危険走行、キヴォトスに限り合法   作:ブルパップこそアサルトライフルの究極形

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第一幕前編開始~


休閒日档
安全確認をして


 私に取り柄と言える取り柄は少ない。

 あくまでただの一人の生徒で、そしてなによりも政治的価値の無い生徒だ。

 変なことに巻き込まれるのは勘弁して欲しい。 ゲヘナ生だからとか、キヴォトスの生徒だからとか、そんなの知ったことじゃない。 穏やかに日々を過ごす事を願ってみてもいいはずだ。

 ……出来る事なら美食研究会絡みも勘弁して欲しいが、それはアカリさんの顔に免じて許容しよう。 だが、それ以外は怒っても許されてもいいはずだ。

 私みたいなのよりも目を向けるべき相手は数多くいるはずだというのに、揃いも揃って矮小な存在に目を向けるのは疑問が多く残る。

 ただ、考えたところで何も意味はないのだが。

 

「いたっ……」

 

 首筋に軽い痛みが走るが、慣れた痛みだ。

 湿布を貼って、しばらくすれば気分も大分まぎれる。

 制服には目もくれず、トースターをセットしてツナギに着替えた。

 

「さて……自転車でいいか」

 

 燃料代を考え、仕方なくトーストを咥えておんぼろ自転車を漕ぐ。

 私の気分が無敵になるのは夜だけというのが、だいぶ心にくる。

 パン一切れ食べきる頃には昨日の余熱なんて冷めきっているし、困ったものだ。

 昼夜問わず毎日ずっとバイクに乗れたらどれだけよかったことか……そう考えると、万魔殿から仕事をもらえるチャンスを得た、というのはとても大きいことだ。

 今の会長が誰かは知らないが、仕事ならいくらで

 

ペチッ

 

「あぅぁ!?!?」

 

ガシャンッ!

 

「いったぁ……」

 

 風に飛ばされた古いチラシが横顔に叩きつけられた。

 そのまま視界を失い、制御すらも取れず、横転。

 しばらく不運さを受け入れられずに呆然としていたが、ふと怒りが湧き上がってチラシを引き剥がす。

 

「なんなんですかこのチラ――ぶはっ!!」

 

 散々な落書きをされた昔の選挙ポスターだった。

 不敵そうな笑みを浮かべていたであろう人物は、見るも無残になっており、流石に笑いと同情がこみ上げてくる。

 いやはや、クソ面白い、センスがなさすぎて逆に面白い。

 

「あは、あははっ、あー……ところでお名前――ぶふっ!!」

 

 さらに吹き出してしまった。

 なんと、先ほど仕事をくれるだろうとか思っていた組織、万魔殿のリーダーである羽沼マコト氏のポスターだ。

 なるほど、万魔殿はこのような組織なのだろう。

 全然知名度がない上に、ここが辺鄙な場所であるがためにそんなゴミになってポスターが回ってきてしまったか。

 

「はー……めっちゃ笑った、ポイッと……バイト行かないと」

 

 錆びついたフレームを起こし、落としてしまった鞄も籠に乱雑に突っ込む。

 万魔殿の選挙があったこと自体、正直のところ殆ど覚えていない。

 そんなことより明日の銃弾代の方が大切な生徒の方がよっぽど多い。 現に私も燃料代の方が大事だ。

 あくびが噛み殺せず漏れ出る。

 なんかの手違いでトリニティあたりから5000兆円ぐらい口座に振り込まれないかな。

 

 


 

 

 私はバイトをいくつか掛け持ちしているのだが、今回は家から一番近い場所だ。

 自転車を立ち漕ぎして二十分ぐらいなので、そこまで近いかと言われればちょっとわからない。

 だがこれでも本当に近い方で、風紀委員の駐在とも近い安全な職場と胸を張って言える。

 実を言うと、私が住んでいる地域は廃墟が何軒も並ぶような場所だ。 しかし住まうのは安全だ、なにせ相互監視が何処よりも強い。 悪事はすぐに広まり、住まう事が出来なくなる。

 だが働くのはそう簡単ではない。 無知で後ろ盾のない人はすぐに使い捨てにされるし、高額に目が眩んだ子が矯正局に送られた噂もよく流れる。

 ここは言ってしまえば無法地帯(スラム)だ。 薄暗い瓦礫にびっしりと息をした痕跡が残された場所なのである。

 

