シン・ドラゴンボール~無能神とは言わせない!界王神になったオレの奮闘記~ 作:ヤーター・ヤッタター
あの世で出会ったつえぇヤツ
「まったく、界王を道連れにするなど、本来ならばとんでもない重罪だぞ」
「ほんとにわるかったって、界王様ぁ」
ぷりぷりと怒る恰幅のいい男に山吹色の胴着を着た青年は情けなさそうな顔をして平謝りをしている。
男と青年、そしてその後ろに佇むゴリラの頭の上にはお揃いの金色の輪っか──死者の証が浮かんでいた。
地球育ちのサイヤ人・孫悟空は地球を守るために死んだ。
追い詰められた人造人間・セルが地球ごと自爆しようとしたため、セルを連れて北の界王が住まう星に瞬間移動したのだ。
結果、セルの自爆により悟空と界王、界王のペットであるバブルスくんは死んだ。
肝心のセルは生き延びた上、再び地球へ舞い戻ったのだが──セルは悟空の息子によって倒された。
悟空の行いは地球を守る唯一の手段だったとはいえ、北銀河を統べる界王を道連れにしたことは事実だ。
本来ならば人間の身にはあまりにも畏れ多い重罪として裁かれるべきところだが、被害者である界王は口で言うほど怒りを覚えていない。あの状況ではそれしかなかったと納得しているからだ。
北の界王は直接自らの手で指導し、己が考案しながらも実現することができなかった必殺技の数々をものにしたこの弟子を、なんだかんだで可愛がっていた。
「おぬしだからこそ特例として許されたのだぞ。今後同じことを繰り返さぬよう反省しろ」
「おう、わかった!」
「……本当にわかっておるのか?」
そもそもこの男、悟空は何度も地球を救っており、何よりも界王ですら手が出せなかった『
そのため、功罪併せて閻魔大王の裁きは無罪放免、悟空は特別に肉体を与えられ、天国に住まうことが許された。
「それにしても、天国って意外とつえぇヤツが住んでるんだなぁ」
住居である界王星が破壊されてしまったため、一時的な仮住居として借りた天国のホテルの一室で、悟空は窓の外を覗き込む。
眼下には広場のような場所で鍛錬に勤しむ者たちがおり、型稽古をする者や組手をする者、瞑想や走り込みをしている者もいた。
その中には戦闘民族サイヤ人である悟空の目から見ても強者とわかる者もおり、思わず身体が疼くが、流石に今はセルとの戦いの疲労が蓄積している。
「神々の方針として、腕の立つ善良な戦士には身体を与えることになっておるからな」
「そうなんか?」
「ああ。50年に1度『あの世一武道会』という大会もあってな。おそらく近いうちに開かれるであろう」
「へぇ…!」
遠くの方に見えるあの会場がそれなのであろうか。
せっかく今日のところは身体を休めようと思っていたのに、身の内からワクワクが込み上げてくる。
少し様子を見てくるぐらいはいいだろう。
「オラ、ちょっと見てくる!」
「あ、こら悟空!!」
窓から飛び出した悟空に、残された界王はバブルスくんと顔を見合わせ、ため息をついた。
++++
「へへっ、なんか天下一武道会を思い出すなぁ」
舞空術でひとっ飛びすれば遠くに見えた会場にもすぐに辿り着いた。
かつての少年時代を思い出す。あのときは溢れんばかりの歓声と熱気が会場を包んでいたが、今この武舞台には誰一人もおらず、他人の気配はない。
他にも違うところは、武舞台がかつての少年時代のそれとは違いとても広く、円形をしているところだろうか。武舞台の遥か上空には何かしらの装置が浮かんでいる。
誰もいない武舞台に降り立った悟空は、空に浮かぶ謎の装置を見上げて首を傾げた。
「なんだ、あの変なの…」
「あれは観客を守るための結界装置ですよ」
「!?」
すぐ隣から聞こえた声に、悟空は思わず距離をとる。
そこには先ほどまで気配を感じられなかった少年が立っていた。
悟空の胸ほどの身長だろうか。だぼっとした黄色を基調とした服を着ており、顔は目深に被ったフードで隠れている。
頭の上には自分と同じ死者の輪が浮かんでいた。
「おめぇは…」
「ああ、驚かせてしまってすみません」
少年はフードをとる。
顕わになった顔は厳ついゴーグルに覆われていたが、色のついたグラスの奥は穏やかな笑みを浮かべているのがわかった。耳はヘットフォンのような尖った装飾によって覆うように隠されている。
フードを降ろした際に特徴的な
「初めまして、ぼくは──
そうシェンと名乗った少年は微笑む。
敵意はない、むしろ好意的な相手に悟空は知らずに入っていた力を抜く。
「オラは孫悟空だ。おめぇいつからそこにいたんだ? オラ全然気が付かなかったぞ」
「ふふ、すみません。つい悪戯心が湧いてしまったんです」
答えになっていない返しに、悟空は頭をかく。
シェンは悟空の様子にクスクスと笑うと、改めて上空に浮かぶ装置を指さした。
