通過者及び視聴済みの方のみお読みください。
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あたしたちが住む町の博物館で『鉱物展』が開催される。
ゆいこからその話を聞いたあたしはさぞ目を輝かせていただろう。というのも、昔々、小学校時代のあたしは『石博士』なんて呼ばれてたのだ。そんな元『石博士』は、この『鉱物展』に興味津々である! そんなあたしのワクワクを読み取ったのか、ゆいこは……。
「……ねぇ、さち。博物館、一緒に行く?」
「行く!!」
それはそれは即答であった。
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約束の日から1週間が過ぎた。今回は約束の時間に遅れることなく、いつも通りの待ち合わせ場所に集合したあたしたちは他愛のない話をしながら、博物館に向かう。その日は『晴れ』。日差しはあるけど、夏から秋に変わる季節の変わり目ということもあって、少しだけ肌寒い。にもかかわらず、開館前から軽く行列になっていた。思ったより若い人も多い。
「楽しみだね、ゆいこ!」
「そうね……すごく楽しみにしてたから、こうして来れてよかった」
そう言って微笑むゆいこにあたしも笑顔を返す。自然と会話は今回の『鉱物展』の内容へ。
「うんうん! ほら、なんだっけ、ポスターにもなってたでっかい結晶! 綺麗なんだろうなぁ!」
「目玉、とかなんとか……」
「うん。実はねぇ昔、石とか拾うの好きだったからそういうのあたし、好きだよ!」
「そ、そう。さちが好きなら、その……ちゃんと見ないとね。私も……そういうの好き、だし」
そう言ってくれるゆいこ。あたしは嬉しくなる。
「だよねー! えへへ、ゆいこから誘ってくれてうれしかったよー! ゆいこもこういうの好きなんだーって!」
「……そりゃ、さちが好きそうだって思ったから。それに、さちが好きなもの……私が嫌いなわけないじゃない」
そんなことを言って、ゆいこはちょっと赤くなる。趣味が合いますなぁ、なんて言うけど、もちろん分かってる。ゆいこはあたしの反応を見て、誘ってくれたんだろうなぁって。まったく最高の親友だぜ!
「にしても、晴れてよかったよね!」
緩みそうになる頬を誤魔化すみたいに話題を反らし、目線を空へと向ける。それにつられるように、ゆいこも青空に目をやる。
「来週は曇りみたいだし、運が良かったのかもしれないわね」
「うんうん! こうして待ってるのも晴れだから苦じゃない! それにゆいこもいるからね」
「わ、私も、さちがいるから……って、そんなことより! 人、思ったより多いわね?」
あたしにそう言われて満更でもない顔をしていたのは見逃さないぞぉ? まぁ、でも情けで見なかったことにしてやろう。
「んー、だねぇ! それくらいみんな、石が好きなわけだ」
「ふうん。みんな石好きか……人が多いから、はぐれないよう気を付けてね、さち」
ゆいこの言う通り、人が多い。話をしている間にも、あたしたちの後ろにも並び出していて、それだけこの『鉱物展』が話題になってるのが分かった。この博物館自体はそこまで広くはないみたいだし、この人数が一気に入ったら確かに混むよなぁ……。あ、そうだ!
「ね! 手でも繋いどくー?」
「っ」
唐突な提案だったからか、ゆいこはビクッと肩を揺らす。ゆいこ、恥ずかしがり屋だし、提案には乗らないかなぁ? そんな心配は杞憂だったようで。
「っ、そそうねっ、はぐれたら大変だもの」
「任せろ!」
ぐっとゆいこの手をとる。って!?
「わっ!? ゆいこの手、冷たくない?」
冷え性なんだろう。彼女の手はかなり冷たい。ただ本人にはその自覚がないみたい。首をかしげて言う。
「えっ、そ、そう? さちは……温かいわね」
「うん! さちかさんはぽかぽかだよ?」
「ほんとね」
……うーむ? そうだ!
