寺次優衣子と社幸華に関すること   作:藍沢カナリヤ

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11 音楽の海を駆け巡って【amabile】

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 『星の小船』は室内を出て、古風な建物を飛び出し、空を駆ける。さっきと同じ浮遊感と慣性を感じない船は、すぐに和風建築へと辿り着いた。船が止まる少し前、どこかから柔らかい男性の声がする。ゆったりとしていてとても聞き取りやすい声。

『皆様、『音楽家たちが愛した食べ物』の世界はお楽しみいただけたでしょうか? 楽聖たちが好んだ料理を楽しんでいただければ幸いです』

『さて、次にご案内する世界は『民族楽器』の世界です。華麗な音や幽玄(ゆうげん)なる音を奏でる世界の様々な楽器たちの世界にいってらっしゃいませ』

 そのアナウンスが終わると、『星の小船』は和室の前で止まる。中へ入ると、青々とした美しい畳、円形の窓からは輝く月が見える。鼻をくすぐるのは柔らかで穏やかな香の香り。気分を安らげるようなそれに心が落ち着く。広いその部屋には、ずらりと世界の様々な楽器が並べられていた。この部屋の机にも、さっきの食堂と同じ青いメッセージカードが置いてある。そこには『世界の楽器を集めました。お好きに音を楽しまれてください』とある。この部屋にある楽器は演奏していいみたい。

「今度は体験型っぽいね!」

「ええ……楽器、たくさんあるわね」

 部屋の中を見回すと、弦楽器や管楽器、打楽器、見たことのあるものから見たことのないものまで様々。それぞれの楽器の前には、楽器の紹介文や演奏の仕方が書いてある。

「せっかくだし、どれか弾いてみる?」

「そうね……この中なら、和琴が興味あるわね。さちは?」

「そうだなぁ、法螺貝か馬頭琴で悩んでる……うーむ」

 少し悩んだ後、

「よし、決めた! 法螺貝!! 一回吹いてみたかったんだよね!!」

 法螺貝。映画とかで開戦を告げる楽器!

「ふふっ、さちなら綺麗に吹けそうよね」

「ふふん! 任せて!」

「じゃあ、やってみましょうか」

 思いっきり息を吸ってーー

『ぽふっ……ほふっ』

「………………鳴らないや」

「やっぱり初めては難しいわね……」

 どうやらゆいこの方も上手く弾けなかったみたい。和琴の前で正座をしたゆいこは、困ったように笑った。ただ楽しそうな色も見える。違うのもやってみよっかと提案し、他の楽器も見繕う。

「ゆいこ、決まった?」

「そうね。私は今度、二胡をやってみるわ」

 説明文によると、中国を代表する弓で弦をこすって音を出す楽器。深みを帯びた音色が特徴、だとそうだ。なら、あたしはねぇ……。

「これ! 馬頭琴やってみるね!」

 たしか小学校の時に国語の教科書で読んだ物語に出てきたやつ! 説明文によると、モンゴル人を象徴する楽器。モンゴルでは乗馬と馬頭琴をこなしてこそ一人前なのだとか。昔の弦の材料には馬の尾が使われていたらしい。

 今度は2人とも弦楽器! さ、チャレンジだ!

『ギギギギィィ……キィィィ……』

「…………」

 初めてだし、難しい楽器だとも思う。けれど、それにしても酷い音色だった。黒板を引っ掻いた音の方がマシレベルである。思わず天を仰ぎ見てしまう。

「………………あたしには、音楽の才能が、ない……」

「……さ、さち、元気だして……ほら、他の楽器なら次は上手くいくかもしれないわよ……?」

「ゆいこは……?」

「え、あー、えっと……」

「…………鳴らしてみせて」

 

『~~~~~~~~~~』

 

「(´・ω・`)」

 あたしとは大違いな、とてもいい音色だった。ゆいこは軽く拗ねるあたしをなだめつつ、他の楽器もやってみるように促してくる。一緒に見て回り、決めたのは三味線。前に音楽の授業で触った記憶があるし、これなら!

『ベベンッ』

「「!!!!」」

 こ、これは!

「弾けてる! 弾けてる!」

「ええ、すごく綺麗な音が出てるわ」

 無事演奏成功したあたしは、ゆいこと目配せをする。これならきっとゆいことセッションできる! そう思い、2人で弦を鳴らす。けど、

「あ、あれ? さっきは上手くいったのに……」

 今度はゆいこが失敗。ちょっと落ち込んじゃって。なんでだろうと首をひねるゆいこ。あたしはそんな彼女の膝から二胡を下ろして告げる。

「…………ここはあたしの居場所ってことですなぁ」

 ごろんとゆいこの膝に頭を預け、膝枕。少し気落ちしていたゆいこの表情が赤くなる。

「なっ!?/// ま、まあ、確かにここはさちの居場所だけどっ」

「えへへぇ」

「……///」

 その後、他の楽器を見たり、少し触ったりして過ごす。すると、今度は『星の小船』が和室の中まで入ってきた。乗れ、ということだよね。

「っしょ、はい」

「ん」

 『星の小船』に乗り、ゆいこの手を引く。くっついて座ると、船はゆっくり進み出した。

 

