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あっという間に、その日はやってきた。駅前に集合して、そのまま改札を通る。秘境とまではいかないものの、それなりに田舎の方に向かうため、駅自体は思ったよりも空いてる。発車までは少し時間があるし。となれば!
「やっぱり電車の旅といえば! 駅弁だ! 買いにいこ、ゆいこ!」
「腹が減ってはなんとやら、だものね。買いにいきましょう」
売店には、様々な飲み物やスナックが置いてあった。観光地へ向かう定番な駅弁も勿論売ってる。辺りを見れば、朝からアルコールを買う人も多くて、レジに並ぶ人たちの顔はどこか緩んでる。休みを満喫する雰囲気。フフフ、いいなぁ、こういう感じ。
「さち?」
「あ、ごめんごめん。何にしよっか!」
売店の横にメニューが置いてあり、それを2人で眺める。おにぎり弁当、鳥めし弁当、牛タン弁当、いかめし。大都会ほど豊富ではないけど、4種類から選べるのは中々贅沢かも。
「うーん……いかめしか牛タンか鳥めしか……」
おにぎりもいいけど、ここはTHE駅弁ってやつがいいよね。そんな風に悩んでいると、ゆいこが話しかけてくる。
「……私、牛タンにしようかしら。いかめしも少し気になるから、シェアするのはどう?」
「なるほど、いいね! そうしよー! 飲み物はあたしは烏龍茶にしよっかな。ゆいこはー?」
「私は温かいほうじ茶にしようかしら」
「おっけー! すみませーん!」
売店の人にそれらを伝えて、少し待つ。すぐにあったかいお弁当と飲み物が渡された。同時に、電車のチャイムが鳴った。まずい、とゆいこと顔を見合わせて急ぎ足で電車に乗った。
電車は観光仕様で木目調。ううん、触ってみると、木そのものだと分かった。天井や床を見れば、寄木細工で彩られている。車内には静かな和の音楽が流れ、ほのかにヒノキのいい香りが漂っていた。座席は赤いビロード張りで、壁にかかっているフックを外せばテーブルが出てくるようになっていた。駅弁も余裕で置けそうだね。ローカル線あるあるらしく座席はボックス席で、ゆいこと向かい合って座ることにする。あたしとしては隣同士でもいいんだけど、ゆいこが恥ずかしがるからなぁ。
「雰囲気いいわね」
どうやらゆいこもそれを感じていたみたい。こちらに笑いかけてくれた。
「ねー! 都会だと中々見れないタイプの電車だよね」
「ええ、観光地仕様なんでしょうね」
「……フフフ」
「さち?」
「ワクワクしてきたっ!」
「……私は昨日の夜からずーっとワクワクしてるわよ?」
「うむ、たしかに!」
「ふふっ」
話していると、電車はゆっくりと動き出す。しばらくの間は、見慣れた都会を走る。けれど、30分もすれば徐々に雪が増え始め、 すぐに辺り一面の雪景色に変わる。
「おぉ! 冬って感じ! 懐かしいなぁ」
「ああ、そういえば、さちってこっちに引っ越してくる前……」
「うん、結構田舎に住んでたよ。それこそ冬にはいっつも雪が降るような」
雪だるまとかちょー作ってたよ。そう言うと、ゆいこはイメージ通りねと笑う。不意にぐーっとあたしのお腹の虫が鳴き出した。顔を見合わせ笑い、
「食べよっか」
「ええ、そうね」
ビニール袋から駅弁を2つ取り出す。ゆいこに牛タン弁当を渡し、あたしも竹でできた箱を開けた。中には、コロンとかわいいイカ飯が2つ入っている。ホカホカと湯気がたっていて、それに乗って甘じょっぱい香りが鼻腔をくすぐる。
ゆいこの方を見ると、牛タンに心奪われてるように見えた。手を合わせ、いただきますを言って、互いに駅弁を口に運ぶ。
「……!」
いかは柔らかく、噛むとジューシーな旨味が口に広がり、中に詰められたもち米もやわらかくて、甘じょっぱい醤油の味とイカの風味がよく沁み込んでいる。
「「おいしい!」」
「「あっ」」
「えへへぇ」「ふふっ」
図らずも声がユニゾンしていた。
「屋台のイカ焼きもそうだけど、甘じょっぱい味好き! もちもちのお米と合うんだよねぇ」
「こっちもとても美味しいわ。牛タンと高菜だけってシンプルなのがいいわね。牛タンの食感と風味が高菜と合わさって味わい深いお弁当だわ」
ゆいこの美味しそうな表情。ふーむ?