 さて、私が安全と言っても信憑性は無いのだが、安全な職場とは自動車改造請負所のことだ。

 自動車と言ったが、実際は戦車でも自転車でもバイクでも、乗り物ならなんでも電動ドリルで穴をあける。

 私の知識もここで蓄積したものであり、クソおんぼろ看板に対して頭が上がらない。

 スタッフ用の裏口から入ると、溶接マスクをつけた生徒が椅子で回っていた。 彼女こそ、ここの店長だ。

 

「おっと、来たなミメイ。 おめえさぁ、そろそろ自転車ぐらい新しくしたらどうなんだよ? ぎーこーぎーこー、すげーカッコ悪いぞ」

 

「店長こそ、その溶接マスク汚れてて印象悪いですよ」

 

「うげっ、朝食がミートソーススパゲッティだったからかなぁ?」

 

「えっ……付けたまま食べたんですか……?」

 

 一言二言話しただけで分かると思うが、店長の相手をするのはだいぶ疲れる。

 そのせいで、今まで見たバイトは私を除いて全員辞表を出している。

 あるバイトは火炎瓶を顔めがけて投げつけて辞め、あるバイトは擲弾を執拗に発射してから辞めた。

 

「そういえば、先週擲弾を26回発射された時無傷だったんですか」

 

「28回な! ……大丈夫なわけねぇだろ、愛車がお釈迦になったわ」

 

「ああ、あの人の復讐は果たされてたんだ……」

 

 無駄口を叩いていても、常連客に頼まれていたであろうエンジンの改造を手際よく進めていた。

 本来彼女一人で全てをこなせるし、恐らく仕事速度は最速だろう。

 それでもバイトを常時募集していて、理解ができないまま給金を頂いている。

 

「さーてと……そこのバンに指定の防弾ガラス嵌めてこい。 調子乗って割るなよ」

 

「はーいクソ店長」

 

「うるせぇ。 速度ばっか求めるなって意味だ、空回り馬鹿!」

 

 速度を求めて何が悪いんだかと思ったが、駆け回って派手にすっ転んだのを思い出して口を閉じる。

 でも速度は欲しい。 ローラースケートにすればもっと早く行き来できる気がするが、一回やって道具をぶちまけてクビにされかけたので我慢しよう。

 軽バンに近づくと、気さくそうな子が四人ほどくつろいでいた。

 

「あっ、ポンコツバイトのミメイじゃん〜!」

 

「……そんな二つ名貰ってたんですか、私」

 

「まぁまぁ、ゆっくりやれば大抵なんでも出来る点は器用だと思うけどね」

 

 ゆっくりやれば、そう、ゆっくりやれば確かに確実に出来る。

 それはスローモーションで進む人生のように、着実で確実を指し示す言葉群であり、私とは相容れない。

 大抵の物事で評価されるのは技巧と速度のみ。 何せ、それらは目に見えて分かりやすい点だからだ。

 それと、物事が早く済むのは最高に気持ちいい。

 

「ところで、てっきりフロントガラスかと思ったんだけど。 今回はリアドアガラスと、フロントドアガラスなんだ」

 

「いや~、実は見つけちゃったんだよ……ブラックマーケットで噂になってたバイカー的な? 激やばでしょ!?」

 

「えっと……バ、バイカー?」

 

「知ってるくせに~、あの『ゲヘナのゴーストライダー』に決まってるじゃん」

 

 しまった、常連客がまさかの敵だ。

 十中八九最初に鉢合わせた軽バンの持ち主だろう。 よくよく見れば、確かに色もそうだし、ナンバープレートも大体こんな数字だった気がする。

 あとでバイトの辞表でも書こうかと思ったが、正直ここに愛着が無いこともないため控えておきたい気持ちはある。

 ……万が一辞表を出すとしても、店長が新車を納車したら速攻で爆破しておきたいのでまだ先の話。

 

「でさ、見つけた興奮で窓の開け方忘れちゃって、思わずその勢いのままみんなで窓割っちゃったんだ」

 

「あ、あはは……それで、その……結局、そのゴーストライダーは捕まえられなかったんですか?」

 

「うん。 見つけた時に友達に連絡して追跡してもらったんだけど、なんか車が爆破しちゃったって」

 

「あー、それは災難……でしたね。 あぁ、えっと……それで、平気だったんですか」

 

「髪の毛がアフロになって戻らなくなってた! 見てよ、鉢合わせた時に撮ったやつ!!」

 

