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「…………んっ、ふわぁぁ……」
窓から差し込む光と心地いい鳥の声で目が覚める。寒さは感じるけれど、高級なお布団特有の保温力なのか、お布団の中はあたたかい。いや、それだけじゃないか。
「ん……すぅ……すぅ……」
あたしの腕の中で、ゆいこは可愛い寝息をたてていた。ゆいこは元々そこまで体力はない。昨日たくさん遊んで疲れているのだろう。ぐっすりと眠ってる。
「……えい」
「ん、んん……」
なんとなく目についたやわらかそうなほっぺたを軽くつついても起きる気配はなかった。ふむ?
「………………どこまでいけるかな」
ムラムラと悪戯心が芽生えてくる。あたしは静かに両手を動かし、ゆいこのほっぺたをむにっとはさむ。
「……ん……」
「……まだいける」
今度はゆいこの頭を軽く撫でる。さらさらしたゆいこの黒髪が手に気持ちいい。あたしはちょっとクセっ毛だから羨ましいなぁ。少し撫で続けても、ゆいこは起きない。相当に眠りが深いようだ。
「………………ふむ」
あたしはおもむろに、寝ている間に軽く乱れた浴衣の中に手をーー
「……さ、ち?」
「っ」
その声に心臓が跳ねた。なんて残念なタイミング!? ゆいこはあたしの名前を呼びながら、目を擦っていた。
「お、おはよ、ゆいこ」
「……おはよ、さち」
いつもより少し甘い声色。ちょっと崩れた髪型。ものすごーくかわいいし、なにより色気がすごい。なんか……ドキドキしてきたなぁ。
「さち……ぎゅっして」
「!?!?」
「はやく」
「~~~~っ、ん!」
眠りから覚めたお姫様のご要望にお応えするあたし。心臓の鼓動が早くなる。伝わってないといいけど……。
「……あったかいわ」
「そ、それはよかった」
あたしたちはお布団の中でしばらくそうしていた。ドキドキして落ち着かない、でも、落ち着く時間を過ごしたのだった。
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幸いなことにチェックアウトはお昼頃だから、まだまだ時間はある。2時間ほどかけて覚醒したゆいこの提案で、あたしたちは朝風呂に行くことにした。個室露天風呂もよかったけど、流石に冬の朝に外に出る気にはなれず、大浴場へと足を運んだ。
脱衣所には、昨日(実際は日付は変わっていたけど)と比べると、人は多い。イチャイチャは控えめに、2人で冬の朝の冷えきった空気の中で温泉に浸かっていた。実に平和な朝のはずが……。
「な、なんだか混んできたわね……?」
「だね。あたしたちと同じ考えの人が多い……わっ!?」
露天風呂に入ってきた子供にどんっとぶつかられ、よろける。予想外のことでバランスが崩れ、ゆいこを巻き込み倒れてしまった。しかも、
「いったた、ゆいこ、大丈……夫…………わ!?!? ごごごご、ごめんっ///」
「……/// き、気にしないで」
ゆいこを押し倒すような体勢である。すぐに退けるけど、それでも脳裏に刻まれるゆいこの素肌。夜に見るのとは趣が違ってまたーーー。
「さち?」
「っ、あ、あはは……寝ぼけて力が入ってなかったねっ/// ごめんごめんっ」
「ま、まあ、こういうこともあるわよね///」
ゆいこに手を差しのべ、引っ張り起こす。その後はなんとなーくお互い目を合わせるのが少し照れくさくて、
無言で部屋へと戻った。そして、
「………………ちらっ///」
部屋に戻り、髪を整えているゆいこを傍目で見る。うーむ、ゆいこから醸し出されるこの色気、なんだろうなぁ。
「…………さち? そんなに見て、どうかした?」
「へっ!? あ、い、いやぁ/// そ、その、なんだぁ……」
彼女の横顔を盗み見していたことに気づかれた恥ずかしさから、あたしはモゴモゴと口ごもる。そわそわと落ち着かない。指を合わせたり、離したり。
「…………っ/// そ、そのさ、ゆいこ……?」
「…………」
「ゆいこ?」
座卓に座っていたゆいこは、不意に移動する。そして、お布団の上で、あたしの名前を呼んだ。
「………………ね、さち」
「あ、う、うん」