「どれどれー? あーん」
「はい、あーん」
「あーむっ、んん! おいしい! お肉!!って感じだ」
あたしの感想になにそれと笑うゆいこ。そんな彼女の口元に今度はあたしのいかめしを運ぶ。ちっちゃくして……。
「じゃあ、おかえしに……あーん」
「あーん……ん、おいしい……」
いかめしを食べたゆいこはそのままほうじ茶を飲んで一息吐く。
「お醤油とみりん、かしら。お茶と合う味。うん、こっちも良いわね」
「ねー!」
モグモグと食べながら、お話をして。ふと笑みが溢れる。
「えへへぇ、なんか幸せだねぇ」
「ええ、そうね。こういうの……良いわね」
「うん!」
幸せな一時。うんうん、こういう時間が大事なのだ。
食事を終えると、急激な眠気がやってくる。カタンコトンと規則的に聞こえる線路の音が余計にその睡魔に加勢してくる。
「ふわぁぁ……」
「さち、もしかして、昨日、寝れなかった?」
「あー、まぁ、うん」
「奇遇ね。私もよ」
どうやら楽しみで眠れない気持ちは一緒だったみたい。ただあくびをするあたしに、ゆいこは少し寝ててもいいわよと言ってくれて。ゆいこも眠いだろうに……。
「そうね……じゃあ、30分したら交代でどうかしら?」
「うん、ありがと、ゆいこ」
「ううん。それじゃあ、おやすみなさい、さち」
『不思議』現象に巻き込まれる時とは違い、緩やかにあたしは意識を手放した。
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「ゆいこ、ゆいこ」
「ん……さち……?」
「そろそろ終点だって」
「ああ、ありがとう」
交代で仮眠をとっていたゆいこを起こす。ゆいこはひとつ伸びをして、息を吐いた。
「あっという間だったわね」
「だね!」
「…………ところで、さち」
「ん? なに?」
「寝顔撮ってないわよね?」
「………………」
「………………」
「さぁ!! 荷物の準備をしよっかぁ!!」
「ち、ちょっとっ/// また、アイドルの時みたいにっ!!」
「えー?それほんとー?」
「「?」」
ナイスなタイミングで声が響いた。それは近くに座っていた若い女の人たち4人のうちの1人が発した声だったみたい。あたしたちよりも少し年上。大学生くらいかな? 確か『黒羊村』は終点のはずだから、きっとあの人たちも温泉に来たんだろう。少し気になって耳を澄ませると、
「ほんとなんだって! 『若返りの妙薬』?があるとか……」
「何それオカルトじゃーん!」
「えー、でもあるなら絶対欲しい!」
「無理だよ。だって、超超超高級旅館の黒羊旅館でしか売ってないらしいよ?」
「えー、いつか泊まりたーい!」
そんな話が聞こえた。『黒羊旅館』って、あたしたちが泊まるところだよね?
