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手を繋いだまま、深海エリアへと足を踏み入れたあたしとゆいこ。照明は極限まで絞られていて、ライトアップされた水槽の明かりだけを頼りに奥へと進んでいくことになるみたい。暗いせいもあって、水槽の中は見にくい。それでも目を凝らしてみると、少しグロテスクな魚がいた。
「……うわぁ、結構こわいねぇ」
「………………」
「? ゆいこ?」
返事がないゆいこの方を振り返ると、ゆいこはどこか虚空を見つめていた。様子が、変?
「ゆいこ? どうかしたの?」
「…………何か、歌が…………」
そのままゆいこはフラフラと覚束ない足取りで進んでいく。
「わ、わわ!? ストップ! こういうときの歌ってろくなことにならないからっ!」
慌ててゆいこの手を取る。だけど、いつものゆいこからは想像もつかないような力強さで。ぐぬぬぬぬと引き留めながらも、一瞬、あたしの意識が一番大きな水槽に吸い寄せられた。
ちら、と何かが過る。視線をその水槽の中へ滑らせれば、粘着質な巻きヒゲがあった。体を大小に変形させながら水の中をたゆたっている。クラゲみたいだ。そう思った次の瞬間には、体の一部がまるで瞼のようにぱくりと裂け、そこからぎょろりとした眼球がこちらを見つめていた。その下が再び大きく裂ける。その隙間からは、にやつくような巨大でおぞましい口が覗いていた。
「あれ、は……っ!?」
「歌……」
「っ」
ゆいこの指摘がなくても気づく。歌だ。歌が聞こえる。それは甘く、まるであたしたちを歓迎しているような響き。讃美歌のように耳に甘くこびりついて、ぐわんぐわんと頭の中で大きく、大きく、反響していく。頭が、痛い。割れそうなほどの強烈な痛みに、あたしは意識は遠くなっていった。
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目が、覚めた。
ぼんやりとした視界でも分かる。最後にいた深海魚エリアではなくて、薄暗く、やや埃っぽい部屋だ。きゅっと手を握れば、そこにはゆいこの手がちゃんとある。重い頭をそちらへ向ければ、ゆいこは眠っていた。重なり合ったまま眠っていたみたい。
「ゆい、こ……ゆいこ……」
「ん……さち? ここは……?」
「分かんないけど、なんともはない、かな」
「私も……」
「というか、暗いわね。何処かに照明のスイッチあるかしら……?」
「そう、だね」
2人でゆっくりと起き上がる。それから転ばないように、壁沿いによろよろと歩くと……あった。それはすぐに見つかる。カチリとスイッチを押した。
「……んっ」
薄暗いところから一気に明るくなったことで、一瞬目をつぶるけど、それもすぐに慣れた。目を開けると、見えた風景はあまりにも休憩室とは程遠い部屋だった。
なんといえばいいのかな。とにかく、白い。それは壁や天井や家具が、ということじゃなくて、壁に並んでいるもの全てが、という意味で。
「ド、ドレス……?」
フリルのたっぷりついた白いドレス、シンプルだがラインが美しいドレス、ドレス、ドレス、それからその反対側にはモカ、ホワイト、ブラック、グレーのタキシードがグラデーションになるように何着も並んでいた。
「……なんか、あれみたいだね」
「花嫁・花婿様専用ルーム……?」
「そうそう。結婚式場みたい!」
「あ、ううん。ここに、ほら」
どうやら、ゆいこはあたしに答えたわけではなく、ドアの横に貼りつけられていた小さなプレートを呼んだみたい。確かにそこには『●●水族館花嫁・花婿様専用ルーム』と書かれていた。それに、フィッティングは係員がお手伝いいたします、とも。そこで不意に思い出す。
「あ、そういえば、バイトを紹介してくれた人が、少し前まで水族館ウェディングやってたって言ってたかも」
