寺次優衣子と社幸華に関すること   作:藍沢カナリヤ

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クトゥルフ神話TRPG『月と紅葉』のネタバレを含みます。
通過者もしくは視聴済みの方のみお読みください。
また、こちらの『月と紅葉』は自作シナリオとなっております。


7 月と紅葉【赤】

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「ねぇ、ゆいこー! 紅葉狩り行こ!!」

 

 私の部屋。ベッドの上でテレビを見ていた彼女ーー社幸華は唐突にそう言った。視線を移すと、テレビでは紅葉特集をやっていたみたい。それを見て思い立ったのね。ふふっ、さちらしい。

「いいわね、行きましょ!」

 勿論、それを否定する理由もないし、さちの提案に二つ返事で同意する。というか、最近はお部屋でずーっと……その、いちゃいちゃ……してる時間が長かったから、むしろお出かけデートは願ったり叶ったりだわ。

「お! ほんと!? 話が早い、さっすがかわいいあたしの彼女~!」

「わ!?」

 飛び起きたさちは、そのまま私に頬ずりしてくる。うりうりとか言いながら、そんなことをやるものだから、一気に顔が熱くなるのが分かった。

「っ、か、かわ……/// か、かわいいのはさちの方よっ」

「えへへへぇ♡」

 お返しとばかりに、さちをぎゅっと抱きしめると、さちも抱きしめ返してくれた。よ、よかった。顔が赤くなってるのどうにか誤魔化せたわね。

「ふふふ、ゆいこ、あったかいねぇ」

「………………」

「そして、ふにふにだぁ」

「ひゃ……っ///」

 さちにお尻を触られて、思わず声が出てしまう。咄嗟に離れて、軽く睨み付ける。

「……さちぃぃ?///」

「てへっ☆」

 笑って誤魔化そうとするさち。うぅぅぅ、さちだってふにふにの癖にっ!

「…………えっち」

「な、ち、違うわよっ! そもそもさちがっ!」

「はっ!? い、いけない! 紅葉狩り行くって言ったのに!?」

 本当に頭から抜けたのか、それとも誤魔化すためなのか分からないけれど、さちはすくっと立ち上がる。危うくまた1日をゆいこを愛でて過ごすところだったぜ、なんて嘯いて。

「…………私はそれでもいいけど」

 いそいそと動き出すさちの背中に、そんな言葉を投げてみる。まぁ、聞こえないくらいの声量だったし、当然さちには届かない。

「……いえ、折角だものね。綺麗な紅葉が見たいし、行かないと勿体ないわ」

「そそ! 部屋に根っこ生えるまえにいこいこ!」

 調子のいい恋人さんは、まぁ、夜に分からせるとして、私も出かける準備をし始める。

「ゆいこー」

「ん? なに?」

「そう言えば昨日の『満月』、綺麗だったねぇ」

「! そ、そうね……ずっと綺麗だったわ」

「ねー」

「………………」

 うん、やっぱり今夜分からせましょ。

 

ーーーーーーーー

 

 家を出ると、近所に植わっている木々も赤色や黄色に色づいているのが分かる。勿論、昨日今日でこうなった訳じゃないけれど、紅葉狩りに行くって意識になったからかしら、妙に色づいた木々が綺麗に感じた。

「すっかり秋だねぇ」

「そうね」

「ねね、ゆいこ」

「ん? なあに、さち」

「ほら、めっちゃ紅葉キレイ!」

 そう言って、さちの指差す先には色づいたイチョウの街路樹。確かに綺麗ではある。けど、それを見て目を輝かせるさちの方が……。

「そうね、たしかに……すごくキレイ」

「ゆいこは赤いのも黄色いのどっちが好きー?」

 さちは私の視線に気づくわけもなく、純粋にそんなことを訊ねてくる。分かってはいたけど、うーん。あ、そうだ。

「……赤い方が好きね」

「お、あたしと一緒だー! なんか秋~って感じがしていいんだよねぇ。ゆいこはなんで赤の方が好きなの~?」

「私の好きな色に似てるからよ」

「そっか、そっかぁ……ゆいこって……赤が好……あっ……///」

 そこまで言って、やっと私がさちの赤い瞳を見つめていたことに気づいた鈍感さん。

「う……ゆいこ……こーゆうとき……なんというか大胆だよね…///」

 紅葉みたいに赤くなった顔をうつむかせて、ゴニョゴニョと言う。そ、そうかしら。そんな自覚ないけれど。でも……。

「でも、本当のことだから……さちの色って感じがして、好きよ」

「うぅぅ……/// う、うん、えへへ。ゆいこ、あたしもゆいこのこと好き~♡」

「ふふ、うれしい。私も大好き♡」

 ぎゅっと腕を絡ませてくるさち。うん、私の恋人は今日もかわいい。

 

