寺次優衣子と社幸華に関すること   作:藍沢カナリヤ

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4 曇天に煌めく【2日目昼】

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 頭が重い。身体も重い。寝転がりながら部屋のカーテンを開けると、天気は快晴。気圧とかのせいじゃなさそう。クマを撫でながら、スマホに触る。なんとなくSNSをチェックする。今日の天気やら漫画の新刊の情報やらを見ていると、自然と昨日行った『鉱物展』をやっている博物館の口コミに目がいった。

『あのキーザって結晶体すごーい』

『またみたーい!』

『展示増えてる!猫の結晶あったよ!』

 寝起き最悪で頭が回ってなくても分かる。知らない情報。ふと夢のことを思い出し、あたしはゆいこにLINEを送る。

さちか『ゆいこー、起きてるー?』

ゆいこ『おはよ、さち。起きてるわよ』

さちか『おはよー、なんか変な夢見た……』

 どうやらゆいこも起きていたようで、すぐに返信が来た。今朝見た夢の話をする。昨日行った博物館に行く夢であったこと。特別展示室の奥に扉があって、そこに入ったこと。そこにはたくさんの人たちが知らない歌を歌っていたこと。そして、目の前の石に触れて、意識を失ったこと。夢の内容を忘れないうちにとゆいこに送る。すると、返ってきたのは予想外の答えだった。

『……それ、私も見た』

 全く同じ夢をゆいこも見ていたという。しかも、ゆいこも身体が鉛のように重いらしい。偶然、というには揃いすぎてる。その後、ゆいこと今日の放課後にまた博物館に行ってみる約束をして、ベッドから身体を起こした。

「…………原因、分かるといいんだけど」

 

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 学校終わり。委員会の活動を休んで、ゆいこと一緒に昨日と同じ博物館へと向かう。今日は平日だっていうのに、やっぱり列ができていて。昨日は感じなかったけど、それがいやに気になった。無事、館内へ入る。

「とりあえず昨日と同じ感じで見て回ろっか」

「そうね」

 そう言って、常設展を回ろうとすると、ひとつ昨日はなかった展示があった。『体験!プラズマボールを触ってみよう』と書かれた体験型の展示だ。

「お? なんだろこれ? 昨日はなかったよね?」

「なになに……プラズマボール? 昨日はなかった、わね。触りに行ってみる?」

「うん」

 SNSでも展示が増えていたと書いてたし、その1つなんだろうな。そんなことを考えながら、そのプラズマボールに触る。まず感じたのはひんやりとした感触。それから、

「っ」

 慌ててそれから手を離すけど遅かった。身体から力が抜ける。夢の後に感じた疲労感。それはゆいこも同じく感じたみたい。

「うっ、なんかまた体重くなった気が……」

「うん……私もなんか、だるい。大丈夫、さち?」

「い、いちおー」

 そう答えながら、あたしは今触ったプラズマボールをじっと見つめる。もしかして、これに体力的なものを吸われたの? そういえば、これ、夢の中でも触ったような……?

「……あっ」

「っ、ゆいこ!?」

 あたしの後ろでゆいこが倒れ込んでいた。足首を押さえていて、それは昨日痛めたところだって分かる。

「……ダイジョブ、じゃないよね」

「昨日捻ったとこ、また痛めちゃったみたい……」

「少し休む……?」

「うん……ごめんね、さち……」

「ううん、肩貸すよ」

 おぶれればよかったんだけど、今日はあたしの身体も重いから、肩を貸して近くのベンチへ連れていく。

「ありがと……少し休めば、大丈夫だと思うから」

「ちょっと見せて」

 見ると昨日とは違って、少し腫れていた。

「…………ん、腫れてる」

 そう言って、足首を軽く撫でると、

「……くすぐったい」

「…………ここも」

「ひゃ……ッ、な、なにするのよ、さちっ!」

 つい指で足首を撫でてしまった。ふぇざーたっちってやつだ。くすぐったかったんだろうね。少し膨れている……って、あれ?

「なんか、ゆいこ……ちょっと顔赤くない?」

 顔が赤い。気のせいじゃない、よね? そう聞くあたしに、ゆいこは館内が暑くてと慌てたように誤魔化した。

「んー? ほんとかなぁ?」

「ほんとほんとっ」

 ……もしかして、身体が重いのって、体調が悪いからとかじゃ? ゆいこの体調への不安からあたしは行動に移した。

「………………」

 黙って彼女のおでこに手を当てる。

「~~っ!?」

「って、ちょっとゆいこー! 顔下げたら熱はかれないでしょ!」

 恥ずかしがって俯くゆいこのほっぺたを両手で拘束する。まったく世話が焼けるんだからぁ!