「ふぅん。水族館ウェディング、ね」
「そうそう。それでさ、ほら、ちょっと前に、病気が大流行して自宅待機期間が続いたでしょ? その間に予約キャンセルが多くなったから取りやめたって言ってたけど……」
「それ関連の、ってことかしら」
「たぶん? 最初は挙式もやってたんだけど、途中からフォトウェディングだけにしたって聞いたよ」
「……そう」
あたしの説明を聞き、ゆいこは少し落ち着いたのか、キョロキョロと辺りを見渡す。
「そうだったの……とりあえず、危険な場所ではなさそうね」
「う、うん。でも、どうしよっか」
「深海エリアからは、きっと誰かが運んでくれたのだと思うし……その人が来るまで、待ってみるのはどうかしら?」
「うん、そうだね」
同意しない理由もないし。
とりあえず調べてみよう。そう思って、あたしはまず自分の体を確認する。以上は、なし。それから持ち物はどうかと調べてみれば、こちらも特になくなったものもなさそう。
「あ」
「どうしたの、さち」
「いや、スマホで時間みたんだけどさ」
「……まさかの深夜ね」
あたしたちのスマホが壊れてなければ、時刻は午前2時45分。深夜も深夜、ド深夜だ。その上、圏外だから他に連絡を取る手段もない。
「え、なんだろ? 運んでもらったはいいけど、忘れられちゃった、とかかな?」
「かもしれないわね。ここが水族館のどの辺りにあるのか分かる資料とかないかしら? こんな時間に誰か来るとは思えないし、自分たちで外に出ないと」
「だよね。とりあえず扉はあるし、出てみる? まぁ、警備はされてるだろうし、セコム的なのは来ちゃうかもだけど」
「警備会社の人が来たら……事情を離せば許してくれそうな気はするけれど……」
「……それはとりあえず最終手段かな」
「ええ、どうしようもなくなったら、そうしましょ」
さて、少し情報はあった。他に情報は、と考える前に、あたしの頭によぎる不安なこと。
「無断外泊……かぁ」
「……事情が事情だし、大丈夫じゃないかしら。うちはたぶん大丈夫。さちと一緒にいたって言えば、許してくれるわね。呆れられるだろうけれど」
そう言って、ゆいこは苦笑する。まぁ、ゆいこの家はそうだろうなぁ。問題は我が社家である。
「無断外泊はしばかれる……」
「お義母さん、そういうところは厳しいものね」
「はぁぁ、そうなんだよなぁ」
「でも、この間の温泉旅行とか、あとは悪夢を見て、家に来た時も、お許しは出たんでしょう? なら、今回もそうならないかしら」
「…………五分かなぁ。ゆいこ、あとで口添えしてね」
「それはいいけれど」
我がママは、それこそ理解はある。ゆいことの交際も快くオーケーしてたし。『無断で』泊まるのはNGってだけ。
まぁ、ゆいこが言ってくれればどうにかなるか。なんだかんだママはゆいこに甘いし。
「とりあえず、ここから出ないとね」
「あ、うん」
たしかにゆいこの言う通りで、まずはここから出なくては。試しにと手をかけた扉は残念ながら開かなかった。あとはとゆいこに倣い、視線を向ける。近くにあった木目調の机の上には、1枚のメモ書きがあった。
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わが女王にふさわしい催しを。もしきょひするのであれば、歌を。あなたたちが従うのであれば、さんびかに変えてやってもいいが、もしきょひするのであればきょうふのせんりつにかわるだろう。
まずはいしょうを選べ。そこにある並んだしゃしんをさんこうに。
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やたらと偉そうな文章だけど、平仮名混じりで文章を書き慣れていないのかなとも感じる。そのわりに、文字そのものは丁寧で、バランスとれた綺麗な字だった。
