異世界出身生臭プリーストはダンジョンの存在する現代で欲に溺れる   作:水色の山葵

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10話 対人スキル

 

「どういうことだ?」

 

 自然と声が低くなる。

 まるで友人にそうするように現れた探索者たちに手を上げる。

 それだけならいい。顔見知りに会ったのだと納得しよう。

 

 だが、その探索者たちは全員が武器を具現化させている。サーベル。直剣。槍。斧。杖。全部魔道具だ。

 今にも抜刀しそうな物々しい雰囲気で俺たち睨んでる。どう考えても尋常な状況じゃない。

 

「あぁ――」

 

 俺の言葉に答えるために洋平が振り返ったその瞬間、サーベルのような武器を帯刀した男が洋平向かって一気に走り、武器を振り上げた。

 

「何ッ!?」

 

 その瞬間、そいつが転ぶ。

 サーベルの男が手を付いた瞬間、更に連続して地面が爆ぜる。

 吹き飛んだ男は仰向けに倒れて気絶していた。

 

 それを合図にするように残った四人も次々と武器を構え始める。

 

「おいおい、そいつが勝手に転んで勝手に吹っ飛んだだけだろ? 俺にキレんなよ」

 

 洋平は明らかに煽る意志の籠ったニヤケ面でそう言った。

 

「テメェ!」

 

 そう叫んだ直剣の奴がサーベルの奴と同じように突っ込んで来て、同じようにコケる。

 だがさっきの爆発を見ていたこともあって、手を付くことなく踏みとどまった。

 

「糸だ! その辺に糸が張り巡らされてる!」

「ッチ、子供騙しが!」

 

 杖の声に苛立ちを隠そうともせずに足下に剣を雑に振って糸を斬る。

 ……けど、いつの間に張ってたんだ?

 

「オォ!」

 

 もう一度、改めて直剣の男が突撃してくる。

 横に剣が降りぬかれる様を洋平は笑みを絶やさずただ見ていた。

 当然斬撃はその身体を両断するように放たれるが、その瞬間、洋平の姿が霧のように消えて行った。

 

「よぉ」

「は?」

 

 その声は幻影のあった場所の下から響く。

 同時に剣を振りぬいた男が一瞬にして消える。まるで落ちるように。

 薄暗いダンジョン内ということもあって良く見えなかったが、足下に穴が空いているようだ。

 

 自分の姿の幻影を出現させるスキル。

 それに糸を張ってるのは魔道具か?

 後は地雷。あれも魔道具かスキルか判別つかない。

 そして一瞬で穴を掘った能力。

 更に……

 

「よっと」

 

 直剣を持った男が落ちた穴から洋平だけが戻って来る。

 

「ふざけんな! 出しやがれ!」

 

 と男が叫んでいるが、洋平は答える気もないようで胸ポケットから出した煙草を咥えて火を付け始める。方法は定かではないが、どうやら穴の中で拘束されているようだ。

 

 再三に渡る嘗めた行動。煽り。

 しかし怒りに染まったその表情でも急ぎ足で突撃はしてこない。

 

 二人が遠距離クラスっぽことも理由の一つだろうが、近づけばどんな反撃を貰うか分からない。

 それを理解したのだろう。

 

 残りの『槍』と『杖』と『本』はどうするか考えているようだ。

 

「なんだ。掛かってこないのか? それとも二人置いて逃げるか? まぁ無理だよな、こいつら尋問すればお前等の名前も住所も分かりそうだし」

 

 ようやく頭が追い付いて来た。

 行き成りダンジョンで探索者に襲われるなんて体験は初めてだったから。

 けれど冷静に考えれば、こいつ等の目的や強さも概ね判別できる。

 

 俺と良太は二人組。しかも最近プロになったばかり。

 なのに魔道具を手に入れる新たな方法を発見し、幾つもの魔道具で武装している。

 それに汎用スキルである〈宝物庫(インベントリ)〉の中にはまだ売り払っていない六等級魔道具が幾つか入っている。

 

「これってどういうことだい燈泉?」

「俺たちは魔道具を手に入れる新しい方法を見つけた。それによって十個近い魔道具を持ってる。プロなり立てでしかも高校生の雑魚が、だ。それを全部奪っちまえば数千万の利益になる……」

「たったそれだけのお金の為に、僕等を殺そうとしてるの?」

 

 それだけって、そりゃお前の感覚ならそうなんだろうけどな。

 馬鹿ってのは世の中に沢山いて、悪いことをして金を稼がないと生きられないくらいの貧乏人も世の中に沢山いる。

 こんなことのために命を賭けたり、人を殺そうなんて思考回路の人間は割と世の中に存在してる。

 

「あんたは分かってたのか? 最初からこうなるって」

「まぁそうだな、状況的にこういう馬鹿が湧くのは予想できた。けど俺がお前等のお守りをしてるのは別にそれに気が付いたからでも、協会からの指示だからでもねぇよ。ある後輩に頼まれてな」

 

 スゥと煙草の煙を吐く。

 まだ相手は動かない。

 どうするか相談しているようだ。

 今の内に〈脱出(エスケープ)〉を使うか?