「ねぇ、ゆいこ。『若返りの妙薬』だって。なんだそりゃ」
「若返る、のかしらね?」
あまりにもフワッとした情報だ。その上、女の人たちはもう別な話題について話しているようで、それ以上のことは分かりそうもない。パンフレットにはそんなこと書いてなかった気がするけど。
「ためしに探してみよっか! 面白そうだし!」
「ええ、そうね……折角行くんだもの」
旅の楽しみがひとつ増えた。そんなことを考えていると、車内にアナウンスが流れ始める。
『まもなく終点『黒羊村』、終点『黒羊村』です』
『お降りの方はドア付近までお進みください。どなた様も、落とし物お忘れ物ございませんよう、ご注意ください』
『本日もご利用くださいまして、ありがとうございました』
しばらくして、電車のブレーキ音が響き、止まる。
「じゃ、行こっか!」
「そうね」
宿泊用の荷物を持ち、あたしたちは電車を降りた。
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車外は体が縮こまるくらいには寒い。体感、あたしたちの地元よりも5、6℃、いや、それよりももっと寒い気がした。少し急ぎ足で駅舎に入る。建物も電車と同じような木造で、瓦屋根な和風建築。大正ロマンだっけ。まるで、タイムスリップしたかのような情緒ある駅舎だった。さらに、駅員さんに送られてきたチケットを見せ、駅舎を出る。すると、目の前には、
「おー! The温泉街だぁ!」
雪が降り積もった道。温泉がわき出しているのか道の排水溝から上がる湯気。道の両脇に軒を連ねる温泉街の特産品を扱うお土産屋や飲食店。『蒸したて温泉饅頭』というのぼり。浴衣の上から羽織を着て歩く人もちらほらと見える。
「本当ね。ほら、さち。温泉饅頭なんかもあるみたいよ」
「温泉まんじゅう! いいなぁ、いいなぁ」
キョロキョロと辺りを見回しながら、思い出す。送迎車は駅前に来るはず。お迎えの時間まではまだある。たしか温泉街にはコインロッカーもあるらしいし。
「ねぇねぇ、ゆいこ! まだチェックインには早いし、少し散策してみない?」
「そうね、せっかく来たんだもの。荷物をロッカーに預けて散策しましょうか」
「やったぁ!」
幸いなことに空いているコインロッカーはすぐに見つかった。近くには温泉街の案内マップもあり、それを見ながらゆいこと相談することにする。
「お土産物屋にガラス工芸の店、酒蔵。本当に色々あるわね」
「ここにはないけど、射的とか金魚すくいもあるみたいだよ?」
「ああ、雪像祭りが明日だからかしら」
「あ、なるほど」
マップをじっくり見ると、温泉まんじゅうとかおかきとかの食べ歩きもできそうだけど、如何せん寒い。となれば、たしか……あ、あった!
「ゆいこ、ここ! 足湯カフェだって! そういえばクーポンもらってたよね」
「たしかに貰ってたわね。足だけでもあったまるならちょうど良さそうだし、そこに行ってみる?」
「いこいこ! せっかく温泉に来たんだもん!」
あたしはそのままゆいこの手を引く。あたしよりも冷えたゆいこの手に息を吐きかけながら、あたしたちは足湯カフェへと向かった。
思ったよりも近い場所に足湯カフェはあった。外観は瓦屋根の和風建築で、入口には石畳が続いていた。そこを歩いていると、途中鹿威しがカッコーンといい音を立てた。店員さんに案内されて店内へと入ると、なんとびっくり! 席全てに足湯が付いている。名前の通りのカフェだ。案内された席は窓際の席で、少し寒いけど。
「よっと」
スカートを膝辺りまで上げてから、席に座る。瞬間、足を包む圧倒的な幸福感。寒さでむくんだ足の血行が良くなり、強ばりが取れスッキリとした気分になれた。さらに、窓の外は雪景色。
「いやぁ、足湯に浸かりながらかふぇとは……風流ですなぁ」
「ふふっ、風流ね」
さてはて、足湯満喫モードは一旦置いといて、カフェモードに入ろう。テーブルに置いてあったメニューを開いた。メニュー自体は多くはない。アップルパイ、おしるこ、いそべ餅、フォンダンショコラ。和洋折衷なフードとお茶や抹茶を中心にしたドリンクがあった。少し悩んだ後、ゆいこが口を開く。
「いそべ餅と抹茶が気になるわね……さちは?」
「アップルパイと抹茶ラテかなぁ。抹茶も気になるから……ゆいこの一口ちょーだい?」