「って、そういえばどこに向かってるの、さち」

 幸せを噛み締めながらも、ふと気になったことを聞く。なんとなくさちに合わせて歩いてたから、どこに向かおうとしてるのか意識してなかったわ。近くの公園とか、と訊ねるとさちは首を横に振った。

「なんかね、この近くに『永遠の紅葉樹』っていうのがあるんだって!」

「『永遠の紅葉樹』? 聞いたことないわね」

「うん。さっき準備してる時に、テレビでやってたよ」

「うーん? そんなのあったかしら」

 そんなものが近くにあったか思い出そうとして、私はなんとなく空へと目を向けた。

 

「………………『月』?」

 

 『満月』だった。日は高く、晴天。そんな中でその『満月』は煌々と輝いていた。それを見た瞬間に、ぐらりと視界が揺らぐ。強烈な眩暈が襲ってくる。立っていられなくて、私はその場にうずくまった。

「ゆいこ!? ゆいーー」

「っ」

 さちの声が遠くに聞こえる。脳内にぐわんぐわんと音が響く。それが止んだ頃、私はゆっくりと立ち上がった。

「な、なに、今の……?」

 キョロキョロと辺りを見渡すと、その違和感は一瞬で感じ取れた。

「夜に、なってる……」

 真昼間だったし、人もまばらにではあったけれどいた。けれど、今は辺りが暗い。電灯もついておらず、数人いた通行人も今は人っ子1人いない。それに雑草も多い気がする。ただそんな異変よりも気になることがあった。それは

「さち…………?」

 さちがいないこと。さっきまで隣にいたのに。私はさちの名前を呼ぶ。

「なぁに?」

それに答える声はすぐ後ろから。振り返ると、そこにいたのは1人の幼い女の子だった。7歳くらいかしら。オーバーオールを着た茶髪の女の子。目は赤いけど、勿論、さちじゃない。

「あ、れ……? さちは……?」

「? さち? さちはさちだよ!」

「え? あなたが、さち?」

 混乱する私とは対照的に、無邪気に手を挙げる女の子。彼女は首を傾げてこちらへ訊ねてきた。

「……おねーちゃん、だれ?」

「私は……寺次優衣子よ」

 その子に視線を合わせるように屈み、私も自分の名前を伝える。すると、彼女はさらに首を傾げて

「??? ゆいこおねーちゃん?」

 そんな風に訊ねてくる。まぁ、おねーちゃん……そうね、一応おねえちゃんね。と呆けていても仕方がないし、彼女に聞いてみましょ。

「えーっと……あなたもさちって言うの? どうしてここに……?」

「うーん……わかんない……」

 分からないね。そっか、つまり迷子ってことね。

「っ、パパ、ママ……」

「あ」

 迷子って言葉に反応してしまったみたいで、その子は涙を目に溜めて、ぎゅっとズボンを握る。いくらさちがいなくなって心配だからって、今のは失言だったわね。私はひとつ咳払いをしてから、彼女の頭を撫でる。

「パパとママ、一緒に探してあげるから安心してちょうだい」

「ほんと……?」

「ええ……あなたのこと、なんだか放っておけないから」

 これは本心。なんだかこのまま放っておく訳にはいかないって、頭じゃないところで感じていた。

「っ、ありがと、ゆいこおねーちゃん!」

 女の子は、私の空いている方の手をきゅっと繋いできた。まだ目の端に涙は見えるけど、笑顔で。ま、大丈夫そうね。

「それで、あなたの名前教えてもらえるかしら?」

「あ、うん!」

 

「あたしね、やしろさちか! 7歳! どーぞよろしくおねがいします」

 

「……!?」

 一瞬言葉に詰まってしまう。さちって愛称が同じ訳じゃない。その名前は……私の大切な人の名前で……。

「……やしろ、さちか……? え、ええ、そう……よろしくね」

 整理できていないながらも、どうにか笑顔を返す。返せてた、わよね?

