゴいですからね♡』

 

「ほんと!? どんな感じどんな感じ!?」

 

「だ、大胆とか今一番聞きたくない言葉なんだけど!?」

 

 少し高い高架道路はまばらに車両があるが、煽り運転も真っ青の蛇行をしながら前方車両を避けながら行く。

 クラクションを鳴らされてもリアドアガラスから覗く銃口と、荷台から見下ろす二人がいるのだから心配はしていない。

 別に、私はそこらへんに走行車両を木っ端微塵にしても良い。こうやってなりふり構わず逃げることを優先したいのだから、本来ならそうしても良い。

 ただ最高効率というのは常に取れるわけじゃない。

 

「さっきから追手が硬くなってきてる気がするよ〜!」

 

カンッカンカンッ

 

「高架道路じゃ遮るものがないから被弾回数も上がってきてるわよ! どうするのここから!?」

 

 荷台上組からの悲鳴がほぼ常に上がり続けている。パッと見は冷静にも見えるハルナさんの横顔も、疲れが滲んでいるように見える。

 けれど、だからといって無闇に走行車両を木端程度――体当りしてぶち壊そうにも、バンパーの耐久力がある。

 速さを取りながらも、耐久値を常に気をつけ、なおかつ致命傷は避け続ける……そしてなにより同乗者の安全を確保しつつ、荷物を無事輸送していく――正直、今までで一番過酷な運転かもしれない。

 

「700m先に料金所、恐らく検問が敷かれてる。だから――降りるよ」

 

『つまり、そろそろ私も動く頃合いですね☆』

 

「降りるって!? どういうこと!? いや待って、まさかだけど、ここ高架だから――」

 

「イズミさん、ジュンコさん、どこでもいいから捕まって!!」

 

 ギアを入れ替えると、もう一段階速度が入る。

 運転席のリアドアガラスを開けて、前方方向にある低めの壁に対して榴弾を放つ。ただの榴弾じゃない。今日のためだけに、対人用じゃないものを特別に買った。

 そしてハンドルを大胆に切る――少しの突破店を作った、その小さいコンクリートの壁に向かって、突っ切るように

 

ガシャンッ!!

 

「きゃあああ!!! 浮いてるわよ!? というか落ち――」

 

 空中。地面まではおおよそ15mほどだろうか。ヒトは生命の危機に近しいと認識した状況下では交感神経が働いて、心拍が早くなって、血圧と体温が上昇するという。 だが、心臓の音が何もしてなくても聞こえてくるような状況は久方ぶりだ。

 肝がヒュッと冷えてるし、衝突した衝撃で両腕が少し痺れているが、次の一手はこの墜落までの数秒間である。

 

『では、行ってきますね♡』

 

 トラックの荷台が開く。バンッと、乱暴そうな音を立てて開いた。そして爆発的な推進力が”荷物"に与えられる。

 掛けられていたブルーシートのヴェールが宙を舞う。派手に飛び出してきた荷物は――小型トラック。

 ”荷物”が吹っ飛ぶ力が、トラックを押し出す力にもなって、その時世界は知らない速度になった。

 

「おーちーるー!!!!!」

 

「浮いてるよ〜!!!!!」

 

 ジュンコさんとイズミさんの悲鳴がミレニアムの昼下がりで木霊する。

 やっと明かすが『トラック・イン・トラック(二重運搬)作戦』とは、大型トラックの中に小型のトラックを入れて、途中で二手で分かれて逃走するというバカげた作戦だ。

 個人的には『トラック・イン・トラック・イン・トラック(エビ)』だと思っているがツッコまないでおいた。

 気にしたら負けだと思っている。

 

『フフフッ……宙で吹っ飛んでても、意外と地上の混乱は見えるものですね☆』

 

「車体の解析が完了される前に、先に調べた経路からゲヘナに戻ってて!」

 

『ええ、またあとで会いましょうね。ミメイちゃん』

 

 アカリさんは離脱して、我々らはまだやることがある。大型トラックに乗ってここから離脱。つまりゲヘナに戻るという帰還するという任務がある。

 とはいえ大型トラックのナンバーも恐らく控えられているし、このままで逃げられる気はしない。

 つまり、次点の策が必要という――

 

ドタンッ!!

 ガタッ、ガタン!!