 常連の子がスマホの画面を見せつけようと——そうした瞬間だった。

 タンッ、という軽快な発砲音が遠くから聞こえた。 皆が一斉に顔を上げたが、すぐさまいつものことだと流そうとした。

 だが、何か嫌な予感が首に触れた気がして工具を握る手を強める。

 常連の四人も同じなのか、少し下がってチャンバーチェックをしていた。

 さて、ガラスの取り付けはほとんど終わった。 代金さえ頂けば一仕事終わりと言った具合だ。

 にしても次の銃声が一向に鳴らない――つまりは、爆破ボタンを押すためだけの発砲だったのだろう。

 刹那、空気と鼓膜が強く打ち震わされ、遠くで土煙が立ち上る。

 

「うわわ、爆発? この辺りでそんな派手な事するやつ、久々に見たなぁ〜。 あっ、ミメイ、取り付け終わった?」

 

「……え。 ああ、うん、終わった……」

 

「流石〜、はいこれ代金ね」

 

 渡された封筒は確かな厚みもあり、中身を確認しても釣り銭無しだった。

 小銭なんてチャラチャラしてて嵩張るため、ありがたい話だ。

 そのまま四人の乗った車を見送る――と、その道中で誰かに喧嘩をふっかけられたのか爆破した。

 おお怖い怖いと思いながら店の中に引っ込み、マガジンだけ確認をしておく。 残弾よし。

 忘れないうちに店長の隣に封筒を叩きつけ、ドカッと机に腰掛ける。

 

「……おめえさぁ、礼儀とかねぇわけ?」

 

「珍しいですね、私の口笛でも聞きたいんですか」

 

「誤魔化す事しか出来ないとひけらかしてぇんだな、はいはい」

 

 そうしているうちに、狼藉を働く馬鹿の勢いは止まらず、近辺で爆破音が何度も鳴り続ける。

 日常的な光景ではあるが、流石に何度も暴れられては集中力が途切れてくる。

 それに調子に乗ったやつらは、一度痛い目を見たほうが身のためだろう。

 

「ねえ、店長」

 

「おいおい、お前は風紀委員会じゃないだろ〜? ったく、潜在的顧客をわざわざ減らす真似はするなよ」

 

「……わかっ」

 

 ヒュンッ……ドンッ!!

 

「……クソッたれてやがるぜ、青二才」

 

 店の目の前を砲弾が通過し、近くへ着弾していった。

 窓ガラスが揺れて怯えるなか、道路に満ちた砂煙は開戦の合図となる。

 怒りで小刻みに震える店長は引き出しを開けて、中に詰まったありったけの手榴弾たちを私に押し付ける。

 溶接マスク越しに見えるのは深淵であり、秘めきれない感情が溢れだしていた。

 

「今日の給料は倍だ! 風紀委員の奴らがどうせ後で来るだろうが、それまでは無法地帯周辺で暴れる意味でも分からせとけ!!」

 

「給料倍……あっ、あそこの裏メニューの天丼食べれるか……」

 

「食欲ひけらかしてんじゃねえ!」

 

 ケツを蹴り飛ばされ、道路に駆り出された。

 駆動音の方向を見れば、どこからか奪ってきただろう粗末な戦車があった。 調子に乗った生徒が数人ほど下品に騒ぎ散らかしていて、品性から鑑みるに戦車に施された落書きの主でもあるだろう。

 乱射しているのもありなんと言っているのかは分からないが、少なくとも校歌ではない事だけは確かだ。 この説に関しては自信がある、なにせ誰も校歌なんて覚えていないのだ。

 

「対戦車ライフルなんて持ってないんだけど……ハッチめがけて擲弾発射? いやいや……」

 

 キヴォトスの銃弾の威力を以てしても、私みたいな一般生徒が相手する限度はある。

 そもそも私は素手で装甲を剥がしたり、トラックを持ち上げて敵にぶつけるアサルトライフルなんかじゃないんだ。

 というか、それってそもそも人間じゃないし。

 

「といっても、騒ぎ始めてから数分。 風紀委員会の人らが来るまで何分耐えればいいんだか……」

 