「じゃあ、そんなゆいこさんには……えい!」
あたしは両手でゆいこの右手を包み込む。
「ちょっ……! ~~っ、あ、あり、がと」
「…………」
「…………」
にぎにぎってゆいこの右手をもみこんでく。やがて、あたしの体温と彼女の体温が同じくらいになった。
「うん、なんか温まって来たかも」
「それはよかった!」
「……うん」
2人でにこりと笑い合う。そこでふとゆいこの腕についてる時計が目に入った。気づけば、時刻は開場時間を少し過ぎたところだった。
「……それにしても進まないねぇ、早く見たいんだけどなぁ!」
「そういえばそうね。まだかしら?」
そんなことを話していると、列が大きく進む。あたしたちもその流れに身を任せ、先へと進んでいった。
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入館料の500円を払い、中へ入る。前情報通り、決して広いとは言えない館内。入口で館内のマップをもらい、2人でそれを見ると、中は常設展があり、奥には特別展示スペース。そして、出口付近にお土産屋さんといったよくある配置みたい。まずは常設展を見ようと言って、手を繋いだまま散策をする。色んな種類の石がある。昔、川原で拾ったようなのから見たことのない色の石まで、多種多様だ。
「お、宝石もあるよ!」
ふと目に入ったのは宝石の展示ケース。ゆいこの手を引き、ケースに張り付く。多少抜けている部分もあるのは、商談とかもやってるからかな。それにしても……!
「キラキラしてる!」
「……ええ、そうね」
「ほらほら、ゆいこ! 綺麗だよー? いいなぁ、キラキラだぁ」
「……確かに、すごくキラキラしてるわね」
「……?」
ふとゆいこがこちらを見ていることに気づく。どうかしたのと訊ねると、ゆいこは慌ててなんでもないと誤魔化す。な、なんだろう、も、もしかして寝癖とかついてる……?
「あっほら、さち! 何か音楽流れてるわね! なんの曲かしら?」
あとでお手洗い行った時に髪型確認しようと考えていると、ゆいこが口を開いた。言われて気づくけど、確かになんかちいさーく歌詞ありのBGMが流れてる。
「んー? あ、ほんとだ。なんか博物館に歌詞ありのBGMって珍しいね」
「確かに……あんまり聞かないかも? クラシックとか流れてるイメージだし」
「ねー」
そんな話をしながら、歩を進める。そんなこんなで、特別展示スペース。あっという間だった。
そこにあったのは、大きな大きな結晶体だった。後から考えたら、特別展示という割には、その1つだけで周りの広さを生かせてない感じはあった。けど、それを気にさせないくらいには、その結晶は綺麗で、大きな塊から花みたいにいくつもの結晶が輝いている。照明が反射してか、まるでそれ自体が光を放っているように、様々な色に見えた。
「おぉぉぉ……!」
「わ、ぁ……すごい……」
あたしもゆいこもその結晶体にただただ圧倒されていた。見上げたまま、どのくらい経ったかわからないけど、ふと我に返る。どうやらゆいこもタイミングは一緒だったみたいで、目が合う。
「って、思わずぼーっとしちゃった! すごいねおっきいね!」
「わ、私もつい目を盗まれちゃった……。大きいし綺麗だし……こんなのがあるだなんて……」
「だねぇ」
不意に元『石博士』の血が騒ぐ。この結晶は一体なんの石なのか。そんなことが気になり、じーっと石を見つめた。見れば見るほど、知らない結晶だ。今まで見たこともない。そう言うと、ゆいこも同意してくれる。
「……こんなに綺麗な水晶があるだなんて、びっくり」
「ねー……なんか不思議な感じだなぁ、なんかイロトリドリに光ってるし、案外うちゅーじんが作ったものかもねぇ」
「宇宙人? …ふふ。さちは面白いこと言うのね。でも、もしそうだったなら……ある意味、これだけ綺麗なのも納得できるかも?」
「でしょ!」
「ええ。さちの思い付きは的を得ていることが多いから……本当にそうかもしれないわね」
「ふふん」
得意気に鼻を鳴らすと、ゆいこは笑った。そこでだいぶ見ていたようで、気づけば辺りの人が増えてきた。他に何か展示されているかキョロキョロと見渡していると、
「きゃっ!」
誰かとぶつかったのか、ゆいこがこちらへと倒れてきた。咄嗟に抱きとめる。
「おっと! ゆいこダイジョブ!?」
「……っ、う、うん、だいじょうぶ。ありがと」
「ううん」
とはいえ、いきなり倒れてきたんだ。怪我してないかとペタペタ腕や足を触る。
「さ、さちっ……だいじょぶだから」
そう言って、あたしからパッと離れたゆいこの顔が歪む。
「! ダイジョブじゃないじゃん!」
「さ、さち、私は大丈……きゃっ!?」
ゆいこの答えも聞かず、あたしは彼女を背負う。いつだか学校でしたみたいに。大丈夫大丈夫と言っていたゆいこだけど、あたしが聞かないことを理解したのか、少ししたら大人しくなる。背中のゆいこがポツリと呟くのが、あたしの耳にちゃんと入ってきた。
「……ありがと」
「ん、どういたしましてー」
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人でごった返す特別展示スペースから抜け出し、ゆいこを近くのベンチに座らせる。そのまま彼女の足を見てみるが、腫れてはなさそうで、ほっと胸を撫で下ろした。
「ん! 腫れては……ないかな? 赤くなってるわけでもないし、ちょっとしたら痛みひきそう! 一応冷やすやつ、スタッフさんとかに言って持ってきてもらう?」
部活の時だったら持ってたんだけど、残念ながら今はアイシングの道具などない。念のためにそう言ったけど、ゆいこは首を振る。その代わりに、とゆいこは口を開く。
「……その、痛み引くまで、隣に居てくれないかしら?」
「うん、もちろん!」
「…………ありがとっ」
ゆいこの隣に座り、手もちゃんと繋ぎ直す。けがした時って不安だもんね! 手でも繋いで吹き飛ばしてあげましょー!
