異世界出身生臭プリーストはダンジョンの存在する現代で欲に溺れる   作:水色の山葵

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9話 知名度

 

「アル」

 

 一つ目の魔道具『不死添いの指輪(ノーライフ・ネイバー)』によってキョンシーが呼び出される。

 アルっていうのは名前だ。命令するときに文字数が少ない方が呼びやすいから付けた。

 

 次に『霊冷棒(レレイボウ)』と『幻想娘々(ファンタジーニャンニャン)』を具現化し、アルへ渡す。

 

「アンデッドを呼び出す魔道具と、その呼び出したアンデッドに装備させるための魔道具二つって正気かよ……」

 

 洋平の笑いの籠った言葉を無視し、俺はアルへ命令を出す。

 

(敵を倒せ)

 

 俺の意図は知性の欠けるアルにも正確に届く。

 それは俺がクラスアップしたことで得た新たなスキル〈伝達心骸(ボーンコネクタ)〉の効果の一部。

 アンデッドの意志を理解し、こちらの意志をより正確に理解させることができる。

 

(はい)

 

 アルより了解の意志が伝達され、それと同時にアルが一気に加速。標的である筋骨隆々のゾンビのような外見をした『デンジャーゾンビ』へ飛び掛かる。

 

 クラスアップした俺の身体能力でも全く届かない加速力と膂力。

 さらに『霊冷棒(レレイボウ)』という棍型の魔道具によって射程と攻撃力は増加しており、その特殊効果によって打撃を命中させるたびに昆は冷気を纏い始める。

 

 『霊冷棒(レレイボウ)』の特殊な効果は敵から熱を奪い、それを棍棒内で冷気へと変換する。端的に言えばプラスをマイナスに変化させて吸収する技。

 同時に『幻想娘々(ファンタジーニャンニャン)』の魔道具によってアンデッドは怯む。

 

 その効果は幻惑に近い効果を持ち、所持者を対象の『最も愛する者』の姿に見せる。

 五等級魔道具にも関わらず、その売値は一千万円を超えるかなり需要の高い魔道具だ。

 

 アンデッドの原動力となっている負のエネルギー。

 嫉妬、怨嗟、色欲、裏切り、増悪、愛憎。

 そんな意志を強制的に呼び起こし、その行動を短絡的なものにする。

 

 『幻想娘々(ファンタジーニャンニャン)』の効果を受けたアンデッドの行動パターンはおよそ二種類。

 

 震えて動かなくなるか、発狂して突撃してくるか。

 

 今回は前者だったが、別にどちらのパターンでもアルにとっては致命的な隙だ。

 

「余裕だったな」

(はい)

 

 短く返事をしてアルは靄のように霧散して指輪へと戻る。

 他の魔道具もクラスツリーの中へ戻した。

 

 やはり魔道具を二つ装備したアルの戦闘能力は五等級の中でもかなり上位だ。

 仮に四等級が相手でもそれなりに戦えるだろう。

 一日三十分しか使えないのが難点だが、切り札としては悪くない性能だ。

 

 洋平に指摘された俺自身の戦力が弱まるという弱点は確かにあるが、本職(メイン)が回復職なのだから別に俺を強化するメリットは今のところそれほど感じない。

 

 今回は魔道具が手に入らなかった。

 俺が報告してすでに一週間、そのやり方でかなりの魔道具が発見されているらしい。

 

「よし、次は僕の番だね」

 

 そう言いながら良太はスマホを投げ渡してくる。

 その画面を見るとワンタップで録画を開始できる状態になっていた。

 

「なんだこれ?」

「記録撮っておいてよ。SNSに上げるから」

「そんなの始めたのか?」

 

 現代のテクノロジーは異世界出身の俺からしてみれば異質極まる。

 大衆が抱く『人気』という不確かなものを数列として表すことすら可能としてしまうのだから。

 そしてその数列は信頼に変わり、価値となって、金すら生み出す。

 

「そりゃ始めるさ。プロになったことで取材の依頼も幾つも来ているし、新聞にも載った。ニュースにだって取り上げられた」

 

 そうだったのか。テレビなんてほとんど見ないから知らなかった。

 それに俺には取材なんて一つもきてない。

 まぁ、良太は元々モデルとかやっていたらしい、そうじゃなくてもどっかの大企業の御曹司だ。

 片足芸能人みたいなこいつだからこそ取材が舞い込むのだろう。

 

「あとはこの知名度を人気に変換するだけだ。探索者の場合、その人気は強さとほぼイコールと言っていい。だから僕の強さを皆に認めさせることが僕の目的には必要なんだ」

「まぁ動画撮るくらい別にいいけど」

「ありがとう。行ってくる」

 

 カメラモードにでも入ったのか、好感度の高そうな微笑みを浮かべた良太はそのままスケルトンに向かって行く。

 

