異世界出身生臭プリーストはダンジョンの存在する現代で欲に溺れる   作:水色の山葵

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8話 最初と最後

 

 

 ――黄金に泥酔した異端の教祖よ。其方の終点、我欲によって世界を覆うか、それとも矮小に潰れるか、我等がそれを見届けよう。前人未到を目指すその足掻きを誰もが愚かと嗤うだろう。されど眠れる金獅子は闇夜の世界でこそその輝きを格別のものとする。

 

 

 ――其方の行く末、これより先に敗北はない。何故なら『死』は、其方の友愛を拒むことなどできないのだから。

 

 

 ――『清浄』と『金欲』を司る遺灰の王よ。其方の存在に名を与えよう。

 

 

 ――名を【金骸浄王(GARBAGE・KING)】。

 

 

 ――夢忘れるな、其方の生様在様(いきざまありよう)を。目指すべき終着は、その先にしか存在せぬことを。

 

 

 ◆

 

 

「気分はどう? 体調に問題はない?」

「平塚さん……?」

 

 周囲を見回してみるとそこは学校の保健室のような部屋だった。

 しかし、俺が通っている高校の保健室よりは広くて整っているし、それに平塚さんが目の前に居る以上、高校の保健室って可能性はないだろう。

 

「憶えてる? 燈泉くん、本免を取得してクラスツリーをアップグレードするための手術を受けてたんだけど、急に気絶しちゃって……」

 

 そうだ。俺は良太と一緒に協会にやってきてクラスアップを可能とするための手術を受けていた。

 クラスツリーを取り外し、最新の物へ更新して張り直すだけの失敗も心配もないはずの手術だった。

 

 なのに、最新のクラスツリーを張り付けた瞬間、変な声と一緒に俺は気絶したんだ。

 

 そうだ、あの声はなんだったんだ?

 

「燈泉! 大丈夫か!」

 

 部屋の扉が開き良太が血相を変えた表情で入って来た。

 こいつも別の部屋でクラスツリーのアップグレードをしてたはずだ。

 

「おう、そっちも終わったみたいだな」

「気絶したって聞いたけど大丈夫なのか?」

「あぁ、見ての通りだ。別に異常もない」

 

 俺がそう言うと良太は安心したように胸を撫で下ろしていた。

 

「初日からいきなりやってくれる新人だな、全く」

 

 良太の後ろから入って来た三十代くらいの男は、そう言いながら頭を掻いている。

 

「誰だあんた?」

三上洋平(みかみようへい)。お前らの先輩でお目付け役ってところだ。仲良くする必要はねぇが言うことは聞けよ?」

「三上さんは凄いのよ。もう十五年もプロの探索者をやってるんだから」

「やめてくれよ平塚さん。それだけ才能がないって話だから」

「ちょっと待て、一緒に探索するってことか?」

「最初だけな。協会の上層部としても自分たちが認めて高校生でプロに上げた奴等が速攻死んじまったら信用に関わるんだよ。だから俺みたいな適当な探索者を子守りにしたって訳だ」

 

 めんどうな話だな。

 けど、この提案を蹴って揉める方が面倒か。

 それに現役が長い探索者なら色々と知識を吸収できる。

 利点があるなら放っておけばいい。

 

「立川燈泉だ。よろしく三上。あぁ、敬語使った方がいいか?」

「いらねぇよ。むず痒い」

「あ、僕は西園寺良太です。僕は敬語使うので安心してくださいね三上さん」

「じゃあ良太に三上、さっさとダンジョン行くか。平塚さん、迷惑かけてすいませんでした」

「いいのよ全然。無理しない程度に頑張ってね」

「なんで平塚さんには敬語なんだよこのガキ……」

 

 この人には色々借りがあるからな。

 

 休憩室を後にした俺たち三人は早速『ガイコツガーデン』へ向かう流れになった。

 

 

 

「それで、来たはいいけどすごく混んでるね……」

 

 数日前までは俺たち以外に誰もいない寂びれた空間だったが、俺たちが齎した情報によってガイコツガーデンの低階層は今かなり混んでいる。

 

