異世界出身生臭プリーストはダンジョンの存在する現代で欲に溺れる 作:水色の山葵
俺は煙草を吹かしながら二人の後ろを歩く。
子供のことも考えて嫁に家では吸うなって言われてから外で沢山吸うようになって、結局本数増えてる気がする。
こいつ等もガキだが副流煙とか言い出さないのは好感度が高い。
「ねぇ見てよ燈泉。この前の動画のお陰で僕のフォロワー数がなんと十万人突破したよ。そろそろテレビに出る時の立ち回りとかキャラ付け考えておかないとかな」
「良かったな。俺も使わねぇ魔道具やら魔核やら売り払ったら四百万以上になってほくほくだ」
はぁ……もっとガキらしい会話しろよ。
「なぁ良太も洋平もマジで金要らないのか?」
「僕は探索に必要な費用を出してくれるならそれで充分だよ」
「俺も今回の件は協会からの依頼だ。そっちから報酬は貰ってるから心配すんな」
しかし、金の話は探索者をやるなら今後絶対にぶち当たる課題だ。
それを今の内から考えられるのは良いことなんだろう。
まぁ通帳見ながらニヤついてるのも、スマホのフォロー通知でニヤついてるのも気持ちは悪いが。
「よし、それじゃあ今日行く中階層の話をするぞ」
リーダー役の燈泉が改めてそう話を切り出す。
中階層。ダンジョンの中でも一気に危険度が増すプロの領域。
大抵の探索者はここを満足に探索できずに心を折られる。
命がなくなる奴も珍しくない。
「ガイコツガーデンの中階層に出てくるのは『スケルトン』と『ゾンビ』の上位種だ」
立川燈泉。こいつは頭がいいって印象だ。
頭の回転はやたら速いし、発想も豊か、それに大人でもそういないレベルで落ち着いてる。肝が据わってるって感じ。仙人みたいだ。
それにこいつは探索者チームのリーダーに絶対的に求められるものを持っている。
目的、目標、それに対して努力するとか夢を見るとか、強い気持ちを保つとか、そういうのは二の次でいい。
そのチームの掲げる目的を達成する方法を確保する能力。
それが『実現性』。
こいつにはその才能がある。
情報を集め、敵味方の実力を理解し、目的に沿って逆算し方法を結びつける。
まだ発展途上な感じはあるが、こいつにはそんな力が確かにある。
「僕も一応調べたよ。スケルトンだけでもソルジャーとかアーチャーとかメイジとかバードとか、色々と種類も豊富みたいだね」
「スケルトン、ゾンビ、共に八等級と七等級が三種類ずつ確認されている。しかもスケルトンはスケルトンと、ゾンビはゾンビと連携してくるらしい」
「まぁけど、八、七等級ならそれでも問題ないだろう?」
そう息巻く良太の言葉はおおむね正しい。
確かにその程度の魔獣が相手ならフェアに戦えばこいつ等が負けることはないだろう。
特に良太の戦闘センスなら容易に倒せる相手だ。
西園寺良太。
こいつは馬鹿って訳じゃないが燈泉に比べると指揮能力は格段に劣る。
しかし戦闘時におけるIQと器用さは燈泉以上だ。
盾、剣、弓、そんな三種の武器を状況に応じて使い分ける器用さ。
敵の戦術を理解し、その対策を即席で構築する知性。
何よりもこいつの異常なところは、どんな状況でも周りを冷静に見れる力だ。
周囲の視線や位置関係を異常なほどよく見ている。
まだまだ粗の多い二人が噛み合えているのは、この力によるところが大きい。
「洋平、何か俺たちにアドバイスはないのか?」
良太との作戦会議を終えた燈泉が俺に視線を投げる。
俺も話は聞いていたがよく調べているという感想だ。
戦術ややり方に何か間違いがあるとも思わない。
強いて言うならあれか……
「そうだな……空にはちゃんと注意しとけよ」
「分かってる。雲の上にアレが徘徊しているんだろ?」