「痛いの痛いの飛んでけーってする?」
そんな風に笑う。
「……してくれたら、痛みが早く引くかも? なんてね」
ちょっと子供扱いしすぎかなぁと思ったけど、ゆいこもそれに合わせてくれて、2人して笑う。うん、ちゃんと大丈夫そうだね!
偶然、ここからはお土産屋さんも見える。ゆいこの足の痛みが引くまで、ここから欲しいお土産でも見ておこうと伝えると、ゆいこも賛成してくれた。お土産屋には、ポストカードや博物館行ってきましたクッキー、記念チャームやフリーパスの販売などをしている。売り切れの商品もあるみたい。でも、パワーストーンとか肝心の『石』系のお土産はなさそうだった。特別展示とはいえ、『鉱物展』のお土産がないのは、なんか……。
「ねぇ、さち」
「んー? なに?」
思考を遮るように、ゆいこが声をかけてきた。別に大したことは考えてなかったし、思考を彼女との会話に切り替える。
「お土産に買って帰りたいもの、ある?」
「んー、とりあえずお父さんとお母さんにクッキーでしょ……あとはテニス部の子達と……風紀委員の先輩にも渡した方がいいかなぁ……」
せっかく来たんだし、買って帰った方がいいよねぇ。誰にどのくらい渡した方がいいか考えていると、ゆいこが口を開く。
「…………ふうん。お土産渡したい人、たくさんいるのね」
「まぁねー!」
人気者は辛いぜぇ、なんて嘯くあたし。ゆいこは特に突っ込みを入れてくれず、話を進めてくる。
「……その、自分用のお土産は何か買って帰らないの?」
「んー、そうだなぁ……自分用は別に?」
突っ込んでくれなかったことに一抹の寂しさを覚えながらそう答える。パワーストーンあったら買ってもよかったんだけどね。と、ここで1つ思い付く。超絶グッドアイディアだ!
「そうだ! ゆいこ、なんかお揃いの買お! それで交換とかよくない?」
「!」
あたしの提案に、バッと首をこちらに向けるゆいこ。その後、ひとつ咳払いをしなかまら言う。
「私もお揃いのお土産が欲しいと思ってたから、それでいいわよ。交換したら、さちにお土産渡せるし一石二鳥ね。……あの可愛いキーホルダーとかどう?」
見れば、クマちゃんのキーホルダーだ。『鉱物展』ぽくはないけど、一応クマちゃんの首元にはキラリと光る石がはまってる。あれなら見た目も可愛いし、ありかな。
「あ、いいね! よーし、早速買いに行……」
そこまで言って、ふと気づく。ゆいこ、足は……?
