私は悪くありません。
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夜は誰にも平等にやってくる。
今日も今日とて、私は『さちフォルダ』を開いていた。個人的には、さちだけが写った写真が好き。写真に写っているさちは笑顔で、その笑顔はどれも撮影者、つまりは私だけに向けられている。独占欲を満たし、優越感を得ることができる。決して明るくはない感情だっていうのは分かってるけれど。
ふととある写真が目に入る。ハロウィンの写真だった。結局、2人で魔女の格好をしたんだけど、それにするまでに色々と悩んだ。ペンギンがイメージキャラクターの某ディスカウントストアで、2人で色んなコスプレ衣装を見ていたことを思い出す。
その中でも、最初に私に見せてきた衣装が警察官の制服だった。勿論、ディスカウントストアで売ってるやつだから安っぽいし、まぁ、そういう用途で使うものなんだろうなぁ、と勝手に想像したことも思い出した。そんな姿を他の誰にも見られたくなくて却下したことも。
けれど、今は1人、妄想に耽れる時間よ。見る人間が私だけなら何の問題もないし、なんだったらウェルカム。
「………………かわいいわよ、さち」
私は想いを馳せる。妄想の世界へと旅立つ。
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もしもさちがミニスカポリスだったら。
「話す気になった? はんにんさん」
「…………」
とある罪で捕まった私は、暗い部屋で取り調べを受けていた。ミニスカートの警察官に取り調べられてるのは、状況としては謎だけど、今はいいわ。そんなことよりも私は黙秘を続ける。机を叩かれようと、カツ丼を出されようと、親の話をされて泣き落としされようと、私は喋ることはない。
そんな私に業を煮やしたのか、ミニスカポリスさんは髪をくちゃくちゃと乱し、大声を出した。
「あー! もう! なんでしゃべらないのっ!」
「…………」
「このままじゃ先輩にどやされるぅぅ……」
2人きりの取調室に、彼女の声が響く。私が喋らないことに彼女が焦りを感じていたのは、その言動を見れば容易に想像できていた。
「ねぇ、おまわりさん」
「な、なに? 話す気になった!?」
「それはないわ」
「ぐぬぬ……じゃあ、どうしたの!?」
「取引をしない?」
「……取引?」
首を傾げる可愛らしいおまわりさんに頷く。取引をしようと提案する。内容はシンプル。彼女の質問に1つ嘘をつかずに正直に答える。その代わりに、おまわりさんは1つ私のお願いを聞く。
「……ここから出して、とかはダメだからね?」
「分かってるわ。こちらの要求はあくまでもこの部屋の中でできること……例えばウインクをして、とか」
「え? そ、そんなのでいいの?」
勿論これは例だけど、とにかく部屋の中でできることしか言わないわ。そう言って約束する。その代わりに、そちらも私の言うことに従うこと。そんな風に付け加えた。
「う、うーん。なら、いいかなぁ?」
「どうする?」
「………………分かった! いいよ!」
「約束、守ってね?」
「勿論、あたしは『正義の味方』だし、約束はちゃんと守る! そっちこそ守ってよ、約束!」
「えぇ、もちろん」
約束をしてくれた『正義の味方』さんに笑みを返す。すると、早速彼女はひとつ質問をしてきた。この時間、◯◯にいた? なんとも的外れ。これをした? と単刀直入に聞けばいいのにね。その質問に私はいないと答えた。
「ぐぬぬ、じゃあ……」
「待って。私の番」
「あ、うん」
「じゃあ、そこの窓に両手をついてもらえる?」
「んん? まぁ、いいけど」
おまわりさんは不思議そうに首を傾げるも、ちゃんと素直に言うことを聞いてくれた。私に背を向け、両手を窓についている彼女。そのまま次の質問……◯◯という人を知っている? その質問にはイエスを返す。その答えで1つ事件が解決に近づいたと思ったのか、彼女はパァッと表情を明るくする。じゃあ、お願いを聞くよと上機嫌に言ってくる。だから、私はお願いをする。
「スカートたくしあげて」
「…………へ?」
「聞こえなかった? スカート、たくしあげて」
「なっ///」
私の言葉を理解したのか、彼女は顔を赤くした。予想外の内容だったからかしどろもどろになりながら抗議の声をあげる。何を考えているのかとか、何が面白いんだとか。それに対して、私が返す言葉は1つ。
「ほら、次はそっちよ」
「っ、や、やめっ/// やらないからね///」
「ふーん、約束守らないのね」
「ッ」
「お巡りさんなのに、『正義の味方』なのに」
「ッ」
「それに怒られるんでしょ?」
彼女のプライドを煽り、不安も煽る。彼女は散々迷った後、覚悟を決めた顔をして、こちらに訊ねてくる。あなたは◯◯◯に行ったことあるよね、とまたも遠回りな問投げてくる。答えはノー。また1つミスしちゃったわね。じゃあ、私からも1つ。
「その邪魔な布、脱いでもらえる? ううん、脱ぎなさい」
羞恥でいっぱいの表情。尊厳を踏みにじられて、いつまでその『正義の味方』を貫けるか……見物ね。
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「こういうのも……ふぅ、ありね」