 いや、相手の遠距離スキルが着弾する方が絶対早い。

 今使っても誰かを囮にでもしない限り絶対に発動しない。

 

「お前等だけ逃げてもいいぜ? けど、俺におんぶで抱っこでこの先なんとかなるのか?」

「分かってる。俺も戦わせてくれ」

「僕も。相手が人間だからって物怖じして動けなくなるのは、僕の目指すものじゃない」

「いいだろう。真ん中の杖の奴、あいつがあの中で一番強い。あいつは俺がやるから他二人は任せる」

「なんで分かる?」

「探索者はレベルアップすることで身体能力を大幅に向上させる。その度合いでレベルが分かるんだ。さっき突っ込んで来た剣士二人のレベルは1。あの槍と本はさっきの行動で何が起こったのか分からないって顔してたし、目も追い付いてなかったから同じレベルだろ。けど杖は、俺のやったことを理解してる顔してたし、目でも俺と剣士二人の動きを追ってた。〈視覚強化(ホークアイ)〉のスキルを使ってるか、レベルが2ってことだ。どっちにしても指示を出してるリーダーはあいつってことになる」

 

 ……目の動き、それに探索者の身体能力を見切ることでレベルを算出した?

 そんなこと……考えもしなかった……

 

 対探索者用の戦術。

 そんなのはネットを調べてもどこにも載ってなかった。

 そりゃそうだ。まず一番最初に悪用が思いつく内容だし。

 

 けど、こういう馬鹿は沢山いる。

 俺たちのレベルが上がって、俺たちの探索者としての地位が上がっても、同じような連中はきっと湧いてくる。

 そいつらに抗う方法が必要だ。対抗する手段が必要だ。

 知らなくてはならない。探索者を倒す方法も。

 

「分かった。良太、槍と本どっちがいい?」

「じゃあ僕は槍使いの相手をするよ」

 

 俺たちは左右に分かれ洋平から離れる。

 そうすれば上手い具合に槍と本が俺たちに一人ずつに付く。

 

 当然だ。相手は洋平の罠を警戒してる。

 その罠の圏外に雑魚だと思ってる俺と良太が出てくれば、そっちを狙えばいいという結論になる。俺たちさえ倒せば目的は達成できるのだから。

 杖は洋平の動きを警戒していて動けていない。

 だが、相手にとってもそれは同じ。

 

 洋平は杖の動きに注目して動かない。

 なら『俺と本』『良太と槍』の一騎打ちだ。

 

「ガキ、持ってる魔道具を置いていけ。そうすりゃ命まではとらねぇ」

「なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ?」

「じゃあ殺すぞ、クソガキ?」

「バーカ、お前じゃ俺には勝てねぇよ」

 

 人間を相手にするときに必要なこと。

 相手を侮らないとか動作を見抜くとか、それ以前に……

 

 今の敵の感情を正確に予測、もしくは誘導すること。

 

「ぶっ殺してやるよ! 来い、ゴブリンソルジャー部隊!」

 

 パラパラと捲られたページから靄が放出され、それは男の前で形を作っていく。

 召喚の魔道具。俺の『不死添いの指輪(ノーライフ・ネイバー)』と同じ系統か。

 

 けど使役できる数は敵の方が多い。

 剣を持ち革の鎧を纏った『ゴブリン』という緑色の小人のような魔獣が全部で六匹。

 

 ゴブリンは十等級の魔獣だ。

 しかし連携能力が高く、群れると一体辺りの等級が九に上がる。

 加えて剣と鎧による武装。八等級程度の性能はあるだろう。

 けど……

 

「はぁ……」

 

 こいつアホかよ。

 

 〈視覚強化(ホークアイ)〉と〈思考加速(ハイビジョン)〉を起動。

 俺はゴブリンの群れに突っ込む。

 

「何!?」

 

 幾ら数が居ようが所詮は八等級クラスの雑魚。

 クラスアップによる身体能力の増加と、コマンダーの意識加速と視野の広さがあれば十二分に近接戦闘を行える。

 