 面倒な業務を押し付けられてしまったものだ。

 フォルコメンを構えて、榴弾を装填する。 何かを壊すのにはあまりにも軽すぎて、実感の一つも与えてくれない。

 もし私の存在意義はなくとも、今この時からキヴォトスに住まう人らしく振る舞おう。

 それが私に出来る、藪鮫ミメイとしての生き方であり、ゲヘナのゴーストライダーではない私になる唯一の方法と言えよう。

 

「発射!!」

 

 軽快な音と、僅かな時間差で訪れる爆破音。

 炸裂する擲弾と僅かに傷付いた戦車の乗組員は、こちらに気が付き敵意と嘲笑的視線を下す。

 回転する砲塔はトロくさく、今回面倒なのはハッチからこちらを狙うやつの方だろう。 一人、二人―――四人? まって、それって砲塔を回転させる人以外全員出てないか!? あんな狭いハッチにぎちぎちになるぐらい!? 相手は相当なバカだ、正直のところ手が震えている。 もしかしたらハッチをデカくする改造すら施している可能性がある。

 そう考えているうちに騒ぎ、吠え、やかましいサブマシンガンの音が遮蔽物越しに鳴り散らす。

 

「―――!!!――!――!」

 

「おい、騒がれても聞こえないからな……っ!」

 

 銃声も声も喧しい敵だ。

 目立ちたがり屋で傍若無人、店長から押し付けられた手榴弾を見ていると、ふと全てテルミット手榴弾――諸々の都合上こうやって呼称させていただく――だということに気がつく。

 馬鹿げたコレクションだ。 ご都合的すぎる、どれだけ頭に血が上っていたのだろうか。

 2個3個なんて数字じゃなく、鞄に10個ほど詰めている為装甲の一部を壊す程度なら出来るだろうか……?

 私にはエナドリ中毒な狙撃手の相棒なんていない。 そして接近出来るのか怪しい。

 私は思いっきりトリガーを引ききる。

 

「だああもう! ロースゲイツ! 撃て撃て撃て!!」

 

「――!」

 

「――!? ——! ――!!」

 

 相手の銃声が止んだと思えば、他のやつが代わりに撃ち始める。

 言い争ってるように見えるものの、コンビネーション自体は希薄ながらも存在してる。

 砲塔がこちらを向くほうが厄介であるため、仕方なく自前の手榴弾を相手目掛けて投げて、気を取られている隙に装甲に撃ち込みながら他の遮蔽物に逃げ込む。

 炸裂すると同時に滑り込んだ心許ないブロック塀を、一時の相棒と定める。 これが壊れる時まで一緒にいたら道連れにされてしまうため、きちんとある程度で裏切っておこう。

 

「一か八か……近付けるならやってみるか」

 

 ピンを噛んで引き抜き、思いっきりハッチ目掛けて投げつける。

 慌てて中に全員中に戻り、ハッチの扉まで閉めて、その瞬間私は駆け出す。

 あまり私の足は速くないとは言えど、それでもほぼ至近距離まで接近できた。

 戦車にぶつかることなく明後日の方向へと飛んでいったのは、貰ったテルミット手榴弾。

 爆裂音と共にアスファルトの地面を溶かすだけの一発だったが、相手の隙を作る大事な役割を果たしてくれた。

 

「はぁ、はぁ、この……登れた……」

 

 相手が出てくる前にハッチの上に立ち、思い切り上から踏みつける。 特に意味のない脅しだ。

 ちょっとした細工を施し、開けるとテルミット手榴弾のピンが引き抜かれるようにしておくとする。 あとで誰か親切な人に助けてもらえるといいな、無理か。

 他に脱出口なんてあったかなと考えていたが、戦車自体古いものであったため無さそうだ。

 

「ふぅ、これでおしまい……?」

 

 ヒュンッ

 

「っ!?」

 

 バンッ!!

 

 ……しまった、戦車だから通信設備ぐらいはあるだろう。

 増援と見られる戦車と付き添う生徒群が見受けられる。 いや、増援にしては早すぎるように感じるが、まさか私が敵弾を発射した時には要請していたのか?