「……ねぇ、さち? これ、また何か変なことに巻き込まれてる気がしない?」
「気がするっていうか、ほぼ確実に……?」
あたしたちが巻き込まれてきた所謂『不思議現象』。確実にそれに巻き込まれてる。
「これ、『きょひ』したらよくないことが起こりそうだし」
「うん。しかも、音楽の博物館とかとは違って、『きょうふのせんりつ』とか完全にこっちを害するつもりだもんね」
たぶん前の博物館の方が特殊だったんだろうなって、今なら分かる。なんでこうもあたしたちは巻き込まれてしまうのか。ここから無事出れたら、お祓いかもしくはそういうことに詳しい専門家に見てもらうのもいいかもしれない。
「従うしかないよね」
「ええ」
『きょひ』しなければ害はないはず。もちろん、律儀に約束を守ってくれるなら、だけど。
「けど、ここにある『いしょう』ってって……」
「…………調べられるだけ調べてから……ええと」
そこまで言って、あたしとゆいこ、2人の視線がそちらへと吸い寄せられる。
白、白、白。壁一面にかけられている純白の衣装。そりゃあ、憧れないと言ったら嘘になる。なんだったら、この間だって、ゆいことそうなるのを夢想していたし。2人で教会を歩く。バージンロードを歩き、神父さんの待つ壇上で愛を誓い合い、口づけをする。そんな妄想を、そりゃするよね。
だからこそ、ちょっと心の中でストップがかかる。憧れの衣装を、憧れの瞬間を、このまま流れでしてしまっていいのかって。
「『花嫁衣装』……着てみる?」
「……う、うん、そだね」
「「………………///」」
まぁ、それはそれとして、悪い気分ではないのだ。
「こほんっ! や、やっぱり、『いしょう』ってドレスってことだよねぇ」
「そうね。この中からどれか選んで着てこいってことで」
調べてみようと、その中のひとつを手にとってみる。普通のウエディングドレスに見える。変なものがついているわけではなさそう。手触りにも違和感はない。さまざまな形がある。どれも変な構造はしていなさそうだなぁ。
「どれも変なところはなし。ゆいこの方はー?」
「こっちも、おかしなところはなさそうね。着ても問題なさそう、だと思うわ、たぶん」
「だね」
一応、他も確認する。フォトアルバムを見つけることができた。アルバムの中には、何ページにも渡って様々なカップルの晴れ姿が映っていた。背景は、すべてターコイズブルーの水槽で、水族館らしい素敵な写真。
「……素敵ね」
「うん」
「………………」
「………………」
「……ね、ゆいこ。着て、みよっか?」
「そうね、さち。着ましょうか」
2人、顔を見合わせて、微笑みながら頷いた。
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ウェディングドレス。興味はあるけど、もちろんそこまで詳しいわけでもない。それはゆいこも同じみたいで、カタログと現物に目を移しながら、うーんうーんと唸る。定番のプリンセスラインやマーメイドライン。ミニドレスにロングトレーンドレス。本当にたくさんの種類があって悩んでしまう。そんな中で、
「…………あ」
1つのドレスがあたしの目に入った。色はもちろん純白で、ウエストの切り替えからふわっと広がるスカートが特徴的なデザインの、プリンセスラインのドレスだ。名前の通り、まさにお姫様が着ているような綺麗で品のある一着。ふと想像する。あたしが着た姿ではなく、ゆいこが着た姿を。
「うん」
決まりだ。ゆいこに声をかけ、壁にかけられたそれを指差す。
「これ!!!」
「あ……決まったのね。いいじゃない、お姫様みたいで、さちにピッタリだと思う」
「え、あっ、ちがうちがう! ゆいこ、これがいいんじゃないかなって」
「え? わ、私?」
「うん!」
