ボクがサルコンさんに仲間入りしたあと、でしたね。
サルコンさんがボクに与えた仕事は荷物持ちです、その名の通り荷物を持つ仕事、非力な人間では沢山の荷物を持つことが出来ません、しかしボクは体力には自信があります、歩いて村から王都まで来たんですから、人よりあると思います。大きなリュックを背負ってサルコンさんの買い物に付いてく、それだけなんですが、それだけでも楽しかったです。
当時のボクはサルコンさんを凄いヒーローだと思っていたので、扱いがペットでもなんでもよかったんですよ。
リュックを買ってもらった雑貨屋はサルコンさんもよく利用していた店です、なぜか裏口から入店したのは気になりましたが、その理由は聞けば納得できるものでした。
あの時初めて両親以外から何かを贈られ、その事はボクにとっては意外なほど嬉しくて、それがサルコンさんだから余計に舞い上がってしまいました。
「サルコンさんサルコンさん! リュック似合います!?」
「まー人間が似合うリュックだよな」
「えへへ」
「お前を褒めてねぇんだが」
初めてリュックをもらったのはよく覚えています、平民領の雑貨屋で縫い目が見えないような作りの良い大きなリュックを頂いた時は今でも鮮明に思い出せます。
ボクが一人で盛り上がってると雑貨屋の店主とサルコンは二人で話をしていいました、カウンター越しに。
「なぁサルコン、お前の子か?」
「バカ言え、俺に子がいるわけねぇだろ」
「まぁお前だしな、冗談だ」
「んだぁ? 殴るぞ」
雑貨屋の店主はサルコンさんと古い付き合いらしく気さくに話しかけていた、二人の間柄は幼馴染だというのは後に知った話。世間一般ではサルコンさんはとても恐れられているんです。
極悪のサルコン、その理由は雑貨屋の店主が話してくれました。
「ま、極悪のサルコンにも春が来たってことか」
「舌をひとつ減らしてやろうか」
「やめてくれよ! 大事な商売道具なんだから」
「え! 極悪!?」
「あ、嬢ちゃんは他所から来たんだから知らないわな、よーし聞かせたろう」
雑貨屋の店主はカウンターに肘をついて昔を懐かしむように目を閉じて思い出を語りだした、それはサルコンさんの過去から今への話。
「昔な、気に入らねぇからって誰でもぶん殴ったり、推定有罪ってだけでどっかの組を潰したり、悪い噂のある貴族を脅したりしてたんだよこいつ、今はあの時と比べるとかなり丸くなったが、それでもこいつはあくどいやり口の奴らを片っ端から成敗してる、いわば悪人に対する悪人だよ、やり方は褒められたもんじゃないけどな」
「え……と、それで極悪? 聞いた限りだと、みんなのために動くヒーローにも聞こえますけど……」
ボクの質問は雑貨屋の店主には面白かったのか鼻を鳴らして笑って答えを返してくれた。
「違うんだよ、こいつは誰かの為に動いてないんだ、全部こいつが気に入らないからって話でオチがついてるんだよ、な? サルコン」
「さぁどうだか、自分の在り方について深く考える事がねぇからな」
「でも今回はきっちり悪人だったんだろ? ならいいじゃねーか、ついでにこんな可愛い娘にも慕われてんだ、今だけはヒーローだろ、な? 嬢ちゃん」
雑貨屋の店主はボクにウインクしてそう言ってくれた、そうです、ボクのヒーローです。サルコンさんは悪い人と言ってもボクがあなたをヒーローにします! そう言う気持ちでした。
しかしサルコンさんはこれを真正面から否定します、まるで自分は悪くいたいと言っているようにも見えましたね、実際その通りなんですけど。
サルコンさんは雑貨屋の店主が淹れたコーヒーをカウンターから乱暴に取り上げそのまま一口に飲み干して、話し始めました。
「ふぅ〜……なぁ、俺はどうせなら悪人で居たいんだよ、ヒーローだなんだと騒がれるのも持て囃されるのも嫌いだ」
「なんでです! 昨日はボクを助けてくれたのに!」