 一つ数十万。五等級なら数百万の魔道具がまだ幾つも眠ってると思われる場所だ。

 しかも出てくる魔獣は殆ど十等級のスケルトン。

 今この場所は多分日本で一番ローリスクハイリターンの狩場だ。

 

「こうなってるのは想定内だ。俺たちはもっと奥に行く」

 

 本免を手に入れた俺たちは低階層以外も探索できるようになった。

 基本的に全てのダンジョンは探索者協会によって『低階層』『中階層』『上階層』『深階層』『真階層』の五つに分けられている。

 

 低階層は仮免でも十分に通用する階層。

 中階層はプロでも新米には少し厳しいくらい。

 上階層は慣れてきたプロの入る階層。

 深階層は基本的に上位の探索者が行く場所。

 真階層はまだ誰も立ち入ったことがない未知の領域および、入った探索者が数名しかいない危険度未知数の場所を指す。

 

「おいおい、プロになって初日にもう中階層に行く気か? 最近の若者は随分と急ぎ足だな」

「心配しなくてもこのダンジョンの公開情報は全て頭に入ってる。策がない訳でも敵を侮ってる訳でもない。それに、いざとなったらあんたが助けてくれるんだろ?」

 

 探索者歴十五年。

 平塚さんの言葉が正しいなら、三上はかなりダンジョンや探索者のことに詳しいはずだ。

 本来、探索者の活動寿命っての25歳くらいまでだ。

 それ以降は反射神経や身体能力で大きくデメリットを負うことになる。

 

 つまり、このおっさんのピークはもう十年近く前に終わってる。

 なのにまだ生き延びて、しかも探索者を続けられるってことは相当に慎重なやり方をしてるってことだ。

 

「それに俺の言ってることが無茶なら、無理矢理にでも止めればいいだろ。あんたには俺たちを脅せるだけの権限があるはずだ」

「どういうことだい燈泉。この人は僕たちの護衛みたいなものじゃないのか?」

「それだけじゃないはずだ。そもそも協会が認めて飛び級させた人間が死ぬのがまずいって言うなら、もし俺たちの実力が全然足りなかったらどういう対応を考えてるのかって話になる」

 

 そんなのは一つしかない。

 プロに上げた奴が死ぬのがまずいなら、プロじゃなくせばいい。

 

「立川、お前は俺がどういう役割を持ってお前たちに付いて来たと思ってるんだ?」

「……おそらく、試験官。俺と良太が中階層以降で通用するか見極める役目。違うか?」

「はぁ……嫌味な奴だな。それを分かってて、知らん顔してここまで俺と歩いてたのかよ」

「本当に……そういう理由なんですか?」

「あぁ。別に試験官をしろなんて言われてる訳じゃないが、俺が見聞きした出来事は上に報告するように言われてる。ようするにそれを見て上が決めるってことなんだろ。お前等の昇格には『相羽マヒロ』のごり押しが理由の大半を占めてるからな」

 

 まぁ、順調にことが進み過ぎているとは思ってたよ。

 相羽マヒロが進言したのは俺たちの『昇格』だけで『降格』については何も言われてないってことなんだろう。

 

「けど、そんなおっさんから忠告としてはランクアップするまでは中階層には行かない方がいいと思うぞ? 低階層とは魔獣の量も強さも全然違うからな。お前等だって『初日に中階層に行って何もできずに撤退しました』なんて報告書かれたくないだろ?」

 

 別にこのおっさんは俺たちの戦いなんて一度も見てない。

 逆に言えばだから判断しようがないのだ。

 そしてほとんどの探索者はいきなり中階層で通用しない。

 そんな経験が見て取れる。

 

『短い時間で長大な経験を持つ者と同じだけの知恵を得る方法は一つしかない。それは長大な経験を持つ者に教えを乞うことだ』

 

 俺の記憶にある冒険者はそう言っていた。

 この記憶は俺が持つ唯一のアドバンテージだ。

 