それが予想外だったのか、ゆいこは改めてあたしが選んだドレスをまじまじと見る。
「………………えっと、かわいすぎないかしら、これ」
「は? ゆいこにピッタリだけど? いい? ゆいこはね、お姫様みたい、ううん、お姫様なんだよ!! 品もあってぇ、おしとやかでぇ、なにより超絶かわいい!! 日本一! ううん、世界一! そんなスペシャルかわいいゆいこに似合わなかったら、誰が似合うっていうのさ!! …………は!?」
そこではたと我に返った。ついつい早口で捲し立ててしまったけど、あまりの熱量にもしかしてゆいこ引いてる!? そんな心配はどうやら杞憂だったみたい。
「うぅぅ……褒めすぎよ、さちっ///」
顔はまっかっか。これじゃあ、ドレス着れないなぁってくらい茹でダコなゆいこさんがそこにはいた。どうやら引かれてはないみたい。あとやっぱりかわいいのである。
「ごめんごめん、つい熱が入っちゃったよ」
「……こほんっ! じ、じゃあ、さちにはこのAラインのドレスね。身体のメリハリがついてる分、綺麗に着られるだろうし」」
赤い顔をしながらも、ゆいこはカタログの中のひとつを指差す。ウェストラインから裾に向けて、スカートが広がる形がアルファベットのAのように見えることから名づけられた形らしい。胸元もけっこう大胆に開いていて。
「こ、これ? えっと、大丈夫かなぁ」
「さちのことだもの。きっと似合う……いえ、絶対に似合うから」
「う……うん/// さ、さがしてみるっ!」
絶賛する彼女さんにまんまと乗せられたあたしは、顔の熱さを誤魔化すみたいに、カタログに載っていたそのドレスを探すことにした。背中に感じるその視線が、むず痒いってばぁ……。
数あるドレスから、ゆいこが選んでくれたものを見つけ出し、あたしたちはそれぞれ着付けに入る。ウェディングドレスなんて勿論着たことはないから、着方は全然分からない。ただ何かの力が働いてるみたいに、自分の身体にフィットしていく。十数分して、無事ドレスを着ることができたあたしはカーテンをシャーっと開けた。
「「あっ」」
ゆいこもちょうど今、終わったようで、視線がぶつかった。気のせいじゃなかったら、ゆいこの頬も少し赤い。きっとあたしと同じ気分なんだろうなって。
「えっ、と。その、さち……?」
「ゆいこから、どーぞ」
「……さちからで」
「え、あ…………わ、わかった」
恐る恐るカーテンを開けて、彼女に自分の姿を見せた。
「っと、どう、かなぁ??///」
目を反らして、そう訊ねるあたし。すぐには感想が来なくて、あたしは不安に思い、ゆいこの方を見る。
「ゆいこ、さん……?」
「え、あっ、ごめんなさい」
一言謝った後、ゆいこは少し葛藤した様子で、モゴモゴと何かを言った後、ひとつ大きな深呼吸をしてから口を開いた
「やっぱりさちは……何よりも綺麗ね。とてもよく似合っているわ」
「あ、あうぅ……///」
微笑み、そう断言するゆいこ。一気に顔が真っ赤になるのを自覚した。だから、それを誤魔化すために、ゆいこにもカーテンを開けるように伝えると、
「……その、さちみたいに……似合ってないかも……。その期待しすぎないで、ね」
絶対無駄になる保険をかけて、ゆいこはカーテンを開けた。
瞬間、あたしの視界を埋めるその姿。純白のお姫様。世界一とか低く見積もりすぎたあたしをぶん殴りたい。銀河一、全宇宙一可愛くて美しくて愛おしい、あたしの恋人がそこにはいた。
「…………さち?」
「って…………あ……わ、わぁ……ゆいこ、わ……」
「やっぱり、似合ってないかしら」
そう言って不安そうに目を泳がせるゆいこ。いけないいけない。最高な彼女を褒め称える言葉を伝えなきゃ!
「え、と、えと…………ゆいこ、すっごく……綺麗、だよ///」
んもう! なんなのさ、あたしの語彙力のなさ!? もっと、こう、もっとあるじゃん!
