「じゃあ君は強制的に地獄の特訓コースね」
昨日、不安を抱えたまま熟睡した僕は理解のある神託により新たなスキルを手に入れて、11年ぶりの寝起きのハイテンションでショタオジにそれを報告し、地獄行きの判決を受けた。
「いやいや、言っておくけどさー神託覚えて即メッセージ受け取って、かつスキルまで生えてくるとか君めちゃめちゃ影響受けてるからね? 何のスキルを手に入れたか言ってごらん?」
「【眷属作成】【変化】ですね。どっちのスキルもまだまだ初歩で成長の余地ありって感じです」
周囲に存在する雑霊の残滓を捕まえてぎゅっとMAGを込めてポン! クラッシュ! クラッシュ! 生まれたのは小さなハエだ。
★下魔<けんぞくぅ!>*1 Lv0.1/1 Light-Law
スキル:【マリンカリン】
「こんな感じです。モデルが無菌食用バエなんでLLです。人類の未来の為に生まれたと言っても過言では無いので! 変身はまだ声を変えれるだけです。…きさまが、ルシファー様お気に入りのショタオジか*2」
「うんうんなるほど。よーく分かったよ。ベルゼブブみたいな事が出来てベルゼブブの声で喋ってベルゼブブに変身できる奴はもうベルゼブブなんだよね。君このままだと確実に乗っ取られるよ? 眷属も完全に悪質な裏工作特化だし、君はガチで野放しにできないタイプの転生者なんだよね。これまでの人生経験で状態異常耐性は精神も身体も極まっていると言っていいけど、所詮低レベルのそれなんて圧倒的格上には何の意味も無いからね。だからこそ、知識、技術、レベル、変身スキルが極まる前に全てを揃えなければ俺は君を殺さなくてはならなくなる。これが特訓の理由だ。イイネ?」
「アッハイ」
「ついでに台詞がムカついたから地獄を増やす。イイネ?」
「どうしてですか! ファンならニッコリの原作台詞なのに!」
「リアルで死ぬほど迷惑かけられたからだね。大丈夫大丈夫、ちょうど新しい修行方を考案しててさ。メンタルが丈夫な人で試したかったんだよね」
時間に余裕を作れる【俺たち】はじっくり覚醒まで持っていけたけど、やる気はあるけど時間が無い俺たちのためにごく短時間で覚醒できる修行を作ってるんだよね~とショタオジがにこにこしながら語り、瞬きした瞬間お札が大量に壁に貼られた全面コンクリの部屋に転移していた。ショタオジの隣の机にデカいドクロが描かれた赤いボタンがある。
「この部屋はね。【時間が無いのなら時間を引き延ばせばいいじゃない】をテーマに作ったんだ。そしてこれは1億年ボタン……の試作型100年ボタンだ。精神だけを加速空間に閉じ込めることで、たった1分で100年分の経験のフィードバックを得られる優れもの。11年地下室で過ごして平気なら100年拷問されても大丈夫でしょ!」
僕は会話の途中からダッシュで出口に向けて走り出していた。まだ娑婆にでて1日しかたってないのに再び監禁されるとか冗談では無い。意思と肉体が【逃走】という目的で合致し、動作のぎこちなさを一歩で消し去り自由へと駆け抜ける。
が、突然重心が崩れバランスを失い硬い床に倒れこんでしまう。手を付こうとしたが失敗し顔面を強打した。
「このボタンは契約書と術式の起点を兼ねていてね。【自らの血と意思でボタンを押す】ことを条件にしてあるんだ。今回は俺が代わりにやってあげるよ~」
捥ぎ取られた僕の血に濡れた腕をぷらぷらしながら宣言する。そんな寝てる人の指を使ってスマホのロックを解除するみたいなノリでスプラッタされても困る。
「この世界はボンボンじゃないんだぞ……! まだキーボードとマウスくらいしか触ってないのにどうしてくれるんですか!」