 店長に3倍ボーナスを申し出たい気持ちだ。

 イライラした気持ちの中ハッチを蹴り開けて、ピンの抜けたテルミット手榴弾を足で中に転がしてすぐさま閉じる。

 一瞬見えた挑発的な表情が瞬時に絶望に切り替わるのを見届けて飛び降り、戦車は爆破。 これぞゲヘナの日常風景だ。

 

「まあ、どうせ生きてるよね……さて、流石にそろそろ風紀委員会は……ああ、噂をすればなんとやら」

 

ズガガガガガガガガガッ

 

 派手に報復にやってきたやつらは、存在自体がいいターゲットだ。

 群れ、騒ぎ、目立つ。

 その余裕な顔を引き裂くのに、その高速で駆動するマシンガンは"やり過ぎ"なまでの効果をもたらす。

 誰が言ったか、まさしくこの音は電動ノコギリそのものだ。

 さて、巻き込まれたくはないためすぐに離れよう。 姿を見ずとも、象徴的な音で察するに余りある。 ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナ以外誰がいるだろうか?

 

「はぁ、面倒くさい……」

 

 反動で痺れそうとすら思えてしまう銃を表情一つ変えずに撃ち、あっという間に敵がバタバタと倒れていく。

 まさに冷徹、血も涙もない。 見ているだけでも背筋が凍るような感覚に陥る上、もしも巻き込まれたら……と考えるとぞっとするものがある。

 万が一浄化作戦と称して無法地帯に踏み入られたら、辺り一帯はおしまいだろう。

 そうやって思案を巡らせていると、バタバタとした音も消えていた。

 よし、これなら安全に帰る事も出来るだろう。

 さっさと帰って給金を頂いて、それとご飯も食べて、ついでに……

 ——おかしい。 なんで私は視線を感じているんだ?

 

「貴方って、ここら辺に住んでるの?」

 

「ひゃん!? び、びっくりした……」

 

 心臓が早鐘を打つ。

 後ろの正面に、まだ熱を持ったマシンガンを携えた空崎ヒナが突っ立っていたわけで、ある意味正しい反応と言える。

 お忘れなきよう、私は賞金首なのだ。

 もしかして、私が手榴弾を投げたりしたところを傍観していたのだろうか?

 

「えっと……まあ、そうですね。 あっ、決して変な事とか加担はしてないですし、さっきのだって、いや、その、偶然というか」

 

「……」

 

 嘘は言ってない。

 あくまでも加担はしてないという話だし、偶然近くで爆破が起こって店長が怒ったという理由だ。

 ああ、こんなことになるならさっさと逃げておけばよかったか。

 しかし変に逃げても追跡される可能性だって捨てきれない。 怯えすぎだとは分かっているが、今はブラックマーケットで5500万円で取り扱われているのだから仕方ないとは思ってほしい。

 

「まあいいわ、それよりもそこまで戦えるな恐らくゲヘナのゴーストライダーについても知っているわよね」

 

 心の底から「何故みんなその話題ばかりするんだ」と叫びかけた。

 首をコクコクと振って肯定の意を示すと、溜息を吐かれる。

 そりゃそうか、話しかけたら途端に挙動不審になられたら誰だって溜息の一つは吐きたくなるだろう。

 

「……ちょっとどこか座りましょう、流石に一人で戦車を相手したのだから緊張の糸が解けてそうなっているんでしょ」

 

「は、はは……そうですね……」

 

 近くの小さい公園に設けられたベンチに連行される。

 自販機の缶ジュースを差し入れられ、冷たいアルミの感触が指に沁み込む。

 隣り合って座り、プルタブを開ける音が二連した。

 程々にして切り上げたいが、藪鮫ミメイという人物と重なり、ゲヘナのゴーストライダーがちらつかないようにしておくには今しかないだろう。

 

「それで、少しは落ち着いたかしら」

 

「まぁ……少しですけど。 でも、私は特にゲヘナのゴーストライダーとやらに興味はなく」

 

「目が泳いでいるわ」

 

「っ!?!?」

 

 やばい、ダメだ、もう切り上げたい。

 蛇に睨まれた蛙の気分だ、怖い、この人の目つきが怖い。

 特定の人にとっては頼りになる人だったりするんだろうな。 けれど今の私からしたら、今この場で蜂の巣にしてくる可能性がある人物でしかない。

 

「えっと、まぁ……その……だ、だって誰だって一攫千金とか夢見るじゃないですか……大盛りご飯に沢山天ぷら載せたいですし……」

 

「そういえばそんな話も……はぁ、私たちが動く邪魔にならなければいいんだけど」

 

「風紀委員会が、動く……?」

 

「ええ、エデン条約の一件で危険物の運送を取り締まろうという一環で、悪いけれどゴーストライダーには見世物になってもらう必要があるの」

 

 危険物――心当たりが無いが、もしかしたらバイク後方に乗っけている武装を指している可能性がある。

 一応使い捨てである上に高価でそうそう使うことはないだろうものだが。 それに壊れないようにガッチリと囲っているため、バレるわけはないはずだ。

 鎌を掛けに来ている? こんな早い段階で!?