 適当に喋っていれば勝手にスケルトンが湧き始めるのは本来このダンジョンではデメリットのはずだが、魔道具が手に入る今となってはメリット以外の何物でもないな。

 

「聖剣プライム」

 

 呟くと共にその腰に鞘に納められた一振りの直剣が現れる。

 けどわざわざ口に出さなくても魔道具は具現化できる。

 これもカメラを意識した演出なんだろう。

 

 金色の輝きを基調とし銀によって装飾されたその武器は、実戦用というよりも飾り用の宝剣に見える。

 しかし魔道具という時点で普通の剣よりは耐久力も切れ味も高い。

 それに何より、特殊な効果を持っている。

 

「かかってきなよ」

 

 剣を抜き放ち白銀の刀身を露わにして、スケルトンに向けて鼻につく言葉を掛けた良太はそのままスケルトンに突っ込む。

 自分から行くんかい……

 

 六等級魔道具『聖剣プライム』。

 それは『マナを込めると発光する』というただそれだけの魔道具である。

 マナとはスキルを発動するための生命エネルギーだ。まぁ基本クラスのスキルを使う分には消費はそう多くないから気にする必要はない。

 

 しかし良太は俺たちで獲得した九つの魔道具の中から『ただ発光する剣』を選んだ。

 それはひとえに己の放つ輝きをより強く、増すために。

 

 ウォリアーの〈武器強化(エンハンス)〉に〈治癒(ヒール)〉を込めることで白い輝きを更に増した聖剣は、スケルトンを一太刀で浄化していく。

 

 槍、拳、盾、そして剣。

 あいつは本当に器用だ。

 習った武術は槍術だけ。

 しかしそれだけのはずなのに、それなりに形になっている剣術を扱える。

 

 人からどう見られているのか、それを気にすることが良太の人生の最多行動だった。

 だからこそ、自分の動きを客観的に観察し、正しいフォームを作りだせる。

 あいつの器用さの根底にあるのは、素の自分では誰も認めてはくれないという暗い思考回路だ。

 

 けれど、原動力なんてなんでもいい。

 問題なのはそこに内包される出力だ。

 

 多分、この世界にあいつほど極端な人間関係を持つ奴はいない。

 特殊な家庭、特殊な兄弟、その全員が世界から認められる成功者。

 対して、何者にもなれていない自分。

 その人間関係にしか価値がないという自責。

 

 だからこそ、その強迫観念に突き動かされるように、

 

 ――あいつは強くなっていく。

 

 認められるためではなく、認めさせるために。

 

「魔弓エレメント」

 

 長剣が消え、入れ替わるように出現した弓を良太は引き絞る。

 その場のスケルトンが全て倒されたことで呼び起きたのは、俺が最初に倒した『ガシャドクロ』という五等級の魔獣だった。

 

 しかし、それが上体を起こす頃には、既に良太の弓は完全に引き絞られその狙いは身体を起こしたガシャドクロの頭の位置を先読みして狙っていた。

 

 六等級魔道具『魔弓エレメント』。

 それは自分のスキルを矢として生成することができる。

 そして生成された矢には元となっているスキルの属性が宿る。

 

 〈治癒(ヒール)〉の込められた純白の矢は、ガシャドクロの眉間に刺さる。

 

「〈聖域化(サンクチュアリ)〉……」

 

 静かに呟かされたその言葉と同時に、着弾した矢の白い輝きが一気に広がる。

 頭部を覆うほどの球状の白い爆発が、ガシャドクロの頭を溶かしていった。

 

「まぁまぁだな」

「ありがとう。褒めてくれて」

 

 あぁ、まだ録画してるからこのモードなのか。

 もう倒したし切ってもい……

 

「お前等凄いな。新人でここまでの奴は早々いやしねぇよ」

 

 洋平がそう言いながら俺たちに近付いて来る。

 

「けどま、所詮新人にしては強いってレベルだ。五等級をソロ討伐なんて三・四年も探索者やってれば自然とできるようになる」

 

 両手を入れたズボンのポケットが異様に気になる。

 ナイフでも飛び出してきそうだ。

 そういう殺気というか気迫のようなものを今の洋平は纏っている。

 

 魔獣は全ていなくなったのに……そんなものを誰に向ける……?

 

「だから良かった」

 

 そのまま洋平は俺たちを通り過ぎ、その奥へと視線を合わせる。

 俺も振り返り、その奥へ視線を向けた。

 

 薄暗いダンジョンの中、その一行は間違いなく俺たちを目指して歩いていた。

 スケルトンじゃない。上位のアンデッドでもない。

 それは俺たちと同じ人間で、間違いなく探索者。

 

 それが五人。

 

「よぉ、予定より遅かったな」

 

 片手を上げて気さくにそう話しかける洋平を、その集団は睨みつけていた。

 

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