月並み以下な言葉。だけど、ゆいこは嬉しそうな、照れくさそうな表情で、
「…………ありがと///」
最高の笑顔を返してくれた。天使。
ーーカチャリーー
「え?」
「今の音は……」
甘い雰囲気に水を差す機械的な音。それは扉の方からで、なんとなく鍵が開いたのだと察することができた。
「えと……進める、みたい…だけど……どうする?」
ゆいこにそう訊ねる。もちろんここに留まる理由もないわけで。ゆいこも進みましょうと口にした。あたしも同意して、歩を進めようとして、ゆいこに呼び止められる。振り返ると、ゆいこの手があたしの手を掬い上げるように取って、きゅっと柔らかく握った。
「……あ」
「……行きましょう、さち」
「あ、う、うん///」
お姫様から逆にエスコートされ、あたしたちは進む。
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次の部屋は、綺麗に飾り立てられた白い椅子、ソファが置かれていた。横には、たぶんメイクやヘアセットを行うのだろうドレッサー。豪華ではない。全体的にシンプルだけど、ウェディングフォトをメインとしていたのなら、このくらいが普通なのかな。
「ここで、メイクとかするのかな? でも、メイク道具とかないけど」
「うん。見た感じ、それらしいものないわね、何処かにしまわれてるのかしら」
あるとしたらドレッサーかな、と2人で軽く探してみる。そこでふと気づく。メイク道具の代わりに一冊の小さなパンフレットが置かれている。中身を見てみると、フォトウェディングを行っていた時代に、この水族館が配布していたものみたい。
挙式の形式や結婚式にまつわるジンクスなどなど、よく聞く単語から初めて聞く風習まで色々と書いてあって、勉強になる。手がかりを探すはずがついつい楽しくなって、読み進めーー
「ーーうわ、なんだこれ」
「さち、どうかしたの?」
「なんか、結婚式の情報誌?みたいなの見つけたんだけどさ」
問題のページをゆいこに見える。とある一面にベッタリと『何か』がついていた。この控え室で今まで見てきた白とは正反対の黒。一見すると、黒いインクを垂らしてしまったように見えるけど、粘度があって、しかも……。
「くさい……」
「…………見なかったことにしましょ」
「うん……」
黒い『何か』に触って、ウェディングドレスが汚れないようにそっと雑誌を閉じる。
「……なんだったんだろ」
「ああいうネバネバしたものには正直、いい思い出はないわね」
「ねー」
「はぁ……て、あら?」
ひとつため息を吐いたゆいこだったけど、また別な何かが気になったようで、近くの白いベンチに向かう。その後に続いて見ると、そこには教会でよく見る結婚式の参列者用のベンチがなぜか置いてあった。さらに、その違和感よりもずっと強い。違和感がそこにあって。
「硬貨とタコのぬいぐるみ?」
「……なんで真っ青なのかしら」
リアルなやつじゃなくて、デフォルメされた青いタコのぬいぐるみ。それと6ペンス硬貨。ん?
「あ!」
「どうしたの、さち?」
「これさ、さっきの雑誌に載ってた! 確か結婚式のジンクスの1つで、花嫁さんの左の靴に6ペンスコインを入れておくと、一生お金に不自由せず暮らせるという言い伝え、だったかな」
「へぇ、そんなのがあるのね。じゃあ、こっちは?」
「んとね、たしか……さむしんぐふぉー、だっけ。結婚式で花嫁が身に着けると幸せになれる4つのものでぇ……その1つが青いものとか書いてた気がする」
「……じゃあ、これは置いた人の気遣いってことなのかしらね」
「たぶん? でも、それにしては、なんというかあまりにも適当な……」
「ええ。それに、なんでタコなのかも分からないわね」
「だよねぇ……どうする、これ、持ってく? 一応、どっちもジンクス的にはいいものではあるけど」
「まぁ、そうね。折角だから、持っていきましょうか」
「うん」
黒い汚れがないか念入りに確認して、ゆいこが6ペンス硬貨を、あたしが青いタコぬいぐるみを手にする。
ーーカチャリーー
また、音がした。今度は入ってきたところとは別の扉からしていて、つまり、次の部屋に進め、ってことだよね?
「…………さち」
「うん」
すぅ、はぁ、と大きく深呼吸をする。大丈夫。落ち着いてる。
「…………ゆいこ、この先、もし危なくなったらうしろに隠れるんだよ」
「わかったわ。でも、さち。絶対に無理しないでちょうだいね?」
「もちろん! あたしに何かあったらゆいこが悲しむ、でしょ? 逆も同じ。気をつけて進も!」
衣装を整え、メイクはしてないけど、化粧をする部屋も訪れた。となれば、次に待ち受ける部屋はきっと挙式の会場だ。何か起きるとしたら、きっとそこだろう。どちらかだけが逃げるんじゃ意味がない。
2人で出る。
そう誓い合って、あたしたちは次の部屋への扉を2人で開けた。
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