「……どれどれー?」

「な、ななななぁっ!?」

 両手は塞がってるから、そのままおでこをくっつける。

 …………うーむ? ダイジョブ、そうかな?

「う、う、あうぅ…………」

「ははは、そんなに固まらないでよぉ。別にキスしようとしてるわけじゃないんだから」

 初心なゆいこの反応に思わず笑ってしまう。

 まぁ、とにかく熱はなさそう。本人の言う通り、空調が効きすぎてるってだけかな。今日も晴れてて思ったよりも気温は下がってないし、この時期は温度調節難しいよねぇ。

「とりあえず、無理しちゃダメだよ? きついときはすぐ言ってね!」

「…………誰のせいでこうなってると……」

「ん? なんか言ったー?」

「な、なんでもない! 無理はしないから大丈夫よ! ほ、ほら、足も! だいぶ痛み引いたもの!

「なら、いいけどさぁ」

 これ以上言っても仕方ない。一応、様子は見とくとしよう! 館内で他にめぼしいものがないか見渡す。

「あれ……?」

「ん? どうかした、ゆいこ?」

「あぁ、なんか歌が……昨日よりも大きく聞こえる気がして」

「?」

 あたしも耳を澄ます。けど、残念ながらよく分からない。気のせいかもしれないとゆいこは言った。そこで不意に思い出した。

「………あ、そういえば猫?の展示が増えてるって」

 SNSに書いてあった。猫の展示が増えてるって。

「猫? ……それはちょっと気になるわね」

「うん、見に行ってみよう」

「そうね。……可愛い猫ならいいけど……」

 館内マップは更新されてて、それに従って進む。結論から言えば、ゆいこの心配は的中する。展示されていた『猫の水晶体』はまるで猫をそのまま鉱石にしたようなもの。良く言えばリアル、悪く言えば生々しく不気味だ。

「……なんか、思ってたのと違うかも」

「確かにリアルに寄った猫だし……昨日見たのと同じような水晶体でできてて、あまり可愛いって感じじゃないわね……」

「うん」

 『猫の水晶体』を見て、直接的に体調が悪くなった訳じゃないけど、こうも不気味なことが続くと、流石のあたしも少し参ってくる。展示物から一旦離れて、ゆいこと話をする。

「ねぇ、ゆいこ」

「なに?」

「身体の調子といい、猫石といい……なんか宇宙人説が冗談じゃなくなってきた気もするんだよね……猫もほら、きゃとるなんとか…ってやつ」

「きゃとる……みゅー……なんとかよね。宇宙人とか、出てきたりして」

 それはゆいこがらしくないあたしに突っ込ませるために言ったんただろうとは分かってた。でも、あたしの中でそれを否定しきれない、そんな思いが心の底の方でモヤモヤとしていて。だから、あたしは、

「もしそうなったら…………ゆいこはあたしが守るからね」

 冗談に、本気を返してしまう。そんなあたしの雰囲気を察してくれたゆいこはからかうような素振りを一切見せずに言う。

「……ありがと、さち。頼りにしてる」

「うん、任せて」

 あたしは自然とゆいこの手を握っていた。ゆいこもそれと同じくらいの強さで握り返してくれる。

 うん、きっと大丈夫。

 

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 問題の特別展示スペース。確かSNSでは『キーザ』なんて名前が出回ってたようだった。ともかくあの大きな水晶の元へ、あたしたちは再び赴いた。勿論、昨日と何も変わらない姿で『キーザ』はそこにあった。目を奪われる美しさ。

「………………」

 ただじっと見つめる。綺麗だ。この輝きをいつまでも見ていたい。けれど、また帰らなきゃいけないなら、絶対またここに来なくちゃダメだ。あぁ、それにしてもこの輝き。まるで、水晶に吸い込まれるようなーー