「即死必須の天災だってネットにも書いてましたよ。けど空模様を見てれば出現位置は特定できるし、特定してから十分逃げられる猶予があるらしいじゃないですか」
「まぁ分かってるならいい。あれと戦うことになったら俺でも逃げ切れんからな。あれに遭遇しないことはガイコツガーデンの中階層の必須事項だ」
そんな会話をしながら、俺たちは『ガイコツガーデン』の低階層と中階層を分ける『門』へと辿り着いた。
ダンジョンの出入り口でも見られるこの『門』は空間に入った亀裂のような見た目をしている。
中を覗いても銀河のような空間が広がるだけだが、その中へ入ることで全く別の場所へワープできる機能がある。
ダンジョン内ゲート。
それによって難易度が分かれている分、このガイコツガーデンは優しい部類だ。
他のダンジョンでは歩いてるだけでいつの間にか中階層だった、なんてこともあり得る。
ガイコツガーデンでは仮免がこの門を潜ることは禁止されているが、今の二人なら問題はない。
「行くか」
「うん」
歩き出した二人の後を追う形で、俺も門の中へ足を踏み入れた。
◆
「ここが中階層……?」
景色は今までの墓場とは打って変わり、夜の森へと変化する。
曇りで月も隠れているし薄暗いのは低階層と変わらない。
時間が固定されているのか太陽が昇ることはなく、それでも何故か樹は生えて背を伸ばす。そんな不思議空間だ。
「行くぞ、俺の〈
「うん」
この階層の地図は概ね他の探索者が完成させたものが出回っている。
燈泉もそれは暗記しているだろうが『コマンダー』の〈
ガイコツガーデンの中階層の地形情報を毎週ネットに上げてくれる親切な探索者なんている訳もないから、自分の〈
そのまま数分歩けばすぐに敵は現れた。
両腕を剣と盾のように変形させたスケルトンが二匹。
外骨格のような骨を纏ったスケルトンが一匹。
杖を持ったスケルトンが一匹。
(スケルトンソルジャー二匹。スケルトンガードナー一匹。スケルトンメイジ一匹。けどスケルトンアーチャーが近くに隠れてる可能性もあるから注意。それと飛行系のスケルトンバードの突進は強い風切音がするからそれで回避しろ)
コマンダーの〈
〈
だから活舌とか無視して伝えたいことを伝えられるし、普通に口で話すより早く情報を送受信できる。
それにこっちの言葉を理解できないスケルトン相手の今は関係ないが、敵に相談が聞かれないってのも利点の一つだ。
指示の内容も的確で簡潔だった。
スケルトンメイジは攻撃してくるときに強い光を発生させる。だから隠密しても意味がない。近接系は見晴らしのいい場所で戦えば奇襲は不可能。
逆にスケルトンアーチャーは弓で攻撃してくるから隠れて攻撃してくる場合がある。
スケルトンバードは上空から突進してきやがるから、この階層に居る限り常に気を使わなければならない相手だ。
良太もそれは理解しているのだろうが、燈泉は敢えて口に出すことで気持ちを引き締めさせた。
「【
「聖剣プライム」
両手に〈
二人は同時に目の前の相手に突っ込む。
〈身体強化〉と〈
スケルトンソルジャーは良太の太刀を盾で受けたが、豆腐でも切り裂くように斬撃は身体へ進み一刀両断して見せた。
〈
「次……」
小さくそう呟いた良太の顔を目掛けて矢が飛んでくる。
しかし、〈危機察知〉でそれを知覚していた良太は首を逸らす。
矢は喉元すれすれを通過していった。
けど多分、アーチャーが隠れられそうなところを予見してそいつが攻撃してきそうな位置に態と陣取ってた感じだな。
〈危機察知〉を持ってない燈泉に奇襲が行かないように……
(俺がスケルトンガードナーとメイジをやる。お前はアーチャーを狙え)
(了解)
スケルトンアーチャーの位置を特定した良太が、飛来する弓を直剣で切り裂きながら突撃する。
それをカバーするように放たれたスケルトンメイジの風は燈泉の〈