 

「“ねぇ”」

 

「っ」

 声が聞こえた。私でも、目の前のさちでもない声。それは道の脇、暗闇から現れた。それは『黒い大きな犬』だった。『黒い犬』は言う。

「“2人で赤を見て回ってごらん”」

 喋りかけてくる犬。あまりにも異様で、私は後退る。今まで経験してきた博物館や水族館と同じ異質。でも、今までと明らかに違うのは、今の私にはーー

 

「わー! わんちゃんだー!!」

 

「ちょっ!?」

 私の後ろにいたはずのさちは、タタタッとその黒い犬へと駆け寄っていく。

「さち……ちゃんっ! 危ないから、近づいちゃダメ!」

 そんな風につい反射的に大きな声を出すも、時既に遅し。さちちゃんは喋る黒い犬を撫でていた。

「? ダイジョブだよ! がるるってしてないから!」

「そ、そういうことじゃ……」

 私も慌てて駆け寄る。けど、さちちゃんの言う通り、黒い犬は大人しい。なんならさちちゃんの顔をべろべろと舐めている。

「わ、あははっ、くすぐったいよぉ」

「っと」

 一応、犬をさちちゃんから離れさせる。暴れることもなく、犬は私の言うことを聞いてくれた。なんなら喋る様子もない。聞き間違い? いいえ、確かに声が聞こえた。2人で赤を回るって……?

ーーーーーーーー

「っ、なにっ?」

「わっ!?」

 頭の中に直接なにかが入ってくる。これは、地図? ぼやーっと頭の中に浮かび上がったそれ。

「なんか、あたまのなかにわーって入ってきたよ!」

 ビックリしているさちちゃんと対照的に私は自分でも驚くくらい冷静だった。

「……ええ、入ってきたわね。はぁ、そろそろこういうおかしなことに慣れて来た自分が怖いわ……」

 博物館や水族館の怪物と比べたら、だいぶ軽い体験ね。そう思える自分が本当に怖い。そんなため息すらつきそうなくらい落ち着いている私を見ていたんでしょうね。私を見上げながら、キラキラした視線を向ける子が1人。もちろん、さちちゃんなのだけど。

「そなの?」

「えぇ、思ったより落ち着いてるわ」

「ほぇぇ! こんなフシギなことなのにぜんぜんおどろかないなんて……もしかして、ゆいこおねーちゃん、すごいひと!?」

 そう言って、ピョンピョンと跳びはねるさちちゃん。かわいい。私のことを色んな恐怖から守ってくれた人と同一人物とは思えないわね。まぁ、あっちのさちももちろん可愛いけど。

「ふふ、そうね。私は……どうかしら」

「ん? すごいひとじゃないの?」

「うーん、私よりも『すごい人』を知ってるから」

「!! すごい! そんな人がいるの!」

 さちちゃんからしたら、不思議なことに驚かない私よりもスゴい人。それはスゴい人だとも思うわよね。さちにもしょーかいしてよぉ! そう言うさちちゃんに、私はまたしゃがんで目線を合わせ、言う。

「……紹介はできないけど、さちちゃんがもっと大きくなったときに会えるんじゃないかしら? 多分、ね」

「ほへぇ……」

 恐らくだけど、そういうことよね。

 

 このさちちゃんはたぶんさち本人で……何かしらの影響で、小さくなってしまっている。もしくは、昔のさちがここに来たとか。そんなところでしょう。

 なら、彼女は私が守らなきゃ。

 今まで守ってもらってたんだもの、今度は私が……!

 

「ゆいこおねーちゃん?」

「あ、ごめんなさい。行きましょうか」

「うん!」

 私はさちちゃんと手を繋ぎ、歩き出した。いつもよりもずっとずっと小さな手。きゅっと力を入れる。大丈夫。私が守るよ、さち。

 

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