目を開け、私は天井を仰ぎ見た。天井の染みがハッキリと見えるのはなぜなのかしらね。
「あ……」
ふと私の頭に電撃が走る。天井の染みで思い出した。そういえば、さちがディスカウントストアでもう1つ見ていた衣装のことを。なぜか真剣にじーっとその衣装を見ていたさち。声をかけたら、なんでもないと誤魔化されたけれど、私はその後さちが一瞬離れた隙に確認済みだ。さちが凝視していたのはーー
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もしもさちがナースだったら。
「まさか、両腕骨折しちゃうなんて……」
夕日が射し込む病院の個室にて。私は自分のぐるぐる巻きになった両腕を見ながらポツリとそう呟いた。昨日の朝、自分の家の階段から落ちて、咄嗟に両手をついたことで見事骨折。頭を打たなかったのはよかったけど……。
「……流石に不便ね」
おかげで様々なことが自分でできない。着替えやお風呂、食事も自分でできない。あとは……うん。
コンコン。
「っ」
病室がノックされる。何かしているわけではないけど、私は慌てて目を閉じ、ベッドに横たわる。それからどうぞと声だけを返す。
「こんにちはー! ゆいこちゃん!」
薄目を開けて、そちらを見るとそこにいたのは私の担当看護師、社幸華さんだった。年上ではあるけれど、かなりフレンドリーな性格みたいで初対面の私にも「さちって呼んで」と伝えてきた。いきなり両腕を骨折して不安だった私にとっては、とてもありがたい。だけど、1点問題があって。
「っ」
彼女が着ているナース服。それには大きな問題がある。身体のラインがもろに出るかなりタイトなナース服なのだ。なんだったらブラジャーの柄や下着のラインも浮き出ている。
「痛くない?」
「は、はい……」
「そっか! じゃあ、そろそろカーテン閉めるね! あ、食欲はどう?」
「あ、はい……食べれます」
「それはよかった!」
にこにこと身の回りの整理をするさちさん。そんな目の毒な格好とは違い、彼女はかなり明るい様子で会話をしてくる。そのギャップが……なんというか……。
「……ごくりっ」
思わず生唾を飲んでしまう。
「ん? ゆいこちゃん、どうかした?」
「……い、いえっ」
快活でそんなことを意識などしていなさそうなさちさんの表情を見ると、罪悪感で頭がいっぱいになる。思わず顔を伏せた。直視できない……。
「……///」
「…………クスッ」
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ガラッ。
「………………ん」
夢うつつ。病室の扉が開いた気がして、起きる。寝ぼけたまま、扉の方に目をやる。そこには、
「さち、さん……?」
「ありゃ、起こしちゃったかぁ」
さちさんがいた。閉められたカーテンの隙間から月明かりが射し込んでいる。そのおかげでさちさんの姿が見えたわけだけど、昼に見る彼女とは少し違った雰囲気に見える。
「起こすつもりはなかったんだけど……ごめんね」
謝るも出ていく様子はないようで、彼女は私の眠るベッドに近づいてくる。
「よい……しょっ」
「え!?」
ベッドに寝たまま動けない私の上にさちさんは跨がった。月明かりに照らされるさちさんは明朗な雰囲気をもちつつも、どこか妖艶な表情もしていた。
「さ、さちさん……なにしてるのよっ///」
「えー? だって、ほら、ゆいこちゃん、夕方、あたしのからだ見てたでしょ♡」
「っ」
バレてたっ!?///
「ふふっ、さすがにバレバレだよー? さちさんには隠しきれないのだ」
私の上に乗りながら笑うさちさん。その瞬間だけは昼と同じ笑い方。だけど、それは本当に一瞬で終わり、またも妖艶な笑みを浮かべた。
「ね、どこが気になったのぉ?」
「ど、どこって……っ///」
目を伏せようとして、
「だ~め♡」
両手で頬を掴まれ、強制的に目を合わせられる。月明かりを反射して、輝く彼女の瞳。吸い込まれそうな瞳。意識がそちらへ奪われる。けれど、すぐに私の意識は違うところへもっていかれた。内腿に何かが当たる感触、そして、私の胸に押しつけられる豊満な肉。まったく抵抗がないことで、私はその事実を察してしまう。
「ねぇ、言ってよ。どこが気になったの?」
「っ、そ、それは……」
「ここぉ? それとも、ここかなぁ……♡」
悪戯っぽい笑みを浮かべると、さちさんは私の顔にその部位を近づけてくる。プルンとした唇を。大きな胸を。そしてーー
「っ」
私のことを見下ろしながら、彼女は言った。
「正直に言えたら……いいよ。ここ、気になってたんでしょ♡」
脳の中心が熱くなり、やがて麻痺していく。無意識にポツリと何かを呟いていた私。さちさんは満足げに微笑むと、その場所を私の顔に押しつけたのだった。
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妄想。それ即ち自由である。
だから、私はたまにさちで妄想をする。色んなシチュエーションでさちと……イチャイチャする妄想。虚しくならないのかと言われると、それまでだけど。それでもさちへの想いを伝えられない私にとっては、それは一時の自由で。
だから、今宵も更に『物思い』に耽る。嗚呼、きっと明日も寝不足だ。
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