スケルトンガードナーの防御力は〈
その間に放たれるスケルトンメイジのカマイタチのような攻撃も全て〈
その時には既に良太の方もアーチャーの首を落としていて、勝敗は決していた。
マジかこいつら……
高校生で、しかもプロになって数日で……
こんなに鮮やかに中階層の魔獣を倒せる奴なんて見たことねぇ。
こいつ等が戦っているのを見るたびに思う。
こいつ等は、俺が見てきたどんな探索者よりも強い才能を持っている。
探索者協会のメンツなんてどうでもいい。
相羽マヒロに頼まれたからやってたが、それ以上に思う。
こんなとんでもない才能を、ここで終わらせるわけにはいかないと。
「魔核銃リボルゲイン」
リボルバー型の魔道具であり、『魔核』と呼ばれる物質を込めることで弾丸を生成する効果を持つ俺の武器だ。
魔核とは名前の通り魔獣の核となる物質だ。
通常魔獣は死ぬと肉体を消失させる。しかし魔核と呼ばれる結晶体だけはその場に残る。これを回収して売るのが探索者の魔道具売却以外の基本的な稼ぎだ。
そのため汎用スキルの〈
で、俺のこの五等級魔道具『魔核銃リボルゲイン』はその魔核を弾丸にする。
五等級魔道具の中では破格の威力を誇り、更に使用した魔核の等級によって威力が上がる。
だが、六発につき一個の魔核を使うせいで使うと赤字になり易いのが玉に
手持ちの七等級の魔核を銃に込め、銃口を空に向けて二発打ち込む。
「なんだ?」
骨でできた鳥。スケルトンバードが身体に風穴を開けて地面に降ってくる。それは直ぐに肉体の消失を始めた。
「助かった。けど俺も音で気が付いてたぞ?」
「分かってるよ。けどあの二羽がいるとこいつ等の対処が難しいだろ?」
そう言った瞬間、上からゾンビの頭が降ってくる。
「ほら、
俺の声に反応し二人は降ってきた頭から自分を守るように〈
同時にゾンビの頭が火花を散らして爆発する。
俺は少し下がって爆発範囲から逃げた。
ボムゾンビ――この階層に出現する七等級の魔獣の一種だ。
腐った頭だけで活動する魔獣で敵を見ると転がってきて爆発する。
爆発力はそれほどじゃないから至近距離で食らわない限りダメージはほぼない。
上から降ってきたのはスケルトンバードがボムゾンビを抱えてたからだ。
俺が撃ち落としてなかったら追突に対応した二人を爆発が襲ったことだろう。
「ウォォォォォォ!」
だが、こうして驚いてる間に音に引かれた他のゾンビがやってくる。
「ほら動け動け。あのうるせぇ奴倒さないと一生ゾンビとスケルトンが寄ってくるぞ?」
ゼッキョウゾンビ。
通常種と同じ腐った肉体に加えて、口が裂けたような見た目をしているのが特徴だ。
攻撃してこないし強くもないが、敵を見つけるとああやって叫び続ける。
まるで他の魔獣を呼び寄せるように。
(良太、お前があの叫んでるのを狙え。俺は援護しながら他をやる!)
(あぁ、分かった!)
ウォリアーを前に出しプリーストが援護に回る。
セオリー通りの戦術だ。
しかし……
「くっそ、こいつ想像より速ぇ」
ゾンビはスケルトンとは違う。
機械的な動きのスケルトンに対して、ゾンビの動きはかなり不規則だ。
それに筋肉がある分スケルトンよりも特化した身体能力を持っている。
例えば『ゾンビキッズ』。
八等級に分類されるこの魔獣は脚力に特化した性能をしている。
だがそれだけならコマンダーのスキルで意識を加速し、視野を広げている燈泉なら追えるだろう。
実際、目にするまでは燈泉もそう思っていたようだし。
だが実際はただ速いのではなく、関節の動きをほぼ無視したドリフトが面倒な相手だ。
ウロチョロと細かく走行方向を変えながら走るせいで動きが読み難い。
「〈
燈泉は
更にそこに『イヌゾンビ』が加わる。