「私、さちを『可愛がりたい』のだけど…………いいかしら?」
「あ、あう……は、はい……///」
艶っぽく微笑むゆいこに、あたしは頷くことしかできなかった。
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窓を開けると、そこからビューっと冷たい空気が部屋内へと流れ込んでくる。朝風呂に入ったとはいえ、また汗を少しかいてしまったあたしには、その風は堪えた。
「うぅぅ、寒い……」
「そうね。でも、流石に換気はしないといけないわよ?」
「うぅ、誰のせいで……」
「…………イヤ、だった?」
「ぐぬっ…………イヤ、じゃ、ないけどさぁ///」
赤くなっているであろうあたしに、ゆいこは微笑みを返してくる。そのまま涼しい顔で、部屋の電話で朝食をお願いしているようだった。
しばらくして、部屋にやってきた従業員の人たちが食事の用意をしてくれる。ご飯はおひつに入ってて、テーブルにはおかずが並んでいく。どれもいい香りがして、空腹感を強く感じた。
「ご飯にお味噌汁、それからアジの干物。うーん、和食な朝ごはん、いいねぇ」
「そうね。温泉卵もあるし、ご飯が進むわ」
それに加えて納豆にお漬け物、小松菜のおひたしと白米が止まらなくなるラインナップだ。湯豆腐や茶碗蒸しもあり、とってもいい朝食になった。
「おなかいっぱい……」
「私もよ。けど、もう少ししたらチェックアウトだし……準備もしなきゃね」
「うーむ、ゆいこの浴衣姿も見納めと思うと、ちょっと惜しいなぁ……」
「…………私も、さちの可愛い浴衣姿、もっと見ていたいわ」
「えへへぇ」「ふふっ」
2人、そんな風に笑い合い、穏やかな朝が過ぎていった。
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チェックアウトの時間ということで、2人でロビーへと向かうと、なにやら慌ただしい。『雪像祭り』と書かれた半纏を着た人たちがわらわらといた。顔を見合せ首を捻っていると、そのうちの1人のおじさんと目が合う。そして、
「急にすみません……! もしよかったら、雪像作り手伝ってもらえませんか!?」
「へ?」
あまりにも急にそんなことを言われたものだから、固まってしまう。かなり切羽詰まっているみたいで、そのおじさんはこちらの様子に気付かず続ける。
「実は、雪像祭りで雪像を作る予定だった小学校の生徒たちが、インフルエンザにかかってしまって、作る雪像が一個足りなくなってしまったんです……。お願いです! どんな出来でも、文句は言いませんから! 人助けだと思って!」
そう言って、拝み倒してくるおじさん。
「それは大変……だけど、なんであたしたちに??」
「そうよね……他に頼める人がいそうだけれど」
「あいにく他は、すべて持ち場が決まってて。小さい村ですし、村総出でやってるんですよ」
ふーむ、それで観光客のあたしたちに、かぁ。まぁ、この後、雪像祭は見ようと思ってたし、なんなら電車で帰るのも夜の予定だったし。
「どする、ゆいこ? あたし的には全然やってみてもいいなぁって思ってるけど」
「さちが良いなら良いけど、……ただ私、雪像なんて作ったことないわよ?」
確かに。もちろん、あたしも作ったことはないもんね。そんな疑問には、
「小学生でも作れるんで大丈夫です! ブースに何もないのがまずいので、何か作っていただければ結構ですから!」
それなら大丈夫そう、かな。一応どんなものを作った方がいいのか訊ねると、おじさんはどんなものでもいいと答えた。
「まぁ、いいや! そこまで言うなら! ゆいこ、やってみよっか!」
「ええ、そうね。やってみましょうか」
「あ、ありがとうございます……!」
おじさんがあたしたちが参加することを伝えると、他の村人の人たちもやってきて、拝み倒す勢いで感謝を伝えてくれる。
「じゃあ、よろしくお願いします! 防寒具や道具は勿論こちらで用意しますので! お好きな時間にお越しください!」
そんな風に言っておじさんたちは去っていった。嵐のような出来事だったけど、こんなお祭りの場で雪像を作る機会なんてないだろうし、うん、楽しもっ!
