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最近、さちの様子が変。
休み時間にはすぐどこかに姿を消したり、私と喋るときには妙に落ち着かなかったり。挙げ句の果てには、用事があるからと毎週水曜日、一緒に帰るのもしなくなる始末。これは由々しき問題よ!
だから、私はーー
「ねぇ、最近変よね」
「ぶ……っ!!」
飲んでいた苺ミルクを吹き出したさち。逃げられないよう、休み時間に背後から忍び寄って声をかけたから、さちの吹き出した苺ミルクは彼女の目の前のクラスメイトにかかってしまう。
「…………幸華……あんたねぇ……」
「わ、わぁぁぁっ!? ご、ごめんっ!?」
「…………どうぞ」
「え、あっ……寺次さん、ありがとう」
彼女に恨みはないし、偶然持ち歩いていたアルコールティッシュを彼女に渡した後、私は告げる。
「申し訳ないのだけど、ちょっと社さん借りていってもいいかしら」
「え、えぇ、いいけど」
「え、あっ、いや、ほら! お詫びしなきゃなんないし!? ここを離れる訳にはいかないって!」
「…………さち」
「うぐっ……行ってきます……」
「……あー、いってら~」
呆然とするクラスメイトの子を置いて、私はさちの首根っこを捕まえて、引きずっていった。
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屋上にやって来た私達。お昼休みではなくて、10分しかない休み時間だから、当然人はいない。気候も秋そのものだから尚更。チャイムも鳴ったから邪魔する人は来ないはず。
「ちょうどいいわ」
「あ、あのぉ……ゆいこさん……? 授業はじまっちゃったけどぉ……」
「…………私からはさっき言った通りだけど、何か弁明はあるかしら?」
「ひぇっ!?」
あの博物館で私はさちに振られ、彼女が離れていく妄想に取り憑かれていた。事件後、その思いは段々薄れて、ここ数日でやっと心がある程度は元に戻すことができた。だけど、この2週間気が気でなかった。避けられるような心当たりもなくて、本当に死んでしまうかと思ったし。
だから、この期に及んで、言い逃れなんてさせてやらない。
「ち、ちょっと待ってっ///」
「待たない。絶対教えてもらうんだから」
「ゆ、ゆいこぉ、待ってってぇ……///」
だから待たないわよ。そう言って、私はさちとの距離を詰めていく。らしくなく狼狽えるさちは後退り、ガシャンと、彼女の背中が屋上のフェンスに当たる。私はそれでも尚進む。やがて、さちとの距離が0になり、さちの体と私の体が密着した。秋、屋上ってこともあり、少し肌寒い中、さちの体温を感じる。
「ね、ねえっ、ゆいこぉ……/// 話すっ、話すからっ!」
「本当? 逃げない?」
「に、逃げないよっ」
「……うん、なら、離れる」
正直、離れたくはなかったけれど、とりあえず距離をとる。とはいえ、いつでも捕まえられるくらいには近くにいるわ。
「うぅぅ、なんでこういう時ばっかり、押しが強いんだよぉ」
「さちが私を避けるからでしょ」
「うっ、ご、ごもっともです……」
「それで? なにかあった?」
「…………うぅぅ」
「さち」
また黙る前に、私は俯きかけたゆいこの顔を覗き込む。見れば、さちの顔は真っ赤。それでもじーっと彼女の目を見つめると、彼女はやっとのことで口を開いた。
「あ、あのね、ゆいこ……ゆいこってーーキス、したことある……?」
「へ?」
予想外の方向から想定外の質問がきた。思考停止してしまう私。そんな私の様子に気づかないみたいで、さちはポソポソと小声で話す。
「ゆいこは、その……経験あるのかなぁって……っ」
「え、あ、えっと、ないわよ」
「っ、そ、そっか」
そこでさちは目を泳がせた。さらに、目をぎゅっと瞑り、少しした後、震える声で言葉を紡ぐ。
「じ、じつは……キス、しちゃって……///」
「!?!?!?!?」
顔を赤らめながら、さちはそう告白した。キスをした、と。
相手は誰? いつそんなことしたの? 相手とはもう付き合ってるの? 聞きたいことが頭の中に浮かんではぐちゃぐちゃになって消える。何を聞けばいいのか分からなくなる。でも、1つ確実なことは……相手は私じゃないってこと。その事実に打ちのめされる。分かってたわよ、さちにその気がないことくらい。それでも……。
「…………て感じです……///」
「………………」
「って、あ、あれ? ゆいこ?」
「………………」
「おーい! ゆいこー?」
「……え、あ、うん。そうなんだ……」
ショックで聞こえていなかったことを誤魔化すように、頷く。そんな私の顔色を窺うように、彼女は私に訊ねた。
「あの……ね、そのぉ……許してくれる……?///」
「っ」
なんて、なんて残酷なことを聞くのだろう。さちがキスしたことを許してくれる、なんて。そんなの許せるわけない。今すぐ相手を見つけ出して、どうにかしてやりたい。でも、
「うぅぅぅぅ///」
私の前では見せたことのない表情で顔を赤くするさちを見ていたら、そんなことできないとも思う。あぁ、やっぱり私のこの感情はーー
「っ、ごめんっ」
「ゆ、ゆいこ!?」
彼女の制止を聞かず、私は駆け出した。これ以上、さちの顔を見れなかった。このままだとさちの前でボロボロ泣いてしまうから。そうしたら、きっとさちを困らせてしまう。そんなのは嫌だ。
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博物館でのあの妄想を現実にはしたくない。さちが離れていってしまうのは絶対に嫌。だから、私はこの心を封じ込める。さちが困らないように、キスした相手と幸せになれるように。
「~~ッ」
でも、
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ」
今だけは。
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