速度はゾンビキッズほどではないが同族の群れで行動する種だ。
こいつはゾンビキッズとは違って人の身長と同じくらいのジャンプをしてくる。
足下のゾンビキッズに釣られてる内に頭から噛みつかれる、なんてのはよく見る光景だ。
「この! 退け!」
良太が相手をしているのはゼッキョウゾンビを守るように立った『デブゾンビ』だ。
役割としてはスケルトンガードナーとほぼ同じ。後衛を守る盾役だ。
しかし酸を吐き出すという遠距離攻撃手段を持っている。
それが適当にまき散らされるせいで良太は上手く近づけていない。
それを見るや直剣の具現化を解除し、弓の魔道具を出現させるのは流石だが、ゼッキョウゾンビに目掛けて放った矢はデブゾンビの腹に阻まれる。
矢に込められた〈
それを避けるために下がれば、ゼッキョウゾンビは絶叫を上げながら後ろへ逃げていく。それを見たイヌゾンビやゾンビキッズがゼッキョウゾンビをカバーするために燈泉から離れて良太へ向かう。
その対処に手間取られ、更に時間が経過していく。
別に二人が下手な訳じゃない。弱い訳でもない。
けど、今までほとんど『スケルトン』種としか戦ってこなかった経験の差がでている。
スケルトンはオールラウンダーに近い強さだ。
攻撃力も防御力も速度もそれなり。
しかしゾンビ種は違う。能力の平均が高いのではなく、特化した能力値を持っている。
爆発であるように。速度であるように。数であるように。攻撃された時に発動する酸であるように。毒を纏った奴や絶叫を上げて敵を呼び寄せる奴……
そういう搦め手が得意な種族だ。
経験がなければ適切な対処は難しい。
その種の特徴や能力は二人共調べているんだろうが、それでも実際に見るのは初めて。スケルトンに比べて対処が遅くなるのはしょうがない。
だがそれも最初だけだ。
目が慣れれば……
「いい加減にしろよ!」
「光れ! 聖剣プライム!」
燈泉がイヌゾンビとゾンビキッズに対処できるようになった。
動きの性質を見抜いたのだろう。
犬は指示を出してる個体がいる。そいつの動きに注目すれば全体に出されている指揮の内容を推察することができる。
キッズはただ周りをウロチョロしてるだけだ。攻撃力も防御力も雑魚だから無視してれば何も役割を熟せず自分から突っ込んでくる。
その時カウンターを合わせれば簡単に倒せる。
良太の方はもっと単純だ。
スケルトンと違ってゾンビは『眼球』を使って周囲を知覚している。
なら聖剣プライムの『刀身発光』を使えば動きは止まる。
二人とも数分で敵の動きを見抜き、もしくは止める方法を探し出し、ゾンビを倒せるようになってきた。
だが時間を掛け過ぎている……
カカッと骨が鳴るような音と共にスケルトンの上位種が寄ってきた。
スケルトンソルジャーが五匹。スケルトンガードナーが三匹。スケルトンアーチャーが三匹。しかも上空にスケルトンバードが数羽集まってきている。
それにゾンビの増援も追加だ。
人数がもっと多ければ。対応がもっと早ければ。もっと魔獣の密集率が少なければ。良太がクラスアップしてれば。燈泉にも遠距離攻撃手段があれば。
何か一つあれば状況は大きく違ったはずだ。
問題は幾つも浮上し、新人とは思えない速度で解決している二人だったが、それでも問題が発生する速度の方が速い。
これが中階層の難易度だ。
「こいつら……クソ……読み辛ぇ……」
目の前で起こるのはスケルトンとゾンビの連合による俺たちへの攻撃――ではない。
スケルトンとゾンビと、俺たちとの三つ巴だ。
乱戦になると誰が誰を狙って攻撃しているかが目まぐるしく変わる。
気を割かなくてはならないものは、単純な二陣営での攻防より多くなる。
個体ごとの特性と射程に加えて敵の狙い。食らっていい攻撃とダメな攻撃の取捨選択。お互いのカバー。交戦するべきか逃走するべきかの判断。