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すぐに雪像を作りに行ってもよかったけど、なんだか雪像作りを手伝うお礼として、荷物をギリギリまで旅館に置いておいていいことになったあたしたちは、温泉街に散策に来ていた。
「昨日は足湯カフェだけしか回らなかったし、ちょうどよかったわね」
「そうだねぇ。どこ行こっかなぁ」
「そうね……」
旅館で貰った黒羊村のマップに目を通しながら歩く。ふと右手にとあるお店が目に入った。ガラス工芸品のお店みたい。『とんぼ玉作り体験!』と書かれたのぼりが目立ってた。外から覗いてみると様々なガラス製品が並んでる。それに奥にはテーブルや椅子が設置された体験コーナーがあるみたい。
「わ、ガラス工芸だって! 入ってみる?」
「ええ、見てみましょうか」
2人、店へと入る。同時に、いらっしゃいませと若い女の人の声がお店の奥から聞こえた。
「綺麗だねぇ……これとかどうやって作ってるんだろ?」
「本当ね、どうやってるのかしら……。とんぼ玉作りの体験ができるみたいだし、やってみる?」
「お! いいね! つくろつくろ!」
店員さんに声をかけると、奥の作業スペースへと案内された。
「火を使う作業なので、髪や服が燃えない様に注意してくださいね! あ、髪の長い方は、ゴムを差し上げますので後ろで結んでください~」
愛想のよい店員さんはにこにことヘアゴムとエプロンを渡されてる。
「よし、髪結んで…………似合う?」
「ええ、かわいいわ」
「えへへぇ」
イチャイチャしながら案内されるまま椅子に座ると、店員さんが様々な色のガラス棒を目の前に並べてくれる。こんなにいろんな色のガラスがあるんだなぁと感心する。
「うーん、何色にしよっかなぁ」
これだけ目の前にあると悩んじゃうよねぇ。そんな風にゆいこに聞くと、どうやらゆいこは既に決めているみたい。黒と赤を使うと答える。
「中々シックだなぁ」
「そう? 金魚とかをイメージすれば、綺麗に出来上がりそうじゃない?」
「なるほどぉ? そういうイメージがすぐに出てくるんだからすごいなぁ。じゃあ、あたしは青と白にしよっかな。ゆいこの反対の色で!」
それぞれ店員さんに色を伝えると、机の上のバーナーの火をつけた。ぼぅっと青い炎が上がり、顔周りが熱くなってくる。
「すごく熱いので炎には触らないように注意してくださいね。今、ガラス持ってきますから」
店員さんはそう言うと、一瞬だけバックヤードに戻り、ガラスの棒を持ってきてくれる。
「まずは、ガラス棒を近づけて線香花火の先みたいに丸く溶かしてください。垂れない様にくるくる回しながら溶かしてくださいね!」
言われた通り、そっとガラス棒をバーナーに近づけると、ガラス棒の先から赤い炎が上がった。そのまま、店員さんの指示に従って、くるくる回していると徐々に飴みたいにガラスが溶け始める。
「なるほど。ガラスってこうやって溶けるのね」
「わわわ!? お、思ったより難しい!?」
一気に火に近づけ過ぎたのか、垂れそうなほどガラスが溶けてしまう。慌ててやってきた店員さんに手伝ってもらって、どうにか垂れずにすんだ。
「うん、こんな感じかしら」
「っと、ありがとうございます、店員さん…………ふぅ、なんとか形に……って、ゆいこ、上手……!?」
店員さんにお礼を告げて、ふと隣を見ると、ゆいこの方はガラスの先が大きくなって、線香花火の先みたいにぷっくりと丸く仕上がった。
「ふふ。こういうのは、私の方が得意なのかもしれないわね」
「むぅ、段々ゆいこが器用になってく! よよよ、あんなに不器用さんだったのに……」
ちょっとおどけて泣いたフリ。きっとゆいこは少しむきになって、膨れるだろう。そんな悪戯心だったんだけど。
「……私が器用になったとしたら、誰かさんのお陰よ?」
「……………………えっち///」
「…………嫌いじゃないくせに」
「ひゃっ/// うぅぅぅぅ///」
耳元で囁かれ、ゾクゾクしてしまう。あーっ、もう!! なんでこんなにあたし弱くなっちゃったんだ!? あたしの方が最初はリードしてたはずなのに!?