ーーーーーーーー

 

 また男の人の声がする。アナウンスが続く。

『皆様、『民族楽器』の世界はお楽しみいただけたでしょうか? 世界の楽器の音色たちを楽しんでいただければ幸いです』

『次にご案内する世界は『アイドル』の世界です。人々に夢を与える、アイドルになってみましょう。華やかな世界にいってらっしゃいませ』

 そのアナウンスの後、『星の小船』は大きなドームに入っていく。って、

「「アイドル!?」」

 ゆいこと顔を見合せた。次の瞬間、突然目映い光を感じた。その光の正体がスポットライトだと気づいたのは、目を開けてから。あたしたちは、広大なドームのステージ中央に立っていた。ステージにはあたしたち2人だけ。観客席は満員で、あたしたちのことを今か今かと待っているように感じた。

「おぉ! すごい! アイドルのステージだ!!」

「アイドル!? す、すごいけど、アイドルになるのっ!? 私たちが!?」

「そうみたい!」

 ドキドキしながら、ゆいこと顔を見合せる。そして、今更ながら気づく。

 

「うっわ……かわいい……」

「へ?」

 

 思わず溢れた言葉はゆいこへ向けたもの。薄パープルを基調としたチェック柄のアイドル衣装。フリルやリボンがふんだんに使われたロリータ風ではありながらも、節々に差し色としての黒い生地も使われたおかげで、大人っぽい雰囲気もある。

 ちなみに、あたしのはゆいことお揃い、色違いの青い衣装。とあたしはいい。それよりも目の前の超絶ミラクルウルトラ美少女アイドルから目が離せない。

「うわ、うわぁ……///」

「な、なに言ってるのよっ/// かわいいのはさちの方よっ!」

「いやいやいやいや! ゆいこの方がチョーゼツかわいい! ビックリして気絶しちゃいそうなくらい!」

「~~~~~~っ、もうっ///」

 恥ずかしがるゆいこ。もうこりゃあ、うん、神だぁ! うーむ、よし!

「………………」

「ど、どうかしたの、さち?」

「え、あ、えーっと、なんでもないよ!? それより、よーし、見てて、ゆいこ!」

 あるものをステージ端に置いたあたしは、ゆいこの一歩前へ出る。もうここまで来たら、ノリと勢いだと、あたしは思いっきり息を吸って、観客席に向けて叫ぶ。

 

「アリーーーーーーーナーーーー!!!」

 

 あたしの声に応えるように、アリーナ席が沸く。おぉぉ、これはちょっと気持ちいいかも? ちょっとの愉悦感を感じていると、隣のゆいこがポツリと呟く。

「流石さちね、すごい声量……!」

「えへへ、一回やってみたくて……」

「そ、そう」

 ふと見ると、ゆいこの表情が固い。

「………………ゆいこ、やっぱり怖い?」

「まぁ……そうね。私、あんまり人前に出るタイプじゃないし」

「まぁね、でも、ほら! ここ、『不思議』の世界だからさ。きっと盛り上がってくれるよ」

「確かに『不思議』の世界、だものね。でも、まぁ、さちの言う通り、ちっとも怖くないと言えば嘘になるけれど、さちと一緒だから……大丈夫」

 そう言って、ゆいこは微笑む。けれど、やっぱりその笑顔も固い。うーん、よし!

「でも、まだ怖いのはあるよね?」

「…………さちにはバレちゃうわね」

「よし、ならーー」

 ゆいこの腰に手を回し、ぎゅっと抱き寄せる。

 

「ーーこれでどうだ!!」

 

 ぎゅぅぅっと力一杯。最初はびっくりして強張っていたゆいこも、あたしのパワーに負けてその身を委ねてくれる。そして、ゆいこは笑う。

「ふふ、さちの笑顔のお陰で、怖いの何処かに飛んでいっちゃったわ」

「なら、よかった!」

 あたしたちは手を繋ぐ。

「よし! 歌うぞぉぉぉ!! ゆいことのイチャイチャデュエットを見せつけてやるぅぅ!!」

「ええ、歌いましょう! さちとなら上手く歌える気がする……!」

 その意志に呼応するみたいに、音楽が鳴り始める。オリジナル曲なんてもちろんないから、流れるのは2人で歌ったことのあるデュエット曲だ。恋の難しさを歌った歌詞は、きっとあたしたちの関係性にピッタリだと我ながら思う。いいチョイスだよね。

「ーーーーーーーー!」

「ーーーーーーーー!」

 音程も声もいいとは言えない。それにダンスだって息は合ってはいるけどそれなりだ。大きなステージで歌ったことなんてないし、スポットライトの熱で体力もガンガンに奪われてる。あぁ、こんなに『アイドル』って大変なんだな。でもーー

「さち!」

「うん! ゆいこ!」

 息が合っていく。お互いやりたいことが分かる。身体が、心が一致していく感覚。全能感すら覚える。

 汗がはじけ、それにキラキラと反射する光。気のせいかな、ううん、違う。気のせいなんかじゃなくて、あたしたちへと光が降り注ぐ。光に照らされながら、あたしたちは歌う。踊る。そうして、パフォーマンスは終盤へ。