「ありゃたまたまお前があの場にいただけだろ、最初から目的はあのクソ野郎を殴ることだったんだからよ、今頃アイツは鼻っ柱を押さえながら俺のあること無いこと言い触らして極悪のサルコンに新しい経歴が積み上がってるだろうさ」
こんなにも頑なに悪人でいようとする人間はあとにも先にもサルコンさんだけでした、街を歩けば避けられ、店に入れば追い出され、立ち寄った場所全てから悪い腫れ物のように扱われて……ボクならそうなりたいと思いません。居場所がないじゃないですか。だからこの時、ボクはこう言いました。
「でも、だって、さみしいじゃないですか、どこにもいていい場所がない人生なんて……」
サルコンさんは飲み終わったカップをこちらに向けて、カップの底に僅かに残ったコーヒーをボクに見せました。
「一つ話をしてやろうな、コーヒー君はこのカップが自分の居場所でした、ですがある日突然サルコンという人間に飲まれコーヒー君は死んでしまいました、残ったのはカップに取り残された一滴の自分の体、そしてカップも洗浄されて綺麗になり、コーヒー君がいた事を、誰も覚えていませんでしたとさ、ちゃんちゃん」
「……えーと?」
「俺の人生こんなもんさ、こんなくだらない話と同じってこと」
カップを雑貨屋の店主に突き返すとサルコンさんは表の入り口から店を出て行こうとしたので、慌ててボクもついていこうとしたんですが雑貨屋の店主に肩を軽く叩かれ立ち止まると、雑貨屋の店主は優しい口調でこう言います
「お待ちよ嬢ちゃん、サルコンは悪い有名人だからよ、何人も待ち伏せしてる時はああやって表から出るんだ、だから嬢ちゃんは目立たないように裏から出ていきな……巻き込まれてサルコンに迷惑掛けたくなねぇだろ?」
ボクはそれに頷き、裏口から雑貨屋を出ました。その時表からは何人かの男の悲鳴が上がり吐き捨てたセリフがこだましていました。
気になって店の表へ回り込み物陰から見ていると、一人の軽装の女性がサルコンさんの前に立ちふさがります、その人は顔が酷く傷だらけで特に額から右目へ裂けた跡があり、そこにばかり視線が吸い寄せられました。しかしよく見ると女性は軽装でも急所に金属プレートを当てた服を着て、腰の側面にナイフを何本も携帯しているので、冒険者よりも盗賊という印象を受けます。
「ダウルネか、毎度毎度飽きないもんだな。人を集めて俺を捕まえようとして、毎回最後に出てきて説得、お決まりのパターン過ぎてこっちが飽きる」
ダウルネ、サルコンさんのストーカーです。ボク嫌いです。ですがサルコンさんと腐れ縁がある女性でもあるのでサルコンさんの物語を語る上で外せない人物でもあります。
「良いじゃないのよサルコン、私とお前の仲だろう? あぁ、そうだお前の首もかなり高くなったよ。100万だってね、ソリュクス公が直々に手配書を出しているあたり、まだ恨まれているようだね? クク……なぁ、そろそろ私の所へ来る気になったか? 同じ悪人同士仲良くしようじゃないか、ソリュクスの追手を巻きながらいつまでも逃げるのは辛いだろう?」
ダウルネは不敵な笑みを浮かべサルコンさんを誘惑します、ダウルネは組織を持っています、盗賊の組織です。勧誘と言うにはダウルネの声が甘ったるくてボクは嫌いです、あれは女性が男性に甘える時の仕草です!
これにはサルコンさんもうっとおしさから顔を両手で押さえため息を吐き出しました。
「……うぜぇ」
「殴ってくれて構わないよ、表向きの私の立場はソリュクス公の部下だけどね、ますます肩身が狭い思いをすることになるよ? うふふ、しかも今日は兵士も何人か連れてきているから、いよいよ年貢の納め時ってやつだ、サルコンくーん?」
ダウルネの言う通り、彼女がハンドサインをするとサルコンさんの四方八方を兵士が取り囲みました、こんなの脅しです!
サルコンさん、このあとどうするんですか、まさかあの女についていこうだなんて言いませんよね!