「あの……進めてもいいですか?」
「「あ、すみません///」」
「いえいえ。仲良しでうらやましいです」
バッチリ目撃され、ほほえましく見守られていたあたしたちは謝るしかなかった。
「では、溶けたガラスをこちらの鉄芯に巻き付けてください。丸くなるように均等に巻き付けてみてくださいね」
慣れているのかなんなのか、店員さんはその後の行程をキビキビと説明してくれる。あたしたちも気を取り直して、説明にある通りに手元にある鉄芯を手に持ち、バーナーの火の中で溶けたガラスを巻き付けていく作業に入る。
「ぐぬぬ、今度こそ!」
意気込んで、でも丁寧に巻き付けていく。すると、ガラスはくるくると回した鉄芯に巻き付いて、綺麗な球になってくれた。
「おお!」
「うん、上出来ね」
「あら、お二人とも綺麗に出来ましたね! では、ここから少しガラスを冷まさなきゃいけません。その間に何にするか決めましょうか」
そう言うと、店員さんは様々な紐や金具を出してくれた。着物の帯に付けられる組み紐を使った根付や、鍵やスマホに取り付けられるストラップ型。簪の先に付けたり、シンプルなネックレスやブレスレッドにも出来るらしい。
「ストラップがいいかも! こういう2人の思い出の品は何個あってもいいもんね!」
「ええ。思い出もできて一石二鳥だし」
「よーし、じゃ、ストラップにしよ!」
2人、頷き合って、ストラップの金具を手に取った。
「決まりましたか! では、ガラスも冷めましたので、選んでいただいたものに付けてもらって……完成です!」
手渡されたトンボ玉は、思っていた通りの色に出来上がっていて、自分で選んだ形に加工したものは、まるでお店に並んでいる商品のようによく出来てた。トンボ玉を日にかざす。ガラスに乗った2色がトンボ玉を通して、光を色づけてくれる。
「えへへぇ、いいね。かわいい!」
「本当。かわいいわね」
また一つ。素敵な思い出の品ができたのだった。
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温泉街をさらに歩くと、お土産物屋さんを見つける。結構大きなお店みたいで、他の観光客の人たちもまぁまぁいた。大人数用のお土産や民芸品など、湯呑やぬいぐるみ、キーホルダーなど、温泉地に来たんだなぁというお土産物が並び、どれにするか迷っちゃう。いつもならキーホルダーを買うところだけど、トンボ玉のストラップもあるし、今回は止めておこう。
「ゆいこはなに買う?」
隣のゆいこに訊ねると、どうしようかしらと顎に手を当てていた。
「一応、あたしは家族にはお菓子でも買ってこうかなって思ってるけど」
「そうね、私も家族に買っていこうかしら。この……ラスクとかおいしそうだし」
「んー、じゃあ、あたしはタルトかなー!」
ゆいこは地元の牛乳をふんだんに使ったと謳ってる1箱20個入りの黒羊ラスクを、あたしはチョコ、カスタード、イチゴ味が入った10個入りの温泉タルトを買い物かごに入れた。お父さんとお母さんにはこれでいいとして……あとは、うーん。
「んー、クラスとか部活の友達にも買おうかと思うんだけどさぁ」
「……人数が多いのなら饅頭とか良いんじゃないかしら?」
ラスクと温泉饅頭を両手に悩むあたし。ゆいこの言う通り、無難に温泉饅頭にすればいい。それは分かってる。問題はお土産の中身というよりは……。
「いや、あのね……? なんか皆にゆいこと付き合ってるのバレバレみたいでさぁ……そのぉ、恋人と温泉に一泊二日したとか言ったら……ネホリハホリキカレソウデ……///」
何故かここ数ヶ月であたしたちが付き合っているのが急速に広まった。クラスや部活の友達はもちろん、風紀委員の人たちにもバレているようで。この間、風紀委員長さんからは直々に、校内での振る舞いを気を付けるように言われちゃったしね。だから、ふたりきりで温泉旅行に行ったなんてバレたら……。
「…………/// そ、そ、そうね……まあでも……今更、だし……?」
「ま、まぁ、それはそうなんだけどね」
それでも躊躇はするよねって話である。それでも買わないのは薄情だし、買いはしていこう。根掘り葉掘り聞かれそうになったら……うん、逃げよ。
「あとは…………入浴剤買おっかな……」
「……入浴剤使って二人で入るのも、悪くないものね?」