「うん、もう大丈夫。……でも、まだ少し不安だから……手、離さないでいてね」
そんな可愛いことを言うゆいこ。そんな彼女に対して、あたしはちょっと執事っぽく振る舞う遊びをば。
「うん! お手をどうぞ、おじょーさま」
「ありがと」
少し気取ったように、ベンチから立ち上がり、手を差し出すあたし。その手をとって、ゆいこは微笑む。
「この場合、さちは……正義の味方さん、かしら?」
「あ、い、いや……」
『正義の味方』。それはあたしの中の黒歴史を思い起こさせるには十分なパワーワードであった。あたしは急に恥ずかしくなり、俯く。
「正義の味方は……ちょっと恥ずかしいんですけどぉ……しつじのつもりだったんだよぉ」
「あ、照れてる」
言われて見れば、執事っぽくもあったかも。そう前置きをした上で、ゆいこはニヤリと笑う。
「でも、さちが照れるところが見たいから、正義の味方さんにしましょ」
「うぅぅぅ……」
恥ずかしい。でも、約束を違える訳にもいかず、顔から火が出そうになりながらも、あたしはお土産を物色したのだった。
まぁ、そうこう言っても、ゆいことの楽しいお土産選びのおかげで恥ずかしさはいつの間にか忘れて。
「買えた買えた! クマ!」
博物館から出たあたしは、戦利品を高く掲げ、ゆいこの前へと差し出した。ゆいこはあたしの手にあるクマを見つめて、
「……このクマ、ちょっとさちに似てるのよね」
「えー? そうかなぁ……」
ゆいこにそう言われ、改めてその子をじっと見てみる。似て、るかなぁ? よく分かんないけど、まぁいいや! あたしはクマを彼女の顔の前に再び掲げる。
「……ユイコチャン」
「え?」
「ダイジニシテネ」
渾身の裏声。その甲斐あって、ゆいこは吹き出した。成功成功! してやったり顔のあたしからクマを受け取ると、彼女はにこりと笑ってくれる。
「……ええ、もちろん大事にするわ」
それからこほんと咳払い。
「……サチカチャンモ、ダイジニシテネ?」
真似っこだ、真似っこ!
「うむ! 大事にしてやるぞ、ゆいこ2号よ!」
「ウレシイヨ……じゃ、こっちはさちか2号ね」
クマずを明日学校につけていこうと、約束をして帰路につく。まだ16時半だっていうのに、もう日が傾き始めてる。夏も終わり、もうすぐ秋だ。
ーーーー以下LINEでのやり取りーーーー
さちか『ゆいこー、起きてるー?』
ゆいこ『うん、起きてる。なんか寝付けなくて』
さちか『(わーいのスタンプ)』
『あたしも2号いじりながらゴロゴロしてたー』
ゆいこ『そうなの?私も今、2号がとなりにいるわよ』
『(クマの写真.jpg)』
さちか『(クマとパジャマのさちかの2ショット.jpg)』
『かわいかろう?』
ゆいこ『かわいいわね』
『心なしか2号が嬉しそうな顔してるように見えるし』
さちか『アイコンにしよー!(アイコンクマに変更)』
ゆいこ『じゃあ私も(アイコンクマに変更)』
さちか『お揃いだ!』
『(わーいスタンプ)』
ゆいこ『まあ、せっかくだし』
さちか『ねー!』
『フフフフフフ』
『(にやにやスタンプ)』
ゆいこ『何よそのスタンプ』
『(じとーって顔したスタンプ)』
さちか『いやいや、クマもアイコンもお揃いって……』
『ゆいこさんはさちかさんが本当に好きなんじゃなぁ』
『(あたたかい目スタンプ)』
~~~~10分後~~~~
ゆいこ『昔から一緒にいるんだもの、当たり前じゃない』
さちか『ねー、あたしもゆいこのことラブだぜ』
『(投げキッススタンプ)』
ゆいこ『ラブって……』
『そんな言い方してたら、いつか誤解を招くわよ』
『(やれやれ、ってスタンプ)』
さちか『つれないなぁ…』
~~~~5分後~~~~
さちか『……ちょっと寝てた』
ゆいこ『ちゃんと寝た方がいいわよ』
さちか『そーするぅ』
『おやすみー、2号ちゃんと明日もってくんだよー』
ゆいこ『わかった。おやすみ、さち』
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その日の夜、あたしは夢を見た。今日行った博物館に行く夢だ。
あたしの足はふらふらと勝手に博物館に向かい、扉を開けて館内に入る。まるで導かれるように、展示室の奥の扉へ。扉を開けばそこには多くの人がいた。重なり合う声が聞こえた。歌っているような声だ。 知らない歌。それをあたしも口ずさむ。
でも、違う。あたしのすべきことはそれじゃない。早く、早く触らなきゃ……! あたしは目の前の淡く光る石に手を伸ばし、触れる。その瞬間に、意識が遠のいてーー
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