「ええ、もちろん。さちの抹茶ラテも一口くれる?」
「もちろん!」
恒例となったシェアの約束も交わし、店員さんへ注文を伝える。周りを見ると、既に座っているお客さんの注文は届いているみたいで、きっとすぐにあたしたちのものも運ばれてくるだろう。
それにしても、
「……うーむ」
「どうかした、さち? なにか難しい顔してるけど」
「いやぁ、なんか食べてばっかりだなぁと思いまして」
この後、食べ歩きはしないだろうけど、旅館でも豪華な夕食が出るらしい。駅弁にこれ、そして、夕食。あとまぁ、確実に温泉まんじゅうは部屋とかに置いてあるだろうし。
「いいんじゃない、せっかくの旅行なんだし。さちのお母さんもお小遣いくれたんでしょう?」
「まぁ、それは問題じゃなくてね? ほら……」
あたしはそう言って、少しお腹をつまむ。つまめてしまうのだ。
「…………いやぁ、冬はこんな調子でして」
うちのテニス部はそこまで強豪じゃないから、冬は部活自体がなくなることも多い。先輩たちもテニスを楽しむのを大事にしてるからね。だから、必然的に冬は運動量が落ちる。けど、社幸華、育ち盛りで食べ盛り。なので、『こう』なっていた。
「?」
だが、ゆいこは首を傾げる。まぁ、そりゃあ、ゆいこさんは余計なお肉がつかないから分からないでしょうけど! そんな風に呟くと、ゆいこはこう答えた。
「やわらかいさちも好きよ? 抱き締めた時に、とっても抱き心地いいもの」
「うっ……///」
深い意味がないのは分かってる。けれど、邪推しちゃいますよ?
「ああ、それに今日は気にしなくてもいいわ」
「え?」
「だってーー」
「ーーこの後……『運動』するでしょう♡」
「~~~~ッ///」
小声で、耳元で。ゆいこはそう言った。慌てて離れ、彼女の顔を見ると、その表情はいやに艶っぽくて。
「な、な、な……ッ///」
「……しないの?」
「……………………します……///」
「ふふっ♡」
や、やめて。心臓もたないから……。
そんなやり取りをしていると、店員さんが飲み物を運んできてくれた。これ幸いと、あたしは少しトーンを上げて、お礼を言い、受け取る。
「ゆ、ゆいこ! みてみて、ラテアートだよっ」
強引に話を反らす。まぁ、抹茶ラテには事実、羊のキャラクターのラテアートがしてあった。ゆいこも勘弁してくれたようで、そのラテアートを覗き込んで見ていた。
「村の名前にもなってるよね、ゆるキャラ的なやつだねきっと」
「お土産屋さんに行ったら、キーホルダーが売ってるかもしれないわね。あとで買ってみる」
「う、うん。キーホルダーはいくらあってもいいからね」
よし、どうにか話は反らせた。一安心して、今度はゆいこが注文した抹茶を覗き込む。黒塗りの綺麗な椀に入っているそれは、見るからに濃厚で、深い香りが漂っていた。
「ゆいこの方は……おお、なかなか本格的だ」
「ええ、香りも……うん、とてもいいわ」
「よし、じゃあ、いただこう!」
「いただきましょう」
カップに口をつけ、飲む。とってもあったかい。そして、抹茶の苦みと牛乳のまろやかさが絶妙に混ざり合ってる。おいしい。
「どう?」
「うん、おいしい! ゆいこは?」
「……見た目も香りも本格的だし、味も本格的よ。はい、どうぞ」
「ありがと! こっちもどうぞ~」
互いのカップを交換し、ゆいこが先に一口飲んだ。あたしと同じようにほっと息を吐き、おいしいと笑う。それを見たあたしも同じく一口。抹茶の深い味わいが口いっぱいに広がる。うん、おいしいおいしいんだけど。
「…………思ったよりも苦いね」
「そうかしら」
「う、うん……ふぅ……やっぱりこれだぁ」
「ふふっ」
自分の抹茶ラテを飲んで落ち着くあたしに笑みを向けるゆいこ。彼女も抹茶を飲んで、ラテを飲んでからだと確かに苦いわね、と余裕の表情である。
「うーむ、ゆいこは苦いのも飲めるんだから、大人舌だよねぇ」
「そう? さちが子ども舌なんじゃないかしら…………そういうところも可愛いけれど」
「なんだとぉぉ、そんなこというゆいこにはこうだぁ!」
こちょこちょと、ゆいこの脇腹をくすぐる。
「きゃっ! ふふ、やめてさち、くすぐったい! ごめんっ、ごめんってば」
「謝っても許さないぞぉぉ!」
もちろん怒っているわけではない。イチャイチャする口実なのである!