「うん/// ゆいこ……ちなみに、来週末さ、うち、親いないんだけど……泊まる? その時に使ってごにょごにょとか……///」
「…………うん、泊まる///」
「……うん///」
「「……………///」」
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お土産を預け、『雪像祭り』の会場へやってきたあたしたち。貸し出してくれたダウンやマフラー、手袋と耳当てまで付けた完全防備で担当する雪像ブースにやってきた。担当者の人曰く、ブース自体は広いけど、小さな雪像でも構わないみたい。
「うーん、なに作ろっかなぁ?」
「そうね……こういうときって何作るのが良いのかしら? 無難に雪だるまとか……?」
「うーむ、それでもいいけど、芸はないよねぇ? どうせなら、あたしたちらしいもの…………あっ、ジンベイザメとか?」
「うん、いいわね。それにしましょうか」
駄目で元々だしと、スマホでジンベイザメの画像を見ながら、なんとなーく設計図を作っていく。意外なことに、というか、本当にこういう製作系は得意なのか、ゆいこがすらすらと描いていく。あたしもそれをサポートして、素人が作ったとは思えない設計図を描くことができた。
「よし、じゃあ、作ろう!」
「ええ」
雪を集め、積み上げる。さらに、雪を集めて積み上げる。その繰り返しで、想像以上に腕にくる。ある程度量が集まったら、あとは表面を削り、形作っていく。やがて、ゆいこと協力して、ジンベイザメが出来上がった。少し歪だが、初めてにしては上出来! 用意してもらっていた電飾で飾れば粗も見えなくなった。
「っ、は~~~~~~っ、疲れたぁぁ」
「ほ、ほんとね。腕、プルプルしてる……」
「でも、うん。初めてにしてはいい感じだね!!」
「そうね、結構いい感じにできたわね!」
座り込んだまま、2人、目の前のジンベイザメの雪像を見上げる。それを見ていたら、ふと思い出す。あの日の記憶。あたしがゆいこと結ばれた記憶。あれからもう半年。あの頃は、あたしも自分の気持ちを自覚してなくて、ゆいこは自分の気持ちを押し殺していたんだっけ。それでもやもやしていた、と。
「ホントにゆいこ、器用になったなぁ」
もちろん、まだ不器用なところもある。でも、ちゃんと素直に気持ちを伝えてくれるようになった。まぁ、あたしが鈍感なせいでだいぶ苦労かけてるのは自覚してるさ。物思いに耽っていると、ゆいこが不意に耳元に顔を寄せてきた。そして、告げる。
「……私がもっと器用になれるよう、さちにはがんばって貰わないとね?」
そ、そういう意味の『器用』じゃないんですけど!? もう、まったく、ゆいこはぁぁ/// こ、これはちゃんと抗議の声をあげなきゃ!
「次の週末、いつもよりずーっと『よく』してあげるわね」
「は、はい///」
それから、スタッフさんにお礼を言われ、雪の結晶のキーホルダーを貰ったり、会場を2人で手を繋ぎながら見て回ったりして、あたしたちは旅の終わり『雪像祭り』を楽しんだのだった。
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旅館に預けた荷物を再度受け取り、温泉街の入り口に差し掛かると、旅行中に訪れた懐かしい景色が脳裏に浮かんだ。川沿いに並ぶ土産物店や飲食店、風情ある旅館の建物、どれもが趣きがあって思わず帰るのが嫌になる。けれど、そろそろ旅行の時間は終わりだ。
帰りの電車の中でも、温泉旅行での思い出話に花を咲いた。足湯カフェ、お部屋についてた露天風呂。美味しい食事や一緒にやった卓球に、種類がいっぱいあった大浴場。そして、今日もトンボ玉を一緒に作ったり、お土産を買ったり。雪像を作るなんて経験はきっともうできないだろうなぁ、なんて考える。とても心地よく楽しい時間だった。
「ねーねー、ゆいこ」
「なぁに、さち」
「温泉、楽しかったねぇ」
「そうね、すごく楽しかったわね」
「えへへぇ、また一緒にお出掛けしようね」
「もちろん。さちとお出かけできるのなら、どんなところでも楽しいでしょうから」
繋いでいた手を互いにきゅっと握る。それから、ガタンゴトンと電車に揺られながら、話す。
次はどこに行って、何を見ようか。きっと次のデートも最高な思い出になるとそう信じて。
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