「馬鹿が、〈炎属性弾(フレイムバレット)〉」

 

 それは『ソーサラー』クラスのスキル。

 これで一つ目のクラスは確定。

 っても、前衛武装のゴブリンを六匹出した時点で遠距離クラスなのは分かってた。

 

「〈結界(シールド)〉」

 

 俺の発生させた六角形の結界と炎の弾丸が衝突。

 炎の弾丸は結界にヒビこそ入れたが、それだけで完全に消滅した。

 

 来る方向が分かってるなら、意識さえ残しておけばガードは可能。

 これがこいつのアホな理由。動いて角度を付ければある程度俺の意識を割けるのに、それすらせずにボッ立ち。スキルが使えるようになったら使うっていう一定のリズムを崩さないからタイミングまで読める。

 

 そのまま『霊冷棒(レレイボウ)』を具現化させゴブリンと殴り合う。

 棍棒で戦ったことはないが、俺自身も使えるようになっておいて損はない。

 

 それに所詮八等級クラスが六匹だ。

 遅れをとることはあり得ない。

 

「グゥ……」

 

 『霊冷棒(レレイボウ)』で頬をぶん殴ったゴブリンが、自分の頬に触れる。

 そろそろ気が付いてきただろう。

 この『霊冷棒(レレイボウ)』は相手の熱を奪い冷気を発す。

 

 アルにデンジャーゾンビ相手に使わせた時は、相手がアンデッドという熱をほとんど持たない種族であることもあってあまり効果を発揮しなかった。

 これは生物にこそ有効な魔道具である。

 

 ゴブリンどもの剣と『霊冷棒(レレイボウ)』が打ち合うたびに、そこに籠った火花を吸い込むように冷気が強くなっていく。

 

「〈詠唱:炎属性弾(フレイムバレット)〉!」

「〈聖域化(サンクチュアリ)結界(シールド)〉」

 

 〈詠唱〉という時間を掛けて次に使うスキルの威力を上げるスキルによって強化され巨大化した炎の弾が飛んでくるが、俺も〈聖域化(サンクチュアリ)〉によって強化した〈結界(シールド)〉を張って防ぎきる。

 

 〈詠唱〉する時間があるってことは俺にも〈聖域化(サンクチュアリ)〉を発動する時間があるってことなんだから簡単だ。

 

 つまり、お前がその位置から行う全ての動作に俺は対応できる。

 それに〈視覚強化(ホークアイ)〉と〈思考加速(ハイビジョン)〉を使っている俺の意表を突くのは至難の業だ。

 

 少なくとも角度を付けるために走ることすらしないお前じゃ、俺の意識は超えられない。

 

「なんで、あの六匹のゴブリンに囲まれた状態でこんなに精度の高いスキルを使えるんだよ……!? くっ〈ディフェンスブースト〉!」

 

 なるほど、サブクラスは『エンチャンター』か。

 ゴブリンの一匹が防御力上昇効果を受ける。

 しかし、防御を幾ら固めたってそんなのは時間稼ぎにしかならない。

 この状況を打開する手段には成り得ない。

 

「まだだ、〈パワーブースト〉・〈スピードブースト〉!」

 

 三種の強化を一体に纏めた。

 これは七等級くらいの強さにはなるな。

 だが、使うのが遅すぎた。

 

 そろそろゴブリンは限界だ。

 ところどころに氷を張り付けたゴブリンどもの動きは目に見えて悪くなっている。

 極寒は筋肉を委縮させ器用さや機敏さを奪う。

 

 今更能力を上げたところで、身体能力はそれほど上がらない。

 

 それに『霊冷棒(レレイボウ)』は生物と打ち合うたびに熱を奪い、冷気を増していく。

 武器は既に白い冷気を発しているし、ゴブリンどもももう数発で手先から凍てつき始める。

 

「くそ、なんでだよ!? 〈浮遊(レビテーション)〉!」

 

 ソーサラーのlv4スキル。

 それは空を浮遊し、自由に動くスキルである。

 

「お前のクラスはプリーストとウォリアーだろ!? じゃなきゃそんな近接戦闘能力がある訳ない。ってことは浮いてる俺を攻撃する方法はないはずだ!」

 

 なくはない。だがあいつもクラスアップして上位のスキルを持ってるはずだ。

 洋平の言葉を信じるなら上位クラスはlv1、だからスキルも一つのはず。

 それを警戒する意味でも、この切り札は使いたくないが……

 