「………………さち」

「っ、あ、ごめん…ぼーっとしてた……」

 きゅっと握られた手が、ゆいこの方に引き寄せられ、彼女に体に触れたことで、あたしは我に返った。

「さち、どうしたの?」

「あぁ、うん。なんかさ、またここに来なきゃって気がしてて……あー、うん、なんか変かも……?」

「大丈夫なの?」

「うん、たぶん」

「……私はさちが来るなら、また一緒に来るけど……でも、なんだか少し怖い、かも」

 怖い。ゆいこはそう言った。その気持ちはよく分かる。すごく怖いし、すごく不安だ。何か得体の知れないものが、あたしたちの側にいるような気がして

「ゆいこ」

「さち……」

 それに耐えるように、あたしはゆいこの手を握る手にぎゅっと、さっきよりも力を込めた。彼女は同じように握り返してくれて……うん。大丈夫、ゆいこがこうしてあたしをここに留めてくれるうちは。

「…………よしっ」

 気を取り直して、あたしはキョロキョロと周りを見渡す。昨日もさっきもこの『キーザ』に目を奪われてしまったけど、他に何かないかな? そこで1つのものが目に入った。扉だ。この展示室の奥に木の扉があった。

「……ゆいこ、そういえば夢の内容、覚えてる?」

「あっ、うん」

「あの扉……たぶん夢で出てきたやつだ」

「そういえばそうかも……。今は……行けなさそうね」

「うん、一応覚えとこ」

「そうね、何かあったときのために……まあ、何もなければ一番いいんだけど」

 それはそうだ。でも、そんなことはないだろうとあたしの中の勘が告げていた。そんな中、ゆいこがあることに気づく。

「ねえ、さち……ここの館内の音楽ってさ……あそこから聞こえてこない?」

 音楽。そういえば、ゆいこは昨日も、そして、さっきもそれを気にしてた。さっきは気づかなかったけれど、そう言われてみれば例の歌はなんとなくあの扉の奥から聞こえてきてるような気もする。

「何か、ありそうよね」

 何かある。それはきっとそうなんだろう。それがこの明らかな身体の不調や心の中に巣食う不安の原因になってる気がしている。それはきっとあたしだけでなくて、ゆいこも感じていることのはず。

 ゆいこを守らなきゃ。あたしの中の強い感情が囁いた。

 だから、あたしはらしくないことを提案してしまう。

「あの警備員がいない時なら入れそうだけど……もう一回夜に来てみる?」

 ゆいこの耳元に口を寄せ、そんなことを呟く。らしからぬ誘いにゆいこも驚いたようで、困惑の表情が返ってきた。けど、すぐに思い直したのか、あたしの提案に賛成してくれる。ただそのあたしっぽくない部分は気になったようで、改めていいのかと確認してくれる。

「正しくは、ない。けど……来なきゃって気持ちの方が強い、かも」

「……うん。私も不調の原因を知りたいし……さちの“変っぽい”のがなくなって欲しいから」

 そう言って頷くゆいこ。

「ありがと、ゆいこ」

「どういたしまして、さち」

 手を握ったまま、あたしたちは展示室を後にする。その間際に、あたしはポツリと言葉を溢してしまう。

「もしあたしが変になってたら……名前呼んでね…」

 それは本当に小さな声量だった。ゆいこを不安にさせたくないって思いはあったから届かないくらいの呟き。それでも、ゆいこはちゃんとそれを聞いていてくれて。

「……わかった。さちの名前、呼ぶ。何回だって呼ぶから、ちゃんと元に戻ってよね?」

「…………うん! 頼んだよ、親友!!」

 あぁ、本当にあたしはいい親友をもった。

「っ…………うん。任せて」

 安心感からだろう。あたしはゆいこのその表情に気づかない。

 

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 お土産コーナー。特に大きな変化はなさそうだ。商品も補充されていて……って、あれ?

「またここの列ない。補充されてないのかなぁ」

「あ、本当だ。人気商品なのかしら?」

「うん、店員さんに一応聞いてみよっか?」

「そうだね……あの、すみません」

 近くにいた店員さんに、ゆいこは話しかけた。売り切れてしまったらしいけど、どうやらそこには『ラピスラズリ』があったとのこと。

「確か、ラピスラズリって魔除け的な意味があったんだっけ?」

「……うん、邪気を退ける効果があるのよね」

「あったら欲しかったな」

 この状況だもん。そんなものにもすがりたくもなる。そんな不安をゆいこは見透かしてるみたいで、彼女はにこりと微笑んで言う。

「……でもきっと、さちか2号も悪いものを除けてくれるわよ」

「確かに! よし、夜はゆいこ2号たちもちゃんと連れてこよう!! お揃いパワーだ!」

「うん。お揃いパワーがあればきっと大丈夫……って、信じてるから」

 ゆいこのおかげで、少し元気を取り戻したあたし。ゆいこと手を繋ぎ直して、博物館を後にした。

 

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