「分かった。入口付近ほど混んでるから低階層の中で一番奥の場所で狩りをしよう。良太、数日は装備してきた魔道具の確認とスキルや連携の合わせに当てるぞ」

「うん、了解。僕はそれで構わないよ。そもそも高校一年の夏前にプロなんてすでに上出来もいいところなんだから」

 

 分かってるさ。

 けど俺たちが目指すものを考えるとどうしても焦ってしまう。

 自分の力量に合ったペース。

 無理をするべき場面とそうじゃない場面の取捨選択。

 それを学ぶなら十五年も現役やってるこのおっさんはきっと適任だろう。

 

「それと燈泉でいいよ。おっさん」

「おっさんはやめろ。俺も洋平で構わんよ」

「そうか。なら洋平、改めてよろしく頼む」

「よろしくお願いします、洋平さん」

「それと監査の片手間でいいから中階層のことを教えてくれよ」

「お前、このダンジョンのことは調べてるんじゃなかったのか?」

「ネットや協会のデータベースで調べた情報より、探索したことがあるあんたに聞いた方が確実だ。それにあんたからなら『楽なやり方』も聞けるかもしれない」

「準備を疎かにする気はないってことか。いいだろう、知ってることは答えてやる。これが俺の最後の仕事だしな」

「最後?」

「引退するんだよ。この仕事が終わったらな」

 

 少し寂しそうな顔で呟かれたその言葉に俺と良太は返す言葉もなく。

 俺たちは三上洋平の監視のもと、自分たちの戦術の確認を始めることにした。

 

「良太。取り敢えず試したいことがあるから上位種は俺が相手していいか?」

「一人でかい? また五等級が出たら危険だよ」

「心配するな。魔道具を使うし、それに俺の新しいクラススキルも使ってみたい」

「新しいスキルって……はは、まるで本免取得初日でクラスアップしてるみたいに聞こえるんだけど?」

 

 クラスアップやその後のレベルアップは、基本クラスの頃より圧倒的に多くの経験を必要とする。

 ただ魔獣を倒せばいいという訳ではなく、あらゆる探求を成功させることでその真価は姿を現す。

 

 より強い魔獣。より深い階層。長時間の戦闘や短時間でどれだけ敵を倒せるか。

 見極める力やスキル活用の閃きなど、色々な要素が複雑に絡み合い、総合的な力量と経験が一定レベルに到達することでクラスアップやレベルアップは発生する。

 

 だから本免取得者でもクラスアップまで半年以上かかるなんて話もザラだ。レベルアップにはもっと時間がかかる。

 

 だからクラスツリーを確認した時は俺も驚いた。

 まさかこんなに早く、クラスアップできるとは思ってなかったからな。

 でも、洋平が止めてくれたのはありがたかったな。

 覚醒したからって調子に乗った状態で突っ込めばしっぺ返しを食らってもおかしくない。

 

 調子がいい時ほど慎重さを忘れないようにするべきだろう。

 だからここで実験しておく。

 

「【金骸浄王(GARBAGE・KING)】。それが俺の『プリースト』が進化したクラスの名前らしい」

「ガベージキング? まさか本当に……」

 

 クラスアップによる恩恵はスキルの獲得だけではない。

 基本クラスとは比べ物にならない身体能力の上昇補正。

 マスタークンフーキョンシーほどではないにしろ、その辺の熊やライオンなら素手で倒せるパワーとスピードを俺は手に入れた。

 

 それに……

 

 キョンシーが封じ込められた『不死添いの指輪(ノーライフ・ネイバー)』。

 キョンシーが落とした棍棒型の五等級魔道具『霊冷棒(レレイボウ)』。

 そして相羽マヒロが倒したゴーストから出た羽衣型の五等級魔道具『幻想娘々(ファンタジーニャンニャン)』。

 

 も使ってみたいしな。

 

「って訳で洋平、勘違いを一つ訂正させて貰うよ。俺はもうクラスアップしてる。だからそれを見た上で中階層で通用するか判断してほしい」

「おいおい……冗談だろ……」

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