 

「詳しくはないのですけど、何か……」

 

「危険物の輸送をしている可能性が出ただけよ」

 

「可能性だけ? それだけでそこまで!?」

 

「二度三度の失敗は許されないの、決して、絶対に……」

 

 ベンチから立ち上がり、遠投で空き缶がゴミ箱に放り込まれる。

 思わず拍手をしかけたが、その前に手を差し出されて私の空き缶も渡す。

 ……ついでに放り込んでもらえた。

 

「少しゆっくりしすぎた……そろそろ私は戻らないといけないから、ここらへんで帰らせてもらうわね」

 

「は、はい! 私もバイトの途中だったのでそろそろ戻らないといけなくて」

 

「……最後に一つ聞いてもいいかしら」

 

 本日の最高緊張度が更新された。

 緩んでいた筋肉が一瞬でガッチガチになり、思わずうろたえてしまう。

 

「そ、そう身構えないでちょうだい。 あなたの名前だけ知りたいの」

 

「……や、藪鮫ミメイです。 まぁ、覚えるほどではない人物ですしすぐに忘れても」

 

「去年、バイク同好会のメンバーだった人よね」

 

「……え?」

 

 突然忘れようとしていた記憶が掘り返される。

 輝かしき放課後から、泥にまみれた素手の全てが鮮明にフラッシュバックする。

 今震える指先は恐怖か怒りか、それとも無力さへの嘆きか。

 何故取るに足らない同好会の事を、そう思ったがすぐに考察に塗りつぶされる。

 今、ゴーストライダーの容疑者候補に私がいるのだと。

 

「20人程度の規模で、ただ放課後に走るだけで珍しく平和的な集団だったと記憶しているわ」

 

「……そ、そうですね、でももう」

 

「度重なる複数勢力の襲撃の末、趣味を諦めた」

 

「は、はは……そうですね、ここに入学した時点で運の尽きってところでしょうけど」

 

 自身の鞄を肩に掛けなおす。

 ずっしりと重みが肩を絞めていて、耳元に残響している声が私を責め立てる。

 ——趣味を持つ、ということだけでも私達は苦難を背負わねばならないものだろうか?

 ——否、苦難を背負っているのではない。 元よりその問いは論点を外れている。 そう、我々らは適応することができなかった。

 元より、我々らは『らしくなれば良かった』だけに過ぎない新参者の、理不尽な怒りを持て余しているだけである。

 

「それでも、その姿を見るからに完全に諦めたといわけではなさそうね」

 

「え? あっ!? ……あー……」

 

 言われて気がつく。

 自動車改造請負所からそのまま飛び出してきていたため、確かにツナギのままだった。

 そう考えると始終格好がつかなかったなと思い、顔が熱を持ち始める。

 こんなアクションを求められるなら制服のほうがカッコよかったに決まってる。

 

「……それじゃ、次会う時も同じ立ち位置だといいわね」

 

「は、はい……」

 

 よかった、恐らく公道爆走ライダーことゲヘナのゴーストライダーだとバレてないぞ。

 手のひらが冷や汗でベトベトだが、きっとバレてないに違いない。

 嘘の吐き方と心構えを練習する必要があるかもしれない。 だがそれは決して一般生徒がする事じゃない。

 だからこそ、いい加減認めるべきなのかもしれない。 私は賞金首で、風紀委員会から狙われるゲヘナの小悪党だと。

 

「ふぅ……すぅ……はぁ……」

 

 深く息を吐いて、深く息を吸う。

 過去の残滓を希釈するように、今を頭の中に巡らせる。

 脳天から指先の冷え切った感覚は消え失せると共に、無法地帯の陰気な空気が肺に見たされる。

 ああ、ようやく日常の色が戻ってきた。

 

「さて、ボーナス貰って帰るか……」




 元宮チアキ、京極サツキ、実装圧倒的感謝。
 とにかく投稿しようと焦ったので、ところどころダメな気がして頭抱えてる。

閑話ネタ

  • メイド
  • 水着
  • 浴衣
  • 幼体化
  • これは作者の秘めたる性癖解放ボタン
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