「武道会当日はあの装置が起動して円柱状の結界が張られます。多少の気弾なら吸収してエネルギーに変えてしまう高性能な装置になっていて、選手が周囲を気にせず戦えるようになっています。その代わり気弾以外の物理的なものはすり抜けてしまいますので注意してください。10秒以上結界の外にいると場外負けになってしまいます。勿論、装置より上も場外判定です。」
「そうなんか」
「ちなみに選手が対戦相手に場外へ叩き出されたときなどに観客席へ飛び込まないよう、当日は結界と観客席の間に超高重力の領域が10メートルほど構築されています。なので、観客席へ届く前に墜落することが多いですね。あ、あとそのせいで場外からの復帰はかなり難しくなってしまっています」
「へぇ、面白れぇな……!」
まだ見ぬ武道会の様子を思い浮かべ、悟空は思わず奮い立つ。
武舞台上の広さもあり、戦いに集中できそうな仕組みだ。
「近いうちに開かれるって言ってたし、オラも出れっかなぁ。すっげぇ楽しそうだ!」
「え、前回『あの世一武道会』からまだ50年経ってませんよ?」
「うぇえ!? で、でもさっき界王様が言ってたぞ?」
「界王様が?」
思わず声を上げた悟空に、シェンは考え込む。
「なるほど、では『特別開催』ですね。界王様方の代替わりの際や、界王様が推薦する戦士が現れた時などには『特別開催』と称して武道会が開催されることがあるんです」
納得がいったシェンは悟空を見る。
身長差から下から見上げるような形になっているが、悟空には不思議とシェンの方が大きく感じ、自分の方が見降ろされているような気持ちになった。
「つまり──孫悟空さん、あなたのために開かれる武道会です」
瞬間、空気が張り詰める。
敵意はない。殺意もない。あるのは──純粋な闘気。
一目見た時から悟空はわかっていた。目の前のシェンと名乗った少年は、自分より強い。
もしかしたら、あのときの──セルを倒した息子よりも。
「改めまして、孫悟空さん。ぼくはシェン──前回『あの世一武道会』の優勝者である、シェンと申します。どうかお見知りおきを」
++++
シュッ──と風を斬るような音と共に、黄色いフードが揺れる。
その場所、界王や大界王ですらおいそれと足を踏み入れることのないその星に、少年は降り立った。
「おかえりなさいませ、
「ただいま帰りました」
すると黄を基調とした現代的な服が溶け、代わりに群青と紫を基調とした意匠の装束が姿を現す。
特徴的なモヒカンヘアは赤から透き通るような白へ、肌の色も紫がかった薄桃へと変わる。
耳を覆う装飾は消え、尖った耳に丸い耳飾り──ポタラが揺れる。
最後に身に着けていたゴーグルを無造作に取り外すと、頭上に浮かんでいた死者の輪──に偽造していた立体映像の輪郭がブレて、消える。
再び指を鳴らせば、ゴーグルは華奢な
「なかなか面白い方でしたよ、孫悟空という人間は」
シェンと名乗っていた少年──第7宇宙を統べる界王神・シンは出迎えてくれた従者に微笑みかける。
その様子に従者は顔をしかめる。
「北の銀河の界王を殺めた罪人です」
「北の界王の魂には傷がついていませんでした。死者のままでも界王を務めることは問題ないでしょう。何より当の界王とその上司である大界王、そして死者の裁判を担当する閻魔大王が罪は無しと判断したのです。彼は罪人ではありませんよ」
「しかし…!」
「なにより」
「彼は『
納得できないと声を上げかけた従者も、その言葉に口をつぐむ。
純粋な戦闘力なら、界王神であるシンは『
それでも、シンは『
何故か。
界王神であるシンと双璧を成す、第7宇宙におけるもう1人の最高神──破壊神・ビルスが『破壊代行許可』を出していたから。
『破壊代行許可』とは、文字通り破壊神・ビルスが自身の代わりに『破壊』を行うことを許可するもの。
──つまり、その許可を受けている者は一部の『破壊』に限り、ビルスに近い強権を得る。
「あのサボり魔さえ余計なことをしなければ、シン様だって動くことができたのに……!」
「仕方がありません。『破壊』は破壊神の管轄であり、
破壊神と界王神は同等の権限が与えられ、互いの神としての管轄内の場合は相互不干渉が原則となる。
破壊神はある種の庇護を『
例え、『
だから。
だからこそ──界王神の
「近日中に『あの世一武道会』が開かれます。おそらくそこで孫悟空と戦うことになるでしょう──彼を見極めるには打って付けの機会です」
シンは改めて従者に向き合い、小柄な自身よりも頭2つ分ほど上にある従者を真っすぐに見つめた。
「その際は貴方の力も頼りにしていますよ──
界王神であるシンから信頼の眼差しを受けた従者・ザマスは目を見開く。
そしてすぐに歓喜の笑みを浮かべながら、流れるように片膝を付き、
++++
あっっっっぶねぇ!
