寺次優衣子と社幸華に関すること   作:藍沢カナリヤ

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12 眠りにつくまで、眠りについても(幸華視点)

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「昨日、怖い夢を見たんだ」

 金曜日の昼休み、屋上にて。ゆいこと一緒にお弁当を食べ終わった後、様子が変だと指摘されたあたしは、素直にそう答えた。ゆいこに心配をかけたくないというのが正直なところではあるけど、隠し事はしないって約束したからね。

「……道理で。クマできてる」

「わっ///」

 そう言って、ゆいこはあたしの顔に指を這わせる。思わず身体を震わせちゃう。

「私でよければ、話聞くわよ」

「うーん」

「それとも言いたくない? なら、それもそれでいいわ」

 そういう訳じゃないんだよ。ただあまりにも突拍子もない夢だから。そう言うあたしを笑うこともなく、ゆいこは言う。

「夢なんてそんなものじゃない?」

「………………うん。そう、だね」

 少し考えた後、あたしは口を開いた。気分悪くなったら言ってね、と告げてから。

 その夢は『ナニカ』から逃げる夢。気づいたら、知らない女の子と森の中にいたこと。そこで死体を見つけたこと。

 そこから逃げ出した先、人の行き交う商店街で巨大な『カニ』に出会い、目の前で人が真っ二つにされてしまったこと。

 さらに逃げた先で、自分達が動かそうとしたバスに隕石が当たり、乗客が焼け死んでしまったこと。

 そして……。

「っ」

「さち、もういいわ」

 話を遮るように、ゆいこはあたしを抱き締めた。

「ごめん……」

「ううん、私の方こそ無神経だったわ」

 それから少しして、彼女はある提案をした。

 

「…………ねぇ、さち。今日、家に来ない?」

 

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 その日の放課後、寝れていないことをテニス部の顧問の先生と部長さんに伝えてお休みをもらったあたしは、一度家に帰ってからゆいこの家へ。お邪魔しますと言って、家にあがると中からパタパタと誰かが近づいてくる足音がした。そちらを見れば、ゆいことエプロンをつけた女の人が部屋から出てくるところだった。ゆいこそっくりのその人は、

「いらっしゃい、幸華ちゃん」

「お邪魔します!」

 ゆいこのお母さんである。ゆいこを大人っぽくして、髪が伸びたらこんな感じになるんだろうなって雰囲気の人だ。ゆいこよりもおっとりしてる。

「あ、これっ! つまらないものですがっ」

 菓子折りをゆいこのお母さんに渡す。

「あら、そんなに気にしなくてもいいのに」

「いえ! 急にお泊まりさせてもらうんですから、このくらいは! 母からもよろしくお願いしますと」

「幸華ちゃんのお母さんにもお礼言っておくわね」

「はい」

「………………」

「ゆいこ?」

 そこでふと気づく。の隣に立つゆいこが軽く膨れていることに。

「フフッ、ごめんなさいね。お邪魔虫は消えるわ。あとはお若い2人でごゆっくり~」

「なっ/// お母さんっ!!」

 そう言うと、ゆいこのお母さんはキッチンに消えていった。

「え、えっと……」

「…………/// ごめんなさい、さち。お母さんが余計なことを」

「う、ううん。ゆいこのお母さんはいつもあんな感ーー」

 

「あ、夕食までは2階に上がらないからごゆっくり~」

 

「お母さんっ!!///」

「あ、あはは……///」

 あたしのところもそうだけど、妙に理解のあるママずである。いや、まぁ、色々と助かるけどね? そんなこんなであたしたちはゆいこの部屋がある2階へ上がった。もちろんゆっくりはしたけど、ごゆっくりするようなことはしてません!

 

ーーーーーーーー

 

 時刻は22時。夕飯をご馳走になって、お風呂も上がって、ゆいこの部屋へと向かう。すると、部屋はもう暗くなっていて。

「ゆいこ……?」

 恐る恐る部屋に入ると、思った通り照明は消えていた。ただ小さな光源が一つ、ゆいこの机の上で光っている。

「ロウソク?」

「そう、アロマキャンドルよ」

 ゆらゆらと揺れる光に照らされて、ベッドに座るゆいこが微笑んだ。光の当たり方か部屋の雰囲気か、それとも部屋を満たす優しいラベンダーの香りのせいか、ともかく微笑むゆいこがとても大人っぽく見える。

「あ……///」

「さち?」

「あ、いやいや、ううん。なんでも、ないです……っ」

 ちょっとドキッとしたのは内緒。思わず視線を反らすあたし。そんなあたしの様子に勘違いしたのか、

「…………やっぱりまだ不安?」

「え、あ、まぁ、うん……そうかも///」

「そう」

 あたしの方に近づいてきたゆいこは、優しげな声で手をとる。きゅっと両手で握る。

 う、うわぁぁぁ、なになになに、なにこの雰囲気っ、顔を見れないよぉ///

「あのね、さち」

「う、うん」

「私、さちの不安、全部消してあげたいわ」

「っ、ぜ、ぜんぶ!?」

「全部全部全部全部、考えられなくなるくらい」

「考えられなくなるくらいっ!?!?」

 慌てたあたしはふっと足を滑らせ、ベッドに背中からダイブしてしまう。その上に覆い被さるように、ゆいこが乗ってくる。

「ね、さち」

「ひゃ、ひゃいっ///」

 