特に燈泉の思考に圧を掛けていく。警戒が脳のリソースを大量に持っていく。
そうして次期に処理が追い付かなくなって、怪我を負って、もっと辛くなって、死ぬ。
そろそろ手助けするか……
そう思って二人を見直したが、二人は俺の方を一切見ていなかった。
嘘だろこいつ等……こんな状況になっても、助けて欲しいなんて微塵も思ってないってことかよ。
「来い、アル!」
燈泉が指輪の魔道具によって使役する
更に棍棒と羽衣の魔道具をキョンシーに持たせる。
一日三十分しか使えない切り札。それを立ち入って一時間も経たない状況で切らされてる。それだけ追い詰められてるってことだ。
なのに、まだ、その目は全く諦めていなかった。
「って馬鹿か俺は。見入ってる場合じゃねぇ」
これ以上魔獣の数が増えれば俺でも捌き切れなくなる。
「〈〈パワーブースト〉〉〈〈スピードブースト〉〉〈〈マジックブースト〉〉」
俺のサブクラスは『エンチャンター』。
腕力強化と脚力強化のスキルで二人の基本戦闘能力を上昇。
更に〈マジックブースト〉は二人が使うスキルの効果を増加させる。
「同時にスキルを六つだと……?」
「これがプロか……まだまだ遠いな……」
「感覚ちょっと変わるけどさっさと慣れろよ。あとお前等、真面に戦う意味ねぇぞ」
そもそも探索者がダンジョンに入る目的は魔道具と魔核を獲得して金を稼ぐためだ。
別に出てきた魔獣全部ぶっ殺す必要なんかねぇ。
「……はぁ」
落ち着くように息を吐いた燈泉は小さく「確かにな」と頷いた。
(逃げながら戦う。洋平、援護してくれ)
(あぁ、良い判断だ)
俺に手伝わせるのは嫌なはずだ。
協会にそれを報告されれば『やっぱりまだ実力不足だったのだ』と思われることになる。
けれど、ここで死ねば元も子もなくなる。
それをしっかりと燈泉は理解している。
(俺の後ろに向かって走れ)
((了解))
『アサシン』のスキル〈
これは自分だけ透かして見れる煙幕を巻き散らすスキルだ。
二人が俺の後ろに走ったのを見てから起動。
生命そのもの見ているスケルトンには無意味なスキルだが、ゾンビには効果はある。
機動力の高いイヌゾンビとゾンビキッズを足止めするのが一番大事だ。
煙幕が広がるのと同時に俺も二人を追うように走り始める。
走りながら通った道に幾つものスキルを配置する。
〈
俺のメインクラスは『アサシン』からクラスアップした『
ソロで中階層を突破することも可能なクラス。
しかし上階層以降では全く通用しなかったクラスだ。
「〈
エンチャンターのスキルで設置した罠に属性を付与していく。
罠に掛かったゾンビは筋肉が麻痺して止まるはず。
スケルトンは止まらないが、奴等の速度なら俺たちには追いつけない。
それに殿は『アル』というキョンシーがやってくれてる。
だから問題はスケルトンバードだ。
上から俺たちを見て追跡してきやがる。
リボルゲインで撃ち落としているが、樹の枝が邪魔で射線が少し厳しい。
もっと背の高い樹がある森の奥へ行って視界を切るか?
いや、森の深くへ行けば魔獣の密集率が更に上がる……
(洋平、一度止まるぞ)
(は? 正気かよ? まさか足が痛いから休ませてとか……)
(違う。あいつ等を一網打尽にする策がある。……これはお前の協力前提だから少し悩んだが、こうなったら仕方ない)
こいつ……逃げながら魔獣を全滅させる方法を考えてたのか?
余裕ありすぎだろ……
というか一網打尽って、今追いかけてきてる敵の数は三十匹以上だ。
ゼッキョウゾンビの声と戦闘音によって呼び寄せられたアンデッドに加えて逃げてる最中に見つかった奴等も何体かいる。
どんどん数は増えている。
それを全部倒すだと……?