 

「えぇ!? ら、落下したのに普通に走れてるの!? どういう耐久力なわけ!?」

 

「今のうちにおやつ食べちゃお! ん〜美味しい!」

 

 落下の衝撃が車体を揺らし、腕や足、全身に痛みが走る。死には至らずとも、怪我にも至らずとも、それでも痛いものは痛いものだ。

 例え周りに問題児が居て美食研究会に加担している人間だとしても、本質はただの一般生徒だと思い知らされる。それがゲヘナのゴーストライダーなんて賞金首だとしても中身は変わらない。私は私でしか無い。けれど……むしろ、それは心地良い事実かもしれない。

 ちょうどいい言い訳と免罪符を得たに等しい事実なのだから。

 

『美食研究会一行! 止まれ!』

 

『ここ一体の道路は既に包囲済みである!』

 

 威勢の良い宣告が響く。それが事実か虚実かは対して関心もないことだ。

 道がなければこじ開ければいい。食材がないなら買えばいい。買えない食材ならば奪ってみればいい。奪われたらなら奪い返せばいい――奪い返せるなら。

 

「雲外蒼天って言うよね。邪魔なやつら(三角コーン)をぶっ飛ばせば、美味しいものが食べられるって」

 

「つまりは――正面突破ですわね、行きますわよ」

 

 やはりこの青い空の下に居る人たちは血気盛んすぎる。今日は私も同類だが。多分、今日だけ。

 ギアを入れ替えてUターンをする。ゲヘナ方面。つまりこの道路は家路だ。

 コンビニ袋に入れっぱなしだった栄養バーを片手で開封して口に突っ込む。栄養チャージ。

 

「本当に揚げ物以外には美食的な意識はありませんのね……!? 小腹が空きましたので一本だけ頂きますけれど」

 

「ちょっと、おやつ食べられてないの私だけ!?」

 

 もそもそとした栄養バーを加える美食研究会のリーダー。滅多に見られない姿だ。

 もそ……口内の水分が急速に奪われている。

 ちらりと視線がコンビニ袋内にあるロング缶に吸い寄せられ、そして離れる。

 

「……いえ、我慢してまずは帰りましょう」

 

 まぁ、これコーヒーじゃないよね。<ref>マッ◯スコーヒーは以下略。</ref>

 

 

<hr>

 

 

 その後は特筆すべき点があまりにも多すぎた。途中でミレニアムのセミナーが現れたと思ったら、レーザーを撃たれたりもした。

 けれどそれもゲヘナに差し掛かる直前であったため、最後の山場として半べそで運転して逃げ切った。

 そう、バンパーは歪んで、煙を出しながらではあるが正面突破でゲヘナの学内まで帰ってきたのだ。

 トラックは駄目になった。途中で乗り捨てた。途中でヘルメット団に絡まれながらもやっと食堂に辿り着いたのだ。

 五体は無事だ。無事だが満身創痍。しばらくトラックは乗りたくない。

 私、やっぱバイクに乗りたいよ。

 

「…………終わった」

 

 厨房には威圧感があるエビが横たわっていた。まな板を優にはみ出して剥き身になっているトラックエビ。

 そしてその側には、死んだ目でトラックエビを捌いていた給食部の部長、愛清フウカさん。

 

「あら、もう捌き終えていらっしゃったんですね」

 

「捌き終えていらっしゃった、じゃないよ!? 良いエビを仕入れたって聞いたから、普通に高級な海老か何かかな〜って思ってたのに」

 

 一呼吸、手に持っていた包丁が置かれる。

 

「こんな化物海老来ると思ってなかったって!!」

 

 ド正論が炸裂する。

 全く以てそのとおりである。詐欺である。

 小さい海老では感じなかったグロテスクという表現を用いてしまいそうな、巨大で引き締まった身。かなり切らないと天ぷらにも出来なさそうだ。

 

「あ、あの〜、私もお手伝いしても」

 

「ごめんねジュリ、ちょっと離れてて」

 

 懇願に近い嘆きだった。

 とはいえトラックエビ一匹を剥き終えるのに時間がかなり掛かっていたが、ここから更に揚げたり焼いたりするとなると更に時間が必要になる。

 しかもトラックエビは数尾居る。水槽ごとアカリさんが運搬してくれたからだ。つまり殻剥きだけでも地獄はまだ続く。

 地獄への道が海老で舗装されている。

 

「仕方がありませんわ。せめて殻剥きだけでも手伝いましょうか」

 

「……そうだ、アカリさんは?」

 

 あたりをキョロキョロと見ても見当たらない。

 目立つ髪色と角だからすぐに分かるはずだが、見当たらないということはここにはいな

 

「はい、真後ろに居ますよ。 ミメイちゃん♡」

 

「はひゅ!? ……ちょ、に、二度目……」

 

 ポンと肩に手が置かれ、後ろからにこやかに覗き込まれる。

 口角は上がっているけれど、彼女の瞳の奥に拵えられた感情は読めない。どこに隠れてたんだ。というか絶対に私が驚いているのを面白がっている。

 別に嫌というわけではないけれど、遊ばれているのは気に食わない。

 

「ねえミメイちゃん、茶屋で私の太ももをつついたのはどこの誰でしたっけ?」

 

「それはー……あー……」

 