 

「楽しいね、ゆいこ!」

「ええ、楽しいわ、さち!」

 

 最後のフレーズを歌い上げ、曲も終わる。肩で息をしながら、互いにもたれかかるように背中合わせになるあたしたち。どちらからともなくハイタッチをした。そんなあたしたちに大きな声援をなげかける観客たち。充足感が身体に満ちた次の瞬間、大きな拍手とともに舞台は暗転した。

 

ーーーーーーーー

 

 目蓋の裏に、きらきらとした星のような光が見えた。次に目を開けると、そこは清潔感のある可愛らしい部屋だった。その部屋には星の模様が壁紙としてあった。柔らかい色が目に優しい。クラシックの優雅な旋律が流れている。

 2人分の茶色の机と椅子と、机の横にはドリンクバーらしき装置もあった。側にある張り紙を見ると自由に飲んでいいらしい。ジュースや炭酸水、お茶やコーヒー、日本ではなかなか見ない世界の珍しい飲み物も楽しめるようだった。またアナウンスが流れる。もう聞き慣れた声だ。

『皆様、『アイドル』の世界はお楽しみいただけたでしょうか? 当展覧会はこれにて終了となります。夢野博物館を楽しんでいただければ幸いです』

『アンケートを用意しておりますので、お答えしていただけますと助かります』

 見れば、机の上にはアンケート用紙とボールペンが置いてある。アナウンスや張り紙を鑑みるとアンケートを書けば、この部屋から出られそうだね。害はないのだろうと分かったあたしは、座っていた椅子の背もたれに体重を預けた。

「おお、も、戻ってきた……」

「……なんていうか……すごかったわね……」

「うんうん、なんか、すごかった! 今回は怖いこともなかったし……こういう『不思議』の世界もあるんだねぇ」

 鉱石博物館、水族館、世界の狭間を走る電車、紅葉の世界。

 今までのどの世界とも違う『不思議』だった。うーむ、一度『不思議』なことに巻き込まれてしまったせいで、もしかしたらあたしたちは『そういうこと』に引き寄せられちゃうようになってるのかもしれないな、なんて思う。いっつもこんな楽しいだけの『不思議』ならいいんだけどなぁ。

「さち?」

「あ、ごめんごめん、ボーッとしてた。じゃあ、楽しませてもらったし、アンケート書いて帰ろっか!」

「それもそうね、書いて帰りましょうか」

「うん」

 

~~~~~~~~

《アンケートの内容》

・問1 今回の展覧会『音楽の海を駆け巡って』はお楽しみいただけましたか?

1 とても楽しめた

 

・問2 今回の展覧会で一番気に入った展示はどれですか?

4 アイドルの世界

 

・問3 今後の展覧会に期待していること、見たい展示物があれば教えてください(自由記述)

 とっても楽しかったです! 恋人と素敵な時間を過ごせたし、恋人の素敵な姿をいっぱい見れました! ありがとうございました!

~~~~~~~~

 

「よし、おっけー!」

「私も書けたわ」

 アンケートを書き終え、ペンを机に置くと、予想通り扉が現れる。そして、また部屋にアナウンスが流れた。

『本日は『夢野総合博物館』にお越しいただき誠にありがとうございました。頂いた貴重なご意見を元にこれからも励んで参ります』

『展覧会に参加していただきました記念にポストカードを一枚、お渡しします』

『それでは皆様、ありがとうございました』

 声が小さくなっていく。扉を開けるとそこは博物館のショップだった。手の中には、いつの間にかアンケートで気に入ったと答えたアイドルのステージのイラストが描かれたポストカードがあった。きっとこの『不思議』の世界の主からのプレゼントだろう。

 気づけば、人々が楽しげに話す声がする。本能的に察した。元の『夢野総合博物館』に戻ってきていたんだね。

「よっし! なんか買って帰ろ!」

「ええ、そうね」

 音符のキーホルダーのついたボールペンや三味線の形をしたメモ帳なんかを買い物かごに入れていく。民俗楽器が書かれたマグカップもお揃いにして。

「あ、この写真立て!」

 目に入ったのは、五線譜がデザインされた写真立て。入口やあの劇場で撮った写真にピッタリなもの。

「いいわね、これもお揃い」

「うん、満足満足」

「ふふっ、そうね」

 この日、あたしたちは『歌劇』の世界を堪能し、『音楽家が愛した料理』を味わい、『民族楽器』の世界に触れて、『アイドル』の世界を楽しみ、華やかな音色の音楽の海を駆け巡った。

 程よい疲れと最高の充実感を感じながら、あたしたちは博物館を出て帰路につく。

 

『ーーーーーーーー』

 

「?」

「どうかした、さち?」

「…………ううん、なんでもない!」

 不意に、穏やかで、優しいあのアナウンスの人の声が聞こえた気がした。

 

ーーーーーーーー

 

END『音楽の海を駆け巡って』

 

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