寺次優衣子と社幸華に関すること   作:藍沢カナリヤ

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2 日常(優衣子視点)

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 私、寺次(てらじ) 優衣子(ゆいこ)には大切な人がいる。

 彼女の名前は(やしろ) 幸華(さちか)

 

 10年前のあの日、さちは私を苦しめていた元凶を成敗した。そして、転校してきてから1週間しか経っていないというのに、学校の勢力図を塗り替え、一気に人気者になったんだ。

 そりゃあそうよね。小学校の頃のさちはお人形さんみたいに可愛くて、でも、気取らず平等に人と接し、曲がったことを許さない正義感が強い女の子だった。そして、誰にでも優しい。私もその『誰にでも』のうちの1人。それはあれから10年間、ずっと側にいた今でも変わってないことはとっくの昔に気づいているわ。

 

 私はさちの『1番』になりたいのに。

 

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 私達の高校は、毎週水曜日は部活動がない。それはさちが所属しているテニス部も同じ。残念なことに風紀委員で活動がある時はあるけれど、それでも水曜の放課後はさちと一緒にいれる時間が多い。

 今日はそんな水曜日。私も図書委員の仕事を早々に終えて、教室に向かう。水曜は教室で待ち合わせをして帰るのが通例になっていた。いつもさちの周りには他の子がたくさんいて、その輪の中心が彼女だから、私はあまり喋りかけられない。でも、水曜の放課後だけは違う。私がさちを独り占めできる、そんな日。

「さち、待たせたわーー」

「えぇぇ! やったじゃんっ!!」

「っ」

 教室から聞こえてきた声に、反射的に私は身を隠した。さちの声ではあったけど、まるで誰かと話しているみたい。恐る恐る教室の中を覗くと、さちの前の席に1人の女の子がいた。その子は椅子をさちの方へ向けて話をしていた。たしかあれはさちと同じテニス部の子だったかしら。顔を赤らめて、何かを話している。バレないように、わたしは耳をそばだてる。

「ちょっと、幸華! あんまし大きな声で言わないでよっ」

「えー? いいじゃんいいじゃん! 付き合うことになったんでしょー?」

「……まぁ、それはそうだけど。でも、向こうが周りにはまだ秘密にしててって言ってるの!」

 話の内容から察するに、彼女が例の恋愛相談の相手なんでしょうね。さちの時間を割いてまで自分の恋愛を……って、ううん。いけないいけない。付き合ったって聞こえたし、きっと今日はその報告だろう。あの彼女との関係もこれ以上は深くならないはず。

「にしても、女の子同士かぁ」

「!」

 ポツリとさちが漏らした言葉に私は反応してしまう。女の子同士。そう聞こえた。

「だ、だから! わざわざ言わないでって!」

「あー、ごめんごめん」

「……自分でも変なのは、分かってるんだから」

 そんな風に小さく呟く相談者の彼女。その言葉を聞いて、妙に心がザワザワするのを自覚してた。女子高ならまだしも男子も普通にいる環境で『そう』なるのは少数派ではある。自分は『変』なんだと感じるのも無理はないわよね。彼女の気持ちに同調するように、私も自然とうつむいてしまう。

 

「そう? 別に変じゃないでしょ!」

 

「っ」

 不意に聞こえたさちの声で、私は顔を上げると同時に、また中の様子を隠れ見る。相談者の彼女は驚いたようなほっとしたような表情をしていた。きっと私も同じ顔をしてる。さちは続ける。

「だって、その人の素敵なところが見えて、いいなぁってなって始まった恋なんだよね」

「う、うん」

「じゃあさ、好きになったのは男とか女とか関係なくて、その人の心を好きになったわけじゃん。なら、別に変じゃないとあたしは思うよ」

 あっけらかんとそんなことを言うさち。その言葉を聞いているだけで、私のなにかが溢れそうになる。彼女だけではなく、私の中のモヤモヤをさち自身から肯定された気になれたから。だからーー

「~~っ、ありがと、幸華っ!! 本当におまえはいいやつだぁぁぁ」

「おぉ!? ちょっと止めなよぉ、抱き着くなよぉ、こんなところ相手の子に見られたら修羅場だって」

「あははっ、幸華はノーカンだって! 親友だもんっ」

 ………………ザラリ。

 心の中の酷く澱んだ部分を撫でられた感覚がした。瞬間、私は立っていられなくなる。その場にしゃがみこみ、うずくまる。その光景を見てはいない。聞こえてくるその声から容易に状況は察することができた。途端に感情が反転する。淡い希望から汚泥のような感情へと。

 さちに抱き着くな。そこは私の場所だ。

 さちに親友なんて言うな。それは私の居場所だ。

 さちは私の……私だけのーー

「あれぇ? ゆいこ?」

「っ、さち」

 いつの間にかさちと相談者の彼女は、教室から出てきていた。しゃがみこんだ私と鉢合わせする形になってしまった。

「!! ゆいこ、どうかした? お腹痛いの!?」

「え、あ、えっと……」

「ごめん! ちょっとゆいこ、保健室に連れてくから! またね!」

 さちは私の返答を待つ間も、テニス部の子の言葉を待つ間もなく私を背負い、走り出した。

「さ、さち。私は、大丈夫よ」

「あんなとこにしゃがみこんでたんだもん、大丈夫なわけないじゃん! あたしに任せてといてよ!」

「………………うん」

 全速力で走るから、私の身体は揺れる。彼女の体温を『1番』近くで感じるから、私の心はより揺れる。いつもこうして私を振り回すんだから質が悪い。でも、

「好きよ……」

「ん? なんか言ったぁ?」

「ううん、なんでもない」

 溢れた言葉は今は届かなくてもいい。ただ、今はさちを私だけが独り占めできているんだから。

 

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