「そうだな、やはり取っておくべきだな。――〈結界(シールド)〉」

「はっ、そのまま俺の炎に削られ死ねや! 〈炎属性弾(フレイムバレット)〉!」

 

 俺はその炎の弾を、身体を逸らして避ける。

 〈炎属性弾(フレイムバレット)〉の炎は後ろに居たゴブリンの一匹に命中した。

 それを見て、もしかして氷を溶かすために狙ったのか? とも思ったがゴブリンは焼けて完全に意識を失ってる。

 どうやら杞憂だったらしい。

 

「スキルを避けた……?」

 

 確かにあいつのスキルは拳銃にギリギリ及ばない程度の速度が出ている。

 だが……

 

「お前、手の平向けて炎出したら狙いバレるだろ?」

 

 今の俺の動体視力と思考速度、そしてお前のクセを見れば回避は容易。

 そして〈結界(シールド)〉のスキルは守るために使ったんじゃない。

 

 スキルを放った一瞬の隙を狙って、本の探索者の方向へ飛ぶ。

 俺の跳躍力程度じゃ全く届かない距離だが……

 

「こいつ……〈結界(シールド)〉を足場に……!」

 

 〈浮遊(レビテーション)〉のスキルは移動速度はそんなに速くない。

 飛んでるお前より、跳んでる俺の方が速い。

 

「〈炎属性弾(フレイムバレット)〉〈炎属性弾(フレイムバレット)〉〈炎属性弾(フレイムバレット)〉〈炎属性弾(フレイムバレット)〉〈炎属性弾(フレイムバレット)〉〈炎属性弾(フレイムバレット)〉!」

 

 連続で放たれる炎の弾丸をできる限り跳躍で躱し、

 

「〈〈〈結界(シールド)〉〉〉」

 

 の多重起動でどうしても避けられないものを選んで防御。

 

「同じスキルを三つ……同時にだと……?」

「よぉ」

 

 奴の頭上を取った、〈浮遊(レビテーション)〉の移動速度も見切っている。

 ソーサラーのスキルでもエンチャンターのスキルでも、ここからの回避は不可能。

 

 振り上げられた棍棒が叩きつけられるその刹那、男は地面の方へと視線を向けて力を振り絞るように叫ぶ。

 

「〈短距離転移(テレポート)〉!」

 

 男の姿は掻き消え、俺の棍棒は空振る。

 なるほど、それがクラスアップで得たお前のスキルか。

 地面の方へ視線を下ろすとゴブリン共に囲まれる場所へ、男は移動していた。

 

 馬鹿な奴だ。

 〈短距離転移(テレポート)〉なんてかなり当たりのスキルだろうに。

 それを使って多くの角度を付けて俺に炎の弾丸を打ち込んでいれば、俺の〈結界(シールド)〉による防御を崩せたかもしれない。

 

 けど、ゴブリンの元へと移動した奴はかなり青ざめた顔をしている。

 まるで船酔いしてるみたいだ。

 あの分じゃ連発できないんだろう。

 けどそんなのは努力を怠った言い訳でしかない。

 

 お前のスキルは全て見切った。

 これでやっと使える。

 

 『霊冷棒(レレイボウ)』の先端を奴等へと向けると、そこへ棍が纏った冷気が集中していく。

 

「〈霊冷波(レレイハ)〉!」

 

 蓄えた冷気を棒の先から放出する奥義。

 ある一定量の熱を奪った状態でなければ使えないが、その冷気の放出距離は三十メートルに及ぶ。

 

 氷の波動はゴブリン共も巻き込んで本の男へ直撃した。

 

「ご、め、ん、な……」

 

 それが誰に対して謝罪なのか俺は知らない。

 けれど、強く金を欲する人間は必ず、金を持っていない人間なのだということを俺は知っている……

 

 それでも情けはかけられない。俺は俺のために金を稼ぐと決めたのだから。

 己の欲のために他者の欲を踏みにじる。

 その矛盾を無視しても、俺は邪魔者を排除する。

 

 足下が完全に固まり、上半身も表面は殆ど凍っている。

 もはや動くこともままならず、しもやけによる激痛が続くだけだろう。

 

 さて、こっちは片付いた。

 俺は良太の方へ視線を向ける。

 

「はは、どうしたよクソガキ? ずっと守ってるだけかよ!?」

「……っ!」

 

 笑みを浮かべる槍使い。

 対して、苦虫を噛み潰したような表情の良太。

 

 攻防は一方的だった。

 

 良太はまるでいじめられる亀のように、黒い盾の魔道具を構えて槍を受け続けていた。

 

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