「こほんっ、お待たせいたしました」
「「!」」
気づけば、テーブルの側に店員さんが立っていた。手に持つお盆には、あたしたちが注文したアップルパイといそべ餅が乗っていて。
「あ、ありがとうございますっ」
「……ありがとうございます」
「ごゆっくり」
店員さんの生暖かい視線を受け、真っ赤になるあたしたち。
「あはは……やりすぎたね……」
「……そ、そうね」
続きは2人っきりになってからするとして、というゆいこの呟きで、あたしは体をビクッと震わせる。なんてことを言うんだ、この恋人は。
「今は食べましょうか」
「う、うんっ///」
動揺するあたしとは対照的に、ゆいこは少し赤みは残っているけれど、既に落ち着いた様子。くそぅ、なんか最近ゆいこに攻められっぱなしだぜぇ///
いつまでもそうしてられない。あたしはブンブンと首を振って、煩悩と動揺を追い出し、改めて料理と対峙する。と、その前に!
「ゆいこのすごいなぁ」
ゆいこが頼んだのはいそべ餅。イメージとしては、スーパーで売ってる海苔のついた串のやつ、だったんだけど、どうやら様子が全然違う。
「自分で焼くんだね!」
「そうね。私も予想外」
ゆいこの目の前には小さな七輪。もうすでに火が灯されていて、その隣にお餅とお醤油と海苔が置かれてる。
「自分で焼く仕組みだなんてすごいわね。焼きたてが食べられるなんて、すごい贅沢」
そう言って、ゆいこは網の上にお餅を乗せた。
「少しかかるでしょうし、さち、お先にどうぞ。あったかいうちに、ね」
「はーい、ありがと! それじゃあ、いただきます!」
こんがりと焼きあげられた温かいアップルパイにバニラアイスが添えられていて、一口食べると甘酸っぱく煮込まれたりんごのジューシーな味わいとパイ生地のサクサク感との相性が抜群だった。そこにアイスクリームの追撃で、とろけるような甘さが口の中にふわっと広がる。
「ん~っ! パイ生地サクサクだし、バニラアイスと合う~!」
「ふふっ、それはよかった」
「っと、はい、ゆいこ、あーん」
「あーん……ん、おいしい」
「えへへぇ、それはよかった」
お餅が焼けるのを待つゆいこにアップルパイをあーんする。にこにことするゆいこを見ると、あたしも笑顔になるなぁ。
「えへへ、お餅焼けたら、あたしにもちょーだい?」
「ええ、もちろん…………っと、ちょうどいい感じね」
ぷくーっと膨れる直前に、ゆいこはお餅を箸でとり、醤油に軽くつけて海苔を巻く。そのまま小さなお口で一口。瞬間、顔がほころぶ。その表情だけで焼き加減が上出来だって分かった。
「さち……あーん」
一口大にしてくれたお餅をぱくり。
「んーっ! 焼き立て、おいしー!!」
「そうね。炭の香りが良いアクセントになって、すごく美味しい……!!」
にこにこ。笑顔が溢れる。温泉で足から、あったかい飲み物と料理でお腹からあったまって、最高の一時を過ごせたあたしたちであった。
足湯カフェから出る。ちょうど送迎が来る時間になる。あたしたちはロッカーから荷物を取り出し、駅前へと戻るために歩く。
「旅館、どんなところか楽しみね」
「うん! あー、楽しみだぁぁ!!」
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