 仕返しだと言わんばかりに、ぎゅうと背中に柔らかいものが押し当てられる感覚。制服と制服の間隔はゼロ。密着状態のまま私の頬をツンツンといたずらっぽくつつかれる。

 確かにこれは知り合いじゃなくて友人の距離感……なのかもしれない。同好会のメンバーとも割とこんな距離感だったし、きっとそう

 そうやって私が弄ばれている間も調理はどんどん進んでいく。

 スピード勝負、新鮮さが命。

 まだ瑞々しい海老の身が少し大きめにカットされて、普通の海老天よりも大きいサイズに揚げられていく。

 ふわふわの衣が、180度の油でカラッとサクサクに仕上がって並んでいく。

 

「とりあえず試しに人数分作ってみたから、試食してみて」

 

「やった〜! いただきまーす!」

 

 ひょいと揚げたてのトラックエビの天ぷらがイズミさんの口の中へ消えていく。

 

「あふっ、あっつ!!」

 

「ちゃんと、先に冷ましてから……」

 

 次に箸を取ったのはハルナさん。ふーふーと、丁寧な所作で熱を冷ましてから口に運んでいった。

 サクッと気持ちがいい揚げ物の音がした。

 

「身から切り出したにもかかわらず、トラックエビの筋肉質な繊維感が残っていて、なおかつしっかり素朴で美味しく仕上がっておりますわね」

 

「……色々と作らされたからね。流石にちょっとは慣れたよ」

 

 後ろに感じていた柔らかさと圧力、それと体温が離れた。

 ふわりと視界の何割かを占めていた黄色が離れていって、厨房の中での試食会へと足を運んでいく。

 ほんの少しだけ、普段感じない感情が過って、気のせいだと割り切って食堂の隅の席に腰掛けた。

 

「では私も一口……んんっ! サクサクなのにジューシーな肉感で美味しいですね〜。これだけ大きいですし、もっとたくさん食べれそうで良かったです♡」

 

「ちょっ、私も食べさせて――」

 

バンッ!!!!

 

 ジュンコさんが箸を伸ばした瞬間、食堂の扉が吹き飛ぶような勢いで開かれる。蝶番はまだ無事だから全然平気だと思う。多分。

 緊張感が走る。殺気が満ちる。

 そしてギロリとした視線が全員の足をその場に縫い付ける。

 

「……美食研究会はお揃いみたいね」

 

 和気藹々としていた試食会が、急速に処刑場の雰囲気へと変貌していく。

 服装も顔も銃も見ずとも、あの殺気だけで誰なのか分かる。

 

「はぁ……他校でまで面倒事ばかり起こさないでちょうだい」

 

 数日ぶり二度目、空崎ヒナがそこに居た。

 私は隅の席で縮こまって、関係ない学生という風体を装う。そうでもしないと覚えられて目をつけられてしまうと思った。

 ちらりとアカリさんの視線が私へ行って、すぐに戻る。視線が戻ったついでなのか、もう一本海老天を口に詰め込んで黙りこくった。場違いな揚げ物の衣の音と、今もなお揚げられる海老の音だけが食堂を占める。

 

「とりあえず、大人しくしてもらうわ」

 

 始まったのは戦闘ではなく蹂躙。一応反撃はしていたっぽいが、電動のこぎりもかくやというマシンガンの駆動音がだいたい全部をかき消した。

 目を伏せて何も聞こえてないふりをしても、イベント会場で負ったダメージもあった美食研究会が呆気な倒されていく効果音は鼓膜に到達する。それぐらいの音。戦場の音だった。

 やっと静かになったと思ってちらりと視線を上げれば、風紀委員の人たちが美食研究会を縛って輸送していくところで、喉奥で怯えを感じた。

 ドタドタと撤収作業が完了していけば、私と給食部の人ぐらいしか残らなかった。

 

「……あの」

 

 立ち上がって厨房を覗き込む。

 給食部の部長さんは目が半分死んでいた。

 

「天ぷらと白米、お願いします」

 

「いいですけど、この海老ってどこから――」

 

『続報入りました! ミレニアムで盗難されたあのトラックエビを盗んだ美食研究会は確保されました! ですが、肝心のエビは既に調理が済んでいるとのことでそのまま放置ということで――』

 

 空気は死んだ。

 食堂に設けられていたテレビがすべてを語った。

 三十秒ぐらいフウカさんの視線はクロノス報道部のニュースに固定されて、手元に戻る。

 くるりと奥へ消えて、すぐに戻ってくると片手には茶碗、白米が並盛。

 

「まぁいつものことだし、とりあえずこれ消費しないとね」

 

「……いっぱい食べます」

 

 そうして、美食研究会が引き起こしたトラックエビの騒動は幕を引いた。




アンケートのご協力ありがとうございました!
作者の秘めたる性癖解放ボタンってなんだよって話ですよね。 お絵描きでノイローゼ気味なので、気分転換として楽しんで書けたらなと思っています。
あと最近評価の文字数の制限取っ払いました。体内時計がおかしいので最近じゃない気もします。

閑話ネタ

  • メイド
  • 水着
  • 浴衣
  • 幼体化
  • これは作者の秘めたる性癖解放ボタン
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