美緒、異世界じゃ生きていけないよぉぉぉぉ!!!! 作:名無しの権兵衛
「美緒、異世界じゃ生きていけないよぉぉぉぉ!!!!」
ぶる、ぶるんっ、と贅肉を揺らしながら緑色の小人、ゴブリンから逃げまどう美緒。
それを見てギャッギャッ! っと残虐な笑みを浮かべながら楽しそうに追いかけてくるゴブリンを見て、美緒はさらなる恐怖を感じて恐慌状態になってしまう。
「ぎゃっ!?」
べちゃっ
あまりの恐怖に足元が見えていなかった美緒は、木の根に足を引っかけてしまい惨めに転倒してしまう。
そんな醜い脂肪の塊がプルプルと震えて縮こまっているのを、ゴブリンはにやにやしながら近づいていく。
「ぎゃぎゃぎゃっ!!」
「ひいぃぃい! 痛い、痛いよぉぉぉぉ!!」
ゴブリンが棍棒で丸まっている美緒を殴りつけると、ブヒブヒと鳴き声を上げる。
しかしゴブリンの棍棒による攻撃は、美緒の分厚い脂肪のせいで痛みこそあるものの致命傷には至らなかった。
そもそも、この世界のゴブリンは、その小さな体躯もあって群れを成して狩りをする種族だ。ただあまり賢くないから、一匹で巡回中でも弱そうな獲物を見つけたらいたぶるように襲い掛かってしまう。
ゆえにこのゴブリンは、自分一人では美緒を狩ることができないということに気が付いていなかった。
「痛い! やめてよぉぉぉぉ!!!!」
痛みのあまり振り回した美緒の腕が、偶然ゴブリンの頭をとらえる。
「ぎゃぎゃっ!?」
小柄なゴブリンにとって、美緒の超質量との衝突は耐え切れるものではなかった。
ゴブリンはそのまま美緒の巨木のような腕に吹き飛ばされ、木の幹に頭を打ち付けて絶命してしまった。
「ひっ、もうやだぁぁぁぁ!!!!」
美緒はそのグロテスクな光景に耐え切れなくなり、先ほどまでゴブリンが持っていた棍棒を手にして走り出してしまう。
先ほど感じた死の恐怖と痛み、強烈なストレスによってバーサーク状態になってしまったのだ。
「ぎゃっぎゃっ」
「ひっ、ひいぃぃぃ!!!!」
そうして走り回っていくうちに、再びゴブリンの鳴き声が聞こえて再び恐慌状態になる美緒。
しかし殺気と違うところは、今彼女がバーサーク状態になっているということだ。
「もういやぁぁぁぁ!!!!」
バーサーク状態となっている美緒にとって、ゴブリンは『逃げ惑う存在』から『排除すべき存在』になっている。
それゆえに恐怖の対象であるはずのゴブリンに向かって猪突猛進し始めたのである。
「ぎゃぎゃっ!?」
「ぶもおぉぉぉぉ!!!!」
4匹のゴブリンの集団目がけて、巨獣が襲来する。
それはまさしく、ゴブリンたちにとっての災厄であった。
「ぎぎっ!?」
まず真っ先に哀れなゴブリンの頭を棍棒で打ち砕き、返す刃でもう一匹を吹き飛ばして絶命させた。
「ぎゃっ!?」
そして無謀にも立ち向かおうとしたゴブリンは、棍棒で頭部を兜割される。
「ぎゃっ、ぎゃぎゃぎゃっ!!」
そして残る一匹は目の前の化け物に恐怖し、恥も外聞もなく逃げ出し始めた。
「逃がさないよぉぉぉぉ!!!!」
しかし美緒は獲物の逃亡を許さず、手に持っていた棍棒をゴブリンめがけて投げつける。
かつて美緒は、図星を突かれて包丁を食卓に投げつけたことがある。
その際に投げられた包丁は食卓に深く突き刺さり、老いた母とはいえ抜くのに苦労したほどだ。
それほどの投擲のセンスがあれば、投げつけた棍棒が逃走するゴブリンの頭を打ち砕くのも自明の理であろう。
「はぁっ、はぁっ、ひぃっ!?」
ゴブリンの群れを単独で殲滅した美緒は、その興奮状態が収まり冷静になると、ようやく周囲の状況を認識した。
そもそも、なぜこんなところにゴブリンの群れがいたのか。
それは、ここで血まみれになって倒れている男が理由であった。
小豆色のスーツを身に纏い、一房にまとまった銀色の前髪と褐色肌が特徴的な男性が、おそらくゴブリンたちによってボロボロになっている。
「ひっ、いっ、いやぁ……」
そして力なく倒れるその姿を見て、美緒は自分の母が倒れた瞬間のことがフラッシュバックする。
「おかあさぁぁぁぁん!! どうしたらいいのぉぉぉぉ!!!!」
あの頃は自分の母の死にどうすることもできなかった。
「美緒、助けられないよぉぉぉぉ!!!!」
そして、美緒にはあの時と同じようにどうすることもできなかった……
美緒 48歳
配偶者 なし
子ども なし
生活能力 なし
生殺与奪の権 あり