「私に全部預けて?」

 

「っ///」

 身を縮めて目をつぶる。それが合図だったように、ゆいこはあたしの髪を撫でてくれて。

「はい、さち、頭あげて」

「………………へ?」

「だから、膝枕よ膝枕」

「え、あ、えぇ……?」

 見れば、ゆいこは既にあたしの上から退いていて、アロマキャンドルの横に置いてある耳かき棒を手にしていた。前に買って、実際使ってしてもらったこともあるライトのついてるタイプの耳かき棒てある。

「あ、あの、ゆいこさん……そのぉ、これから何をするんでしょう……?」

「? さち、眠れないんでしょう? 怖い夢を見るのは身体や心が緊張してる証拠だって調べたの。だから、アロマとか焚いて、さちが安心しながらぐっすり眠れるように準備したのだけれど」

「………………あー」

「ほら、前に耳かきした時、少し緊張してたし。だから、身体も全部預けてって言ったのよ」

「あ、ハハ……そういう……?」

「?」

 うぅぅぅ、変なことを想像しちゃった自分が恥ずかしくなってくる。こんなにゆいこはあたしを心配してくれたというのに。まったく、あたしは何を考えていたのだろう。

「さち」

「あ、はいっ」

「おいで」

「…………おじゃまします」

 ベッドに座ったゆいこの太ももに頭を預ける。音楽の展覧会の時もこんなことしたなぁと思いながら、目をつぶる。

 ゆっくり、右耳の中に入ってくる木製の棒。ゆいこがあっためてくれたのかヒンヤリとした感覚はなかった。

 カリ、カリ、カリカリ。耳の中に音が響く。ほどよい力で耳の中を動く耳かき棒。

「さち……痛くない?」

「うん、ダイジョブ……きもちいいよ」

「そ、ならよかったわ」

 カリ、カリ。右耳の中、穴の周りを搔く音がする。少しして、穴から出たそれは耳の周りをカリカリとなぞっていく。不意に、ゆいこのちょっと冷たい指が耳に触れる。一瞬、声が出そうになるのをどうにか我慢して。

「さち、力入ってるわ」

「う、うぅ……なんかゾワゾワしちゃって」

「安心できない?」

「安心は…………してる。ドキドキもしてる……///」

「ふふっ、なにそれ。ほら、続けるわよ」

「は、はい……」

 カリ、カリ、カリ、カリ。ゆっくりと耳の周りをなぞられる感覚。耳の中を掃除されていた時とは違って、音が間接的に聞こえてくる。身を固くしていたのも一瞬で終わる。音がまた心地いい。やがて、耳に当たる棒の感覚がなくなり、ふわふわとしたものが耳に当たる。

「……梵天、でしたっけ?」

「うん」

「これ、気持ちいいわよね」

「うん、あたし、これ好き……」

「私も分かるわね」

 耳かきの後ろについているふわふわ、梵天。音も、ふわふわとした感触も好きだ。耳かきの終わりにするものだから、もうすぐ反対側にーー

 

「フーッ」

「ひゃんっ///」

 

 身体が跳ねる。いきなりゆいこはあたしの耳に息を吹きかけてきたのだ。

「ゆ、ゆいこっ!?」

「ん? ここまでがセット、なんでしょう?」

「うーっ」

 抗議はしたけど、前にそう言って、ゆいこに耳かきをしたことがある身としては何も言い返せなかった。今日のゆいこはなんか強いんですけど。

「…………ほら、次は反対、向いて」

「う、ん」

 言われるままに、顔を反対へ。自然とゆいこのお腹が視界に広がる。ちょっとだけ悪戯心が……。

「………………」

「変なことしたらダメよ?」

 どうやらお見通しみたい。まぁ、さすがに危険だからね。大人しく耳かきされることにしよう。

 カリ、カリ。カリカリ、カリカリ。ふわふわふわふわ。

 左耳も、右耳と同様に穴をなぞられる。それから穴の外へ。ふわふわとした梵天の感覚はもう感じなくて。恥ずかしさとか緊張とかはもう薄れて、じんわりとした眠気がやってくる。

「………………さち」

「へ、あ、うん」

 ゆいこの声で微睡みから抜ける。少し頭がぼーっとする。

「寝れそう?」

「……うん」

 アロマの香り。薄暗い室内。心地のいい刺激。そして、ゆいこのあったかさ。あたしの心は穏やかで、このまま寝入れそうな感じもした。

「じゃあ……寝ましょうか」

 あたしの身体を支え起こして、ベッドに誘導するゆいこ。かけ布団をかけてくれた後、ゆいこも隣に入る。そして、

 

ーーとん、とんーー

 

「ゆいこ……?」

「こうして、とん、とんってするの安心できないかしら」

「えへへぇ、するぅ」

「なら、さちが寝るまでこうしてるわよ」

「ありがと、ゆいこ」

 ゆっくりになったあたしの心臓のリズムと同じくらいの早さで、とん、とんって寝かしつけをしてくれる。ゆいこの温度と香りに包まれて、あたしの意識は消えていった。

 

「おやすみ、さち」

 

 その日、夢を見た。

 あたたかい光が射し込む部屋でゆいこと笑い合う夢だった。

 

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