そんなの俺でも無理だぞ……
(言っとくが真面な殴り合いじゃ俺だけで全滅させるのは無理だぞ)
(
俺のクラスには致命的な弱点がある。
『味方にも罠が発動する』ということだ。
だから俺はソロでしか探索できなかった。
俺のスキルに合わせられる味方は誰もいなかった。
相羽マヒロですら、俺がスキルを控える形でしか協力できなかった。
それが、俺が中階層までしか通用しなかった理由。
三十五歳まで探索者に縋った理由。
三十五歳で探索者を辞めようと思った理由。
いつか、俺とチームを組めるような探索者が現れるかもしれない。
そんな希望があったんだ。
でもこの歳までそんな奴は現れなかったから……
「はっ、面白ぇ。俺をチームとして運用する方法があるってんならやってみろよ燈泉」
「了解した。二人共止まれ」
まだ俺たちを追っているアンデッド共の知覚外には逃げられていない。
数十秒もすれば四十匹以上のアンデッド共が追い付いてくる。
「どうするんだい燈泉?」
「洋平、まずは〈
「あぁ、分かった」
〈
触れられれば解除されるし、温度とかもないからスケルトン種の生命感知なら偽物だとバレる。
なんの意味があるって言うんだ……
それを燈泉が出した羽衣型の魔道具『
「次に〈
〈
「良太、盾を出しておけ。それと〈
「分かった」
「何する気だよ?」
「説明してる時間がない。二人とも穴に入れ」
俺と良太は二人で穴に入った。狭ぇ……
「おい、お前はどうするんだよ!?」
穴の中からそう叫ぶと燈泉は短く言葉を返す。
「俺は、見る」
地面の振動がどんどん激しくなっていく。
追いかけてきていたアンデッドが寄ってきてるんだ。
「3、2……」
燈泉がカウントを始めた。
なんのカウントだ?
「1……よし!」
そう言った燈泉が穴に降ってくる。
「うっ! 先に言えよ!」
「ナイスキャッチ」
なんで俺が男を抱えなきゃいけねぇんだ。
「良太、穴を塞げる最小範囲の〈
「オーケー、〈
〈
対して〈
実質的に〈
「〈
それが良太と燈泉のものを合わせて二枚出現する。
「俺の上に乗っていいから盾を上に構えろ」
「了解!」
「おい、二人も乗るな!」
ガキどもは俺の話なんて無視して動き始める。
今は穴の中で〈
おい、こんな体勢で何しようって……
「ウォォォォォォ!」
「カカカカカカ」
ゾンビの絶叫。
骨の鳴る音。
それが大量に穴の上から聞こえてくる。
半透明のシールドの向こうに目いっぱいのアンデッドが張り付いて〈
幾ら硬度を上げたからって、このままじゃ何れ壊されるぞ……
「よし、今だアル。――〈
そんな命令口調が引き金となったように、頭上から大量の冷気が降ってくる。
それは一枚目の〈
吹雪のようなそれは良太の盾で受け止められるが、その表面を凍らせている。
数秒、冷気の奔流が地表を埋め尽くしたところでそれはやっと止まった。
〈
「マジかよ……」
解除された結界の奥にあった氷を割って外に出る。
穴の周辺の地表は完全に凍結。
全てのアンデッドは氷の中に閉じ込められていて、すでに消滅が始まっている。
……マジで全滅させちまいやがった。
「ははっ、流石燈泉……僕のリーダーなだけはある……」
「つっても洋平が居なきゃ無理だったし、幾つも条件があるから何度も使える手じゃない。俺たちだけで中階層をどうにかするのは無理だった。それが今回の結果だろ」
「そうだね。もっと強くならなきゃ」
「もう少しあんたに護衛して貰わなきゃいけないみたいだ」
「マジか……クソ……」
「……洋平さん?」
「どうした?」
災難は終わらない。
まるで新参者を嫌うようにその災厄はガキ共に襲い掛かる。
それは正しく『天災』であって遭遇する確率はかなり低い。
そもそも雲の中から現れるそれは、空に気を使っていれば事前に逃げることができる。
だが、穴の中にいた間はその警戒が無理だった。
でも、だからって、どんな確率だよ……
ガイコツガーデンの中階層には二匹の化物が存在する。
【カキュ】
【グルゥ】
骨と腐肉で形作られたこの階層の魔獣の王。
スケルトンとゾンビを率い戦い続ける幻獣。
スケルトンの王・三等級魔獣【骸龍ボルドメルグ】。
ゾンビの王・三等級魔獣【屍龍ガイゼル】。
それは目撃した時点で全力で逃走しなければならない天災と呼ばれる二頭の『ドラゴン』である。
そんな二頭が揃った状態で、頭上より俺たちを睨みつけていた。
コマンダー
:情報を扱う能力
lv1〈
lv2〈鑑定〉
lv3〈
lv4〈
lv5〈
ウォリアー
:前線での戦闘能力
lv1〈身体強化〉
lv2〈
lv3〈危機察知〉
lv4〈
lv5〈