「突っ込みどころそこでいいのかい? ともかく、能力に差があり過ぎるとこんな事もされちゃうよってことさ。じゃあポチッとな!」
ポチポチっとショタオジが100年ボタンをダブルタップし、壁のお札が光を放ち世界からこの部屋が切り離された。
再び視界が切り替わり、いかにもここは地獄です! とテンプレを丁寧に網羅したような世界になった。
燃え盛る火の山、血の流れる河、複数の煮えた鉄の釜、毒を発する悪龍、溶けた銅の海、苦痛を与える為だけに用意された器具たち、ほかに誰もいないので待機している獄卒のみなさん。
「ここは6罪*3を犯したものが落ちる焦熱地獄をそれっぽく再現してみたものさ。地獄の魔王に乗っ取られないために、手っ取り早く【地獄を乗り越えた】という概念を獲得してもらう。ついでに君の情けない火炎弱点を改善して、おまけに物理耐性まで獲得しちゃおうって一石二鳥ならぬ一ボタン三超だね。おっ得ぅ!」
僕は会話の途中からダッシュでショタオジに背を向け走り出していた。意思と肉体が【逃走】という目的で合致し、右手を失い崩れた重心のぎこちなさを一歩で消し去り僅かでも時間を稼ぐため駆け抜ける。
が、マッハで追いついてきた獄卒に捕まり「お前はこっちや」と連れ去られた。
「ここは大焼処*4。スタンダードに色んなタイプの火が味わえる小地獄だね。まずはここで火炎耐性獲得まで頑張ろうか。じゃあよーいスタート」
鎖でぐるぐる巻きにされ、シンプルな焚火に放り込まれる僕。炭火の遠赤外線効果が骨までしっかり火を通し、脳が熱により考える能力を失うまでの間、僕は世界を呪う呪詛を吐き出し続けショタオジに跳ね返されて焼け死んだ。
十字架に括りつけられ、灯油を浴びせられ火炙りにされる僕。「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「左で打てや」「死ね」無数の石礫と罵声を浴びながら僕は焼け死んだ。
マッチョなナイスガイが指パッチンの摩擦熱で僕に火を点けた。暑苦しいけどどこか憎めない、そんな彼の笑顔にありったけの呪詛を浴びせ僕は焼け死んだ。
4尺玉に火が点けられ、僕と共に空に撃ちあがった。月が見守る夏の夜を美しく飾り立てる、そんなひと時の煌めきとなって僕は焼け死んだ。
きみはどこにおちたい?大気圏から突入し断熱圧縮熱で燃え上がった僕。無数の人々の願いを3回受け止める前に僕は焼け死んだ。
エンチャント・ファイア。炎上する本能寺にて自らに火を点けた。人間50年まであと38年というところで僕は焼け死んだ。
熱いってね、嘘吐きの言葉なんです。心頭滅却してないから熱くなるんですよ。だが熱いのは本当だったので僕は焼け死んだ。
《ドロップ》《ファイア》《ジェミニ》もずくの洗脳を打ち破った橘さんにより、新たな必殺技のお披露目回で僕は焼け死んだ。
竜騎将バランの亡骸を焼き尽くした大魔王にメラゾーマを撃った僕。返ってきたのがメラミだったので僕は焼け死んだ。
ブゥーンブゥーンブゥーンティウンティウン。ヒートマンステージの点滅ブロックから落下し僕は焼け死んだ。
ピクニックをしている僕。サンドイッチを崩した後マグカルゴを洗おうとし、殻が崩れて1万度の炎が噴き出し僕は焼け死んだ。
リバサ無敵技で起き攻めを返そうとする僕。ガードされパニカンにフルコンからヨガインフェルノで〆られ僕は焼け死んだ。
ショタオジだ!! 即座に後悔することで内から炎を出し死のうとする僕。亜光速で放たれた【アギバリオン】で僕は焼け死ぬどころか素粒子となり虚空に散った。
僕は焼け死んだ。
僕は焼け死んだ。
僕は……
◆