ザマスさん悪い人(神?)じゃねぇんだけど、基本人間ギライで頭が固いのが難点だよな。
結果的に孫悟空が北の界王を殺めたのは事実だし、何とか裏から誘導して無罪方向に舵を取ったけど、ザマスさんがもうちょい孫悟空のこと知るの早かったら有罪確定で暗躍されちゃってたかも。
ザマスさん有能だから下手に動かれてたら
(それにしても、ここまで長かったなぁ……)
いや、本当に長かった。
前世の記憶を思い出してから約500万年、マジで長かった。
今のオレは一応カミサマだし、長命種ってやつだし、神としてのお役目とか色々忙しかったから暇な時間なんて欠片もなかったけどさ。
ザマスさんと別れたオレは、界王神界にある塔──界王神であるオレの住居兼研究所の一室に腰かけた。
塔の麓にある館の方にはザマスさんやキビトを始めとしたオレの従者たちの立ち入りを許可しているけど、この塔にだけはオレしか入れないようになっている。
ここはオレが研究した術や装置、前世の記憶を基にしたメモなどが仕舞ってある。
ちなみに『ドラゴンボール』に関するメモはない。『ドラゴンボール』についての
約500万年。
長かった。
ずっと、ずっと待っていた──。
原作主人公・孫悟空。
(かっっっこうよかったなぁぁぁぁぁぁ!!!!)
マジでテンションぶち上げだった。挙動不審になってたらどうしよう。不審者に思われなかっただろうか。
思わず饒舌になってしまったが、仕方がないだろう。
孫悟空が気持ちよく戦えるように設備を整えて、表向きは大界王が主催となるよう根回しをして、界王神であることを隠して不定期に選手として参加して。
あ、勿論偽名の『シェン』は原作リスペクトだ。
正体を隠して武道会に参加する神様なんて、正にそのものではないか。
(さてさて、ここからが正念場だ)
今まで、わざと原作への介入は避けてきた。
ビルスの出した『破壊代行許可』に託てフリーザには不干渉を貫き、いざフリーザ軍が瓦解したら混沌に陥るであろうフリーザの後釜狙いどもの平定のために
徹底的に
だが、ここからは違う。
魔人ブウ編からは、オレは原作に介入する──。
(絶対に、『無能神』だなんて言わせないぞ!!)
・界王神成り代わり主人公
第7宇宙の界王神・シンに成り代わったドラゴンボール大好きファンボーイ
色々あって破壊神・ビルスと確執があるが、詳しくは次回
原作漫画の知識はあるがアニメ・映画・ゲームといった派生作品の知識を持っておらず、そのせいで無自覚にやらかしている
現時点でセル編の超2悟飯以上の戦闘力を持っている
内面の一人称は「オレ」、外面の一人称は「わたし」
・シェン
主人公が孫悟空と接触するために変装した姿
服装は界王神のイメージとは反対の黄色をベースとした現代服に、尖った耳と界王神の証であるポタラを隠すための耳カバー(スプラのヒーローヘッズレプリカをイメージ)
軍用ゴーグルは死者の輪を偽造する主人公お手製アイテム
変装時の一人称は「ぼく」
・ザマス
主人公が無自覚に色々やらかした結果その①、原作キビトの地位に成り代わった従者
拙作の『キャラ崩壊』タグは主に彼のためにある
・キビト
ザマスに地位と出番を奪われた可哀そうな人
ちゃんと存在はしているが、扱いはモブ従者の1人になっている