「なんか、大分慣れてきましたね。よく考えてみたら、元ネタ的に炎を吐き出す悪魔なんだし、火炎耐性くらい最低あるだろっていうか。ペルソナだと火炎吸収だしむしろ効く方がおかしいってなりました。【アギ】【アギラオ】と【ムドダイン】も覚えたし、もうギリ【火炎無効】までたどりつけたかな? って感じです」
「こいつちょっと精神タフすぎて試作品のテストに向かないかもしれないな……まだ5年も経ってないんだぜ? 苦痛も無効にできちゃってるしなぁ」
「元々ほとんどの人生脳だけでやって来ましたからねぇ。脳は痛覚とか無いですし、最初は苦しかったですけど、別に脳以外は無くなっても生きていけたしな~って思うと、肉体の反応は無視しちゃっても大丈夫かなって。【変化】で肉体はいじれますしね」
「うーん……まぁ概念獲得の為に100年燃やすのはやる。火炎無効も大分怪しいレベルだしね。物理耐性は今はちょっと無理かなー。もっとレベル上げないとキャパが足りなくなっちゃったね。この地獄も本来は5京4568兆9600億年かける*5んだけど、流石にそこまでの時間を作り上げるのは無茶だしなぁ」
「じゃあこのまま95年ほどボケ~っと焼かれるんです? 流石に長いしどうせなら勉強とかもしたいんですけど」
「いやーそれが無理なんだよね。この空間で過ごした記憶は全て圧縮して戻った瞬間にぶち込まれるんだよ。どれだけ勉強しようとも、超早送りで一瞬だけ夢で見たかも? みたいな縮まり方をするからね。魂レベルで適正のある、一度覚えたら呼吸みたいに使えるスキルしか持ち越せない。だからこそ、【覚醒】してない人がぱぱっと覚醒だけ済ませたい! っていうのにぴったりだと思ったんだよね。こういう風にしないと強さに取り憑かれた連中がどれだけ居座ってくるか分からないし……」
「なるほど……じゃあ瞑想とか、色々試しながら残りの年月を待ちますかー」
「そうだね。他の小地獄に浮気して効果薄まるのも嫌だし、とりあえずここで燃えてる範囲で何でもやってみるといいよ」
そうしてファイヤー僕は、カラテ・アーツの練習をしたり反省を促すダンスをしたり、ショタオジとお喋りしたり突然残虐行為を働かれたりしながら長い長い時間を過ごした。
「おっ時間だね。いやーなかなかゆっくりできた。バカンス目的の加速空間なんかも作ってみると面白いかもしれないね。それじゃー出ようか」
「いや、本当に長かったです。これ覚醒無しで時間かかると精神的死を迎えるんじゃないですかね……?」
ショタオジに差し出された手を握る。遥か大昔に見たような気がするお札の輝きが周囲を包み、ショタオジの姿が消えていった。
「…………???? ん? あれ?」
あれ? 戻れるんじゃないの? 獄卒たちはもう完全にオフの空気であり、立って待機すらしていない。どういうこと??
その時、ふと閃いた。100年前と同じあのお札の輝きがこの世界の始まりを少し思い出させたのだ。
……ショタオジ、ボタン2回押したような。
「え? マジ? これもう1周!? うっそだろ僕一人で!?」
獄卒たちにコミュニケーションを取ろうとするが微動だにしない。彼らはサビ残は絶対に認めないタイプらしく、雇い主がタイムカード切って帰った以上何もする気は無いようだ。ええ……?
◆
毒龍さんたちが遊んでくれた。勝てはしなかったが、悪くない時間を過ごすことができた!
「あ、このお守り持っておいてね。これ持ってたら体の乗っ取りとか完全に防げるやつだから」
「!!!?!?!?!?!??!?」
★脳缶【高館絶徒】 Lv15 NEUTRAL-LAW
スキル アギ マハラギ アギラオ ジオ ムド ムドオン ムドダイン ダークスピア マリンカリン 霊視(弱) 念話(弱) 魂操作(弱) 眷属作成 変化
耐性 火炎無効 雷撃無効 呪殺吸収 破魔耐性 毒無効 精神状態異常完全無効